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領民0人スタートの辺境領主様  作者: ふーろう/風楼
第六章 春を待ちながら

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当たり前の光景

登場キャラ紹介


・ディアス

もう獣人に会ったくらいでは驚かなくなった。


・セナイとアイハン

ペイジンの馬車市場で買い物中。


・キコ

西の隣国、獣人国の参議、狐人族

血無しの子を持ち、その子を預けることになるディアスの人柄を確かめに来たはずだったが……?



 私の人柄を確かめる為だけにわざわざやって来たというのに、私が言葉を発する間もなく納得してしまったらしいキコに、本当にそれで良いのだろうか、それで一体何が確かめられたのだろうかと私が困惑してしまっていると、私の表情から内心を察したらしいキコが、小さく微笑んでから声をかけてくる。


「愚息達を本当に貴殿に預けて良いのか……王国の貴族なんぞに預けてしまったら奴隷のように扱われてしまうのではないか。

 移住に関しての話を耳にした妾はそういった危惧を抱き、愚息達に先んじてこの地にお邪魔させて頂いた訳ですが……結果はここの光景を見ての一目瞭然でございました」


 そう言ってキコは、竈場の中へと視線を移し……その鋭い声を柔らかなものへと変えながら言葉を続ける。


「慈愛に満ちた表情で赤ん坊を抱える犬人族の母親達、その世話を嫌な顔一つせずにしてくれる人間族の老人達。

 更には奥方様までが手ずからの力添えをしてくださっていて……そのやり取り、態度からもその関係が温かなものであると推し量れます。

 更に言うのであれば、犬人族の方々の豊かで美しい毛並み、色艶の良い鼻先、柔らかな仕草で振られる尻尾、穏やかな表情ですやすやと眠る赤ん坊達。

 そのどれもこれもが嘘や演技でどうこう出来るものではなく、その姿こそが他の何よりもこの地での真実を物語っています。

 先程の念押しが失礼にあたってしまう程に……答えはもう出てしまっているのです」


 確かに竈場の中に広がっている光景は、いつまでも見ていたくなるような、微笑ましいものではあるのだが『赤ん坊を皆で世話をしているだけ』とも言える、ごくごく当たり前の光景でもあり……私はそんな大層なものなのだろうかと、思わず首を傾げてしまう。


 今回犬人族達が同時期に出産したのは、意図してそうしたものであるらしい。

 外での仕事などが減る冬の時期に、皆で協力しあいながら一緒になって子育てすることで、赤ん坊達を安全に確実に育て上げるという、昔ながらの知恵なのだそうだ。


 病気などで母乳が出ない母親がいても、別の母親が代わりに母乳を与えることが出来るなど、色々な利点のある知恵なのだそうで……そう考えると犬人族達にとってのこの光景は、私がそう考える以上に当たり前の、日常の光景なのだろう。


 ……そんな日常の光景だけで判断を下してしまって本当に良いのだろうかと、傾げた首を更に傾げていると……そこに市場で買い物をしていたはずのセナイとアイハンがタタタッと駆け込んでくる。


「キノコ! キノコのこと忘れてた!」

「はやくはやく! いそいでしたごしらえしないと、せっかくのかおりがなくなっちゃう!」


 そう言って竈場へと駆け込んで、井戸で手を洗い、下ごしらえに使うらしい道具を洗い……と、アルナーに手伝ってもらいながら支度を整え始めるセナイとアイハン。


「あら……なんだかとっても素敵な香りが漂ってきますね……。

 もしかしてこの香り、茸のものなのですか……?

 こんなに素敵な香りのする茸があるだなんて……国が違えば茸もここまで違ってくるものなのですね。

 ……遠方なる珍奇な東方王国は伊達ではないということでしょうか」


 キコがその様子を眺めながらそう言葉をもらすと、セナイとアイハンがピクピクと耳を動かし、タタタッとキコの下へと駆けてきて、見せてあげようと考えたのか、腰袋の中からキノコを取り出し『はい!』と同時に声を上げて、キコの方へと差し出す。


「これはこれは、わざわざありがとうございます」


 笑顔となったキコはそう言ってから腰を曲げて……差し出されたキノコの香りを思いっきりに吸い込む。


「や、本当に素敵な香り……。

 柔らかく心が沸き立つ香りで、遠き故国へと持ち帰って、妾の帰りを待つ家族にもこの香りを楽しませてあげたくなりますね」


 キコとしては何の意図もなく、素直な感想を口にしただけなのだろうが……その言葉を耳にするなりセナイとアイハンは暗い表情となって俯いてしまう。


 その様子を見てキコが慌てて違うと、二人からキノコを取り上げようとした訳ではないとそういった言葉を口にし始めると、突然顔を上げたセナイとアイハンが、タタタッと何処かへと走り去ってしまって……そうして私とキコはお互いを見合い、なんとも気まずい空気を抱きながら、何と言ったら良いのだろうかと言葉を探す。


