プロローグ
小学校の頃から探偵である父から
「困っている人の助けとなれ」「悪事を見逃すな」と厳しく教えられてきた。
そこから全てが始まり、
小学生だった時にはカンニングや破廉恥行為などを先生に報告し、
中学生の時にはイジメや省き行為を徹底的に無くす為先生に報告してきた。
そんなことを続けてきたからか友達が減っていき、
チクリ魔などのレッテルを貼られるようになっていった。
高校生になってからというものの、
レッテルの影響なのか誰一人近寄らない孤独な毎日。
それから3ヶ月ほど経ったある日、
不良達がイジメをしているという噂を小耳に挟んだ。
"困っている人を助けなければならない"
という正義感と使命感がすでに俺を動かしていた。
イジメ常習犯の不良達の悪事を暴く為、
数年前にこの世を去った父が残していった遺物の小道具を使う事にした。
今は放課後、不良が悪事を働くとしたら大体、
屋上か校舎裏もしくは学校近くの廃ビルが殆どだろう。
その不良は2年3組の足立と尾田と田沼の三人で、
イジメの内容はパシリや暴行だそうだ。
不良達の動向を掴むには一度、2年3組の教室に行くしかないだろう。
長い廊下を歩いて階段を上がる時、
窓から見える夕日が今までに無いくらい綺麗だった。
汚く濁った空気の影響で赤く見えてるはずなのに、
その光りは俺の目を通して心に何かを伝えたような気がした。
目から涙が落ちるのは何故……?
普段気が付かなかったものが目に止まるのは……?
俺はハッと我に返り、
上りかけの階段を駆け上がった。目的を忘れてはならない。
2年3組の教室に着き中をそっと覗く、
そこには不良達だけが残っていて、その三人が一人を囲む様に座っている。
不良達は笑い話をしているようで、真ん中の人は何かを誤魔化す様に笑っていた。
10分ほど経過し先生が来て「あまり遅くまで残るなよ」と注意し、
開いたままのドアをそのままにして教室を後にした。
足立「チッ、しゃーねーいつものとこ行くぞ。」
田沼「だな。」
尾田「オレちょっとコンビニ行ってくるわ~。」
足立「早く来いよ。」
尾田は教室から出て、そのまま俺に背を向けて反対側の階段に向かっていった。
??「あの……僕も帰っt 」
足立「あ? おめ~も来んだよ。」
田沼「城戸、てめ~分かってんだろ? (笑)」
どうやらあの人は城戸と言うらしい。
あの会話の後、田沼が城戸の肩に手を乗せそのまま足立と共に教室を出て、
尾田と同じく反対側の階段に向かっていった。
無理やり連れて行かれているようにも見える。
どうやらイジメにあっているのは"城戸"で間違いなさそうだ。
階段を降りていく不良の後を追いかけて行くと学校の外に出た。
そして学校近くの廃ビルの中に入っていくのが見える。
あの廃ビルは数ヶ月前の火事でほぼ全焼していて、
ガス爆発で壁や床が壊れ穴が開いている場所があり、
下手をしたら落ちる危険性がある。
証拠を押さえたら迅速に問題を解決せねばならない、
"イジメほど難しい問題は他に体験したことが無い"、慎重に対処しよう。
廃ビルの中は薄暗く、
夕日の赤い日の光が鮮血の様に広がっていて、どこか不気味な感じがする。
頭の中で「"今からでも戻ったほうがいい"。」と何かが呟いたが、
それを自己否定だと感じ俺は拒んだ。
上の階から声が聞こえる、
ゆっくり足音を立てないように階段を上がり、
2階3階と進み6階の声が聞こえる部屋の前に着いた。
中では足立と田沼が城戸の腹部に蹴りを入れていて、
城戸は悲痛の声を上げ助けを求めていた。
俺はすぐにデジタルカメラで証拠を撮影しようとしたその時、
後ろから足音と誰かの声が聞こえた。
尾田「探偵く~ん、正義のヒーローごっこはここでお終いだよ~(笑)」
尾田が笑いながらビデオカメラで撮影……
そして部屋の中からあの三人が笑いながら出てきて、
田沼「ホントに騙されてるw バッカじゃね~のw 」
足立「うっわw マジかよw 」
城戸「見たかよコイツの顔w 俺の名演技に騙された時の顔をよw 」
血の気が覚め俺の顔は青ざめた、嘘だろ……これはどういうことだ?
わけがわからない、意味が分からない、
城戸はイジメを受けていなかったのか??
田沼「コイツ探偵なのに分かってねぇみてぇだぜw あったまワリィ~w 」
足立「お前は最初から騙されてたんだよw おびき出し作戦になっ! 」
そうかこれは、最初から全て仕組まれていた……。
俺を誘き出すため噂を流しておき放課後の教室で待機、
来たのを確認したら一人がコンビニに行くフリをして俺を追跡。
あらかじめ役割分担を済ませていた三人は、演技をして歩きながら誘導した。
部屋の中で三人は、俺を部屋の入り口に止めるために暴行の演技をして、
もう一人が後ろから撮影しながら声を掛ける。
……してやられた、なぜ気が付けなかった?
