憎しみの
急にネタが思い浮かびました。季節外れにもほどがあるwww
此処は貴族の世界。
男はどれだけ高位に成り上がれるか、そして女はどれだけ高位な男と結婚できるかが人生を分かつ。
だからここで逆に恋愛結婚などの方が珍しい。
この世界で生まれたわたくし、アマリア・ウィリアーズも例外ではなかった。
生まれてすぐ両親がこぎつけた婚約はこの国の王の御子息。言い換えれば次期王との婚約だった。
次期王―――わたくしの婚約者の名前はディビット・スタンリー。
どうして結べたかはわたくし自身も知らない。生まれてすぐに決められたものでそして生まれてすぐ教育の為スタンリー家に引き取られた。
それから十数年経って、今年ディビット様と結婚の予定だったのだが。
スタンリー家のわたくしの部屋。
そろそろ寝付こうかと手鏡を持って髪を梳いている最中、ノックもなしに何者かによって扉が開けられた。
そんなことが出来るのは一人しかいない。下品にならなようにゆったりとしな動きで扉を開けた人物を見た。
―――あら。
少しの驚き。
わたくしの婚約者だろうと思っていたのだが、半分外れた。なんとディビット様の隣には凛とした少女が居たからである。
それはまぁ、美しいと評判のディビット様の隣でも引けを取らない美少女だ。
「お前は今日限りでこの家を出て行ってもらう」
ディビット様の御発言はいつも突拍子のないもので慣れたつもりでいたのだが、わたくしはまだまだだったらしい。
家を出ていく?
ということは婚約破棄ということか?
でも、どうして。なぜ。
「ディビット様。ご説明いただいてもよろしいでしょうか?」
こんなに混乱しているのは初めてなのに、声が震えないのは今までの教育のおかげであろうか。
「アマリア・スタンリー。お前との婚約を無かったことにする」
体が強張る。
これを宣言するために、あの子を連れてきたということはそういうことだろう。
名前は確かエマだった気がする。たまたま此処の家にわたくしのドレスを、仕立て屋の親に代わって届けに来たのだったかしら。
エマ様と目があった瞬間「あぁ、ディビット様の好みだわ」と思ったのだが、ここまで面倒なことになるとは思わなかった。
「ということはディビット様のエマ様と新しく婚約を?」
エマ様の腰をディビット様が無言で抱き寄せる。
肯定ということか。
わたくしは気づかれないようにため息をつき、ディビット様とまんざらでもなさそうなエマ様に諭すように説明する。
「それは無理ですわ。そもそもエマ様は失礼ながら庶民でございます、そんな方と次期王であるディビット様がわたくしとの婚約を破棄して新しい婚約などとは…」
どこぞの恋愛小説か。
わたくし読んだことはなかったがよくメイドやご令嬢の方々が
「身分差の恋愛」
などと話している。
現実ではそんなことあり得ないからみなが揃って夢を見ているのだ。
わたくしは黙っているディビット様の方を静かに見つめた。
「ディビット…?」
エマ様がいつまでたっても口を開かない自分の恋人に声をかける。
呼び捨てを許可されているのね。
そのことに何も感じない。わたくしはディビット様に対し、ほかの女性に嫉妬を抱くような感情は持っていない。
「その手鏡、確か…」
「ディビット様? どうかされ…」
急に近づいてきたディビット様は、わたくしの鏡台の上にあった手鏡を手に取った。
変な警告が頭の中に響く。奪い返したかったが、ディビット様の意志をわたくしが曲げることはできない。そういう教育を受けてきた。
「この手鏡は兄上が贈ったものであったな? 俺が贈ったものはどうした?」
「だ、大事にとっております!」
まずいと思った。
ディビット様は自分より他人が優先されることを嫌う。自分がずっと一番でありたいのだ。
そんな性格でありながら自分の婚約者、いわば自分のモノが他人を優先していたとしたら?
