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第179話 大岡裁きも加減が難しい

遅くなりました。投稿できない友人宅で泊まるのに準備を忘れていました。定時投稿できず申し訳ありませんでした。

 美濃国 稲葉山城


 今も雪がちらつく中、信長が稲葉山に来た。蝶姫が冬の間に懐妊したそうだ。最近は大分蝶も安定したようだ。織田家中でも広く受け入れられているらしい。


「仲睦まじい様で何よりだな」

「義兄上には負けるがな!」


 うちもお満と幸、そして於春が懐妊となった。江の方と合わせて4人ほぼ同時に妊娠させるとか後世で絶倫扱いされそう。


「が、本題は其れではない。実は少し困っている事が在ってな。」

「困っている事?」

「岩倉と犬山の事だ」


 尾張国内の岩倉と犬山にはそれぞれ織田氏の領主がいる。岩倉には織田信安。いわゆる織田伊勢守家と呼ばれる家であり、元々は弾正忠家より格上といえる織田だ。今は無き大和守家と守護代の地位を争ったり勢力争いをしたりしてきた。

 犬山が織田信康。近江介信秀の弟が城主であり、岩倉の信安が幼少の時にその後見として犬山に入った。今は子の信清に跡を継がせようと準備中だ。そして名目上彼らは岩倉の信安の配下だった。


「岩倉は家臣の犬山が自分の父祖の地を荒らしたと主張して居る。犬山は奪われた地を取り戻しただけ、とな。」


 織田大和守家が滅んだ後、巨大化した弾正忠家に抗えなくなった岩倉の伊勢守家は信秀・信長親子に従属した。犬山織田家の認識ではこの時に主従関係はなくなったということらしい。


「で、調べたのか?」

「恐らくだが岩倉が正しい」


 少なくともここ最近は犬山が支配していた。しかし、10年遡れば岩倉の地らしい。しかも2代前まで。争っている地の元領主はきちんと与えられた時の書状を持っていた。


「だが、身内に厳しいと見られるのも厄介なのだ、義兄上よ。」

「身内贔屓は今世の常だからな」


 それもあって犬山は強気なのだろう。岩倉とも血縁はあるが、信長の立場から言えば近いのは犬山だ。信康は叔父だし、信清は従兄弟。岩倉の信安は正室が信長の叔母とはいえ、信安自身との血縁はほぼない。

 しかし、信安は幼い信長と普通に接していた数少ない人間でもある。そう簡単にはいかない相手といえる。


「で、如何するのだ?」

「義兄上なら如何する?」


 ある意味、期待をこめた視線だ。俺はこういう訴訟の類でもめた噂がないからだろう。だが、俺が揉めなかったのはしがらみがなくなったからだ。二郎様の暴走で所領関係はほぼリセットされた。そこから新田開発と区画整理を繰り返しながら、水利で揉める部分を訴訟前に丁寧に潰していたのだ。俺的には鎌倉幕府の新恩給与のイメージでリセットをかけたつもりだが、結果的に訴訟が提起されることはほぼなかった。


「身内といえども厳しくすべきだな」

「例え実の兄弟や義理の親族でも?」


 信長は少し探るような目つきになる。あぁ、そうか。俺もそういう意味では身内扱いなのか。少し嬉しい。


「其れでも、だ。公平無私こそが押し並べて信を集める秘訣だ。」

「しかし、其の公平無私を貫くのは難しいぞ、義兄上。」


 中立の立場を維持することは難しい。前世の警察・裁判制度ですら本当の意味で公平無私だったかはわからない。同じ犯罪でも赤信号の無視は警察官に注意される程度で済ませてもらえることもあるだろうが、窃盗・放火・傷害などは警察に捕まるだろう。だが、前世ではその基準があった。誰もがわかる基準『法律』だ。


「法律をつくり、今後其の法に基づいて裁くしか在るまい。」

「法律?律令か?彼れは古いぞ」

「違う。新しい法度をつくるんだ」

「法度か。今川がつくって幕府の反感を買っていたな」


 今は亡き今川義元は『今川仮名目録』という分国法に追加条項をつけたことで領国支配を固めようとした。結果的に外部の敵を増やし今川は滅んだが、この内容は最近つくられた武田氏の『甲州法度次第』に影響を与えている。


