第2話:アクシデント
俺は村長家の家族になった。
元いた世界に変える手段が分からないし、
分かったとしても戻らないだろう。
家族の一員となった今、
この世界での生活に慣れていく必要がある。
時間はかかるかもしれないけど、
もう、何も問題はない。
今の俺には家族がいるからだ。
――――――――
早朝、窓から日の光が差し掛かり、
お喋りな小鳥の声で眼を覚ます。
こんなに気持ちのいい目覚めは初めてだ。
頭の中にあった霧が、綺麗に晴れた気がする。
こんな事もあるんだな……。
ベッドから体を起こし、
枕元には小道具の入った箱と、
村の民族着が用意されていた。
民族着は全体が黒い生地で、
袖などに白色のギザギザの波模様があり、
こぎん刺しの様な刺しゅうが沢山入っている。
全体を見れば甚平に似た見た目だ。
早速着てみると、
とても動きやすく着心地は良かった。
サイズもぴったりだった。
部屋を出るとそこには、
1階2階が繋がっている広々とした空間があった。
今俺がいる場所は2階の端で、
右側には村長の部屋とエリーさんの部屋と下に下りる階段がある。
左側は壁で手前には手すりがあり、
そこからは1階が見える。
床から天井までは、三階建て分の高さがあり、
外観で3階建てだと勘違いしたのに納得した。
階段を下りて1階のリビングに着く。
大きなソファーがL字に並んでいて、
外の景色を眺めれる様な形になっている。
本棚や観葉植物なんかもありオシャレな雰囲気だ。
階段の反対側には洗面室と浴室とトイレ、
玄関から前にはキッチンや客間があった。
洗面所で顔を洗い、
自前の歯ブラシで歯を磨いている時に、
浴室からお湯を被るような音が聞こえた。
誰か入っているのだろうか、
いや、もしかしたらエリーさん……覗ける!
と思ったが、家族になって初日で、
女の子の裸を覗くのは人として終わる気がする。
「煩悩退散」と自分に呼びかけ、
その場を離れリビングに向かう。
そして洗面所を後にする前に一瞬だけ下着が見えたが、
何も言わず、その記憶を心の内に閉まって置く事にした。
あれから30分程経過し、時刻は7時頃、
洗面所の方からエリーさんが歩いてきた。
エリーさんは俺と目が合うと目を背ける。
人見知りが激しいのだろうか。
このまま何も話さないのは暇だし、
何か話題を振ってみようかな……?
俺「エリーさん、この村には学校とかはありますか? 」
エリー「え、あ、はいあります。」
俺「そこは何歳まで学べるの? 」
エリー「14歳までです。」
俺「学校は卒業してる? 」
エリー「はい。」
なるほど、聞きたいことは大体聞けた。
俺はすでに15歳だし、
こっちでは学校に入学や転校は出来ないのだろう……。
だが、言い方を変えれば俺も卒業してる年齢。
つまり、この世界では俺も成人なのか。
成人であるからには働く必要がある。
しかし、働き口を探すにしても、
どうやって探せば良いのか分からないし……。
とか考えていると、
エリー「あまり深く考えなくてもいいですよ。
慣れるまでは、
こっちについて学ぶ事に集中してください。」
俺「あ、ありがとう。」
うむ~、確かにまだ何も知らない。
そういえばリビングに本棚があったし、
本から情報を集めれば、ある程度は学べるかも知れん。
早速、本を手にし表紙を見てみる。
「◎ヾ^$Ро◇ゝ:за☆~」
駄目だ、こんな字が書いてあり読めない。
……さて、どうしたものか。
エリー「これは『0(ゼロ)の開発者(※)』というタイトルの本です。
よかったら読み聞かせますよ。」
と言いニッコリと微笑む。
俺はエリーに読み聞かせてもらうことにした。
――――――――
「ぐぅ~…… 」
気が付くと、お腹が減っていた。
時間は8時くらいだろうか、
……そういえば昨日、ここに来てから何も食べていない。
とか思っていると、
エリーさんがお腹の音に気付き、
慌ててキッチンの方へと向かい戻ってくる。
手にはカゴと料理を盛った皿、
カゴにはフランスパンみたいに長いパンがあり、
更にはスクランブルエッグとウィンナーが乗ってあった。
エリー「すみません、朝ごはんを忘れてました。
お祖父さんは朝遅いから、
いつも朝ごはんが遅くなるの。」
俺「俺も遅いときはありますし大丈夫ですよ。」
と、慌てながら話すエリーさんを落ち着かせるために気を使う。
――――――――
お腹が減っていたからか、
出されたご飯を残さず食べ尽くした。
現世の方とは味は変わらずとても美味しかった。
食後、満足感に浸りながらふと思う、
俺(この世界は本当に別世界なのか?)
