009「通常運転、桜の新しい日常」
「通常運転、桜の新しい日常」
・・・水車の様に水槽が昇降するエレベーターが、ベランダに設置された大きなビル・・・
私は家を出入りする度に、寿命が少しづつ縮まって行く様な気がしてなりません
・・・ビルの大きさ31m以上10階建ての下半分に設置されたマーフォーク居住区・・・
お兄ちゃんとアブサンの学校の
幼いマーフォーク家族を抱えたOBの方々が、1階と2階を使っていて
そこの御子様達は、上の階に住む私を羨むのですが私はとっても納得がいきません
・・・家を出る時は、ボタン一つで高さが上下に移動するウォータースライダーで滑り降りる・・・
お兄ちゃんとアブサンは『許可が出れば、滑り降りてみたいな…』と、言いますが
私達の住む部屋は3階で、ちょっと思っていたより高さがあり
怖がりな私は滑り降りるのに毎回、本気で背筋の凍る思いをしているのです。
・・・帰りはエレベーターと言う名の縦移動する水車に汲み上げられて、ベランダから家に入る・・・
コレマタ何の嫌がらせなのか?
一人乗りのソレは狭く小さく、上の方は開放的に作られていて
部屋に帰る為に乗らなくてはならない私にとって、これまた恐怖体験なのでした。
・・・そして今日も、出掛ける為に桜はウォータースライダーを滑り降りるのだった。・・・
朝のラッシュ時間、1階から5階の縦1列毎に設置されたウォータースライダーが
忙しなく、あちらこちらで起動して上下して
家から会社や学校の為に出掛けるマーフォーク達をマンションから放出している
桜は一人、時間を気にしながらベランダに出て大きく深呼吸し
戸締りを確認してから、カードキーを震える手で所定の位置へとゆっくり翳す
今日は偶々、ウォータースライダーの利用の順番待ちが無かったので
直ぐに、下の方から機械の起動音が静かに響き出して近付いて来た。
どきどきどきどき・・・桜の心臓が大きく高鳴る
そして、出口付近に人が居た為に警告の音声が発せられ
桜はビクリと体を震わせた。
桜はまた、大きく深呼吸する
1回止まった機械が、出口付近に居た者達が移動して場所が開いた為
また動きだし、警告音声が止みベランダの扉が開いた
扉が開くと共に流れ出した水の音と、最初に小さな弱々しい悲鳴
続いて、声にならない悲鳴が桜の咽喉から発せられる
桜は今日も涙目になりながら、ウォータースライダーを滑り降り
パシャンと水音をたててマンションを出る事になる。
マンションの前では、下の階に住む子供達が集団登校の為に集まり
毎日飽きる事無く
『3階に住んでる桜姉ちゃんだ!良ぃ~なぁ~…羨ましいなぁ~』と、口々に言う
桜は・・・
「どんだけ高くて怖いか知らないから、そう言ってられるんですよ」と、心の中で荒みつつ
子供等に朝の挨拶をして「出来る事なら、私も1階か2階が良かったです」と思いながら
意地と見栄の為に平気な振りをして
『上の階に住むのが羨ましいなら、保護者の方に御願いしてみてはどうでしょう?
ずっと言い続けていれば何時か、叶えて貰えるかもしれませんよ?』と、言った。
そこへ、マーフォークではないマーフォークの家族の子供達も合流する
引率しているのは・・・
このマンションの管理人で自衛団の団長なパパサンと、副団長なツミキだった
マーフォークな子供達は、ツミキに前に住んでいた場所でも御世話になっていて
桜が担当する様になる直前まで引率して貰っていたので
一斉にツミキに向かって挨拶をし、序にパパサンにも挨拶をする
ツミキは今日も笑顔で子供達に『今日も桜ちゃんをよろしく頼むよ』と、言った。
ツミキは、桜が担当し始めた初日から
桜がマーフォークな子供等に受け入れられ易い様に
『君達は集団登校する者として先輩なんだから、ちゃんと桜ちゃんに従ってあげて
桜ちゃんの駄目な所は、しっかり駄目って言って教えてあげたり
桜ちゃんが知らない事は、しっかり教えてあげてね』と
子供達に桜を託してくれていた。
そう、平日に毎日「子供達を安全に学校の送り迎えする」のが
自衛団の隊員としての桜の初仕事で、ずっと続けなければイケナイ仕事だった
子供等は初日から楽しげに笑い
『それじゃ、私等からちゃんと学んでよ!』と言って
遠慮なく桜の悪い所を指摘してくる
なので、今日の桜も
『遅刻は駄目だよ!集合時間の10分前には来てるのが社会人としてのマナーだよ!』と
ビニール製のランドセルを背負った、一番小さなマーフォークの男の子に指摘を受け
更に『10分前行動は、大人のルールだよねぇ~』とか言われてしまっていた
因みにマンションの前の公園の時計台の時間は今、集合時間ジャストを示している
「厳密に言えば遅刻してないじゃないですか!
そもそも、このウォータースライダーの高さがもう少し低ければ
10分前にだって、余裕で出て来れますよ!」
桜は『以後、遅刻しない様に頑張ります!』と言いつつ、こっそり涙するのであった。
桜は気を取り直して、遅刻した事を1人1人に謝罪しながら
マーフォークな子供等の出席確認をし、全員揃っている事を確認してパパサンに伝え
何時もの通りマーフォークな子供達を引率して水路を通り…小学校と中学校を梯子し
他の地域の子供等の引率を担っている
同じマンションに住む自衛団の他のメンバー達とも、小学校や中学校で合流する
そこで今日も桜は、小学校で家を先に出ていた故春と再会し
小・中学生の子等に遅刻の事をチクられ、弄られ
次に行った中学校で、アブサンと再会し
中学生の子等に、再び遅刻の事をチクられ、弄られる
故春は「桜が何で遅刻してしまうのか?」の理由に気付いておらず
桜がその理由を幾ら訊かれても絶対に口にしないので
何んとなく気付いているアブサンも含めて苦笑いをして茶を濁していた。
「高いのが怖いから、下の階に引っ越したいだなんて言えません!
そうでなくても、子供扱いされているのに…
これ以上、御子様だとお兄ちゃんとアブサンに思われたくないです!」
なぁ~んて桜の心の声は・・・
故春以外に完全に見抜かれているだなんて事は勿論、秘密です
秘密ですが・・・
思い悩む桜や、桜の遅刻を気にして思い悩む故春の様子を見て
はたまた故春の隣でアドバイスする事も無く、何時も居るだけ
行動は粗野で、普段は無口で、周囲に怖い印象を与えるのアブサンの
肩を優しく叩く様な行動での気遣う姿を見て
「ほっこり」してたり「萌えに萌え」ていたり「妄想して腐って」なんかいてみたり
色々な意味で見守る人達は、情報交換し秘密を公然としていた。




