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第42話 天下の名城 稲葉山城?

 美濃国 稲葉山城


 あっという間に夏も本番といった気温になり、美濃和紙の団扇うちわと新しく作り始めた扇子が手放せないある日、稲葉山城の修築が終わった。

 大規模な工事だったが、途中から揃ったスコップとツルハシでなんとか工期は長くなりすぎずにすんだ形だ。


 父は色々とこだわって造ったらしいが、自分にとって重要なのは防衛力よりも新しく造られた職人郭しょくにんくるわだ。

 職人郭は大手門のある七曲りではなく瑞龍寺ずいりゅうじ側の出入り口に造られた。あまり人の出入りが多くない方に造ることで、管理と秘匿を強めたい狙いがあるらしい。


 漢方畑も奥の本丸付近と職人郭付近の二箇所に分かれることになった。一年草などは奥の本丸付近に移され、育てる専用の人間が置かれた形だ。


 この郭、どう考えても陸の孤島でしかない。職人たちは城の中で生活し、城の中の工房で仕事をすることになるわけで。軟禁状態と言っても過言ではないだろう。

 ガラス職人や石鹸の作業員たちは給金が良いから気にならないと言っているが、秘匿のためとはいえ随分力を入れたもので。

 そこまでする理由は平井宮内卿信正に教えてもらった。


「最近、朝倉の透波すっぱがよく城下を出入りしているので御座います。」

「朝倉ですか。」

「左様。なれば容易に真似されるものは特に厳重に秘せねばなりませぬ。玻璃はりの道具、漢方の一部に石鹸、いつかは誰かが真似するでしょうが、出来る限り当家の秘とするのです。」


 技術が盗まれれば美濃の職人の仕事がなくなると考えれば仕方ないのかもしれない。難しいものだ。

 ちなみに、職人郭への道は整備された関係で、ごく短距離限定で大八車の使用が始まった。鉄の部品も少し混ざって強度も上がっているので、材料の運び込みに活躍してくれるだろう。もっと改良できないか考えておかないと。


 ♢


 風の噂で松平が内紛を起こし、岡崎城主の松平清康(きよやす)の嫡男が三河を出て今川の下に向かったと聞いた。

 三河は今川につくでもなく斯波しばにつくでもなく松平清定(きよさだ)が、なんとなく勢力を持っている状態らしい。どこからどこまでが彼の勢力圏とか言えないのが戦国時代では良くあることだそうで。とりあえず従っている者もいれば無視していないだけで従ってはいない者とか、なんとも曖昧である。


「若様、それを言ったら土岐も同じことですぞ。」

「そうなのですか、宮内卿殿。」


 教えてくれたのは平井宮内卿信正。マムシの相談相手ができる軍略家である。


「例えば北の東氏とうし。名目上従っていますが、こちらの旗色が悪ければ寝返るなり独立するなり、いつでもするつもりでしょう。」

「まぁ、本領安堵が武士の本懐とも言いますからね。」

「東濃の遠山七頭とおやましちとうはもっと酷い。土岐に従う者もあれば、武田に接触している者もあれば、他の七頭を討とうと狙っている者もいます。」


 なんだそれ面倒臭い。


「彼らは同じ遠山ということで一まとまりですが、それは外敵が現れた時のみ。内部はいつも他の七頭を出し抜こうとし、外部の有力者を利用して勢力を伸ばそうとしているのです。」


 で、それに土岐も木曽も武田も小笠原も巻き込んでいるわけだ。なんとまぁ。


「美濃守護という確固たる地位がある故、こちらの名前には従っていますが油断なされぬように。」


 世知辛い。真の仲間はいないのか。


「土岐の下に並び立ち、同じ目線でものを見、聞き、語れるものなど居りませぬ。」

「国人では無理だ、と?」

「彼らは一所懸命。即ち己の生まれ育った地が全てです。彼らは鎌倉に頼朝公がいた頃から変わっておりませぬ。」


 院政の時代から鎌倉時代へと至る頃、武士たちは御恩と奉公で『自分の土地』を手に入れた。源頼朝が特別なのは武家の棟梁というだけでなく、『自分の土地』を正式に認めてくれた人だからだ。今でも源頼朝から貰った所領安堵の書状を家宝にしている家は多い。

 そんな土地だから愛着が強く、彼らは土地から離れない。だから一所懸命。どこまでいっても彼らは国人なのだ。


「時代は変わりつつあります。守護の多くは土地を失いつつあり、守護代ですら下剋上される戦乱の世に御座います。」

「織田弾正忠、そして我らか。」

「左様。大和守という織田の本流も坂井大膳(だいぜん)に実権を握られつつあります。それを上回らんとするのが弾正忠信秀。斯波は最早名ばかり。」

「そして土岐が守護代の斎藤に実権を任せている。」

「それでも、必要とあらば国人は戦うのです。例え土岐の命に背いても。」

「………」

「新九郎様、平和な世を望むのでしたな。」

「ええ。」

「ならば覚悟されよ。国人が国人である限り、平和は訪れませぬ。」


 国人は一所懸命。これを変えない限り戦の火種は消えない。


「頼朝公を超えないといけないか。」

「左様。頼朝公の文を、彼らが破り捨てるほどの何かを成し遂げなければなりませぬ。」


 平井宮内卿信正との話は、とても有意義だった。



 考えよう。

 ただ信長に任せるのではなく。


 この乱世を終わらせる方法を、信長と一緒に作っていこう。



 まあ、まずは信長に会うことからかな。まだ子供だけれど。仲良くならないといけないし。そのうち尾張に行く用事を作りたいところだ。

一所懸命と一生懸命が一時期使い方などで話題になりましたが、ある意味言葉のもとを考えればどちらも同じと言えなくもないのかな、とも思っています。


アニメ版に真の仲間は存在しなかったので良かったです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 信長とか一番主人公と理念合わないでしょ
[一言] 蝮と第六天魔王 斎藤道三が無理なら信長はもっと無理じゃないかな
[一言] 書籍から参りました。 斎藤義龍への転移(転生?)とは珍しいというか、意表を突かれました。 これからの展開を楽しみに読ませていただきます。
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