傷と安心
「安心しないで。安心しきらないで。」
まともに話を聞いていなかった僕の耳にも入った言葉だった。
「へ?」我ながら情けない声が出た。きっと顔もアホ面を浮かべていたであろう。
「そうやって話聞いてないのもずっと分かっていたよ。でも最近君の事を安心しきっちゃってる馬鹿なんだなって、見下してしまってる。ごめんね、でももう変えられないよ。君が私に「安心」をしすぎてることって甘えだと思う。私がいつまでもこのまま君の側にいるなんて思ってる?その安心って恋人関係だけじゃなくて全ての人間関係において命取りだと思うなあ。いつまでも君が私にこのまま優しくされることなんてないよ、逆もしかりだけど、ね 」
何か言いたげな顔で君は黙ってしまった
少し経ってから沈黙を破ったのは彼女だった。
「男の子とどこかに二人で出かけるっていう事、君にも何回か話した事あるよね?アレ、君の気を引きたくてやっていたの。よくない事だって分かってた、でも君が私を見てくれるんじゃないか、待ってる間君が私の事を心配や嫉妬の感情を持ってくれるんじゃないかって考えてた。なんなら止めてくれないかな、なんてね。でも君は二つ返事で、「行ってらっしゃい楽しんでね。」だった。分かってたけどねやっぱりそういうのも私からした事だけど傷付いちゃって。だから浮気をしたら君は気付くんじゃないかって私は一人の男の子と寝たよ。その男の子の香りがついた体で帰ってきても君は気づきもしなかった。全部傷つくのは私だけだった。」
「君の傷つく顔を」
彼女は俯いて手と声は震えていて
「最後くらい見たかったな」
大きい涙を流して泣いていた
ああ、ごめんね。
僕は君の傷付く顔が、そんなところが好きだった。
「ごめんね」
僕がそう言うと
「惚れたのは私の方だから最後まで嫌いになれなかったな、せめて嫌いになれたら楽だったのに」
そういって君はまた傷ついた顔をして無理して笑っていた。