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第321話 繋がる世代、繋がる世界

 山城国 京


 年が明けた。1567(天正4)年だ。

 10月に霧島連峰が噴火した。5月の噴火を超える規模となったこの噴火を受け、織田兵は即座に周辺から避難。一部住民は帰還を希望していたが、帰還許可が出る前にこの噴火が発生したために以後不満が噴出することはなかった。

 一部の無断で帰還した住民に犠牲者が出たものの、物的損害以外はほぼ発生することがなかったことで、九州各地で執政府への支持が急速に高まることになり、また都城を含む日向各地の開発計画は、海岸に近く霧島連峰の影響を受けにくい城ヶ崎を日向の新しい中心地とする方向で決定し、『宮崎』と改称されて都市開発が行われることになった。

 11月に朝鮮で流星群が観測されたそうだ。周期で考えるとしし座流星群だろう。朝鮮では、直前に亡くなった王母の死により始まった政治改革を祝福するものだと話題になったらしい。


 また、この年に西暦と和暦の時間合わせが行われた。和暦自体は陰陽寮で管理されつつ、国家としての暦は西暦と同様、一年を365日+閏年に1日追加するものとした。これは欧州諸国と暦を合わせることで条約締結をスムーズにするためである。まぁ和暦は和暦で残していくので、問題はないだろう。


 年初め、織田の嫡男・織田三郎信親が婚姻した。相手は亡き足利義輝様の娘・詩姫。これで織田氏は幕府の血を取り入れた。これにともない、帝から新姓『織田』が与えられた。今後、織田一族は織田朝臣になる。


「一つ、肩の荷が下りたな」

「御疲れ様、信長」

「まぁ、藤原氏も源氏ももう名乗らぬがな。だが武家の長という意味では、足利と血縁を繋いでおいて損は無い。本人達も長く同じ屋敷で過ごした幼馴染同士だ」

「三好の五樹丸の婚約相手は誰にするか。蝶の娘2人は一条家(一条内基)と二条家(二条長実)に嫁ぐからな」

「其れなんだが、実は蝶が子を宿してな」

「お、おう。目出度いな」

「娘ならば三好に嫁がせれば良いかなと思っておる」

「まぁ、上手く行けば、と思っておこう」


 期待しすぎて蝶に負担をかけると良くないしな。彼女はナイーブだ。


「ところで、北条だが、やはり当分は自力でやるのか」

「あぁ。東海道の整備が、三島以東で管轄が別になるからな」

「港の整備も技術習得に人は送って来るが、造るのは自力で、と言っているな」

「やはり俺等の代で藩籍を奉還し、新たに県を置く事は厳しいか」

「当分は布告だけして、希望する大名のみでやる他あるまいよ」


 力づくで明治政府のような体制作りをする気はない。それをするには足りないものが多いからだ。戦場を生き抜いてきた武士が多いので、戦国マインドは今も根づいている。ある程度代替わりしないとそこには辿りつけないだろう。だからこそ、織田・斎藤・三好でその範を示すのだが、北条にも加わらないか、と打診していた。しかし、北条としては関東は自分たちのものという感覚が強いのだろう。最終的には体制に加わるが、当分は開発などは自力で行うと連絡があった。軍事については歩調を合わせてくれるので、大きな問題はない。ただ、史実で言うところの廃藩置県などが進むのには時間がかかるだろう。北条が続かなければ、他の大名はそうそう流れには乗らないだろうし。


「軍の割り当てもそうだが北条の領地には、陸軍拠点は膝折ひざおりに1つ、海軍拠点は横須賀に1つ。此れらを守るなら、一先ずは構わぬがね」

「一応、警察組織も我等の指揮下には入るが、人事権だけは手放さぬとの事だ」

「仕方あるまい」


 一部資金提供もしてくれるし、まぁ良しとしよう。別にこちらに反発しているわけでもないのだ。


「そう言えば、信親の式で出された砂糖菓子、見事だったな」

「島津が少量だが、砂糖の生産に成功したそうでな。出席した一部の者にのみ供されたという事だ」

「成程。まぁ、うちのケーキには及ばぬがな」


 いわゆる金平糖だが、島津から食用の紅などないかと聞かれた時は驚いた。こういうものは案外開発が進んでいなかったので、急遽用意した。しかし、お満たちが昨年作ってくれたスポンジケーキの方が美味しかった。甘いお菓子というだけでかなり珍しい物だったわけだが。


「そういえば、典薬頭(龍和)の正室も懐妊したのだったな。同い年の従妹というのも面白い」

美胡都みこと姫は初産故、気を付けねばならぬ事も多いのだ」

「まぁ、其処は義兄上が何とかしてやれ」

「分かっているさ。豊が付ききりだしな」

「ならば安心だ」


 春には台湾(高山国)に向けて遠征部隊が派遣される。部隊の選抜作業も終わり、宿営用の仮設住居や蚊帳の準備も終わった。食料ももうすぐ運び終わる。この指揮と明の情勢把握をかねて俺は筑前・豊後入りするので、美胡都姫の出産に立ち会えるかどうかは不透明だ。その分、豊に頑張ってもらうしかない。