……なぜ"あの時"戻らなかったんだ?
不良達は俺を囲むようにし、城戸が部屋の中に誘導。
城戸「一命様ごあんな~いw 」
足立「本日の乱入者! 探偵~!! 」
そして急にボクシングが始まり、
尾田がビデオカメラで撮影し俺は田沼に殴られた。
――――――――
殴られ続けて何分くらい足っただろうか……。
日が落ちて夜になり、眼鏡のレンズが割れ、
腕の骨が動かず痛みが走る、足はもう立てないくらいにガクガクと震えていた。
意識が遠くなり目の前がボヤケていて、目の前いるヤツがろくに見えない。
田沼「なぁもう―――にした―――くね? 続けた――ぬぞ? 」
足立「う――せぇ!
コイツが――ければ弟は――しなく――んだんだぞ!! 許せるか!! 」
城戸「もうやめ――て! このままじゃ――ちまうぞ!! 」
尾田「やめろよ――、もういいだろ!!
こんな――撮りに来たわけじゃなかっ―――!! 」
喧嘩……してるのか?
どこまで腐ってるヤツらなんだ、まったく反吐が出る。
だが証拠は、廊下に置いといたスマホの長時間録画でバッチリ撮れただろうし、
問題はどうやってスマホを回収してこの場を去るかだな。
動かない方の腕は動くが、足がまだ動かない、
これだと逃げるどころか立つのも難しいかもしれない。
廊下までは5mもないし、不良共はバカ丸出しで暴れている、
逃げるなら今がチャンスかもしれない。
……デジタルカメラを使おう、
これは細工済みで衝撃が加わると、フラッシュする仕組みになってる。
注意を引くのには最適かもしれない。……実行しよう。
デジタルカメラをポケットからゆっくり取り出し、
不良の意識が向いていない内に別の入り口に投げる。
「カシャ!! 」
落下音と同時にシャッター音がなり、フラッシュが部屋の隅々を照らした。
不良達の意識と視線がそっちに向かい急激に焦りだした。
田沼「くっそ見られたか!? 」
城戸「もうコイツは捨てていこうぜ! 」
足立「追え! 逃がすな!! 」
尾田「うっわ、最悪だ! 」
今だ今しかない、スマホを取って部屋から出ればいいだけだ。
体が重い、まるで背中に岩が乗っかっているかのような感じ、
動くたびに体全体に痛みを感じる。
力を振り絞って、匍匐前進を駆使し、
この部屋から出てスマホの確保に成功した。
後はこの廃ビルを抜け無ければならない。
反対側にある階段から下っていく足音が聞こえる。
階段を使って下に下りるのは危険だ。
小道具の"ワイヤー射出機"を窓から下りるしかない、
他に道はないんだ、見つかったら次はどうなるかなんて見当も付かない。
窓にワイヤーの先にある鉤爪を引っ掛け、
ワイヤー射出機をベルトに巻き付け固定し、窓からゆっくり下りる。
外は夜で雨降り、闇夜を照らす月は完全に雨雲に覆われていた。
ゆっくりワイヤーを伸ばし下に下りていると、あの部屋の方から声が聞こえてきた。
窓の方を見るとそこには足立が……。
足立「お前だけは絶対に許さねぇ、自殺した弟の為にも……。」
顔が、目が狂気に満ちていた。
足立はワイヤーの鉤爪を鈍器の様なもので叩き壊し、
俺はそのまま空中に身を投げ出す形となった。
もう助からない。直に頭を強打して死ぬ。確信している。
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落ちているこの瞬間が、まるでスローモーションの様に遅く感じる。
足立の弟、中学校の時にイジメで人を追い詰めて自殺させ、
責任を感じて耐え切れずに後追いした同級生。
あの時の俺は何も"暴露していなかった"。
あれは俺が"知るよりも前に"イジメられっ子が自殺していた。
そして、探偵の子やチクリ魔として知られていた俺を、
同級生や先生は"イジメっ子を追い詰めた張本人"として扱い、
それから全ての信用を失った。
……そんなこともあったなぁ。
この人生……、
"
結局、頼ってくれる人がいなかった。
結局、誰も助けることは出来なかった。
結局、正義のヒーローになりたかった正統性の無い悪役だった。
結局、最後まで孤独に生きる悪魔だった。
結局、探偵ですらなかった。
"
あぁ、空はなんでこんなに明るいのだろうか。
綺麗な夕日、鮮血の様な夕日、
月を隠す雨雲、雲ひとつ無い晴れ渡った明るい青紫色の星空。
―――― へ?
気が付けば木の上に横たわっていた。
公園にある林の中よりも青臭い匂い。
鈴虫のような虫の鳴き声や、風に揺らぐ木々の葉音。
まるで人里を離れた山の奥深く、
光の届かない秘境で見るような、そんな自然豊かな美しい場所だった。
周りにはコンクリートの建物は無く、
普段なら聞こえてくる街の喧騒が全く聞こえない。
「……静かだ。」
全く状況が飲み込めないが、
体中が傷だらけで動けるわけでもないし、
夜が明けるまでここで野宿するしかない。
野宿なんて初めてだ。