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後話3 日西戦争 第6話 朕茲二戦ヲ宣ス

何度かご指摘いただきつつ何でだろうと思っていたのですが、一言抜けていたのに気づきました。

三好と思い頼るな~の話はお満からで、義龍からは普通に頼っていいよというスタンスでいます。

お満的には義父と義母に頼ることも覚えろというニュアンスで話していることだったのですが、言葉足らずでご迷惑をおかけしました。後ほど修正しておきます。


今回も基本視点は長実、後半に義龍視点になります。

 ボルネオ島 カルタヌガラ(現サマリンダ)


 マカッサルの制圧にブギス族の協力を得たうえで彼らを名目上改宗させたスペイン遠征軍は、そのまま教会の建設と同時に情報収集という名の尋問を開始。東南アジア諸国にイスラム教が広まりつつあるという情報をえた。


 その情報に憤ったのがゴンサロ・ロンキリョ・デ・ペニャロサであった。親族に司教がいる敬虔なカトリックとして、ポルトガルがこの地に神の教えを広めていないことにも怒った。結果として彼は宗教的情熱、ともすれば最初の十字軍のような神への献身によって日本との戦端を開こうとしていた。

 当たり前の話だが、地域社会を理解してそれに合わせた布教をしていたイエズス会の活動を逆に非難するようなものは正しい神の献身とはいえない。しかし、視野狭窄といっていい状態となったゴンサロは自身に酔いしれるように軍隊の過半を連れてボルネオ島のクタイが支配する東岸に船を出した。


 クタイは警戒しつつも『マカッサルの占領・支配には時間がかかるはずなのでこちらに攻めこむことはないはず』とどこかで油断していた。その結果、警戒の船は出していたものの、警戒にあたっていた兵は緊張感がなく、実際に攻撃を受けるまで緊張感が皆無だった。

 結果として、警戒船の1隻が攻撃を受け大破するまで彼らは警戒行動をしなかった。ガレオン船=ポルトガルか日本という考え方で、国旗の確認をしなかったことも影響した。そして何より、クタイは平時に慣れすぎていた。1000年以上続くこの国は、長らく争いに巻きこまれていなかった。そのため、日本と防衛に関して明確な条約や取り決めをしていなかったのだ。大砲・火縄銃などを購入することもなく、ただただ貿易と農業に人々が従事するのみだった。


 砲撃から3時間ほどで警戒船は壊滅し、援軍は到着が遅れた。結果として、各個撃破される形となったクタイの海軍(というほど組織化されていなかったが)はほぼ全滅した。クタイの指導者たちは沿岸地域を放棄し奥地へ退避を決定。国民を逃がすことは成功したものの、戦時の備えが一切ない状況ではそれが精いっぱいだった。


 ♢♢


 シキホル島


 スラウェシ島の北部にあるテルナテという国家は、1530年代にポルトガルと戦争を経験した国家だ。一時はポルトガルの砦が築かれ、スルタンを拉致された経験がある。そのためキリスト教国家に警戒感が強い。イスラム教のスルタンが治めるこの国は、スラウェシ島南部にキリスト教国家が侵略してきたことを知ると、即座にシキホル島に使者を派遣してきた。


「テルナテのスルタン・バーブラが息子、サイードです。日本の援軍を頼みたい」

「に、日本語お上手ですね」

「この地域で一番強いのが貴方たち。その言葉を知るのは大事なことです」


 スルタンはイスラム教圏における王にあたる。つまり王子だ。わざわざ重要人物を派遣するとは、かなり危機感が強い。


「マニラのスルタンの王子はこちらに来ていないので?」

「彼は危険なので連れてきていない。客人を危険に晒せなかった。最初は一緒だったが、途中で国旗のないガレオンを見た。彼を別の船に乗せ、テルナテ島に返した」


 つまり、既にスラウェシ島北部にスペイン船が派遣されているということか。


「キリスト教は危険だ。今はおとなしいが、ポルトガルも油断できない」


 彼らはポルトガルとも交易をせず、マカッサルかカルタヌガラに商品を運んで交易をする。直接交易を認められているのはイスラム教国家以外では明商人とうちくらいだ。


「彼らをおさえられるのは日本だけだ。テインツ(丁子)の交易も日本への販売量を増やそう」

「そのあたりは本国と相談しますが、支援は約束しましょう」

「どれだけこちらに船と兵を出せるか?」

「今援軍が本国からこちらに向かっているので、到着前にまずガレオン2隻を警戒用に派遣しましょう」

「助かる。ありがとうございます」


 まだまだ敬語とかは怪しいみたいだ。まぁ難しいからな、日本語。ちなみにテインツこと丁子は父が漢方の一種として利用している香辛料だ。ヨーロッパでも人気が高いので、最近は高騰しがちと聞いている。対価としては悪くないのかもしれない。


 ♢


 王子の帰還用にガレオン艦隊を派遣した。台湾からは最速で使者が戻ってきて、台湾艦隊の派遣が決定したとのことだ。京都でも緊急会合があるそうなので、そちらの結果次第で援軍が来るだろう。


 テルナテの王子が来た3日後、今度はクタイの北にあるスールー王国の使者が到着した。使者はクタイにスペインが攻めこんだことを教えてくれた。

 クタイはイスラム教が広まっているスルタンが領主を務める地域と、ヒンドゥー教の地域に分かれる。主はヒンドゥー教だが、最近はイスラム教が増えているとも聞いている。そんな状況だったからだろうか、スペインは彼らを襲った。