 少しの間考えてみても良い言葉が見つからず、それでも何かを言うべきだろうと私が口を開こうとした―――その時。


 小さなツボを抱えたセナイ達が駆け戻ってきて、竈場に入るなりその口にしてあった栓を引き抜き、キノコを包丁でもって薄切りにし、薄切りにしたキノコをツボの中に入れてから、しっかりと栓を戻し……一体何事だろうかとその様子を見つめていた私達の下へとそのツボを持ってくる。


「はい! 油漬けにしたよ!」

「これなら、しばらくのあいだ、かおりがもつよ! おうちがとおくてもあんしん!」


 そう言ってそのツボを……油ツボをキコへと差し出すセナイとアイハン。


 どうやら二人はキノコを取り上げられると思ったのではなく、他の国からやってきたキコの……遠方にいるであろうキコの家族にどうやったらこの香りを楽しんでもらえるのかと、そう思い悩んで暗い表情をしていたらしい。


 セナイ達のその思いに気付いたキコは、膝をゆっくりと曲げ、腰を落とすことで視線を合わせながらそのツボを受け取る。


「ありがとうございます、家族と一緒に楽しませてもらいますね」


 キコからのお礼を満面の笑みで受け取ったセナイとアイハンは、支度を続けてくれていたアルナーの下へと駆けていって、アルナーに手伝ってもらいながら残りのキノコの下ごしらえをし始める。


 その光景を穏やかな表情で眺めていたキコは……竈場の方を向いたまま言葉を投げかけてくる。


「あの子達は……この村の住人なのですか?」


「住人……というか、私達の家族、子供になるかな」


 私がそう言葉を返すと、キコはこちらへと振り返り……驚いているのか何なのか、なんとも言えない複雑な表情を向けてくる。


 一体何を考えているのか、何に驚いているのか。

 その意図がさっぱりと読めず、私が素直に聞いてしまおうと口を開きかけた―――その時、今度はドタバタとセンジー氏族達が私の下へと駆け寄ってくる。


「ディアス様! 変な人がやってきました!」

「東からです! もうすぐそこまで来てます! お爺さんです! 何本もの丸太を引きずってます!!」

「丸太いっぱいで、どれも大きくて、力持ちのようです!」


 駆け寄ってくるなりのその報告に、それはまた一体何者がやってきたのだと驚いていると……私以上にその報告に驚いたらしいアルナーが、こちらに駆け寄ってきて焦り混じりの大声を上げる。


「東から!? それは間違いないのか!!」


「はい! この目でしっかりと見ましたので!!」


 センジー氏族がそう返すと、アルナーは冷や汗混じりの表情をこちらに向けてきて、キコに聞こえないようにと、小声で話しかけてくる。


「……ディアス、村の周囲は特に念入りに感知魔法を仕掛けてある。

 だがそのどれもが一切の反応を示していない……。

 どうやら今回の客は尋常ではない相手のようだぞ」


 その小声にこくりと頷いた私は、視線でもって子供達とキコのことを頼むとそう伝えて……そうしてからセンジー達と共にユルトへと駆け戻り、戦斧を担いで村の東へと足を進めるのだった。


お読み頂きありがとうございました。


用語解説

・感知魔法(生命感知魔法)


アルナーが得意とする魔法の一つ。

魔力を込めた宝石を地面に埋め込み、その周囲に入り込んだ生命を感知する魔法。

虫などといった小さな生命には反応しづらく、大きな生命には反応しやすい。

生命を感知した際にはアルナーの角が緑色に光る。


そして次回は現れた老人についてとなります。



そしてそしてお知らせです。

書籍版第4巻の発売日が4月15日と決まり、一部通販サイトで予約が始まりました。


今回は新登場キャラがほとんど居ない為、キャラデザラフなどの公開などはありませんが

素敵さを増した表紙、口絵などなど、公開許可が出次第、公開していけるかと思いますので、ご期待いただければと思います!


応援よろしくお願いいたします!


更にもう一つ。

コミカライズ最新話が先日コミックアース・スターにて公開されましたので

まだ読んでいない方は、外伝集のSSと一緒にチェックしていただければと思います!

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― 新着の感想 ―
[一言] こちらの後書きに誤字(と思しき箇所)を見つけました。 (「感知」と「完治」) 誤字報告機能を使えるのは本文のみですので、 こちらからご報告申し上げます。
[気になる点] 力持ちのお爺さん…この間のドワーフかな? しかしなんで丸太を? あ、もしかしたらキノコを栽培してくれるのかも。 (^ー^) [一言] 働き手が増えるのはありがたいですね。 100人ちょ…
[一言] 展開が読めない 丸太を引張て来たお祖父さんって 材木商なの? 丸太では無く 根が付いている樹木を引張て来たドライアドの様な植物系の住人を増やして欲しい・・・
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