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現世から来た探偵の子  作者: フェア
6/9

第3話:作られた疑惑

 誰かが泣く声が聞こえる。


 どうして泣いているんだ?

 誰……?



――――――――




 気が付くと俺は暗闇の中にいた。



 その暗闇は夜とか地下とかそんな暗さじゃなくて、

もっと暗くて深くて遠い、不思議なくらい落ち着ける場所。




??「こんにちは……いや、こんばんはかな? 」



 声のするほうには、

特別に浮き出た黒紫色の靄が見える。



俺「……誰? 」


??「僕は44(しし)、"先導者"だ。」



俺「……で、なんのようなんだ? 」


44「なんのようって、

   今の君が置かれている状況を把握してないのかい? 」


俺「今の……状況? 」



 ふと、脳裏に蘇る。



俺「女の子の前で、体が痺れて倒れた。」



44「そうそう、それだよ。

   魔法を使えない君は、雷の魔法を体にくらって、

   魔力障害(※)が発症しているんだ。」


俺「……発症するとどうなるんだ? 」



44「ハハッ、死ぬよ。」



俺「はぁ!? 」


44「冗談だよ! じょ・う・だ・ん!(笑)

   "僕がそれで死なないようにしたから"。」


俺「何わけが分からないことを……。」



44「そうだ特別に、

   君に言いことを教えてあげる。


   君は"強い魔法が使えない体"になったよ。


   それと……あ、そろそろ時間だね。

   もう一つは、今度会った時に教えるよ。」


俺「え! おい、まだ話は終わっt……ッ!」



 暗かったこの場所が徐々に晴れていき、

発した声音が聞こえなくなり、

黒紫色の靄の"44"は光に包まれ消えていった。



――――――――



 目を覚ますと、俺はベッドで寝ていた。

 窓の外には夕日、

日を越して今の時間は5~6時くらいだろうか。


 体は健康的でなんともなく、

魔法の影響もほとんど受けていないようだ。



 ベッドから体を起こし、部屋を出ようとすると、


「××××!! 」

「××! 」

「××××××!! 」


 廊下の方から大声が聞こえてくる。



 耳を傾け、外の声を聞いてみると、


??(男)「だから言ったのだ!

     堕とし子とかいう無法者を、

     この村に居させるのは危険だとな!! 」


エリー「違うの! わたしが間違えただけなの!! 」


??(婆)「いいえ、あなたは被害者なのです!

     村長の娘であるあなたが、

     どこぞの馬の骨に純潔を汚されたのですよ! 」


??(爺)「もしかすると"白楼(びゃくろう)族(※)"の追放者やもしれん、

     一刻も早く吊るさねばならん! 」


??(女)「これだから白楼族は野蛮なのよ!

