第290話 過剰動員
活動報告で書きますが、電子書籍版の予約が始まりました。昨今の情勢から入手が難しい方でお手にとっていただける方がいればお願いいたします。
備前国 乙子城
春。
朝敵となった浅井・筒井を討つべく備前入りした俺を、圧倒的接待攻勢で出迎えたのが宇喜多直家だった。
「いやぁ以前御会いした時から官位も上がり中納言にまでなられてやはり斎藤様は我等木端者とは違うと思ってはいましたが我が家臣や領民にも分かりやすく示して頂きまして備前の民草までが斎藤様を敬服致す次第で勿論其の筆頭が某で御座いますが」
相変わらずの抑揚はありながら切れ目のないマシンガントークに少し気圧される。宇喜多直家には美作守が与えられた。これは美作を今後与えるという意味でもあり、また代々備前を支配していた浦上氏が代々名乗った官職でもある。そういう意味では、宇喜多にとって最も欲しい地位だったはずだ。それもあってか彼は終始上機嫌である。
「で、備前から兵は如何程出せる?」
「毛利に備えるか否かで変わりますが如何致しますか毛利を気にしないなら四千は出せまする毛利に備えるならば二千までになりまする」
「なら2000でいい」
「はっ」
俺が連れて来た兵力が25000。浅井・筒井の動員可能兵力は最大でも6000のはずなので、俺だけでも過剰戦力である。今回はこれに尼子が計3000(因幡1000・出雲2000)・赤松1500・山名1500が動く。織田は6万で伊予と周防・長門・石見を受け取った後に長門から門司を圧迫し、5000で尼子を支援する。三好は4万で土佐と伊予から大友を圧迫する。西国で動員される兵力は長宗我部も含めれば合計14万オーバーだ。大友の兵力を考慮しても過剰だが、西国の領主たちに見せつける意味もある。そしてこの規模の兵の兵糧をうちと織田がほぼ賄うことで、その財力を見せつける。
これと同時に、東北でもうちの12000と織田の5000、北条の1万に最上・伊達・蘆名・大崎・安東・南部の連合軍計3万(総計約6万)が葛西・斯波領に向かっている。
伯耆・美作侵攻軍のうち、備前から美作に向かうのが俺率いる15000。播磨から美作に入るのが龍造寺家就・信周率いる5000。出雲から伯耆に入るのが朝倉龍景・弟の斎藤利堯の率いる5000だ。因幡から伯耆へ入る織田の援軍を率いるのは松平信康(結局徳川を名乗らなかったな。それともこれから改姓するのだろうか)である。
「各戦線の投入兵力は想定される浅井・筒井の最大兵力より多い。各地の判断を優先しつつ全体指揮は俺が執る」
「当然で御座いましょう尼子様とも昵懇で官職も高く民草も敬服するくな……刑部様こそ総指揮に相応しい」
春に俺は新たに刑部卿となった。今稲葉山に仮の大審院(最高裁判所)を建設しているので、これが完成次第刑部省は司法省か法務省に改名する予定である。
「宇喜多勢には先陣を務めてもらう。美作を与えるか否かは其の働きも加味して判断するからな」
「御任せ下さいませ某と家臣一同粉骨砕身朝敵を討つ覚悟に御座います!」
俺の視界外で余計な動きをさせないためにも、餌を見せながら最前線で働かせるのが一番だろう。実利が示されている限り不穏なことはしないだろうし。
♢♢
夜。城内に明かりが灯りはじめたところで、宇喜多家臣が堂々と集まっていた。
「宜しいので?」
宇喜多直家に尋ねたのは長船貞親。直家の家老格で、備前で活動を始めた初期から従う忠臣である。
「むしろ此の話を聞いていて貰いたいくらいだ。二心無き事を知っていて貰わねばな」
「何故くな……刑部様は美作攻めに主力を置かれたのか」
長船と同格の重臣・戸川秀安も口を開く。
「浅井は伯耆に本拠を置いておりますからな。奇妙と言えば奇妙」
