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第314話 九州征伐 その9 門司の戦い(下)

全編3人称です。

 豊前国 門司


 戸次鑑連の本隊に突入した竹中兵は、美濃でも荒くれ者で有名な面々ばかりだった。戦争の形が変わっていく中で戦場に、それも槍と弓が必要な戦場にしか居場所がなかった面々。彼らにとっては天下が統一された後、どこまで自分たちが必要とされるかわからない。そんな小さな焦りのあった者たちを竹中半兵衛という男が見抜き、自らの編成する部隊に組み込んでいった。


「日ノ本で最後となるであろう力と武が輝く戦場に、其の方らを連れて行こう。共に参れ」


 半兵衛は内包する狂気で彼らを集め、そして今日まで磨いてきた。火縄銃の扱いも満足にできない荒くれ者たち。だがこの戦場においては誰よりも実力を発揮できる者たちだった。彼らは大友兵と同様死を恐れない。自らの力を、生きた証を残す。そしてあわよくば、この先無理して働かずともすむ大金を稼ぐ。それだけである。


 防人の血を引く武士もののふと、斎藤軍の中で時代に取り残された者たちの戦いは、兵数の不利から竹中の兵が徐々に数を減らしていく。しかし、この竹中隊の横撃は戸次べっき鑑連の描いていた勝利への道を閉ざすのに十分だった。

 斎藤軍の前線は、竹中隊によって大友兵の圧力が緩んだ結果、第二陣の大久保兄弟の部隊がわずかに残った日根野隊を吸収して前線を立て直した。囮となって斎藤軍の搦め手を食い止めていた戸次親行の隊は既に壊滅しており、搦め手の岸信周・不破光治の隊が大友全軍の後方を遮断すべく動きはじめていた。そして竹中隊がその8割を失う頃、その戦場に戸次鑑連配下の有力な将3人が釘付けとなったことで、想定していた厚みのある攻撃ができなかった大友軍は、勝機を逸したのだった。門司の市街地に潜んでいた大友兵も、予定より混乱の少ない斎藤本陣に攻撃をしかける形となったため、大きな混乱をもたらすことはできず討ち取られた。


「事此処に至れば、既に殿(大友宗麟)の命を全うする事も敵わず、か」

「殿」

「既に日向は落ちている。せめて北だけでも守り抜いて僅かでも殿の血と名を残したかったが、無念よな」

「殿……!」

「(森下)備中、行くぞ。明智十兵衛なる斎藤中納言の懐刀、せめて一目見て散ろう」

「はっ!」


 戸次鑑連は、小姓迄も含めた自らの率いる本隊全員に突撃を命じた。勝敗ではない、死に場所を求めて。



 一方竹中半兵衛は、命からがら数名の古くからの部下と共に戦場を離脱していた。今回のために集めた者たちは、既にほぼ全員が討死していた。


「いやぁ楽しかった。血の気の多いのも減らせたし、私も楽しめた。完璧だったな。十兵衛様はこういう所には目が届かぬ故、今の内に処分出来て助かった」


 彼は小姓として早い段階から龍和と一緒に、義龍から今後の日ノ本をどうするつもりなのかを教わっていた。そして彼なりに、不穏分子を取り除く方法を考えて準備をしていた。


「戦に狂うのは私で終わりだ。私はまだまだ戦を楽しむが、制御出来ない戦狂いを生かす理由は無し。大殿は金払いが良いから、子孫が困る事は無かろう」


 この戦で自らの趣味と実益を満たした半兵衛は、本陣に向かって戦場を離れていく。頬についていた返り血を拭うと、笑みを更に濃くした。慌てて扇子で口元を隠すが、それを見て驚くような人間は、今彼の周りにはいない。


「次は琉球か。大殿に従軍の御許しをきちんと頂かねば、な」


 ♢♢


 大久保兄弟が立て直した前線は、しかし戸次本隊の突撃で再び押しこまれた。だがそれは、連続した攻勢に対する疲弊によるものであり、最初の内田隊の突撃による混乱や相手に呑まれてのものではなかった。そのため大久保隊は、後詰の大沢次郎左衛門にも加勢を依頼した。加勢した第三陣の大沢次郎左衛門は、部下に敵後方に回りこんでいる味方の軍勢の存在を教え鼓舞することで士気を維持していた。そして自らも槍を手に大声を張り上げて戦い、突破されそうな日根野の残存部隊を支えたのである。

