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後話7 北条氏政の憂鬱④ 文明の灯、戦場の否

武田氏関連、自分のミスがあったので修正しました。ご指摘ありがとうございました。

織田の件は武家に嫁いだ、の意味なので特に修正はしておりません。

 越後国 新潟津


 中央政府が都市計画をし、1から造っている都市がある。

 それが新潟だ。越後の上杉氏・長尾氏が滅んだ後、織田信長は越後の大規模開発を開始した。

 この大規模開発で最大のポイントとなったのが塩津潟の干拓だった。塩津潟は2000ヘクタールの沼地で、周辺の洪水被害の元凶になっていた。この沼地から日本海へ水を流すために掘を造り、堤を整備しつつ新田を整備していく予定である。


 既に工事に関わった人員は4万人を超え、沼地の面積は残り200ヘクタール程まで縮小していた。水路が通っている以上、この沼地もあと3,4年以内には消滅すると予想されていた。

 氏政は現地で指揮を行っている浜尾右衛門大夫という若者に説明を受けていた。彼は二階堂氏の家臣だったが、蘆名氏解体後は中央で一気に台頭し、各地での土木工事でその才覚を発揮していた。


「年間予算は25万貫。まぁ将来的な収入増を考えれば問題ありません」

「25万貫か。小田原では到底用意できぬな」


 現状で言えば北条氏が1年間に用意できる金額ではない。つまり、その規模の工事はできないということになる。


「名古屋や稲葉山、浜松の人口増加が著しく、10年以内に住居不足の可能性がございます故」

「長島の旧本願寺領も本願寺の技術提供を受けて中州の居住地整備をしていたな」

「あそこは浚渫による水害の減少もあり、堤の整備である程度人が住めるようになりました」

「とにかく、この広大な地が数年前まで沼の下だったとは、言われてもわからぬな」


 この工事には越後屋の藤田五郎左衛門が出資している。彼は長尾氏に協力していた商人だった。そのため越後に織田氏が入った後、彼は青苧座の諸権利を全て喪失した。生活に困窮しかねない状況だった越後屋に対し、当時の信長と義龍は銀行の設立を命じた。そして銀行から塩津潟への出資や鉄道への出資をさせ、その分配金で越後屋は存続している。越後屋と青苧座の廃止をきっかけに、天正14(1577)年までに油座なども次々と発展的解体が行われている。彼らは義龍からの技術提供を受けて日本の最大手企業という有利を得ているため、一部産業は海外への輸出も含めて莫大な利益を得つつあった。越後屋はそこまでの利益を得ていないものの、本来の商圏における収益は確保できていた。


「あちらにあるのが、昨年から人が住み始めた村ですね。どうやら石油が採れるそうで、石油を元に明かりと暖をとっております」

「石油?」

草水くそうずのことです」

「あぁ、成程」


 現在、相良油田から採掘した石油を利用した常備灯が駿府・浜松・名古屋で利用されている。鉄道駅が夜になっても稼働しているのはそのためだ。新潟でも石油が採掘され、その一部が常備灯として利用されていた。


「そういえば、京で石油を使わない常備灯が駅に設置されたと聞きましたが」

「なんと」

「なんでも、雷の力を用いたものだとかで」

「雷を、使う?」


 氏政の脳裏には、九州で最後の抵抗を示した輿に乗って戦う雷神の姿しか思い浮かばなかった。


 ♢


 山城国 京


 京の背後にある比叡山。この京側の山道近くに、高野川が流れている。この川を利用して発電しているのが高野水力発電所である。他にも賀茂川に整備された北洛水力発電所が存在し、電力の供給を開始していた。


「で、水の力から雷の力が生まれているのです!」

「はぁ」

「氏政様、この偉大な発明がわかりませぬか!」


 氏政に熱心に説明していたのは平賀政継という男だ。彼は信濃国佐久にあった平賀城の城主平賀政勝の子である。織田・斎藤・北条による上杉討伐の後、海野氏が降伏したことで父の政勝は中央政府の役人となっていた。彼はそのまま名古屋で学問を学び、稲葉山で義龍の研究所に入って配下となり、発電機の研究に携わっていた人物である。


「電気とは即ち何よりも速く動く物。それが天より降れば雷となり、人に罰を与えます。一方、我らが正しく取りだして使えば、不夜の都を造ることが可能になるのです」

「はぁ」

「眠らぬ不夜の都は盗人を許さず、誰もが夜を安心して過ごせるようにします」

「何故だ?」

「道が常に明るく照らされていれば、邏卒の警備が楽になります。盗人は明るい道を使えず、明るい道沿いの家には忍びこまなくなるのです」


 実際にはそこまで単純なものではないものの、防犯という意味でこの常夜灯(常備灯はいつでも使えるだけで夜の間ずっと点灯はしない)の設置を導三入道は狙っていた。名古屋の港が24時間動けば海運がより発達すること、首都である京都が世界で最初の不夜城となることが導三入道の狙いだった。