あまりにも現実味がありすぎる、夢かとも疑ったがそうではない、
これは紛れも無く現実だ。
エリーさんは何も言わずに片付けをし、
戻ってきて本の続きを読み聞かせてくれた。
ーーーー【マコトサイド】ーーーー
なんやかんやで夜になり、
晩御飯も済ませて部屋に戻る。
そういえば、今日は村長を見なかったな、
どこで何をしているのだろうか……?
……それにしても、
今日は本を読み聞かせてもらっていただけだったな。
結局、エリーさんの横顔に見とれていただけで、
本の内容にはあまり集中はできなかったけど、
あの小説の話はなかなか面白かったな。
そうだ、確かエリーさん「風呂の準備が出来ました」って言ってたな。
昨日は風呂に入らずに眠ってしまったし、せっかくだから入りに行こうかな?
着替えを持ち部屋を出て、階段を下りて浴場に向かい、
洗面所の部屋に入るも、浴場からは音は聞こえない。
服入れのカゴにも下着とかは無い。
俺は服を脱いで裸になり、浴室のドアを開けて中に入る。
……よかった、誰もいない。
これがゲームや小説なら、誰かが中にいて叫び、
俺が確実に締め出されていたところだった。
風呂は和風で湯船にはお湯が入ってる。
俺は置いてある桶を使い、体を充分に流して湯につかる。
「気持ちいい……。」
やはり、風呂は必需品だ。
生活する上での唯一の安らぎの場と言えるのではないだろうか。
見も心も温まり、俺は満足感に浸りまどろんでいた。
ーーーー【エリーサイド】ーーーー
マコトくんは晩ごはんを残さずたべてくれたし、
もしかして、シチューがおいしかったのかな?
そういえば今日おじいちゃんは、村長会議だっけ……?
会議するだけなのに、いつも夜遅くまでかかるんだから……。
今日の読み聞かせの時は、
マコトくんが真剣に聞くものだから緊張したなぁ。
それにしても、
マコトくんの鎖骨がくっきりしていて魅力的だった。
これは明日も読み聞かせついでに見なくては損っ!
「風呂の準備が出来ました」って言ったけど、
話を聞いてなかったっぽいし、わたしが先でいいのかな?
食器の片付けもキッチンの掃除も終わったし、
あとはお風呂に入ってパジャマを着て寝るだけ……!
あ、着替えへやに置きっぱなしだ。
取りに行ってから、すぐに風呂場に行こう!
階段を上がって部屋に入り、
タンスを開くなり着る服について悩む。
どうしよう、男の人の前にはどういう服を着ていったらいいのかな?
パジャマ姿は見せたくないから論外だし、
かといって、夜にオシャレなのを着ていってもおかしいし、
どうしたらいいんだろう……。
――悩むこと数分。
やっと着る服が決まった!
気分が盛り上がってきて、
鼻歌を歌いながら浴室に向かう。
浴室からは音が聞こえないし、誰もいないよね?
わたしは服をぬいで浴室にむかう、
一瞬だけ鏡にうつった嬉しげな自分をみて、それからドアを開ける。
――――――――
…………。
しまった、俺は浴槽で寝てしまっていたらしい。
……意識が朦朧とする中、
体を起こし浴槽を出ようとした時、ドアが開く音が聞こえた。
そこには桃色の長髪に紅茶の様な茶色の瞳、
グラビアアイドルの様な整った体の、裸の女の子がそこにいた。
俺「へ? ……あれ? 」
エリー「キャー!! 」
突然叫んだエリーさんが手元に、
文字が書かれた丸い光る円盤の様なもの……言うなれば「魔方陣」を展開し、
俺の体全身が痺れて完全に意識が途絶えた。
もしかして……これが、魔法とか言うヤツなのか……?
ゼロの開発者:無属性に分類にされている謎の属性。
それを作った開発者は世界を支配しようとしたらしく、
何者かによって暗殺された。