第14話 地味で地道に長生き計画
定番といえば定番の話です。
美濃国 稲葉山城
元服前の話になるが、実は漢方用の薬草園で色々いいことがあった。
一つは大風子の成長が順調なことだ。こいつには長生きのためにも頑張ってもらわないといけない。手入れも丁寧に進めている。実をつけるようになったら鳥に食われないようにしないと。
剪定がやりにくいのでハサミが欲しくなり、鍛治師を紹介してもらってハサミを頼んだら、裁縫セットに入ったU字型のはさみを見せられた。
どうやら現代のハサミはこの時代少なくとも日本にはないらしい。なので下手な絵で形状を伝えて作ってもらった。地味にネジの構造を教えてしまったが、鉄砲の逸話でネジの話があると聞いたことがあるな。まぁ大丈夫だろう。
二つ目が漢方畑の一部植物が収穫できるようになったことだ。一年草はいい。土が合わずに去年失敗したものもあったものの、今年は亜炭を少し撒いて土の質を変えたり日当たりの傾向が違う場所に植えたりと色々試したらいくつか成功した。この調子であらゆる病気に対応できるようにしないと。薬草園の整備は順調そのものだ。
三つ目。同い年の友達ができた。友達といっても相手はこっちの身分のせいでそこまで砕けた口調とかではないが。ちなみに女の子2人と男の子1人である。
きっかけは長良川の洪水だ。あれで土地がダメになったことで父上から渡された領地にも被害が出た。そこの乙名(村長みたいな人だ)弥兵衛から飯が食わせられなくなった子供がいると聞き、ならば自分の仕事を手伝わせようと雇う事にした。
「新七に御座います!何でもやりますので宜しくお願いします!」
「豊に御座います。何でも御命じくださいませ!」
「えっと……幸、と申します。……頑張ります。」
元気で素直な雰囲気の新七が男の子。やや肩に力が入っているものの明るい雰囲気の豊。おっとりしていて言葉少な目なのが幸だ。
「斎藤新九郎利芸だ。宜しく頼む。」
雇ったら友達じゃない?いいんだよ同い年の話し相手が欲しかったんだ。
名目的には薬草園の手伝いをさせつつ読み書きを一緒に勉強させたり鍛錬に付き合わせたり、生活のサポートをしてもらったりしている。
毎日は辛いし休暇を取れるようにしようとしたら、
「お、お役御免でしょうか。」
と豊が若干泣きそうになったのでやめておいた。まさかこの時代から日本人には社畜根性が根付いているというのか。これは根気が必要だ。目指せ社内有給20日消化率100%の完全取得社会。まぁ信長に丸投げする気だけれど。
で、帰蝶こと濃姫出産の時とこの3人を雇って気づいたのが衛生的に石鹸が欲しいということ。理科の授業で習う程度の化学だから油に石灰と火山灰か木灰があれば作れる。
ムクロジは一部で使っているらしくなかなか手に入らない。作るしかあるまい。衛生的にも身近な人間は清潔でいて欲しい。長生きのために自分の体ももっと清潔でないといけない。地道に一歩一歩環境を整備しなくてはならない。
♢
春も半ば過ぎた頃、調理などで使った廃油をもらって木灰で石鹸を試作してみた。
やり方はそこまで難しくないから物はできたものの、
「この汁から臭うな。」
「やっぱりそうですよね。」
父上に見せたら開口一番そう言われた。そう、そもそも固形化に時間がかかりそうなので液体石鹸になる上、廃油だと臭いが残ってとてもじゃないが使いたくないものが出来てしまった。
「臭いをなんとかしろ。本当にムクロジと同じように使えるなら便利だ。」
というわけで海藻灰と植物油の未使用品を使って、絞り出すことができるようになったペパーミントの油を混ぜて作ってみた。
やや軟らかいものの固形になり、匂いもいい感じに出来た。
「ふむ。これなら使ってもいいか。」
ということで父上が家臣を使って試した。
