サンジーバニー
「おお! カマロッツから聞いていた薬湯の味とは全然違って、とっても爽やかですっごく甘くって……美味しい紅茶の良い所だけを濃縮したかのようであるの」
「これは……わたくしも初めて口にする味です。一体何を煎じたものなのでしょう」
液体を飲み干すなり口にした、エルダンとカマロッツのそんな言葉から察するに、二人が今し方飲み干した液体は、あの時私が口にしたあの液体と……あの薬湯と同じ物であるようだ。
カマロッツとしてはいつもの薬湯として口にし、エルダンとしてはカマロッツから伝え聞いていた噂の品として口にしたと、そんな所だろうか。
そして事の原因というか、なんというか……事の主犯であるセナイとアイハンは、エルダン達があの液体を飲み干したのを見るなりニッコリと笑顔になって、笑顔のまま何処かへとタタタッと駆けていってしまう。
そんなセナイとアイハンを捕まえようとアルナーが駆け出す中、私はエルダン達へと声をかけて、今二人が口にした液体についての話をしていく。
ある者から譲って貰ったサンジーバニーという葉から作った薬湯であること、熱を出して寝込んでいた私がそれを飲んだこと。
そうした話をした上で、
「あの子達が変なものを飲ませてしまったようで申し訳ない。
話した通り私も飲んだものだから……毒だとか、そういった心配は要らないはずだ」
と、私がそう言うとエルダンとカマロッツはお互いの顔を見合ってから、その表情を綻ばせて笑顔となる。
「以前にもお話した通り僕の鼻は特別製であるの。
事が植物に関してなら特に別! それが毒であるかどうか、食用に適しているかなどはその匂いを嗅ぐだけで判別可能であるの!
先程口にしたあれは極々普通のお茶とかお野菜に近い匂いであり、そうと分かった上で口にしたものなので気にしないで欲しいであるの」
「えぇ、幾度となく毒を嗅ぎ分けて来たエルダン様がそう判断したのであれば間違いは無い事でしょう。
それにセナイ様とアイハン様のお心持ちや、お二人が以前よりわたくしの体調を気遣っていてくれたこともよく存じております。
今回のこれもセナイ様とアイハン様達なりのお気遣いとして受け取らせて頂きました」
笑顔でそう言ってくれたエルダンとカマロッツに私が礼の言葉を返すと、エルダン達はその笑顔を更に大きなものにしていく。
そうしてエルダンは冗談めかしたような声で言葉を返してくる。
「サンジーバニーとはカスデクス領の一帯に神代の頃より伝わる伝説の薬草の名前。
もしあれが本物のサンジーバニーだったら……それはもう大地をひっくり返したような大騒ぎになるであるの!
……でもまぁ、まさかそんな夢みたいなことがある訳も無し。あれは恐らくそのあまりの美味しさから伝説の薬草から名前を借りることになった、なんでもない普通の薬草の一種だと思うであるの。
薬効はー……ディアス殿が回復したことから考えるに、熱冷ましとか腫れを抑えるとか、そんな所だと思うであるの」
そう言ってエルダンは『本物』のサンジーバニーがどういった薬草であるのかを説明してくれる。
隣領の一帯で神代の頃から言い伝えられているというサンジーバニーは、一口飲めばどんな病でもたちまちに、死の淵にあっても治してしまう万能の薬草なんだそうだ。
神々の住まう山の山頂に生えているとか、慈悲深い神々が故ある者に授けてくれるとか言い伝えられていて……かつての建国王が流行病にかかってしまった際に、聖人ディアが神々に頼み込んだ末に譲り受け、その病を治したという伝説までもが残されているんだとか。
何代も前のカスデクス領の領主が、当時の国王からサンジーバニーを探索せよとの命を受け、凄まじい程の予算と人員を使って探索したこともあったが、それらしいものが発見されることは無く……伝説は伝説として、あるいは噂や笑い話や寝物語の類として言い伝えられて来た……と、伝説の薬草サンジーバニーとはそういう物であるらしい。
「わたくしも幾度か本物のサンジーバニーが手に入らないものかと祈ったことがありますが……神にも縋る思いと申しますか、あり得ないからこそ縋りたくなる、そういった思いの代名詞でもあるのがサンジーバニーです。
ディアス様にこれを譲った者も、そういった理由でサンジーバニーと名付けたのかも知れませんね」
エルダンの説明が終わったのを見計らってそう言うカマロッツ。
