公爵と公爵が、宴の中で
妙に張り切ったアルナーが皆を引っ張る形で宴の支度をいつも以上に豪華に仕上げて、せっかくだから参加しないかとエルダン達に声をかけて……そうして夕刻。
いつもとは比較にならない程に盛り上がっての宴が開始となった。
宴本番となって、より一層に張り切った様子で宴を楽しむアルナーと、そんなアルナーに触発されたのか妙に元気な様子で駆け回るセナイとアイハン。
そこにエルダンの快調を喜ぶエルダンの妻達や従者達が加わって……本当に今までに無い程に賑やかだ。
そうした宴の様子を広場の中心に作られた主賓席というか、一番目立つ席に並んで座り、あれこれと言葉を交わしながら眺める私とエルダン。
そんなエルダンの手の中には、アルナーが作ったエルダン用の食事があり……エルダンはそれをゆっくりと、なんとも美味しそうに味わっている。
薬湯に砕いたチーズとガチョウの卵を加えて煮込んで、そこに小さく丸めたパン生地と、細かく刻んでお湯でふやかした干し肉と木の実を入れて更に煮込み、仕上げに刻んだ薬草をかけて完成。
薬湯かゆと言えば良いのか、薬湯スープと言えば良いのか……薬草がたっぷりと入っているせいで好みの分かれる独特の味わいとなっているのだが、その独特さがエルダンの舌に合っていたようだ。
一杯で終わらず、二杯三杯とたいらげて、これで四杯目。
それでもエルダンの手に握られた匙は止まることなく動き続ける。
「ふぉぉ……この煮込んだパン生地のもっちりとした食感、たまらないであるの。
お米を砕いてパン生地に混ぜるというのは全くの盲点だったの、今度うちの料理人にもやらせてみるであるの」
そんなことを言いながら四杯目を綺麗にたいらげたエルダンは、ようやく器と匙を手放し……一段と大きく膨らんだ腹を撫でながら声をかけてくる。
「とっても賑やかで皆が笑顔で、美味しい食事がいっぱいの素敵な宴にお招き頂きありがとうであるの!
こんなに美味しくて楽しい宴は初めてかもしれないであるの」
そう言って満面の笑みとなるエルダンに私が、
「楽しんでもらえたなら良かったよ」
と、そう返すとエルダンは、満面の笑みのまま何度も頷いて……そうしてから何かに気付いたような表情となり、セナイとアイハンの方へと視線を移して、その首を傾げながら疑問の声を投げかけてくる。
「アルナーさんがあんなにも喜んでいる事情については、今ほどのディアス殿のお話から良く分かったであるの。
……で、あちらのお子達、セナイちゃんとアイハンちゃんがとっても元気なことにも何か事情がおありであるの?
時折こちらや、カマロッツの方を見つめてきているようだけども、僕達に何か関係が……?」
と、そう言ったエルダンの視線の先では、先程まで広場中を右へ左へと駆け回っていたセナイとアイハンが何故だかその動きを止めていて、二人で並んで立ちながらじぃっとエルダンのことを見つめて……しばらくの間そうしてから、にっこりとした笑顔になったかと思えばまた元気いっぱいに広場の中を駆け回り始める。
そんなセナイ達の様子を見て……少しの間考え込んだ私は「恐らくだが……」との前置きをしてから、エルダンの疑問に答えていく。
「セナイとアイハンは宴云々よりも、エルダン達が元気になってくれたことが嬉しくてああしているのだろうな。
セナイ達は病のせいで両親と死に別れているから……それで重い病というか、病全てに思う所があるようなんだ。
病を抱えていたエルダン達が元気になってくれて、そのきっかけというか、一助になれたことが余程に嬉しいに違いない。
……少し大げさだが両親の仇を討ったような、そんな気持ちなのかもしれないな」
「……なるほど、そういうことであればあの笑顔も納得であるの。
仇を討ったというよりも、病を乗り越える為のその手伝いをしたことによって、あの子達なりの一区切りをつけた、ということかもしれないであるの」
と、そう言って温かい笑顔となったエルダンが、セナイ達へと温かい視線を送っていると、楽しそうなセナイ達の様子に触発されたのか、何人かの犬人族達がセナイ達の下へと駆けていって、一緒になって駆け回り始める。
そんな様子を見てエルダンは、自らの顎を撫でながら「ふーむ」と唸り……そうしてから口を開く。
「……小型種の犬人族達が大人しく仕事に従事している姿にも驚かされたであるが、あんな風に他種族と仲良く遊んでいるという姿を見ると、また一段と驚かされてしまうであるの」
「あー……以前話に聞いた小型種の問題云々の話か?