     村長も娘が大切ならば、今すぐ吊るすべきです。」



 このようなやり取りが延々と続いていた。

どうやら、この村では"堕とし子"の話を信じる人が少ないらしい。


 まぁ現実で、目の前に合戦時代を生きてきた武者が出てきて、

"信じろ"と言われても、俺だったら"信じない"な。



 さて、どうしたものか……。


 本格的に行く当てもないし、このまま吊るされれば命はない。

奴隷としての生かされる線も充分にありえる話だが……。


 いずれにせよ、今の俺にはどうしようもない事だ。




村長「2週間、この村で面倒を見てからだ。

   彼の行いを見て、

   それから今後のことを考え決めよう。」


??(爺)「もしものことがあったらどうするんじゃ!! 」

??(女)「犯罪者を2週間も自由にするの!? 」

??(男)「俺の娘に手を出すかもしれない! 」

??(婆)「これ以上被害者を増やす気か!? 」



村長「その時は、ワシが責任を取る。」




 集まった人達は突然静かになり、

舌打ちやボヤを溢しながらドカドカと帰っていく。



――――――――



 数分して、村長が部屋に入ってきて、


村長「起きていたか……。

   すまない、ワシの責任だ。」


と言い、村長が頭を下げる。

俺は村長には犯人として見られていないようだ。



俺「謝らなくてもいいです。

  悪いのは誰でもありません。

  それより、俺はこれからどうしたらいい? 」


村長「……2週間の間、

   非を避け、吉として生きて欲しい。

   出来なければ、裁くことになる。」


俺「簡単そうじゃないですか。

  つまり、一人で暮らして、みんなと協力して生きれば……。」


村長「そうだ、お前はまだ魔法が使えない。

   それにお前のいた世界とは違い、魔法(ぶんか)がある。」


俺「共生は難しい……と。」


村長「それに、一人暮らしをしたところで金も食料も家もない。

   行く当てもないのだから、

   ここに来た時と同様に、こっちで面倒を見させてもらう。」


俺「……また、よろしくお願いします。」



 俺が頭を下げた時、

ドアの向こうにエリーさんの姿が見えた気がした。



――――――――



 またも夜の時間が訪れる。


 今無理に動けば再び魔力障害が再発するらしく、

この日はベッドの上から動いてはいけないそうだ。



 ベッド近くのテーブルにはお見舞い様の果物がある。


 リンゴやバナナの様な見た目をしているが、

夕方に集まった人達の声が頭から離れないからか、

今はあまり食べる気にはなれない。



「ガチャ…… 」


 ドアの開く音、視線を果物からドアに向ける。


 そこにはエリーさんが居て、部屋の中に入り、

近づいてきて静かに言った。



エリー「……ごめんなさい。

    私が変な誤解をしなければ……。」


 普段の俺ならここで「全くだ。」と言い、今後のことを問い詰めていただろうが、

女の子の裸体を拝めたから何も言うことはない。


 気に掛けてくれている事だし、エリーさんの名誉の為にも、

風呂の事を知らないフリして感謝しよう。



俺「何があったのかよく分からないけど、

  心配してくれてありがとう。」


と言うと、

ごめんなさい、ごめんなさい、と彼女は泣きながらに繰り返した。




 しばらくして泣き止み、

落ち着いたところで今日集まってきた人達について聞いてみる。


俺「今日来た人達って村人……? 」


エリー「……村人だけど、

    この村の役員でもあるの。」



 確かに役員ならすぐにあの事を知って、あの発言が出来るわけだ。


 しかし、妙にトゲのある物言いだったな。



 まるで都合の悪い者を追い出したいかの様な……深読みのし過ぎだろうか。



エリー「……実は、不確かなことだけど、

    あの人達は私達をこの村から追い出す気なの。」


俺「……え? どうして? ……ッ。」



 危なかった。

"純潔"うんぬんの話を出して、

知ってる事をバラすところだった。



エリー「それは、村のお金を自分達の利益にして、

    自分達の罪を村長に被せて、

    村長を村から追放するつもりなのよ。」


俺「どこでそれ知ったの? 」



エリー「数日前の夜に、

    一人の役員の家で秘密裏の役員会議があって、

    それで、その時に外から聞いたの。」


俺「その役員会議があるのを知ったのはいつ? 」



エリー「秘書が用事でいない時に、

    私が秘書の代わりになって書類整理をしてたら、

    『夜 "ボルス家" 会議 』って書いてある手紙を見つけたの。


    それで次期会議予定を調べたら予定は何もなくて、

    怪しくなったから……聞きにいってみたの。」



 14歳にしては度胸がある。

だが、証言だけで証拠はないのかもしれないな。



 データなんてあるわけがないし、

書類の複製も録音も出来ない……。


 証拠が残せないこの世界だからこそ、やりたい放題なのかもな。




……いや、方法はある。



俺「俺が自由なのは、あと2週間だよね? 」


エリー「……うん。」



俺「なら、俺が必ず証拠を掴んで見せるよ! 」




 この世界に来てやっと、自信を持つ事が出来た。


 俺に対してエリーさんは困惑した表情を見せているが、

例え魔法が使えなくても、元の世界から来た俺に出来る"事"がある。




 それは、誰もが知っている"トリック"だ。

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