「だが、幕府が機能しない現状、守護としてや国司としての権限で家中を纏めるのは当然の事だ。」

「義兄上の言いたい事も分かる。分かるが」


 少し前に気付いたが、信長は開明的な部分もありつつも若干保守的な思想が強い。史実では破天荒なイメージだったのだが、俺の影響なのか本質がそうだったのか。最初は幕府を復興しようとして足利義昭を立てて上洛したのだし、結構保守的だったのかもしれない。


「守護・守護代として、尾張・三河・遠江・若狭に北近江を治める指標となる法度をつくると考えれば良い。」

「其れならば、分からんでも無い」

「では、此れをやろう」


 渡したのは武家諸法度やら寺院諸法度からの抜粋だ。日本史の資料集資料などに載っていたものをそのまま写した中から現状に合わないと思ったものだけを抜いてある。うちでも幕府・朝廷を刺激しない程度の分国法をつくろうと思っていたのだ。


「此れは?」

「俺も法度を考えて居てな。完成していないが、一部だけなら構わんだろうと思ってな。」

「忝い」


 正直、俺の抜粋した内容は寺院関係が結構過激だ。何故なら現状美濃では真宗高田派と天台宗がほぼ全面的に協力してくれるからだ。彼等には事前に連絡をし内諾を得ている。彼等が従うと宣言すれば他も従わざるをえなくなるだろう。代わりに美濃と越前の寺社保護もしなければならないが、治安維持はかなり時間と人と金をかけてやっている。少しずつ形になっていくだろう。

 理想は各宗派が政治的に関与できなくなる政教分離だが、現実的な線で武力の制限というわけだ。


「しかし、今回の岩倉と犬山には此れでは何とも言えぬ」

「まぁ、抑々(そもそも)遡及処罰は宜しく無いしな」

「遡及?」

「或る行いが罪であると決まった後に、其れ以前に其の行いをしていた者を遡って処罰してはならぬ、という事だ。」

「何故ぞ?」

「上の者の気分で過去の行状を理由に罰して領地を召し上げる事も出来てしまうからだ。」

「……其れは良くないな」


 土地という物を、賞罰を絡めれば彼等でも分かりやすい。いつまでも過去に敵対したことを理由に処罰したり過去の失敗を叱責してはいけないのだ。


「兎に角、義兄上の意見も尤もだ。犬山に土地の引き渡しを命じよう。」

「身内だからと別の土地を秘かに渡すのも止めて置け。訴訟を起こせば自分の利になると思われれば悪用されかねんぞ。」

「であるな」


 信長は跡を継ぐ為にこうして少しずつ父親である近江介信秀の仕事を任され、難題をこなしている。確か同じ土田御前の男子(前世戦国では信行という名だった)が後継者争いをしていたが、この世界では信長と近い年齢の土田御前の子は既に近江に入っている。土田御前と引き離され、京極を継いだため織田の当主になることはもうないそうだ。土田御前は一時かなり憔悴しょうすいしていたそうだが、市姫・犬姫誕生後は2人を溺愛して表面上は落ち着いたらしい。


 信長とほぼ同じタイミングで分国法は制定するとしよう。法務を司る部署の人員を多くしなければならないだろう。あと、揉め事次第では俺が判断しなくても良い形にするためにも三審制は手放せない。アメリカ大統領だってサマーバケーションがとれるのだ。今は労働環境が劣悪だが、少しずつでもそういう環境を整えねばなるまい。最終目標は憲法だろう。近代国家の基礎を色々と用意できれば徳川を超える大平と繁栄も夢ではないはずだ。そこに労働環境の安定が加われば最高なはずだ。


 俺は、労働基準法を、諦めない!


 ♢


 結局、犬山の信清は不服を申し立てて登城を拒否し始めたらしい。信長の判決自体は家中でも納得されているとはいえ、尼子との戦になりそうなこの状況では面倒になったのは事実だ。

 これが悪い方向にいかなければいいのだけれど。

法律関係ですが難しいものですので信長が経験を積む話です。

主人公は色々な近々の時代の資料を参考につくろうとしていますが、彼としても理想は憲法の制定にあるのは間違いありません。立憲主義にいくためのステップを信長に踏んでもらおうという狙いが出ています。本当にそこに辿り着けるだけの時間がつくれるかは天下統一への道次第です。


遡及処罰は史実で信長がやっていることです。某家臣の追放フラグが折れました。

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