凄い汚れの落ち方だったそうで、体を洗っている最中から家臣が大騒ぎして大変だった。洗った顔が白くなったために事情を知らない人間が別人かと疑ったほどだった。
決してペパーミントの清涼感でスースーしたのに驚いたからだけではない。
父上もその後使って悲鳴をあげたが、決してそのためにペパーミントを多めに入れたわけではない。にやり。
とはいえ、海藻を輸入しないと同じものは作れない。油については流石元油売りの家、油座との繋がりもあって領内で増産を進めていたので初期生産予定分はなんとかなるのが救いか。
海藻はせっかくなので織田信秀経由で買うことを提案した。津島なら海藻も大量に運べるし。
「何故弾正忠の家に頼む?祝賀を贈り合った守護の武衛様(斯波)ではダメなのか?」
「津島を差配しているのは先日家督を継いだ信秀殿ですし、武士なのに儲け話にも食いつきそうな人ではないですか。」
あくまでイメージだけれど、織田氏って金銭の力で強くなった感じがある。ならば金儲けの種になるならばやってくれるはずだ。
それにこれを通じて仲良くなれば、史実より早く帰蝶と信長が婚約して国譲りが早く出来るかもしれないのだ。
「確かに、あれは利に聡い男だ。いいだろう。武衛様に連絡した上で弾正忠家と交渉しよう。油座に津島の商人を紹介してもらわねばならぬな。」
新しい金儲けの種に父上は上機嫌だ。あの後他の家臣にも試しと使わせたら半分くらいが悲鳴をあげていて、それを見て父上と腹を抱えて笑った。
叔父上は噂を聞いて覚悟ができていたらしく慌てなかった。父上と2人で残念がっていたら叔父上に頭を叩かれた。
「やはり親子だな。新九郎はまだ間に合うからこうはなるなよ。」
解せぬ。
逆に母の深芳野や小見の方は全く動じず、肌が白くなったと純粋に喜んでいた。母は強し。
「ぁー、うーー!おうぉー!!」
斎藤プリンセス帰蝶は泡を見て大層お喜びだったそうな。声が屋敷の外まで響いていた。体を洗い終わった後口に入れないように気を使ったと乳母が疲れた顔で報告してくれた。彼女は好奇心旺盛らしい。
そして例の3人にも体を定期的に洗わせることにした。みんな喜んでくれた。特に豊と幸は目を回していた。そして男の新七はやっぱり最初スースーする感覚に驚いていた。にやり。
後で売る値段を知ったら全員に土下座せんばかりに驚かれた。俺の周りにいる者を清潔にすることが病気に罹らないために必要だからだと言って納得させた。
石鹸製造は洪水で仕事を失った人を数家族雇って城内の一角で始めさせた。住み込みで働けると喜ばれている。残業代は出せないから労働時間は守って欲しい。
とりあえず父からはある程度の数を用意しろと言われている。自家用で使う分以外をどうやって売るかは油売りの息子の御手前に任せることにする。
ブナで材料の木炭を作る時、タールも木酢液も少量出ていたのにそのまま捨てていたので慌てて回収した。木酢液は薬草園に蒔いて、タールはとりあえず陶器に保存した。
木酢液が天然の農薬になることはあまり知られていないらしい。とりあえず管理を任された領内で使うようにさせないと。
後で蒸留器ができたら木クレオソートも作らねば。胃腸薬を作るならこれは欠かせない。
更に余ったタールは防腐剤になると材木卸をしていた乾三さん(63)が言っていた。有効利用しないと勿体無い。
稲葉山城の改築を父上がやると言っていたので、そこで使ってもらおうか。それともそのうち再建する常在寺や橿森神社に使ってもらうか。
女っ気のなさを猫虐待コピペと赤子で誤魔化していくかんじです。
主人公はネジ関連で何か逸話が残っているらしいことは理解していますが、それがどういった話かは知りません。
石鹸は医学チートやるならないと衛生的にどうしようもないものという感じですが、
正利・道三親子が油との関連が深いおかげで量産しやすい環境でもあります。
ペパーミントの栽培が付加価値になっていく方向です。