 スールーもイスラム教の国家だ。彼らは奴隷貿易を行うことで周辺国からは嫌われていた。最近は日本から代替産業としてポルトガル経由で手に入れたゴムの栽培が進んでおり、奴隷貿易への依存度はかなり低くなっている。日本が海域に大規模艦隊を派遣できる状況であることを見て海賊行為などをやめた形だ。これと倭寇の取り締まりの結果日本はシキホル島での活動許可を得たと言っていい。ある意味で感謝できる相手だ。

 そんなスールー王国はガレオン船に苦手意識がある。日本のガレオンに最初期は数回敗れていたことと、ポルトガルのガレオンは襲撃が難しかったからだろう。


「ガレオンが4隻以上クタイに駐留している、か」

『明らかにあの船は皆の海を脅かしています』


 スールー王国からすれば新しい嫌われ者の登場だ。周辺諸国との関係改善も考えてか、ここも重臣を派遣してきた。


「クタイはスペインの攻撃で沿岸部に被害を受けたとみてよさそうだな、島津殿」

「スールーの北部一帯は警戒海域ですので、そこまで来れば何者でも打ち破りましょうが、船が足りませぬ故、今のままではクタイまで兵は送れませぬな」


 こちらの意図を理解している島津家久殿は、救援は現状では厳しいという見解を示す。


「使者殿、もうすぐ我らの援軍がやってくる。援軍とクタイを奪還する時、スールーにもご助力を願いたい」

『我らの海は我らで守る、ですな。お任せを。王より必ず協力するよう言われてきております』

「心強い限りだ」


 さすがに2つの地域を支配したとなれば自分たちから動くのは厳しいだろう。万一のために警戒はするが、攻勢に出てくることはないはず。島津殿は今すぐにでも戦いたそうだが、同時に戦略的にも戦術的にも動くべき段階ではないと理解しているから何か無理を言いだすことがない。それでも、にじみ出る「早く戦いたい」

 という雰囲気は、ある意味頼もしいものだ。


 ♢


 台湾艦隊の第一陣が到着した。クタイ襲撃の報告から台湾への報告に向かった船とは行き違いだったようだ。

 艦隊を率いてきた香宗我部親泰がこちらの備蓄してある食料や弾薬を確認していると、スペインからの返信を持ったポルトガル商人がやってきた。


『なぜポルトガルと日本がいながらこの地に異教徒がはびこっているのか、と詰問されました』

「商人にそれを申しても仕方なかろうに」

『商いは引き続き自由と言われましたが、食料の調達に協力せよ、と』

「で、なんと?」

『大半は一時商会を閉じてマラッカに退避いたしますが、数名が協力して利益を得ようとしておりますな』

「となれば、マカッサルに残るものはスペインと道を同じくする者と見てよい、と?」

『少なくとも、我らと取引のある商会は皆さまの力を重々理解しております』

「わかった」


 スペイン側はマカッサルとクタイの領内のみ自分たちの勢力範囲とするので、シキホルには手を出さないとしている。ただ同時に、食料の提供と弾薬の補充に協力を要請してきている。こちらが先に送った非難声明を含む手紙は無視だ。それともまだ届く前に二通目が来たのか。真相はわからないが、こちらに対し対等な相手と見て発言している様子は見られない。


 商人には感謝しつつ、テルナテの協力要請とマニラの王子救助を目的とした艦隊派遣を伝えた。この地域の海は誰かのものではない。自分だけのものにしようとすることを許さない姿勢を示すとしよう。


 ♢♢


 京都


 鹿児島から出発した艦隊が沖縄本島を通過したタイミングで、シキホル島から第二報が到着。クタイ襲撃の報告をもって、2回目となる緊急会議が開かれた。この場にて鉄道と船にて奄美まで到着していた一条様も含めた全会一致でのスペイン開戦が決定された。

 上皇の院宣が発給され、現陛下の宣戦をもって日西戦争開始が決定された。


 宣戦布告の詔書は事前準備されていたため、奄美の一条様が奄美で自らの署名を行い、鷹司家を再興した鷹司信房様と2人の署名をもって発行された。


「まさか日本が統一された後、最初にスペインと戦うことになるとはな」

「義兄上はどこと戦になると思っていたのだ?」

「北の一帯に都市整備をする過程でロシアが来るかと思っていた」


 この時代はまだロシアはシベリアまで勢力を拡大していなかったらしい。そんな知識は俺にはないので、予想が外れたのも仕方ない。

 それと、現時点で女真族と交易や武器の売買で付き合いがある。状況次第で明との争いに巻きこまれるかという予想もしていた。


「ロシアは皇帝が戦死してひどい状況だと聞く。であれば、北に脅威はなかろう。南の方が怖いということだ」

「まぁ、いつかは戦う可能性があったといえばあったけれど」

「戦は相手がしたいと思えば始まる。我らの事情のみで世界は動かぬ」

「そうだな」


 ふと、昔父が言っていた言葉を思いだす。亡き斎藤道三、その言葉。


『結果から行いと意味を導くのだ』


 戦争という結果は避けられなかった。ならばせめて、そこに意味を持たせなければならない。

 ヨーロッパ最強国家相手に、東南アジアは日本がいるから植民地にはできない、と。そう各国に理解させれば。犠牲が結果的に減ることにつながるのではないだろうか。

 そして、まだまだ防衛同盟を結んでいない諸国家とも同盟を結ぶ好機なのでは。


 理不尽は許さない、という姿勢を明確にする機会でもある。そして、おそらく信長はもうその答えに達している。

 本当に俺が何かする必要はないな、と思いつつ、俺は議場を出た。

 はるか南で、ここよりずっと暑い地域で戦う手を離れた息子は、何を考えているだろう。

宗教的情熱とか領土的野心とか、そういった日本人に理解しにくい感覚というのは世界レベルだと色々あるなというのを今年はよく見かける年です。

相手の立場によって視点が違うというものを改めて考えながら作品はを作るようにしていきたいです。

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