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第230話 交戦(上)

感想に疑問としてあったのでお答えしますが、下野・上野・信濃などの上杉の兵は国人を含みます。

村上義清4000、海野(真田含む)3000、小笠原2000などが信濃なら含まれます。

下野なら宇都宮・佐野の兵が含まれます。宇都宮は芳賀兄弟を追い出した関係で北条と和解できないと判断して敵対しています。

北条は総兵力で言えば40000を超える兵力がいますが、千葉氏への援軍や古河公方との戦線にも兵を置いている関係で上野を突破できる兵力を投入できない状況です。

 能登国 末森城


 どんよりとした天気の日。能登の玄関口といえる末森城に予定通り到着しようというところで、困惑した表情で先触れに向かった谷大膳衛好が戻ってきた。


「如何した」

「殿、末森の城が文字通り空に御座います」

「空?」

「誰も居りませぬ。今近隣の村に何名か送って聞き込みをさせておりまする」


 完全に空というのも珍しい。味方相手に空城の計はしないし、何より俺が来るのに誰もいないのは非礼と非難されかねない行動だからだ。


「余程の事があったか」

「でなくば説明出来ませぬ」


 十兵衛も警戒したのか、既に周辺に物見を飛ばし、兵に持参していた武装を身につけるよう指示している。念のためにと援軍の準備をするように使者も送ったようだ。仕事が早い。


 しばらくして、近隣の村に聞き込みに向かっていた者たちが帰ってきた。明らかに慌てた様子に、十兵衛の声がかからずとも一行に緊張感が増す。十兵衛が近寄ってくる。


「応援を呼びますか?」

「先ずは話を聞いてからにしよう」

「ですな」


 小姓の1人が陣幕に駆け込んでくる。必死に馬にしがみついていたのか、手も足もガクガクだ。


「え、越中の一揆勢が能登に逃げ込んだ模様!末森の守将は其の討伐に向かったとの事」

「其れだけでは城を空にはせぬだろう。他には?」

「五ヶ所の村で野盗が現れたらしく、城内の兵は次々と各村に向かったそうに御座います!」

「其れでも空城は変だ。何が起こっている?」


 城を空にするほどの出来事といえば余程のことだ。だがここに居続けても情報が不足している。最大限の警戒をしつつ、俺たちは末森城に向かうことにした。



 城は確かに人がほとんどいなかったが、わずかながら人の姿が確認できた。家臣が話を聞いたところ、一度逃げて戻ってきたらしい。


「凄まじいたばかぜが吹いた、と」


 たばかぜ、玉風。この地域では冬に北西から吹く暴風のことを言うらしい。この地域では珍しいというほどのものではないそうだ。もともと日本海側には冬になると北西の大陸方面から寒気がやってくることは中学地理レベルでも習っている。

 ただ、それでも既に美濃で雪解けがほぼ終わった今の時期に来るなんて想定が出来なかった。


「其れで中の屋敷迄壊れたもので、事の次第を伝えねばと多くの者を外に出したのです」


 当然だが、城は手薄になった。これまでならありえないほどに。


「其処に、畠山家中の内紛が重なったそうで」

「温井と遊佐か。抑々一度は内乱になった程仲が悪い訳だしな」

「上杉が越中を平定してからでは如何しても我等の援軍を請わねばならず、其れ即ち遊佐の力が増す。此れを温井は良しとしなかった様で」


 上杉が越中平定に時間をかけている今しかないと思ったわけだ。だが温井の誤算が複数あった。1つは本願寺強硬派の越中離脱。そしてもう1つは俺の加賀入り。どうやら遊佐側も温井排除のため、俺の出迎えに温井派の人間を呼んでいなかったらしい。おそらく俺が加賀に来ることすら伝えていなかったのだろう。

 結果的に、越中に雪崩れ込んだ強硬派一揆を討つために遊佐派の兵が出てしまい、温井派の兵は俺の到来を聞いてまずいと思ったのか逃げてしまった。空の城の完成である。


「先ず一揆衆を何とかするか。温井も越中から兵が来ると思えば以前の様に矛を収めるやもしれん」

「有り得ますな。其れに、七尾の城は堅固に御座いますれば、長尾の兵が万程度では決して落ちる事は無いかと」


 能登畠山氏の本拠地である七尾城は堅牢さで有名だ。150年程前に築城され、以後少しずつ増築されて今では山が丸ごと城といっていい規模になったという。


「では行くぞ。遊佐の兵と共に、先ずは狂信者の目を覚まさせてやらねば」

「其の儘目覚めずに奈落に旅立って貰っても構いませぬが」


 相変わらず本願寺派には辛辣だな。とはいえこちらに降れば良し。それすら出来ないなら他の人間に害意を振りまくだけなので相応の態度をとるしかあるまい。

 援軍が金沢から到着するのを待っているわけにもいかないので、一部兵を残して合流指示を任せ先行することにした。


 ♢


 越中国 棚懸城


 越中と能登の国境では、山城周辺を利用した防衛戦が行われていた。一揆側は老若男女合わせて5000。遊佐の防衛部隊はおよそ800。それでも、非戦闘員が多い一揆相手なので互角以上に戦えていた。そこに俺の率いる3000が到着した形となった。