「まぁ、留守の指揮で龍和に経験を積ませるのも大事だ。いざとなれば叔父上が手伝ってくれる」

「頼りになる親族が多くて羨ましい限りだ。うちは叔父上(織田信光)が昨年末に亡くなって、また1人頼れる相手が減ったぞ」

「京極の弟殿は?」

「御輿以上にならぬ様にしたからな。信康の方が頭も良い」

「あぁ、松平殿はお市殿の婿だ。頼れるな」

「方々に連れ回すから本人は苦労しているがな。才があるのだ、藤吉郎もそうだが、使われて当然だ」


 信長は最近、増田長盛を重用しているらしい。彼は那古野の学校で、今迄で最優秀の成績をとった才人で、特に財政関係に強いらしい。ほぼ間違いなく、史実の五奉行の増田だ。これは期待したい。そう言えば石田三成はいつ出てくるのか。近江に石田氏がいたはずだが、その親類か。いずれにせよ、今後も才覚のある人間はどんどん出世してもらって、俺の隠居を早めてもらいたいところだ。叔父の道利には当分現役で頑張れと言われたが。貴方が引退する前に俺が引退したら風聞悪いから、早く引退してください。いや、やっぱり龍和の補佐でもう少し頑張ってください。


 ♢


 6月。

 台湾遠征部隊が台湾に到着したという一報を受けた。倭寇の根拠地を潰しつつ、台湾の領有に動く。


「まぁ、大砲があれば負ける事はない。但し、森に逃げこまれると厄介かな」


 俺の一言に、十兵衛が首を振った。


「御安心を。例え如何様な敵であっても、雷神の率いた兵を超える敵では御座いませぬ」


 ♢♢


 台湾 雲林県 北港


 台湾は倭寇の一大拠点だ。特にリン道乾ドウケン率いる乾傳と呼ばれる海賊団は、昨年3月にも福建省の知事と戦うなど、200人以上の海賊を束ねていた。北港渓の河口を根城とし、魍港のリンホウらと共に福建周辺を襲っていた。

 1564年に一度、ポルトガルのディオゴ・ペレイラらがマカオ防衛をかねて彼らと戦ったものの、ポルトガル本国を含め地中海周辺の情勢悪化(マルタ島陥落)をうけて商船も撤退していた。彼らは敵が減ったことを知り、次の襲撃について話し合っていた。


 そこに、戦列艦1隻とガレオン船15隻(計兵2500)の艦隊が日本からやってきた。遠征部隊の大将は安宅あたぎ冬康。各船の指揮官は宗義智・熊谷直実・山中鹿介・森可成・島津義弘らであり、上陸部隊の総指揮官が高坂弾正、そして全体の作戦参謀が竹中半兵衛という構成だった。


「おりましたね。船はジャンク船という奴ですな」

「半兵衛殿、先ずは船から砲撃して破壊し逃げられなくするぞ」

「摂津守(安宅冬康)様に御任せ致します」


 戦列艦は主砲で最も大きなジャンク船を破壊。これを挨拶代わりに、次々と砲撃を加えていった。

 混乱した倭寇は初動対応が遅れた。彼らが警戒していたのは、西側の澎湖諸島方面から明が攻めてくる事であり、東南側から日本の船が攻めてくる事は想定していなかったのである。


 轟音が戦場を支配する。倭寇の面々は船で逃げようにもその船が破壊され、辛うじて動きだした船も集中砲火で次々と沈んでいった。

 統率のとれない倭寇は散り散りになって森の中に逃げて行った。


「良し、上陸!」


 半兵衛の指示で上陸部隊がガレオン船から小型船に乗り換え、次々と上陸していく。そのまま倭寇の拠点に槍衾やりぶすまなどを展開しながら自分たちに適した拠点へと変えていく。


「周辺の木材を切りだせ!島津・熊谷は此の儘北上して北の倭寇拠点の船を破壊せよ!」


 戦列艦と6隻が北上していくと、倭寇は次々と島の内部に逃げこんでいく。だがこれは、半兵衛の作戦だった。


「いやぁ、倭寇等が島の隅々に逃げ込んでしまいました。仕方ないので島全土を制圧し、倭寇を殲滅致しましょう。其れが明国皇帝の御意向ですからね」


 同日中に魍港などにあった倭寇が保有する船を壊滅させ、一部を鹵獲した台湾遠征部隊は、京へ追加部隊派遣の要請を行った。その間に、澎湖諸島の倭寇を文字通り全滅させた彼らは、秋に援軍7500を迎えて計10000の軍勢による、台湾全島の制圧作戦を挙行したのだった。

 制圧作戦で最も活躍したのが森可成であり、その息子たちだった。彼らは慣れないはずのこの地を物ともせず、各地で残党狩りを行った。現地住民の一部懐柔も進めた遠征軍は、1568年6月に島全体の倭寇討伐を明に連絡。澎湖諸島の返還を対価に台湾島の『交易拠点としての利用』を認めさせ、領地化を急速に進めていくこととなる。