もちろん―――
「嘘をつくな。最低だな、俺という婚約者が居ながら」
「待って、やめてください…っ!」
本当に、それだけは。
いくら願っても生まれたときから叩き込まれてきた教育で、ディビット様の腕を掴むことが怖い。
只、見ていることしか出来なかった。
わたくしの宝物を壊されるまで。
あれはあのお方が、わたくしの為だけにプレゼントと言ってくれたものなのに。
それさえあれば、あの方はわたくし自身を見てくれていると、何でも我慢できたのに。
どうしたあなたはいつもいつもわたくしから
「―――わたくしから全てを奪うのですか」
地を這うような低い声が出た。
ディビット様の後ろにいたエマ様が怯えたように一歩後ずさった。しかし、わたくしが問うた本人はどうしてわたくしの質問の意味を分かっていないらしい。
「奪う? お前が馬鹿な事をするから俺は然るべきことを―――」
「―――ふざけないでください!!」
ディビット様が初めて怯んだ。
それもそうだろう。わたくし自身もこんんあ大きな声が出るのかと驚いている。
「貴方は覚えていないのですか? 今までわたくしに吐いた暴言の数々。面白味がない、勉学の一つも出来ないなど許嫁失格。あぁそうだ、ずっと世話していた動物が亡くなった時には涙一つ見せないなど最低だなどと言われたことも」
頭は冷静なのに口は勝手に動く。言ってはいけないと分かっているけれど、宝物が壊された挙句今までやってきたことが彼には馬鹿なことに見えていたのが悔しい。
ふざけるな、わたくしはあなたたちスタンリー家の盛大な我儘に付き合わされてるだけだ。
「暴言だけならばわたくしも我慢できました。ですが、全ては貴方命じたことを守っていただけなのに馬鹿な事と言われるとは」
「っ!」
ディビット様の顔から血の気が引いた。
思い出したのだろうか。今更遅いけれど。
「幼いころ貴方の前で笑うと、俺の前で笑うなと。文字を覚えようとするとお前には必要ないと、俺の前で涙を見せるなと申したのは貴方でしょう?」
久しぶりに笑顔を作る。うまく笑えているだろうか、笑顔の練習はしてこなかったからとても不安だ。
私は幼いころ、ディビット様の前で泣いて泣くなと言われてから一度も泣いていない。それに、勉強も7歳くらいまでの知識しかなく簡単な文字の読み書きがやっとだ。本は絵本しか読めない。
「貴方はエマ様に自分の後ろに引っ付いているわたくしではなく、前で引っ張ってくれる君が良い。と仰ったようですね」
ディビット様は反応しなかったが、エマ様が息をのんだ。社交界の情報網をなめてもらっては困る。
この方は素直な方で、すぐに感情が顔に出るからと男性の方から人気がある。
小さいころから慣れてきたわたくしでも時々つらくなる教育はエマ様には辛いだろう。だが同情する気にはもちろん慣れない。
「これも貴方のご命令です。俺の前を歩くな、後ろを歩けと」
「その頃の俺は両親に会えなくてっ!」
わたくしの言葉を遮るようにディビット様は声を荒げた。
あぁ確かに彼は親に会えないと嘆いていた。
「会えなくてと言っても夕食時には三人で話していらしたでしょう…? それに親に会えない苛立ちはわたくしで発散しておりました…! わたくしは親の顔すら知りませんし一度も家に帰ったことがございません!」
「だが、母と父は本当の子供のようにお前に」
「それを許さなかったのは貴方でしょう!? 貴方はわたくしの全てを奪って行く! どうしてですか…っ!わたくしはこの手鏡さえあれば良かったのに…それで我慢できたのに…」
ぽろぽろぽろぽろ
面白いほどに涙が頬を伝っていく。ここまで泣いたのは赤ちゃんの頃以来だ。
いつもならわたくしを馬鹿にするディビット様も黙っている。この状況をどうする気だ。
すると意外や意外。口を開いたのはエマ様だった。
「でも…それでも…アマリア様はディビット様に対して愛情は湧きませんでしたか? いくら命令されても彼は優しい人です! きっとアマリア様に優しく―――」
「愛? そんなもの少しも生まれてません。せいぜい生まれたのは憎しみだけです」
そう、憎しみだけ。わたくしがこの家に来て学んだものは憎しみ、恨み、嫉妬。明るいものなんて一つもない。
でも、あの方は
「―――何を騒いでいるのです?」
そう言ってわたくしの部屋に入ってきたのは此処に居る筈もない、あの方―――ルーク・スタンリー様だった。
何話で終わらすとか決めてませんがさくっと終わらせるつもりですwww
読んでいただきありがとうございました!