第1話:知らない世界
「ガラガラガラガラ…… 」
耳を塞ぎたくなるほどの大きな音と、体を揺さぶる強い振動で目を覚ます。
目の前には白い布の様な生地の屋根、周りには袋包みや木箱が置いてある。
床には木の板が敷き詰められていて、この場所全体が揺れていた。
(どこだここは?
確か俺は、窓から落ちて気が付いたら木の上にいて、寝たら…… )
「ガコンッ! 」
俺「いってぇ!! 」
急にこの場所全体が大きく揺れ、
身体が宙に浮き盛大に尻餅をついて、その痛みに思わず大声を上げた。
すると布の外側から、
男「おぉボーズ! 目ぇ覚ましたんか~! 」
と活気のありそうな男の声が聞こえてきた。
俺「あ、えと、ここはどこですか? 」
男「あぁ? なんだ、お前さん馬車も知らねぇ~のかぁ? (笑)」
俺「え! これって、馬車……だったんですか!? 」
男「おうよ! 依頼の報酬金をコツコツ貯めて、
やっとの思いで買った俺の自慢の愛車だ! 」
初めて乗ったけど、凄く揺れるんだな。
あと、目で見なくても男のドヤ顔がなんとなく想像できた……気がした。
俺「あの、俺はどうしてここに? 」
男「お前さん、木の上で寝てたんだろ?
あのままあそこにいたら、"ウッドベア(※)"にケツから丸呑みされてたぞ! (笑)」
確かに木の上で寝てたが……、"ウッドベア"って何だ? "熊"なのか??
俺「ウッドベアって、なんですか?」
男「バッカでぇいw 熊の化けモンだぞ!
お前さんは熊も知らねぇで"外"をウロついてたのか?w 」
やっぱ熊か、ベアって言ったしな。
……そうだ、他に聞くべきことがあった。
俺「これからどこに向かうんですか? 」
男「ビギンス村(※)、この世界で最初に出来たって話がある村だ。」
ビギンス? 確か、『始まり』って意味がある英語? だったか……。
って、いやいやいやいや待て、ここは日本だろ!
そんなおかしな村の名前なんてさすがにある訳ないだろ!
俺「あの、おかしな事を聞きますけど、いま何年ですか? 」
男「……オーロ記204年だが、どうかしたか? 」
俺「あぁいえ、気になっただけです。アハハ 」
どうしよう、ますます訳が分からなくなった。
オーロ記ってなんだよ! 平成とかじゃないのかよ! 本当にどこなんだここは!!
男「お前さん、面白いヤツだなぁ……気に入った!
おらぁ変わったヤツがでぇ好きなんだw 良かったら名前聞かせてくれ! 」
俺「……え? 」
この状況はさすがにマズい、日本語が通じるだけでも救われているのに、
ビギンス村とかオーロ記とか意味わかんねぇのに、どう答えればいいんだ……!?
男「なんだ? 名前も言えねぇのか? 」
さっきまでの行動で不信感が高まっているのかもしれない……。
早く答えなければ……ッ!
男「あ~、自己紹介を忘れてたなw
俺の名前はゴードン、よろしくな! 」
もう駄目だ、下手に嘘をついてもバレるかも知れない……、
いや、逆に考えれば、普通に名乗った方がいけるんじゃないか!?
俺「俺は、高城 真、マコトって呼んでくれ。」
ゴードン「その……名前はッ! お前さん、もしかして!! 」
急に馬車が止まり、布の外側から男が顔を出してきて俺をマジマジと眺めだした。
その顔は傷だらけで、普通の人から見たら外国人マフィアの様な恐い顔だ。
俺「ひぃぃ! なんかすみませんッ!! 俺はただの軟弱な一般ピーポーでs……ッ!」
ゴードン「500年前に、この世界を救った
あの伝説の"堕とし子達(※)"と似た名前だ!! 」
俺「…………へ? 」
ゴードン「そうだ! よく見れば服装だって、この世界の物じゃないもんなぁ!!
いや~ホント、この目で"堕とし子"を見たのは初めてだ!! 」
伝説? 堕とし子? 相変わらず訳が分からないが、
何やらこの世界で、過去に誰かが有名になったようだ。
ゴードン「おっと、つい興奮してしまった。」
といい再び馬車を走らせる。
あの会話の後から、ゴードンが独り言をブツブツと言いながら考え事をしている。
変に緊張しなくて良い分、余計に気まずさが沸いてきた。
ゴードン「そうか~堕とし子か~……どうりで何も知らない訳だ。」
「まさか……、500年前のを……。」「どうすれば……。」
――――――――――
しばらくして、馬車が止まり、
ゴードンと誰かの話し声が聞こえる。
男「ゴードンさん、一人で来るのはいいけど、
護衛の一人や二人くらいは雇ったほうがいいんじゃないか~?
