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第227話 パンとサーカス

木曜日は体調不良で仕事以外何もできず投稿も活動報告もできませんでした。申し訳ありませんでした。

 美濃国 稲葉山城


 年が明けた。1557(弘治3)年だ。

 新年の挨拶は織田が南近江で、三好が摂津で行うことで畿内との距離感をアピールした一方、俺は特に気にせず美濃で行った。織田は南近江に本拠を移すつもりなのかと思ったが、京周辺は三好と協力して治めることが可能と見て第2の都市を造るのに留めるつもりらしい。

 今後の織田の戦略目標はまずは畿内の完全な安定化だ。丹波の波多野討伐と大和の完全平定を目指すだろう。

 三好は丹波で織田と協力しつつ反三好の別所氏を倒そうとしている。あとは赤松の内紛調停に動くと聞いている。今の赤松は影響力の大きい人物が乱立状態にある。1人は黒田職隆。赤松重臣の小寺政職の家老で、三好と赤松を繋ぐ立場を担っている。もう1人が宇喜多直家。備前で4000近い兵を動員できる半独立領主。そして龍野の赤松政秀。赤松本家が頼りにしつつも警戒する分家だが、ここが小寺と犬猿の仲なのだ。この3つの半独立的な家臣による三つ巴の勢力争いで、赤松は正式に使者を京に送り込めずにいるわけだ。逆に、黒田は赤松での地位を織田とのパイプの太さで維持していたので自ら顔を出したということになる。


 将軍なき時代を表すとして改元しないかという話もあったが、信長は拒否した。あまり改元にお金を使っても仕方ないという考えだろう。ただでさえ院御所の造営や弾正台の再建やら色々と金を使っているのだ。無理もない。


 上杉の動きは距離もある関係でなかなかわかりにくいが、昨年は越中を攻めた後信濃で武田・北条連合軍に敗れ、上野で越冬しているらしい。草津温泉あたりで湯治か?いい御身分だな。いい御身分(3国支配)だったか。

 一方で彼の兄である長尾晴景の病状があまり安定しないらしい。どうやら俺の薬を手に入れて常服しているらしいのだが、流通が不安定になって入手に難儀しているらしい。別に薬なら売るのも吝かではないのだが、相手からするとそうも思えないのだろう。



 冬の日にしては珍しく和らいだ日差しのさすある日。1人の学校卒の研究者が俺の屋敷に駆け込んで来た。白衣なので最上位の研究員だな。完全な白ではないが、この時代服の白は維持も大変な色だ。


「殿、殿!出来ました!」

「其方は、電磁石を任せた太郎兵衛か」

「あ、未だ其の電気の磁石は途中で御座いますが」


 ふむ。なら何が出来たのか。


「殿の申される玻璃の摩擦器と雷電瓶とやらが完成しまして」

「おお、其れが出来たなら電磁石完成も近いぞ」


 ガラスの摩擦で静電気を起こす装置を長い間準備していたのだが、ようやく目当てだった物が完成したようだ。これがあれば静電気を利用してライデン瓶(彼らには雷電瓶と呼ばせているが)に蓄電が出来る。で、磁石で小規模発電をしては少しずつ電磁石化を進め、焼成して再度磁石を電磁石化して磁力を高めるのをくり返して良質の発電力をもつ電磁石を作り、水力発電までいくのが目標だ。


「冬で少し乾燥している今日は良い日和だ。少しずつ静電気を貯めつつ磁石の力を強くしていけ」

「ははっ」


 嬉しそうな表情でそのまま太郎兵衛は走って研究室に戻っていった。水力発電が出来るようになればいよいよ薬品類の本格的な製造が可能になる。まだまだ2年ほどは安定した電磁石にするのにかかるだろうが、色々な希望の見える報告だった。


 ♢


 この季節にしては春めいた暖かさのある日。最近信長がお気に入りになっているという大蔵の猿楽を見せてもらうことになった。大蔵は播磨から三好の仲介で来てもらい、そのまま美濃や尾張で興行をしてもらっていた。だが信長がというより蝶姫が猿楽を気に入ったらしく、尾張に信長がいない分呼ばれる頻度が多く尾張で興行をする機会が増えていた。なので最近はうちの領内であまり興行をしていなかったため、春の豊作を願うための田楽やら色々な芸事をしてもらうのに合わせて来てもらったのだ。

 正直に言えば俺はストーリーを完全に理解していないのもあって途中途中で話の脈絡が分からずポカンとしていたのだが、出産明けで稲葉山にいた明智夫妻や育ちの良いお満・於春・江の方たちはかなり楽しそうだった。あと、豊の子である幸助もかなり楽しそうに観ていた。芸術関係に興味が強いのかもしれない。


 翌日に行われた相撲の方が俺的には楽しかった。ちなみに大蔵の息子の1人が猿楽より尾張の学校で勉強するほうが楽しいらしく、現状尾張に住み着いているようだ。このままいくと織田の家臣にでもなるのだろうか。猿楽は兄の方が継ぐみたいなのでそれでもいいのか。