 ♢♢


 山城国 京


 11月になった。明の皇帝が崩御したとの連絡が入った。電信が神戸湊や駿府・金沢にも延伸したおかげで情報伝達がスムーズだ。博多復興の状況も上々のため、初孫の誕生の報を聞いた俺は、京に戻ってきた。

 初孫の性別は男。そう、龍和の嫡男である。無事に産まれたその子を一目見ようと、俺は京での帰還の報告を済ませてさっさと稲葉山に戻ることにした。明日の早朝には出発することとなった。


 明の新しい皇帝は、海禁政策の緩和を打ち出したらしい。政府間の直接取引には応じる気がないようだが、台湾を挟んでの交易は今後進められるのではなかろうか。台湾の一部と長崎に在留外国人向けの地区を整備中だ。現状台湾の中心都市として、最初に上陸した地点の近く(前世でいう台南市だ)に防衛拠点を造るのが先だが。


 イエズス会の宣教師から、マカオの利用が制限されそうだ、という話がきた。以前は倭寇取締りに協力する見返りにマカオを利用できていたが、ポルトガル本国周辺の情勢悪化で商船も一部を除いて引き上げてしまったらしい。結果として、許可をえていたマカオの利用に明側が難色を示すようになったそうだ。

 イエズス会としても明での布教がうまくいっていないため、ポルトガルによる損切りの可能性も出てきているらしい。日本では布教も一応許可されている(勘違いした俺を崇める宗教との勢力争いになっているが)ので、今後台湾に交易所が整備できたら、こちらでの活動許可を願ってくるかもしれない。


 翌朝京を出発した俺は、大津から琵琶湖を船で渡る。琵琶湖水運も安定しており、船上から安土の政庁を眺めながら優雅に進む。


「殿、そろそろ午の刻に御座いますが」

「おお、新七郎、準備しておいた握り飯を」

「はっ。では先ず此方で手を」

「御絞りか。食べる時は手を奇麗にせねばな」


 おにぎりの具は昆布の佃煮だった。今年の蝦夷地開拓団は根室にも拠点を造ったので、今後は昆布の安定供給も進むだろう。


「良い味だ。もっと多くの人に此の味を知って貰わねばな」

「敦賀は今後更に賑わうでしょうな」

「上方へ物資を運ぶ重要拠点だからな」


 敦賀も那古野同様湊の改良を開始した。こういう国家事業的な大規模事業が各地で動きだしている。大坂・神戸など各地で湊の整備を、宇和島・佐世保と毛利から提供があった呉に海軍基地を、といった形だ。


「琵琶湖水運もまだまだ重要だ。例え蒸気機関車が完成しても、な」

「試作品は一先ず動いたと伺いましたが?」

「動いた。だが、求めているのは彼の程度ではない」


 もっと早く、もっと多くの人と物を運んでもらわねば。そのためには蒸気の力を逃がすことなく使えるように、もっと圧力に強い蒸気機関の開発をしていかねば。

 そんなことを竹生島を眺めながら、新七郎とのんびりと話すのだった。


 ♢


 美濃国 稲葉山城


 産まれた子は元気そうだった。大柄なのは、母深芳野から俺、龍和へと続く血だろう。豊太丸の名を継ぐ者だ。しかし泣く。俺の顔を見るとよく泣く。


「御爺様そっくりですな、父上」

「良く泣かれるのは一族の定めか?」


 冷やかしにきた叔父道利を見て顔が渋くなる。それに気づいた豊太丸がさらに泣く。悪循環だ。


「龍和とて少しは泣かれたと聞いたぞ。慣れるか慣れぬかだ」

「はいはい。負け惜しみは宜しいですから、そろそろ御返しなされませ」


 お満に言われて美胡都姫に豊太丸を返す。豊は疲れからか眠っている。結構な難産に最初から最後まで付き添い、しかも産まれた子の面倒を暫く見ていたのだから、当然だろう。俺が来て安心したのか眠ってしまった。


「子はかすがい。大事に育てましょう」

「今から重荷を背負わせたい訳ではない。先ずは伸び伸び育てよ」


 俺には龍和がまだまだ子どもというイメージなので、その言葉に少し違和感を感じてしまう。子どもに子どもができたというか。これが『いつまでたっても親は親』というものなのだろうか。


 九州の刀狩も終わった。来年から畿内と美濃・尾張での刀狩が始まる。この子が戦争を知らず、戦争を学んで戦争に備えるだけですむ世界を目指したいところだ。

あと2話。頑張ります。


欧州の情勢変化もあり、ポルトガルは対中貿易に商船を回す余裕がなくなって来ています。

逆に言えば、それだけ自国の力を対イスラムに回せばある程度拮抗した状況になるのではないか、と思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] マムシにひ孫見せたりたかったのう
[気になる点] 詩姫。 コレ、足利義藤の妹(文姫の姉)で足利義晴の娘じゃなかったっけ?-216話参照ー 216話では信長の嫡男へは文姫で詩姫は一時保留と・・・ まあ、いいんだけどね・・・
[一言] 面白いです 史実だと関ヶ原の戦いすらやっていないというw ラストスパート頑張って下さい!
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