森の中で その2
あとがきにお知らせがあります。
私とアルナーがあれこれと言葉を交わし合っている間、森の中を元気いっぱいに楽しそうに跳ね回っていたセナイとアイハンが、何かを見つけでもしたのかはたと動きを止めて……そうしてタタタッと凄まじい勢いで駆け出す。
無我夢中といった様子で駆ける先には一本の大きな木があり、そちらへと視線をやった私とアルナーは、それが何の木であるのかに気付いて異口同音に「ああ、なるほど」との声を漏らす。
大きく広がった枝に大きな葉っぱ、たっぷりと実を連ねたその木は、二人の大好物であるくるみの木だったのだ。
くるみの木の側へと駆け寄った二人は、背負い籠の中からナイフと手拭いを取り出して、周囲に転がるくるみの実を拾い始める。
膝を曲げてしゃがみ込み、良いくるみを選び取ろうとしているのか目を爛々とさせながらくるみを拾い、ナイフで外皮を削ぎ落として、手拭いで殻を綺麗に磨いてから背負い籠へ。
そうやって周囲に転がるくるみの三割程を拾ってから立ち上がり、次の獲物を探しているのか周囲に視線を巡らせ始める。
「ふむ……。
セナイ達はわざわざ教えてやらなくとも冬備えのルールをよく理解しているようだな」
その様子を見つめながらそう呟いたアルナーに、私は摘み取ったキノコの処理をしながら言葉を返す。
「セナイ達の様子からすると……そのルールというのは『穫り過ぎ禁止』辺りになるのか?」
「そうだな。
一つの木から穫り過ぎるというのは新たな芽吹きの妨げとなってしまうし、実を欲する他の家や、獣達の妨げにもなってしまう。
獣達が飢えて死ねば巡り巡って私達も飢えることになるので穫り過ぎは厳禁だ。
他にもセナイ達は、地面に落ちて日が経ちすぎているものには手を出さない、森のごみはなるべく森に捨てていくなどのルールをしっかりと守っているな」
「なるほどなぁ。
……お、セナイ達が次の獲物を見つけたようだぞ」
何かを見つけたらしいセナイ達が、力いっぱいに両手を振り回しながら「あっち! あっち!」と声を上げていて……私とアルナーは会話を打ち切って、セナイ達の方へと足を向ける。
セナイ達と合流し、セナイ達の示す方向へと足を進めると、そこには小さな赤い実をたっぷりとつけた木の姿があり……どうやらセナイ達はローワンの木を見つけたようだ。
「これはまた、随分と実りの良いローワンだなぁ」
と、私がそう言うと、アルナーが先程のような渋苦い表情をしながら声を返してくる。
「……あの木はローワンという名前なのか。
毒の実をつける木にわざわざ名前を付けるとは、変わっているな」
「確かにあれは毒を持っているし、不味くて食えたものではないのだが、毒を抜きさえすれば便利な使い途があるんだよ。
ローワンの実には冬になっても腐らないという特性があってな、毒を抜いた上で絞り汁にしてやって、腸詰め肉に混ぜたり干し肉に塗ってやったりすると、肉が腐りにくくなるんだ。
肉だけでなく魚にも効果があるし、パンの生地に混ぜても効果があったはずだ」
私がそう言うとアルナーはその表情をがらりとを変えて、好奇心をいっぱいに漲らせた顔をぐいとこちらに近づけてくる。
「何だと……!
あの毒の実にそんな薬効があったのか……!!
それで! 一体どうやって毒を抜くんだ!?」
「ふ、冬の寒気にさらして冷やせばそれで毒が抜けてくれる。
鳥達が冬になるまでローワンの実を食べないでいるのは、そのことを知っているからなんだそうだ」
勢いに気圧された私とアルナーがそんな会話をする中、セナイ達はローワンの根本へと駆けていって、背負い籠の中からロープを取り出し、近場にあった適当な大きさの石を縛り付けて、その石をローワンの枝目掛けて放り投げて、ロープを絡ませて引っ張り、枝を手元へと引き寄せる。
そうやってローワンの枝をはっしと掴んだセナイとアイハンは、ローワンの実を次々ともぎ取って背負い籠の中へと放り込んでいく。
「……この調子ならセナイ達の籠はあっという間に一杯になりそうだな。
そうしたら村へ一旦戻ってまた森に足を運んで……と、そんな感じで進めていけば良いのか?
私達も冬備えをするにはするが、そこまで根を詰める訳ではないから加減の方が今ひとつ分からないんだ」
視界の端に森芋の葉を見つけて、その根本を戦斧でどうにか掘り返せないものかと考え込みながらそう言うと、アルナーが小さく弾ませた声を返してくる。
「いや、今日はあくまでルールの勉強を兼ねた様子見のつもりだったからな、こんなものでは終わらないぞ。
薪のこともあるから、馬達の力を借りて荷車単位での収穫を何度も何度もする必要があるだろう。
オスの年寄り獣を探しての狩りをしなければならないし……まだまだやるべきことはいっぱいだ」
「……メスを狩らないようにするというのは先程も聞いたが、その年寄りというのもルールなのか?」
「繁殖期のメスに手を出さないのというのは守らなければならないルールだが、年寄りの方は私個人の好みの話だな。
干し肉にするとなると若かろうが老いていようがどれも似たような味になってしまうからな……だというのに若くて美味しい肉を使うというのは勿体ないだろう?」
「なるほどなぁ。
そういうことなら木の実やキノコだけでなく、獣の痕跡にも気を付けないとだなぁ。
場合によってはマタビの粉を使うことも……ああ、いや、あれだとオスメス関係なく集まってしまうか。
まぁ……木の実の多い豊かな森のようだし、朝早くから森に来るようにして、冬までの時間をいっぱいに使えば以前狩った黒ギーくらいの数は狩れるだろう」
と、私がそう言うと、にっこりと微笑んだアルナーが一際弾んだ声を返してくる。
「男気があるようで何よりだ!
適当にやっていてもどうにかなる春夏と違って、草原の冬は本当に厳しくて過酷で……家長に男気がなければ人と家畜が次々に失われてしまう、男気の見せ所とも言える季節なんだ。
冬だというのに家畜が足りない、人手が足りない、男気も足りないとなると本当に辛くて切なくて惨めでな……明らかに足りない備蓄を見ているとそれだけで心が荒んで、酷い時にはそのせいで眠れなくなったこともあったものだ」
そう言ってアルナーは言葉を切って目を瞑り……何やら想いを巡らせてから言葉を続ける。
「今年の冬備えはそういう心配をする必要が無さそうで嬉しいというか……いやはや、こんなに楽しい冬備えは何年振りだろうな!
……良い良人に恵まれて私は本当に幸せものだな!」
アルナーのそんな言葉に私は……まだまだ冬備えは始まったばかりで十分な備蓄が出来るかどうかも分からないのに、一体何を言っているのだろうかと、そんなことを思いながら、この大きすぎる期待を裏切らないようにしようと……戦斧を森芋の根本に突き立てながら気合を入れ直すのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回はその3となり、冬備えに絡めての家畜……というかメーアの毛の価値などについてのお話になります。
そしてお知らせです!
領民0のコミカライズ第2巻の発売日が決定となりました!
発売日は12月12日!
既に一部通販サイトなどで予約が始まっているようです!!
特典等の情報は追々お知らせしていきたいと思いますので、応援して頂けたらと思います。
よろしくお願いいたします。