「そろそろ日が沈みます。それでも、この都は、闇夜に沈みません」


 政継は自信満々にそう言った。今日は徹夜してでもこの文明の明かりを見届ける。そういう覚悟の目だった。


(眩しいな。とても、眩しい)


 灯った明かりではなく、未来への希望に満ちた目に、氏政は目を細めるしかなかった。


 ♢


 電灯の明かりを眺めた翌日、数少ない領地の返上をしていない相良義陽が京にある氏政の屋敷を訪ねてきた。


「如何されたのだ、相良殿」

「領地を返上しようと考えているので、それを伝えに、な」

「なんと」


 相良氏は大和国高取・宇陀松山7万石に移封となっていた。山奥の地は守りやすいものの、鉄道は奈良や丹波市までしか開通しておらず、道路整備も周辺までしかされていなかった。そのため相良氏領は経済的に孤立している状況だった。そのため、他の地域とは税制度も違い、相良氏は従来通りの五公五民的な税制度となっていた。結果として山を下りて豊かな奈良盆地に向かう領民が相次いでおり、人口減少による収入減で家臣団の収入にも影響を及ぼしていた。


「不満のある家臣の中には弟の頼貞を当主にするべく謀反を企てる者もいる。周りが見えていなさすぎる」

「それは確かに。惣無事の意味がわかっておらぬな」

「深水や犬童がなんとか抑えているが、上村新左衛門らが弟に同調して面倒この上ないのだ」


 上村氏は先代の相良氏当主・相良晴広の弟(上村頼孝)が継いだ一族である。上村新左衛門長陸は現当主である相良義陽から見れば従兄弟であり、軽々に排除できる存在ではない。そのため、自分から手を出せる相手ではなかった。


「息子たちは奈良の学校で学んでいる。あの子たちは今の政府で学び、生き残れる。今を逃せば、御家ごと潰れる」

「そうか。そこまで、根深い対立になっているのか」

「色々と相談に乗っていただいた故、早めに報告を、と思いまして」


 現在、領地を保有しているいわゆる大名は5つほどしか残ってない。天正14(1577)年に加賀に移封となっていたそう義調よししげと能登に移封となっていた砂越さごし二郎が領地を返納してからは、北条・武田・島津と相良・阿蘇しか残っていなかった。


「阿蘇殿にも伝えたので?」

「いえ、あの家は今は複雑な状況故、使者が赴く訳にもいかず」

「そうですか」


 阿蘇氏は移封となった。しかし、大宮司職を捨てられないという事情があった。そこで甲斐宗運入道が土佐中村へ向かい、本来の当主である阿蘇あそ惟将これまさは名目上隠居して甥にあたる惟光が名前だけの当主として紀伊に在住する形をとっていた。阿蘇惟将は阿蘇で大宮司職を継続して務めており、その収入が土佐から出ている状況だ。結果として、移封された相良氏とも距離が開き、両者は疎遠気味となっていた。土佐中村から伊予南部を管理する甲斐宗運は実質的当主だが、宇和島の海軍から常に監視される状況でもあった。


「なんとか家臣が暴発する前に落着させる心算です。今度は何か食事でもしながら話しましょう」

「ですな。最近流行りの鰊そばなどいかがかな?」

「いいですね」


 他愛ない会話で締めた会話。しかし、これが義陽との最後の会話となった。


 2カ月後、家中の説得をしていた相良義陽は相良頼貞に暗殺された。

 事態を知った京都の近衛師団と大坂第6師団が鉄道にて丹波市に派遣され、殺害された翌日には高取城が制圧された。相良頼貞一派は逃亡を図ったものの、電信によって名古屋・安濃津・新宮方面に警戒線が敷かれ、逃亡から5日後に相良頼貞・上村長陸ら首謀者が捕縛された。

 殺害の関係者計34名が反逆罪を適用されて死罪となり、59名が懲役刑に処された。相良氏は領地を返納し、残る大名は4家のみとなった。


 その迅速な展開を京で療養していた武田信玄は目の当たりにし、自身の影響力を削るべくあえて京に長期滞在することを決めた。

 信玄は同行していた山県昌景にこう話している。


「もう、この国に戦場はないのか」

明日8日、漫画版単行本2巻発売になります。よろしくお願いいたします。


残る大名家は北条・武田・阿蘇大宮司・島津のみになります。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっと外行けば戦場一杯あるのにね。
[気になる点] 旧領に残ってる武田や北条が封建制に拘るのは分かるんですけど、相良や阿蘇が転封されてなお拘るのっておかしくないですか? 物語上の見せしめ役以外であんま説得力がないように思います。
[一言] 名古屋の港が24時間動けば>早くもブラック企業の萌芽がw 「24時間戦えますか」で有名な栄養飲料の開発が急がれますな。
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