 当たり前だが山道に俺たちが現れた段階で一揆勢は明らかに動揺した。今回は越前までしか街道整備が進んでいないのもあって大砲は金沢に置いてきている。金沢から来る援軍部隊には持ってくるように伝えているが、一揆勢には使えない。


「まぁ、火縄があれば十分だがな」

「左様に御座いまする」


 狭い道で火縄銃を並べて火力を集中させればどうなるか。相手にとってこれほど辛いことはない。北陸は火縄銃が普及していない(俺が売買も含めて火縄銃が北陸・東北に普及しないようにおさえているのもある)。しかも硝石の流通は更に厳格に湊で止めている。上杉含め敵にはほぼ火縄銃が存在しないはずだ。あっても弾薬がない。

 火縄銃を並べた上で木製のメガホンで相手方に声を張り上げる。ここから先は戦いにならない。虐殺がしたいわけではないのだ。相手も火縄銃に動揺し動きが止まっていた。


「此れ以上の戦は無意味だ!命は取らぬ故、武具を捨てて降るが良い!」


 相手の動きが止まる。近くにいる味方と顔を見合わせる様子に逡巡を感じた。狂信者と思っていたが、そうでもないのか。

 正面の敵の動きが止まったことで、遊佐兵も落ち着きを取り戻した。その一方で、相手の後方がざわついてきた。前が止まったからかと思ったが、どうやら様子がおかしい。


「何が起きている?」

「見るところ後ろで何かが起きているのかと」


 十兵衛が訝しげに望遠鏡で遠くを眺めていると、一揆勢から1人の将らしき男が近づいてきた。ちなみに、降伏の使者でも白旗とかは持たないらしい。どうやって見分けるのだろうか、不思議だ。

 使者はかつて松任の領主だった鏑木某なる人物だった。一揆勢とともに越中に逃げていたらしい。挨拶もそこそこに、本題に入る。


「後方に長尾の兵が来ております」

「成程。其れで、か」

「長尾は女子供の別無く根切りにせんばかりの勢いで来ます」


 どうやらかなり恐怖が強く残っているようだ。越中での長尾(上杉)のやり方はかなり苛烈だったというし、そのイメージが強いのだろう。しかもこの集団は非戦闘員が多い。よりその恐怖は強いはずだ。


「此処迄幾度となく敵対した我等が願うには厚顔に御座いますが、今後我等宮内大輔様に逆らいませぬ故、我等を御許し願えませぬか」


 ふむ。俺としては正直ここまで来るといじめすぎたかなというのもあるので、そろそろ落としどころとしては悪くないのだが。

 ちらりと十兵衛を見る。彼は軽く頷いて鏑木某に向かい合う。相手にも時間がないので即断即決が必要だ。


「殿は真ならば其方等を許したく無い様だ」


 おい、そんなことは言っていないし言う気もないぞ。


「だが、武具を我等に渡し、今後は教主たる石山の教えに従うならば、此の場を収めるのも良しとするそうだ」

「寛大なる御決断に感謝を。ですが、武具全てを奪われては如何にもなりませぬ」

「其処迄は申さぬ。だが、弓矢等は取り上げさせて貰いたい」

「承知致した。致仕方なしに御座いますな」


 その会話を聞いていたうちの兵が即座に動き出す。鏑木某も急いで戻って行く。雄神川沿いに長尾(上杉)兵が見えたそうなので、もう少しだけ時間はある。


 ♢


 5000人の人間が狭い山道を短い時間で抜けるのは至難の業だ。だから当然だが残るうちと遊佐の兵も準備がほとんどできないまま戦うことになりかねない。

 もしこの状況で一揆勢が寝返ると大変なことになりそうだが、うちの援軍がこちらに向かっているのは彼らに伝えてあるのでそうはならないだろう。古墳?(形はそんな雰囲気だったが木々で覆われていてよく分からなかった)があったので、そのあたりで恐らく使者を連れた彼らとすれ違うだろう。


「殿、敵が見え申した」


 服部党が望遠鏡片手に報告に来た。一揆勢はもう少しで全員が抜ける。あとはどれだけ迎撃態勢がとれるかだ。


「敵の旗印から見るに、率いる将は当主本人かと」


 え?もしかして、この状況で前世でいう上杉謙信と戦うことになるの?

いよいよ次話から対謙信戦です。


ちなみに、古墳らしき~は散田金谷古墳のことです。この頃は恐らく形状だけは残っていても森の一部になっていたと思われます。また、上庄川もこの時期の呼ばれ方で記しております。

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