第293話 浅筒討伐戦 その3 奥羽を覆う大いなる青
後半3人称です。投稿できていないのに寝る直前で気づきました。申し訳ありません。
美作国 医王山城
筒井一族の筒井順国が守る医王山城は山城で、周辺も含め山岳地帯に城砦がある。この城砦は長年尼子の美作支配に貢献し、浅井による奇襲奪取まで美作の拠点として機能していたようだ。
しかし、この城最大の問題は建造物が全て木造だったことだ。近年は石造りや漆喰による補強が主流化しており、この城はその流れに遅れていた。それはこの地の険峻さによる資材運搬の困難さとともに、尼子氏が織田・三好・うちと対立する気がなかったためだ。うちと対立しない限り、基本的にそういう設備投資は不要という判断だ。ちなみに宇喜多も城壁以外は特にそういう強化をしていない。
「木造では大砲に耐えられる訳も御座いません」
「十兵衛が目をつけた地に据えた大砲が、良い具合に各城を砲撃できているな」
「支城を落とすのに、一々大砲を動かすのでは時間がかかります故」
基本的にどの城を落とすのかを決めるのは俺だが、そこから詳細な作戦を立て兵の動かし方を決めるのは十兵衛達に任せっきりだ。鉄砲と大砲の時代になっても、結局戦国時代の優秀な武将の適応力が勝るという話。人間には向き不向きあるから仕方ないね。
「しかし、少しずつ雲行きが怪しい日が増えてきたな」
「新七郎が湿度が高いままだと報告しておりました」
「梅雨入りが近いか。夜はまだ冷えるがな」
播磨にある温度計が示すのは最低気温で8~11度、最高気温で14~18度くらい。5月に入ったばかりの気温としては寒い。実際は西暦とずれているだろうが、梅雨入り直前と考えれば明らかに低いだろう。西国なのだから尚更だ。
「山間のここは更に寒いですから、兵にも暖をとりながら休む様伝えております」
「奥羽はもっと寒いだろうな。龍和が風邪でもひいていなければいいが」
「若様は御生まれの頃から身体壮健で御座いますから、大丈夫でしょう」
あまり油断はできないがな。俺も気づけばもうすぐ前世と同い年。無理は禁物だ。
♢
梅雨入り直前に、筒井勢が医王山城を放棄した。敵が夜陰に乗じて城から撤収するのを気球で上空から警戒していた部隊が発見。発砲による信号で連絡が来たので一気に夜番の兵で追撃を加えた。敵将の筒井順国には逃げられたものの、大多数の兵は降伏か死亡した。武具なども逃亡途中に放置されていたが、その少なさから彼らの困窮ぶりがはっきりと分かる状況となった。
「食料は如何程持っていた?」
「驚くほど少なく。城にもありませんでした」
「美作に食料を残していないにしても1200の兵がいた城としては御粗末過ぎるな」
「お陰で我等が周辺の村々に運び込んでいる食料だけでも相当な出費で御座います」
「構わん。宇喜多より我等に感謝させろ。宇喜多が根付かないなら安い」
「はっ」
食料は美濃・越前・加賀・越中・三河・伊勢・近江などからかなり大規模に供給できている。信長は越後の干拓事業を始めたし、北条も領内の整備を始めている。東北と九州以外の西国くらいなら十分食料供給できる。むしろ経済的・食料的に我等に依存してくれた方がこれからがやりやすい。
「後は美作西部のみ。梅雨明けに伯耆を一気に落とすため、今の内に美作を制するぞ」
「はっ」
♢♢
陸奥国 高水寺城
蘆名・大崎・安東・南部といった諸将は驚愕していた。
「此れが上方の武か」
「大筒で城が紙の如し、か。あっという間に崩れるな」
「火縄銃の量は何だ。一万二千の兵で八千丁用意して一人が四丁を回し撃ちとは」
「春に庄内に積みあがった米の量は雲まで届くかと思ったぞ」
「しかも、一万二千の兵全員が青色に染めた同じ武具だった」
「足軽さえ同じ槍、鎧。修繕も一箇所で、連れて来た職人が手早く行っていた」
「大きさもほぼ同じ武具だから部品の入れ替えだけですぐに直っていたぞ」
最上と伊達は既にこの状況に慣れていたためそこまでではないが、彼らは上方の様子を見ているし、その凄まじさを直に見ている。
「総次郎(伊達龍宗)殿、我が妹を貴殿の正室に、という話は伺いましたか?」
「ええ。源五郎(最上信光)殿との縁は大事にせよと中納言(斎藤義龍)様と典薬頭(斎藤龍和)様が仰っていましたし、御隣ですからね」
「斎藤様は、庄内だけでなく大槌にも入られるとか」
「大槌は絶対との事でしたが、何か欲しい物でも御有りなのでしょうかね」
「さぁ。我等には与り知らぬ事。とはいえ大崎と我等にとっては斎藤様の領地が近くにあれば頼りやすいという事」
「ですな。我等も大槌が近い千体に本拠を移す予定です」
伊達氏は先代の晴宗が米沢に本拠を移していたが、米沢は今回の沙汰で最上領となった。そのため義龍の勧めもあって本拠を千体に移すことにしていた。
「しかし、この砲撃は凄まじい」
「大筒二十門、此れが日が昇っている間三日間撃ち込まれ続けている」
「もう高水寺に建物はほぼ残っていない」
残骸となった木材などが山となっているそれは、もはや城とは呼べない構造物だった。
周辺の支城も構造物が破壊された後に大花火が撃ちこまれ、混乱の中で火縄銃の斉射が行われた。その光景は戦とはいえない。ただの蹂躙だ。周辺から徴集された兵の士気は崩壊し、将は火縄で狙い撃たれる。
「葛西や斯波の、生き残るのが許されぬ者のみが城に残っているのだろう」
「先程、稗貫の一族の者が南部の陣を突破しようとして、討たれたそうだ」
「陣を突破せんとするなら、四万の包囲を突破せねばなりませぬ」
占領した地域に派遣されている兵もいるが、それでも高水寺には40000が集う。3重に包囲された状況は蟻の子一匹逃さないという覚悟だ。本来、この形は相手を死兵にするため戦術上は良しとされない。しかし、四方に火縄銃を構え、内部に突撃せずひたすら火力で敵を削る今回の作戦では、むしろ不穏分子の一掃に繋がる状況だった。天童一族残党や中野一族残党など、最上・伊達にとっても討っておきたい相手がそこに集まっているからだ。
「しかし、村から兵を集めても最早数合わせにしかなりませぬな」
「火縄銃・大筒に武具まで揃えられては、上方とは戦いになりませぬな」
「今後我等が如何すべきか。典薬頭様に、今の上方の考えを御聞きせねばなりますまい」
さらに10日間続いた砲撃の後、気球による上空観測からの狙撃で崩された斯波兵たちは、最後の城内突撃に対しても後手に回って全滅した。この対応に異議を唱えるものは居らず、奥羽諸将はその場で斎藤龍和より惣無事令を言い渡された。参陣しなかった小野寺や由利十二頭の一部、六郷や戸沢といった羽後の国人領主は斯波領鎮圧後に南部・安東・最上の連合軍により討伐された。
奥羽は斎藤が大槌・酒田に拠点を造り、それ以外を現時点では一定の石高をもつ領主が治める支配体制が確立した。
大砲への対抗で石積みなどの建造物が増えているのは本作の特徴の1つですが、全ての城がそうなるわけもなく。美作に石造りの城はありません。ですので大砲には対応できなくなります。
なお、奥羽情勢はほぼ終了モードです。特にひっくり返る理由がありません。