「分からぬか、越中(貞親)、肥後(秀安)。俺が信用されていないだけだ」
「成程」
「至極納得ですな」
「ちっ」
直家は舌打ちしつつもあまり不快そうな表情ではない。
「大筒の支援はあるので?」
「ああ。壊れた城門と城壁から我等が突撃する。そして城を落とす」
「兵に損害が出ますな」
「血を流す事で我等の美作領有を認めるという事だろう。刑部様はあまり血を流すのは好まぬ故、大筒と火縄銃の支援は厚くなるだろうが」
「血を流すのは周辺諸国に向けたものでしょうな」
「そういう事だ。肥後、先陣を切れ」
「はっ!」
「やれやれ。嫌われたものだ」
恐らく今後の対毛利の防波堤としての役割も自分に課されていることを考えると、目先の官職など以上に憂鬱さを覚える直家だった。
♢♢
翌日。
乙子城の周辺を散策しつつうちの本隊における作業の進捗を視察する。
満載の商船から膨大な米俵や弾薬、矢束等が次々と湊へ運びこまれている。
船から降りてきたのは堺の商人・今井宗及だ。
「此処は湊が狭いですな」
「狭いか?」
「辛うじて何とか、ですな。もう少し大きい湊が欲しゅう御座います」
「既に室津も飾磨津も牛窓も使っているからな」
備前牛窓の湊は本来堺・兵庫と下関の中継地点でしかないのだが、今回はそこにも大八車などを持ちこんで備前への物資輸送を行っている。それくらい各湊の規模が足りないのだ。
「今後も考えると都市と湊の整備は重要な課題だな」
「大坂は順調に湊の整備が進み、那古野も少しずつ大船が入れる様になって参りました。道も石畳で使い易く、有難いことで御座います」
「其れでも未だ未だだ。遠江の石油ではアスファルトは造れなかったしな」
相良でせっかく見つけた油田は、品質的に重油がほとんど採れないのだ。そのためひとまず油田近くの牧之原と焼津を結ぶアスファルト舗装道路を試験的に整備中だ。これだってまだまだ時間がかかる。
「保守整備も何処まで出来るか分からないし、インフラ整備は時間がかかる」
「しかし、其のいんふら?である道と湊が整えば、人も物も流れが盛んになり、我等も儲かります」
「そして、整備を条件に我等は商人に課税する、という約束だからな」
「御上が其処までして下さるなら我等一同命に従うのは当然の事に御座います故」
いわゆる法人税などを累進課税でやるために、金を使ってインフラ整備を進めている状況だ。うちと織田の兵の2割弱を占める留守居が専門の兵はこのために動員されることが多い。彼らは統一後、土木業者として全国でノウハウを生かし活躍してもらう予定だ。地域の土木工事でやる規模ではないことをしているから、各地域との差別化もしやすい。
「此処も大きい湊を用意せねば、後々都市を大きく出来なくなるからな」
「いっそ児島と陸を繋げ、大規模に干拓してしまうのは如何ですかな?」
「あぁ、児島か」
高校日本史の資料集で江戸時代の新田開発で大規模干拓が行われたって書いてあったな、そういえば。
岡山らしいこの一帯も地方の県庁所在地になるには狭く感じるし、やらないといけないのかな。これも金がかかるな。
「紙幣がもう少し民に根付かないと、金が足りなくなるな」
「証文より確かだと、銀銭含め商人は重宝しておりますぞ」
「最終的には不換紙幣を目指したいしなぁ」
「ふかん?」
「こっちの話だ」
今は金兌換だから商人も信用しているが、最終的には不換紙幣にしないと金の保有量に経済規模が制限されるようになるからな。考えないといけないことが多くて頭が痛くなりそうだ。
皮算用ではないですが、今後も考えないといけない段階になっているのは最近の話からわかっていただけるとありがたいです。
とにかく物量・物量・物量で作戦は進みます。相手に隙を見せないため、そして味方が寝返る気を起こさせないために。