そんなカマロッツを見てエルダンが小さく苦笑しながらカマロッツに小さな声で何かを言うと、カマロッツがそれに小さな声で言葉を返し……と、そうこうしているうちに辺りが暗くなり始める。
そこにセナイとアイハンを捕まえたアルナーが戻って来て……丁度良いタイミングというか、夕食の時間をとうに過ぎているということもあって、今日のところはこれで解散しようと言うことになった。
明日、朝食を終えた後にエルダンがここに来た本来の目的である公務についての話し合いを行おうと約束して……私達は夕食の席へと、エルダン達は幕屋の方へとそれぞれの足を向けたのだった。
そうして始まった少し遅めの夕食の席。
夕食を食べ終えた頃合いを見計らい、セナイとアイハンに私の持っていた薬草をどうして勝手に持ち出し、私やエルダン達に飲ませたのか、との質問をしたのだが……セナイとアイハン曰く『勝手になんてやってない!』とのことだった。
熱にうかされている私を心配して、セナイ達なりに私を助けたいと考えて、寝ている私にこの薬草を貰って良いか、セナイ達の好きに使って良いかとちゃんと聞いて、私の許可を貰った上で持ち出した。
そうしてエイマ達に相談し、協力して貰って薬湯にし、一枚分を私に飲ませ、二枚分をエルダン達に飲ませたんだ、とのこと。
……どうやら私は、セナイ達の問いかけに対し、熱にうなされた夢うつつの状態のままで返事をしてしまっていたようだ。
許可をしっかりと取った上で大人に、エイマ達にもしっかり相談してもいるので、セナイ達は全く悪く無いというか、この場合私が悪い、ということになるのだろうか……?
兎にも角にも、薬草は扱いを間違えば人の命に関わることもあるので、薬草を誰かに飲ませたいのであれば今後はアルナー立ち会いのもとで行うようにとの約束が交わされることになった。
それから片付けを終えて身支度を整えて、寝床に入る直前、私は……まずはアルナーに心配かけたことを詫び、世話などについての感謝の言葉を口にし、次にセナイとアイハンにも心配をかけたことと夕食の席でのことを詫び、薬湯のおかげで元気になったと感謝の言葉を口にした。
するとアルナーとセナイとアイハンは私の言葉に頷きながら良い笑顔になってくれて―――そうして夏だと言うのに一塊となった私達は、そのまま寝床に倒れ込み、暑い暑いと笑い合いながら眠りにつくのだった。
翌朝。
登ったばかりの朝日の光を瞼で感じ取り、アルナーとほぼ同時に目を覚ました私は、いつもは遅くまで寝ている自分がこんなにも早く、すっきりとした目覚めを迎えたことと、自分の体が異様なまでに軽く、柔らかくなっていることに驚いていた。
まるで自分の体が自分のものでは無いというか……十年以上前の、無理の利くあの頃に戻っているというか、手足を軽く動かすだけでも違和感を覚えてしまうくらいに体が軽い。
外に出て、水汲みなどを行いながら体を動かしてみると、調子が良いというか、調子が良すぎる自分の体に戸惑ってしまう程だ。
例のあの傷もすっかりと綺麗にふさがってしまっているというか、傷が治りかけた際のあのかゆみを訴えているような状態で、一体何がどうなっているのやらと困惑していると……そんな私の下へと、慌てた様子のカマロッツが凄まじい勢いで駆け込んでくる。
そうして私の両肩を、その両手でもってがっしりと掴んだカマロッツは、
「でぃ、ディアス様、た、大変です!!
え、エルダン様がとてもお元気に! 薬の力に頼ること無く自らのお力のみで起き上がって、元気に駆け回っておられて! い、医者達も訳が分からず、混乱を……!!
ま、まさか、まさかまさか!? あのサンジーバニーは本物の……!!」
と、そんな大声を、まだまだ皆が眠っているこの早朝に上げてしまうのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回からはこの続き、ようやく会談の本番が始まる感じとなります。
そして以下、読者の皆様へのお礼となります、
皆様の応援のおかげで、ついに100話の大台へと到達いたしました。
まさかここまでの方々に応援して頂けるとは思ってもおらず、驚いてばかりの連載でしたが、こうして100話へと到達出来た事、とても嬉しく、皆様にはいくら感謝しても感謝したりません
本当にありがとうございます!!
これからもこの物語を楽しんで頂けるよう頑張っていきますので、変わらぬ応援の程、よろしくお願いいたします。




