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第30話 鷹司御家騒動と初めての反抗(上)

1話では長すぎるので3分割しております。

長瀬城・更地城などの位置は下の地図でご確認ください。本郷城は飛び地の話なので掲載していません。


挿絵(By みてみん)



 美濃国 大桑守護屋敷


 冬が近づき、近江の情勢が不安定化する中で、美濃でも1つの騒動が起きた。

 国人の御家争いだ。名前は鷹司たかつかさ氏。


 元々は藤原五摂家(ごせっけ)の1つ鷹司家の出身だ。南北朝の争乱で土岐氏から嫁をもらった権大納言鷹司冬基(ふゆもと)が美濃に土着して長瀬城主となったそうだ。

 本家とは今も関係が続いており、当代の二位殿にいどのこと鷹司与十郎(よじゅうろう)冬明ふゆあきも京の左大臣鷹司忠冬(ただふゆ)と連絡を取り合い、土岐氏の朝廷工作に関わっていた。



 御家騒動はこの二位殿と弟の鷹司左衛門督(さえもんのかみ)政光まさみつの間で起こった。発端は国人の本郷城主国枝正利(くにえだまさとし)と二位殿が飛び地の水利で揉めたことにある。近所の国人との話し合いはこれまで弟の左衛門督政光が行い、うまく付き合っていたらしい。しかし太守様の修理大夫&美濃守任官を終え、京での仕事がひと段落ついた二位殿が今回の揉め事を自分で処理しようとした。

 当然だが慣れないことをしたためうまくいかず、自分の官位などを笠に着て一方的に譲歩を求めたため更に大揉めすることになった。それを穏便に済ませようとしたのが弟の左衛門督政光だった。


「兄上、ここは某が角が立たぬよう収めますゆえ。」

「なれば、我が家の格を落とさぬよう処理するでおじゃる。」


 こんな会話があったそうだが、面目が立たない国枝殿は強硬な姿勢を崩さず。結局周りの国人からの二位殿への反発によって戦になりそうな状況まで来たところで、左衛門督が国人達に頭を下げて戦を回避した。

 だが、頭を下げた弟が気に入らない二位殿は彼を領内から追放。国人から支持される左衛門督政光は兄では領内がまとまらないとして挙兵した。

 これに元々左衛門督政光の領地だった更地城が参加。周辺国人も彼に味方し揖斐いび川の東西で睨み合いを開始したというわけだ。


「鷹司二位殿と左衛門督殿の訴えですが。」

「当主は二位殿であろう?ならば二位殿を支持すればいいのでは?」


 太守様の側近は日頃からよく話す兄の二位殿を推している。


「稲葉良通、伊賀守就(もりなり)、氏家直元(なおもと)、不破道助。其方らの意見が聞きたい。」

「西美濃の国人は皆、多かれ少なかれ左衛門督殿の世話になっております。」

「良通殿の言う通り、我ら含め左衛門督殿と協力して戦ってきました。浄土真宗の一揆や浅井との睨み合い、過去で言えば恵胤えいん様との戦でも、実際に兵を率いて共に戦ったのは左衛門督殿です。」

「領民も左衛門督殿が世話してきた者が大半故、大多数は二位殿を御存知ないと聞きます。」

「某は、太守様の決定に従うのみです。」


 不破を除く国人(いわゆる西美濃三人衆だ)は基本的に弟の左衛門督政光を支持している。付き合いが深い上、周辺には揉めた国枝一族と血縁の国人も多い。稲葉殿にいたっては母親が今回揉めた国枝正利の従姉(つまり叔父甥)という関係だ。それはそうなるだろうという話だ。


「左近大夫、どう思う?」


 しかし、兄の二位殿に恩があり、近臣として重用してきた太守様は彼を助けたいらしい。すがるように父左近大夫を見ながら問いかけた。


「最終的には太守様の決定に従うのみです。しかしながら、」


 一拍置き、父は鋭い視線を元服間近の猪法師丸いぼうしまる様に向けた上で、


「長年領地を治め、人心を慰撫いぶし、彼の地を安んじていたのは間違いなく左衛門督殿です。それは此度の件が一帯の国人を巻き込んだものになったことからも明白で御座います。ここで二位殿を全面的に支持されますと、必ずや国人との間に遺恨いこんが残りましょう。」


 父が消極的に支持したのは弟の左衛門督政光だった。これに猪法師丸様が噛みつく。


「反対です!父上!美濃守を朝廷から任官されたのは二位殿の尽力あってこそ!反抗的な国人共なぞ兵で脅せば騒ぎをやめるはずです!」

「今、この騒動を収めるだけならそれも宜しいでしょう。然れど、遺恨は必ず残ります。それは国人に、領民に、諸将にで御座います。そして遺恨は、最も嫌な時期に再び太守様に牙を剥くことになるでしょう。」

「遺恨なら左衛門督を許しても残ろう!」

「左様に御座います。なれば我等が現時点で何方いずれかに肩入れするのは悪手に御座います。」


 言いくるめられた猪法師丸様は小さな歯ぎしりと共に口をつぐむ。


「利政は沈黙して中立であれ、と申すか?」

「いえ、双方に何がしかの形で一度戦わせ、その後此方から和睦の道を示せば宜しいかと。関わらないのではなく、土岐の命で収めることを第一とすべきかと思われます。」


 父の発言に、多くの国人が「左近大夫殿の言う通り。」「深入りは御家に禍根を残しますぞ。」と賛同の声を上げる。国人全体としても、家の家督に守護が介入してくるのは避けたいらしい。


「だ、だが鷹司の家は国人というより土岐の縁戚として始まった家であるしな。」

「鷹司の御家は既に200年近く彼の地を治めております。十分土着したからこそ国人の支持を左衛門督殿が得られたのです。」


 土着してるんだから国人と同じ扱いの方が良い、と父は暗に太守様に示す。

 しかし話せば話すほど太守頼芸様が追い込まれていく。流石マムシ。口の達者さは戦国無双の腕前。


「いずれにせよ、もう雪が降り始める時期。そうなれば睨み合いも一旦落ち着きましょう。冬に双方の頭が冷えてくれれば、血が流れぬ形で解決することもできなくもないかと。」

「そ、そうであるな。では冬の間に双方に文を送ってなんとかさせるとしよう。」

「………!」


 ひぃ、歯ぎしり!カルシウムの摂取量が青年期分不足している恐れがあるぞ、猪法師丸様。

鷹司の御家騒動については、1535年というのが一般化しています。

ただ、この年は先の朝倉・六角との戦や洪水被害もあってそれどころではないことと、

斎藤道三と土岐頼芸の確執が見られない時期に頼芸と道三の対立があるこの事件を、

それも家中存亡も関わる時期に行うとは思えなかったので、意見対立が始まる時期のきっかけとして

物語的に再構成しております。予めご了承いただきたく思います。

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