村の冒険者が暇してるんですよ~。良かったら次、どうです? 」
ゴードン「まぁたその話か、こちとら金に余裕がねぇんだ。
次からは、もっと稼げる村にしてから言ってくれ。
ほら急いでんだ、さっさと門を開けろ。」
男「へいへい……。」
その後、ギギギと門が開くような音が聞こえ、また馬車が動き出す。
馬車から顔を覗かせて見ると、
周りにはログハウスに似た家が立ち並んでいて、凄くおしゃれな雰囲気だ。
そういえばさっきの会話……、
この村で何があったのか、ゴードンに話を聞いてみよう。
俺「この村で今、なにが起きているんですか? 」
ゴードン「あ? ……あぁ、なんて言えばいいんだろうなぁ。
ここの村の役人共が金にがめつい連中ばっかりでな、
村の金を裏で抜き取って、自分達の利益にしてるって噂だ。」
俺「噂ですか、役人達を止める事は……?」
ゴードン「簡単に言うけれどよ、
何か訴えたところで、バカにされて帰されるだけだ。」
俺「じゃあ村人達と協力して、証拠を見つけ出せば……。」
ゴードン「"証拠を物理的に残すことは出来ない。"
それに、その役人共が全ての責任を村長に押し付けて、
村人達を騙してやがる! もう何を言っても無駄なんだ。」
俺「……そうですか。」
……その村長の立場が、ここに来る前の自分と似ている気がした。
↓この村の役人達にとって、責任を擦り付けれる存在が"村長"だった。
↑先生や学生達にとって、責任を擦り付けれる存在が"探偵の子"だった。
ゴードン「暗い話はもうやめよう。考えたって無駄なんだ。」
「それより、お前さん……いや、"マコト"だったか、
帰る場所も住む場所も無いだろ? 」
俺「……はい、多分。」
ゴードン「おらも人を雇える金がねぇし、
わりぃけど村長に頼んで、この村に置いていくことにするわ。」
俺「え! あの話の後に言いますかそれ!? 」
ゴードン「大丈夫大丈夫! 村長はいい人だし、
堕とし子の話をすれば確実に居候させてくれるだろ。
それに村長のとこに居れば、
多少なりともこの世界のことを学べるだろうよ。」
俺「た、確かに悪い話ではないですけど、
村長にとって迷惑じゃ?」
ゴードン「だが、他に行く宛てはないだろ? 」
俺「は、はい。」
ゴードン「任せろよ。言いように話しつけてくるからよ。」
そしてタイミング良く村長の家に到着し、
ゴードンは「馬車の中で待ってろ。」と言い、家の中に入っていった。
待ち時間が暇で、何となく村長の家を眺めた。
三階建てのログ建築で、縁の下は鼠返しになっている。
家の前のプランターには、綺麗な黄色い花があり、
入り口にはランタンの様なものが入り口に掛けてあった。
裏側には暖炉の煙突部分が見える洋風仕様。
これはなかなか……というか凄く良い家だ。
ここに住めると思うと、なんだか浮き浮きしてきた。
そもそも、三階建てのログハウスって存在するのか……?
ゴードンが行ってから10分が経過した頃、
ようやく中から戻ってきて、グッドサインを見せ軽く微笑んでいた。
ゴードンが近寄ってきて、俺を馬車から降ろし、
ゴードン「短いようで長かったな。
たまに会いに来るから、それまで元気にやってろよ! 」
と別れの言葉を告げ、
俺「あ、ありがとう! ゴードンさん! 」
俺はすかさず礼を言ってゴードンを見送った。
村長の家の入り口には、村長らしき人が立っていて、
俺は村長の近くまで歩いていった。
村長「君が堕とし子のマコト君かね? 」
俺「はい。」
と答えると、村長はやさしく微笑み、家に迎え入れてくれた。
村長「ようこそ、我が家へ。」
ウッドベア:茶色い毛色の熊の魔物。体長2~3m 体重300キロ。
二足歩行が可能、主食はハチミツ、好物は肉。
ビギンス村:森林の中にある最古の村。
ログ建築の家が特徴で、村民は大人しい人が多い。
多人種と共存しているが、今後の雲行きが怪しい。
伝統ある祭り【面々頭】がある。
堕とし子達:終焉から世界を救った伝説の存在。
童謡や昔話があり、一般人の間で親しまれている。
真夏の満月の夜に、国総出で祭る事もあるとか。