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第306話 九州征伐 その1 相良内紛

 安芸国 厳島


「小早川殿、其れは真か」

「はっ。竜作様に御報告致しましたる事、ほぼ間違いないかと」

「相良で内乱、か。大友もやってくれる」

「島津兵は相良領と天草で手一杯になろうかと。幸い、阿蘇が一切動いておりませぬので相良の反乱は早くに落ち着くとは思いまするが」

「やれやれ」


 下関に向かう途中、毛利との合流ついでに厳島神社に参拝した夜、九州情勢に関する速報がもたらされた。相良氏当主・相良頼房は以前反乱を起こした叔父の相良頼孝を赦していた。その頼孝が大友に唆され、再度反乱を起こしたらしい。十中八九相良の宗主である島津を釘づけにするためだが、相良頼孝は大友家臣で肥後国人の城氏・内古閑うちこが氏の支援をえたためかなり乗り気らしい。


「豊前の大友氏は如何程の兵力か分かったか?」

「豊前・筑前の衆、計一万五千程かと」

「とすると豊後・日向には筑後兵が入るか」

「少弐氏の兵も豊後に入っている様で」


 豊後側の兵が多いが、豊前側もかなり分厚い布陣か。関門海峡は絶対に抜かせないという方針が見える。


「恐らくですが、豊前側の総大将を戸次べっき鑑連が、豊後側を当主自らが行う形かと」

「だろうな。雷神が俺の相手か」


 上杉の軍神・朝倉宗滴・尼子の新宮党。これまで名だたる名将と戦ってきたが、それらに匹敵する難敵だ。しかも相手は守りを固めており、そうそう隙は見せないだろう。


「少し信長と話す必要があるな。一度伊予に向かう」

「はっ。此方は確りと支度を整え、下関に向かいまする」

「頼む」


 こういう時電信が完成していないのを歯がゆく思う。やっと400mの通話実験を始めた段階だから、長距離通信はもう1,2年は確実にかかる。北海道開拓が始まる頃に中央との連絡手段が整えば恩の字かな。


 ♢


 伊予国 湯築ゆづき


 宇和島から湯築までやって来た信長と打合せをする。


「大筋は変えずに行こう。義兄上が火力を使って門司・小倉を攻める。俺が宇和島から攻める。此れは変えない」

「大隅から兵を出すのは厳しいか」

「大隅からは日向の北郷ほんごうを支援する程度で良いだろう。五千もいれば守れる」

「成程。まぁ、細かい部分は現場判断だな」

「島津の参戦が遅れる分には構わぬ。先ずは豊後に上陸する事だ」

「此方は最初は砲撃で門司と小倉を丸裸にする。其れから上陸させる」

「博多は如何申してきたのだ?」

「神屋紹策の親子が追い出されて逃げて来た。他にも島井等は商いを他の商人に奪われた様でな」

「其れで良く朝鮮と貿易が出来ているな」

「大友は勘合符を持っているからな」

「遺物だな。可能なら大陸との関係は今後政府の管理下に置きたい所だ」


 深入りすると中国の人口に呑まれる。それを日本が理解したのは日中戦争でだった。俺はそんなことはしたくない。明・李氏朝鮮とも外交上の形式的な友好で十分だ。宗氏を対馬から移封し、対馬を海軍基地化して最前線とすればいい。このあたりは既に認識を共有済だ。


「大隅から日向に五千。伊予から豊後には安宅船六十隻。小早も多数。三好の水軍と我等の水軍を合わせれば数も質も負ける事はない」

「だからこそ、俺でいえば壇ノ浦の、信長で言えば豊後水道の海流を如何に掴むかが重要だな」

「此ればかりは相手の地の利。豊後水道は安宅殿と九鬼が調査しているが、長年其処にいる敵水軍とは違うからな」

「此方も塩冶や小早川に調べさせているが、流れの変化を読み切るには5年はかかると。既に2年程見てきた小早川がそう言うのだから間違いないだろう」


 壇ノ浦については平家物語を聞かされた時、平井宮内卿に「壇ノ浦は川と思えと伝わっております」と教わった。狭い関門海峡は潮目が変わりやすく、流れが急に速くなりやすいそうだ。そして、海峡の間にあるのが彦島と巌流島だ。大きいのは彦島で、大友はこの島にも土と石で固めた陣地を造っている。


