第3話:作られた疑惑
誰かが泣く声が聞こえる。
どうして泣いているんだ?
誰……?
――――――――
気が付くと俺は暗闇の中にいた。
その暗闇は夜とか地下とかそんな暗さじゃなくて、
もっと暗くて深くて遠い、不思議なくらい落ち着ける場所。
??「こんにちは……いや、こんばんはかな? 」
声のするほうには、
特別に浮き出た黒紫色の靄が見える。
俺「……誰? 」
??「僕は44(しし)、"先導者"だ。」
俺「……で、なんのようなんだ? 」
44「なんのようって、
今の君が置かれている状況を把握してないのかい? 」
俺「今の……状況? 」
ふと、脳裏に蘇る。
俺「女の子の前で、体が痺れて倒れた。」
44「そうそう、それだよ。
魔法を使えない君は、雷の魔法を体にくらって、
魔力障害(※)が発症しているんだ。」
俺「……発症するとどうなるんだ? 」
44「ハハッ、死ぬよ。」
俺「はぁ!? 」
44「冗談だよ! じょ・う・だ・ん!(笑)
"僕がそれで死なないようにしたから"。」
俺「何わけが分からないことを……。」
44「そうだ特別に、
君に言いことを教えてあげる。
君は"強い魔法が使えない体"になったよ。
それと……あ、そろそろ時間だね。
もう一つは、今度会った時に教えるよ。」
俺「え! おい、まだ話は終わっt……ッ!」
暗かったこの場所が徐々に晴れていき、
発した声音が聞こえなくなり、
黒紫色の靄の"44"は光に包まれ消えていった。
――――――――
目を覚ますと、俺はベッドで寝ていた。
窓の外には夕日、
日を越して今の時間は5~6時くらいだろうか。
体は健康的でなんともなく、
魔法の影響もほとんど受けていないようだ。
ベッドから体を起こし、部屋を出ようとすると、
「××××!! 」
「××! 」
「××××××!! 」
廊下の方から大声が聞こえてくる。
耳を傾け、外の声を聞いてみると、
??(男)「だから言ったのだ!
堕とし子とかいう無法者を、
この村に居させるのは危険だとな!! 」
エリー「違うの! わたしが間違えただけなの!! 」
??(婆)「いいえ、あなたは被害者なのです!
村長の娘であるあなたが、
どこぞの馬の骨に純潔を汚されたのですよ! 」
??(爺)「もしかすると"白楼族(※)"の追放者やもしれん、
一刻も早く吊るさねばならん! 」
??(女)「これだから白楼族は野蛮なのよ!
村長も娘が大切ならば、今すぐ吊るすべきです。」
このようなやり取りが延々と続いていた。
どうやら、この村では"堕とし子"の話を信じる人が少ないらしい。
まぁ現実で、目の前に合戦時代を生きてきた武者が出てきて、
"信じろ"と言われても、俺だったら"信じない"な。
さて、どうしたものか……。
本格的に行く当てもないし、このまま吊るされれば命はない。
奴隷としての生かされる線も充分にありえる話だが……。
いずれにせよ、今の俺にはどうしようもない事だ。
村長「2週間、この村で面倒を見てからだ。
彼の行いを見て、
それから今後のことを考え決めよう。」
??(爺)「もしものことがあったらどうするんじゃ!! 」
??(女)「犯罪者を2週間も自由にするの!? 」
??(男)「俺の娘に手を出すかもしれない! 」
??(婆)「これ以上被害者を増やす気か!? 」
村長「その時は、ワシが責任を取る。」
集まった人達は突然静かになり、
舌打ちやボヤを溢しながらドカドカと帰っていく。
――――――――
数分して、村長が部屋に入ってきて、
村長「起きていたか……。
すまない、ワシの責任だ。」
と言い、村長が頭を下げる。
俺は村長には犯人として見られていないようだ。
俺「謝らなくてもいいです。
悪いのは誰でもありません。
それより、俺はこれからどうしたらいい? 」
村長「……2週間の間、
非を避け、吉として生きて欲しい。
出来なければ、裁くことになる。」
俺「簡単そうじゃないですか。
つまり、一人で暮らして、みんなと協力して生きれば……。」
村長「そうだ、お前はまだ魔法が使えない。
それにお前のいた世界とは違い、魔法がある。」
俺「共生は難しい……と。」
村長「それに、一人暮らしをしたところで金も食料も家もない。
行く当てもないのだから、
ここに来た時と同様に、こっちで面倒を見させてもらう。」
俺「……また、よろしくお願いします。」
俺が頭を下げた時、
ドアの向こうにエリーさんの姿が見えた気がした。
――――――――
またも夜の時間が訪れる。
今無理に動けば再び魔力障害が再発するらしく、
この日はベッドの上から動いてはいけないそうだ。
ベッド近くのテーブルにはお見舞い様の果物がある。
リンゴやバナナの様な見た目をしているが、
夕方に集まった人達の声が頭から離れないからか、
今はあまり食べる気にはなれない。
「ガチャ…… 」
ドアの開く音、視線を果物からドアに向ける。
そこにはエリーさんが居て、部屋の中に入り、
近づいてきて静かに言った。
エリー「……ごめんなさい。
私が変な誤解をしなければ……。」
普段の俺ならここで「全くだ。」と言い、今後のことを問い詰めていただろうが、
女の子の裸体を拝めたから何も言うことはない。
気に掛けてくれている事だし、エリーさんの名誉の為にも、
風呂の事を知らないフリして感謝しよう。
俺「何があったのかよく分からないけど、
心配してくれてありがとう。」
と言うと、
ごめんなさい、ごめんなさい、と彼女は泣きながらに繰り返した。
しばらくして泣き止み、
落ち着いたところで今日集まってきた人達について聞いてみる。
俺「今日来た人達って村人……? 」
エリー「……村人だけど、
この村の役員でもあるの。」
確かに役員ならすぐにあの事を知って、あの発言が出来るわけだ。
しかし、妙にトゲのある物言いだったな。
まるで都合の悪い者を追い出したいかの様な……深読みのし過ぎだろうか。
エリー「……実は、不確かなことだけど、
あの人達は私達をこの村から追い出す気なの。」
俺「……え? どうして? ……ッ。」
危なかった。
"純潔"うんぬんの話を出して、
知ってる事をバラすところだった。
エリー「それは、村のお金を自分達の利益にして、
自分達の罪を村長に被せて、
村長を村から追放するつもりなのよ。」
俺「どこでそれ知ったの? 」
エリー「数日前の夜に、
一人の役員の家で秘密裏の役員会議があって、
それで、その時に外から聞いたの。」
俺「その役員会議があるのを知ったのはいつ? 」
エリー「秘書が用事でいない時に、
私が秘書の代わりになって書類整理をしてたら、
『夜 "ボルス家" 会議 』って書いてある手紙を見つけたの。
それで次期会議予定を調べたら予定は何もなくて、
怪しくなったから……聞きにいってみたの。」
14歳にしては度胸がある。
だが、証言だけで証拠はないのかもしれないな。
データなんてあるわけがないし、
書類の複製も録音も出来ない……。
証拠が残せないこの世界だからこそ、やりたい放題なのかもな。
……いや、方法はある。
俺「俺が自由なのは、あと2週間だよね? 」
エリー「……うん。」
俺「なら、俺が必ず証拠を掴んで見せるよ! 」
この世界に来てやっと、自信を持つ事が出来た。
俺に対してエリーさんは困惑した表情を見せているが、
例え魔法が使えなくても、元の世界から来た俺に出来る"事"がある。
それは、誰もが知っている"トリック"だ。