 ちなみに今場所(俺が春と秋の2回興行をさせている)は越中出身で本願寺支配から逃げて来た力士が優勝した。朝野山と俺が名付けた力士で、家族を養うのに頑張っていたのだ。いわゆるプロ力士を俺も信長も3,4人ほど養っており、美濃・越前各地で興行させたり各地の腕自慢との勝負をさせたりして娯楽を提供している。国人領主たちも費用こっち持ちで領民に良い顔が出来るので喜ばれている。


 食糧供給と仕事の提供が加賀を除けば安定している現状、特に求められているのが娯楽である。いわゆる「パンと見世物」とか「パンとサーカス」と呼ばれるあれ。時代や場所を問わずこの点は変わらない。絵本の出版は絵と文字の版木を作って大規模に出版しているが、そこそこの富裕層に2色刷りで良く売れている。家臣への6色刷りより安価なので黄色の藤黄や緑色の銅の消費量が少ないのだ。特に輸入となる藤黄は可能ならば使いたくない。琉球ルートはまだまだ不安定なのだから。銅だって計画している貨幣で使いたいので出来れば使わないにこした事はない。


「ちちーえ。なにゆえこのじゃっくなる男は人のものをぬすむので?」

「ジャックは御父さんを此の巨人に殺されているのだけれど、確かに人の物を盗るのは良くない」


 娘たちに腕やら肩やらに抱きつかれ、膝にも座られた状態で『ジャックと豆の木』を読む。子供はこうしてまとわりついていると体温が高い。まだ寒い季節ながら寒さを感じないのは悪くないか。


「ちちうえ。きんのたまごはおいしいのですか?」

「金の卵は食べたことが無いな。如何思う、和香わか

「かたそう。いらない」


 お満の次女・和香がある意味とてもシビアに答える。この子も数えで8歳と勉強をきちんとやるにはいい年頃だが、今の所彼女は算数ばかりで他の教養にはあまり興味が無いようだ。分度器と三角定規を日頃から手放さない。


「金ならば高く売れますわ。なのに直ぐお金が無くなってまた豆の木に登って金を手に入れようとは、此の家は贅沢過ぎるのでは?」

沙夜さよは厳しいな」

「此の世は金の使い方次第。御父様は金で金を生むから天下に名だたる宮内大輔になれたのですから」


 沙夜は豊の長女にあたるため、数えで今年10歳になる。この子は金勘定が得意だが、商売人というよりは経済評論家に近い。少なくとも物の値段が上がる・下がることの意味はきちんと理解できている。だから金にがめついとか金を稼ぎたいというタイプではない。


「御父様は金を使って玻璃を沢山作り、売って手に入れた金で新しい田を増やして民の食べる物を用意しております。此れが人を救う道に御座いますわ」

「まぁ、其れも全て始まりは紙だがな」


 美濃が豊かだからこそここまで来れているが、その豊かさには間違いなく和紙という特産品の力がある。最近尾張に3つ目の学校が造られたが、全ての学校で使われている教科書は美濃和紙で作られている。織田も北条も三好も、和紙なくしては様々なものが成り立たない。うちも織田の塩と燃料なくしては成り立たない。そうして産業レベルでも誰も互いを裏切れない体制をつくることが目標の1つでもある。


「お母さま、そろそろおきてこられますか?」

「あと2,3日だな。和香はもう新しい妹に会ったのかい?」

「はい。お手てが小さかったです」


 年末に江の方が男の子を、年始にお満が女の子を産んだ。江の方はやや早産だったので大事を取って3週間ほど、お満も2週間ほど休ませている。新年の挨拶だけは顔を出したが、俺は基本無理をさせない方針だから娘たちもこの時期だけはあまり会わせないようにしている。それぞれに乳母はいるので大丈夫とは思うが、やはり実の母親は大事だ。恐らく大名の子供の割には実の両親と過ごす時間は長いだろう。


「新しい積み木が必要かな、しかし。子供が多い上部下にも贈るから中々商人達から頼まれた様に売りに出せぬな。子供用玩具専門の木地師を育てた方が早いか」

「幸助が偶に同じ積み木を兄弟から集めて、不思議な模様作りをしているのが奇妙です」


 幸助が面白い感性しているのは事実だ。あいつは何になるやら。


「此の前、お母さま方の着物を畳一杯に広げて喜んでおりましたね」


 本当に、あいつは何になるのだろうか。不安の方が大きいぞ。

新しい年になり、畿内周辺の安定化を図る織田と三好。しかし三好の宿敵といえる別所や赤松にいる埋伏の毒たる宇喜多の動向など、波多野だけでは安心できない情勢です。


水力発電。化学工業を進める為にも欠かせないので主人公は大分前から準備をしています。とはいえ完成はもう少し後になる予定です。

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