 しかし、大友軍の後方から岸信周と不破光治の部隊の攻撃が始まっても、大友全軍の前に向かう勢いは止まらなかった。その決死の突撃に、日根野隊の生き残りも苦しい状況となっていく。その支援に手一杯になっていたところで、疲弊が著しくなった兄・大久保忠世の馬廻りがほんのわずかに崩れた。


「しまった!兄者!!」


 弟の大久保忠佐(ただすけ)が救出を試みるが、彼自身も戸次の精鋭と対峙しており、その場を離れる余裕はなかった。大久保忠世は嫡男・忠隣を逃がすためにその場に踏み止まり、小野鎮幸に半ば相討ちの形で討たれた。大久保忠世の討死で開いた戦線の穴に殺到する大友兵だったが、斎藤の戦線が完全に崩壊する前に、大友軍を後方から攻撃していた岸・不破隊がついに戸次鑑連の馬廻りに追いついた。


「道雪入道、御覚悟!」

「貴殿を討てば、戦は終わりだ!」


 不破光治は率先して戸次鑑連の馬廻りに兵を向けた。土岐一族の内紛で一族が分裂したが、反乱側には付かず土岐一族に忠節を尽くした不破氏の現当主。彼は土岐最後の1人である龍頼が政争で、戦で利用されない世の中を目指して義龍に従ってきた。そんな彼にとって、龍頼を惑わしうる最後の不穏分子である大友を滅ぼすことは、自分と一族を危険にさらす価値のあることだった。


 不破隊はあえて乱戦を自分たちだけで形成した。岸隊が後詰としてやや遠巻きに囲い、逃げる兵を確実に追える様にする中で、不破一族は寡兵の鑑連を多対一の状況に持ちこんだ。不破光治は自身の命さえ危険にさらし、重傷を負いながら戸次鑑連の馬廻りを壊滅させた。そして、


「我が名は大久保治右衛門(忠佐)、御相手願おう!」

「高名な三河武士か。良かろう。最期の相手として不足なし」


 斎藤軍による前後からの攻撃で崩壊した大友軍は、次々と兵が討たれていった。そして戸次鑑連本人も、片足が不随ながら大久保忠佐と20合にわたって撃ち合った。馬上での動きは決して満足のいくものではないながら、周囲に倒れた両軍の兵を障害物として使い、大久保忠佐の槍を受けられる位置に誘導した。


 戦場で動いているのは既に戸次鑑連と大久保忠佐のみとなり、他の大友兵は敗れ死したか捕縛されたかの何れかだった。戦の勝敗は既についていた。それでも兄を討たれた忠佐は、自らが戸次鑑連を討ち取る事を望み、鑑連は最期まで戦い続けると決めていた。


 そして、力の入らない足の影響で馬と鑑連の連携にほんのわずかな齟齬が出た瞬間、忠佐は力いっぱい槍を突きこんだ。しかし鑑連は咄嗟に槍を捨て、雷切で槍の穂先を薙いだ。忠佐の槍の穂先が落ちる。しかし忠佐は止まらなかった。そのまま馬と共に木の棒と化した槍で鑑連を突き、馬上から落とした。


「見事。此の首、持って行け」

「西国一の武名、一寸の違い無き事我が一族で語り継ぎましょう!」


 忠佐は心臓を一突きし、鑑連を討った。


 後に『門司の戦い』と呼ばれる事になる大友最大の抵抗を見せた戦は、こうして終焉を迎えた。

大友の最大の抵抗となった一戦。竹中半兵衛という人の計算高さと現実主義的な部分が出た戦でもあります。大友側も文字通り死に者狂いで戦える者だけで構成されている軍勢でしたが、雷神道雪だからこそであり、国人衆が戦場に全くいないからこその戦いでもあります。(描写上、大友方に国人領主は1人も出ていません)

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― 新着の感想 ―
[一言] 国人衆がいない……つまり、本当の意味での大友の直轄兵のみか って事は余計にこれ、壊滅したとなると後がないな 日向は陥落し、南からは織田が攻めあがってくる 北は雷神が率いる最精鋭部隊がほぼ全滅…
[一言] 雷神ついに墜つ、やはり道雪はかっこええですなぁ。
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