「だが、不利は承知の上。其れを圧倒するのが我等がなすべき事」

「そうだな。今後二度と日ノ本で内乱が起こらぬ様に」


 全力を尽くす。それだけだ。国内を揺るがないものにする。それが一歩目なのだから。


 ♢


 長門国 下関


 先行して準備を進めていた十兵衛たちに合流した。既に兵の集結は完了し、前線基地の整備も完了した。元々織田の駐屯地はあるので、一部を間借りしつつ足りない分を臨時で整備した形だ。


「相手の陣地は如何だ?」

「試しに彦島に数発撃ち込みましたが、土が主の陣の様で。門司や小倉程固くはないかと」

「成程」

「但し、土が主の陣故、砲弾が兵に直撃しなければ人は死にませぬ。破片が飛び散りませぬ故」

「ああ、そういう面もあるのか」

「しかも、夜の間に陣は修復されておりました。数発だから、とも言えますが」

「修復前提の、兵に直撃させないための守り、か」

「恐らく。敵も考えております」


 大友が伊予で戦っている間、少しだが信長も大砲を使っていた。その時に得た戦訓だろう。木や石の構造物は砲撃で破壊されると、破片が兵を襲う凶器になる。これに気づいた雷神・戸次鑑連は、彦島を土で守ることにしたわけだ。


「意外と厄介かもしれないな」

「ええ。しかも今までと違い、恐らく大砲に脅える事のない兵を置いているでしょう」

「穴も掘っているかもしれんな」

「確認させます」


 いわゆる塹壕だ。土は盛るより掘る方が楽だ。それに気づけば、塹壕中心の防衛スタイルになる。これまでも敵によっては穴を掘っていたが、その分石や漆喰の壁を使って身を守っていた。それが変わる可能性がある。



 翌日の報告で、塹壕が確認された。敵は土を掘り、掘った土を積み上げている様だ。彦島は既に穴だらけらしい。彼らの一部が塹壕の途中で消えた報告もあり、地下に生活スペースや休憩スペースがある可能性が指摘されている。


「となると、食料もそこに運び込んでいるか?」

「恐らく。表面の土を大砲で削っても、地下の兵には被害が出ぬでしょうな」

「最悪、彦島は放置だな」

「上陸の邪魔になると思いますが」

「いっそ遠賀河口にでも兵を送って山鹿城を襲うか?」

「其方も兵がいるのを確認しておりますな」

「うーん、難しい」


 別に力押しすれば勝てるのだが、可能なら圧倒的な武力を見せつける勝利にしたい。今後のためにも。


「幸い、大砲の砲弾は彦島全てに届きます故、相手が何も出来ぬまま此方は攻める事が可能。無理せず、着実に進めましょう」

「そうだな。其れが結局最善か」


 ここで大砲の弾を爆発するようにできていれば違ったのだろうが、残念ながらそういう知識は高校化学で習っていない。そのうち誰かが何かを開発するとは思うが、現状では無理がある。一応熱した砲弾をニトログリセリンを撒いた場所に落とせば衝撃と熱で爆発するが、それは攻め手の状況でできるものではない。しかもニトロ化には硫酸も硝酸も使うのでコストを無視できない。


「では、適宜砲撃を始めよ」

「はっ」


 ニトログリセリンは治療薬でもある。量を作れない今はそういう無駄な利用法はできない。兵たちも下関周辺で訓練できるし、いざ上陸となればどう頑張っても犠牲は出るので無理をさせる必要もない。

ニトログリセリンは塩析した石鹸から手に入れたものです。現状では鉱山の一部や心臓関係の治療に使われています。


相良の内紛は角隈石宗の仕込みです。簡単にやられる気はないということですね。相良を従属させている島津はこれに対応しなければならないので、結果的に島津の手は封じられました。

島津の全盛期には15年早い中で大友は史実でもほぼ全盛期なので、これは仕方ないですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前回からの義龍の呼び名「竜作の官」ですが、調べたら中納言にはもう一つ「黄門郎」という呼び名があるそうで。 つまりは「水戸黄門」ならぬ「美濃黄門」になったわけかぁ! 「と」と「の」の一文字違い…
[一言] 様々な歴史モノで、『大陸、半島との関わりは貿易程度でも良い』としているが、史実で清が欧州に対して「日本は悪だ」と云い、情報戦を仕掛けてきた事を考えると、プロパガンダの能力も欲しいところ。
[一言] 土を掘って壕を作り、土塁を盛って壕の中に隠れて戦うのは大砲から守れるだけの厚さが土塁に必要になるため、銃眼の類が作れそうにない、あるいは仮に作れても射角が取れそうにないから反撃能力は低そうで…
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