環境が犬人族達の性に合っているのか何なのか、こちらに来てもらって以来犬人族達の性格というか、その個性に困らされたことは一度も無いな。
むしろ犬人族達の何処に問題があったのかと不思議に思うくらいだ。
マスティ達は領兵として頑張ってくれているし、シェップ達は馬や家畜達の世話を頑張ってくれているし、センジー達は畑仕事やセナイ達のお守り役として頑張ってくれている。
犬人族達には色々な場面で助けてもらってばかりで、本当に感謝しかないよ」
私がそう言葉を返すとエルダンは、難しい顔をして両腕を組んで、そうやって何やら考え込んでいるのかうんうんと唸って……そうしてから言葉を返してくる。
「……世の中にはまだまだ、僕なんかの器では理解しきれないことが一杯あると、改めて痛感したであるの。僕もまだまだ精進が足りないであるの。
そして……改めてディアス殿との縁をありがたく思うであるの。
サンジーバニーの件が無かったとしても、この光景を見せてもらえただけでも僕は充分な感謝と幸福感を抱いたに違いないであるの」
そう言って一旦言葉を切り、またも満面の笑みとなったエルダンは私の方に向き直り……少しだけその声を重くして言葉を続けてくる。
「その上、ディアス殿達には僕の未来を……新たな可能性を開いてもらうことにもなって、本当になんと言って良いのやら。
……金品でのお礼が出来ない分、改めて言葉にさせて頂くであるの。
本当に本当に、僕は心の底からディアス殿達に感謝しているであるの……!
今までの僕は、世の中を変えてみせるという大きな夢を抱きながらも……心のどこかでこの体では、短い人生では成し得ることは出来ないだろうという、諦めのような感情があったであるの。
でもこれからは……これからの僕は違うであるの。
夢を夢のままではなく、現実的な目標として頑張っていける、その土台を頂戴した以上はもう……やってやるしかないであるの!」
力強く、万感の思いを込めたといった様子でそう言ってくるエルダンに、私は何も言い返せなくなってしまう。
全ては偶然の結果というか、たまたま起こった流れでそうなってしまったというか……エルダンの為を思ってそうした訳でもないのに、そこまで感謝されて良いものなのかと分からなくなってしまったからだ。
そんな私の思いも見透かしてしまっているのか、無言のままでいる私を見て、その笑みを更に大きなものにするエルダン。
「これから僕は、ここで見た光景を……様々な種族が一つになって笑顔になれる光景を世の中に広げる為に今まで以上に頑張っていくつもりであるの。
という訳で僕は、改めてディアス殿……いえ、メーアバダル公の協力と、応援を頂けたらと思っているであるの……!」
そんな、何処までも真っ直ぐなエルダンの言葉を受けて私は、
「エルダンのその想いの大きさに比べたら、私に出来ることなんか本当に小さいことなのだろうが……それでも、その小さなことで良いと言うのなら、私も全力でそれに応えることを約束しよう」
と、自分なりの……精一杯の言葉を返すのだった。
お読み頂きありがとうございました。
今回で公爵とか貴族の件に触れる予定でしたが、長くなりすぎた為次回に……。
次回そこら辺きっちまとめて、ようやくの新展開になる……はずです。
そして改めての告知です。
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