008「入部届け」
「入部届け」
・・・マーフォーク保護区での生活が始まり、数週間が経過した。・・・
私は、どうしたら良いのか分からなくて困っていました。
私は小学6年生から行き成り、高校にも行ってない17歳のニートになってしまったのです。
・・・平日なので故春もアブサンも学校へ行ってしまって、桜は一人で途方に暮れる・・・
私の肌は乾いて一定時間が経つと、乾燥と気温の為に火傷してしまいます。
水から出る事が出来ない訳ではありませんが、マーフォークな私は
水の外で普通に生活する事が出来なくなっていました。
・・・桜が住むのは、水深1メートルで4畳程のアクリル硝子で囲われたプールの中・・・
プールから出るのは、トイレに行く時ぐらいです。
それでさえ私には負担で、ゆっくりしていると火傷してしまって
体中がヒリヒリして痛んで、情けなくて泣きたくなってしまいます。
・・・桜はアクリルガラスの向こうの世界を眺めては、溜息を吐く・・・
変更できないライフスタイル部分を謝罪し
私を気遣って一緒に居る時間を作る為、他に大きな部屋がもう一つあるのにも関わらず
お兄ちゃんとアブサンは、2段ベットを使って
基本的にプールの向かいのリビングで生活し、そのリビングで寝起きもしてくれています。
・・・昨日も故春とアブサンは、学校と自衛団の仕事とアルバイトで帰りが遅かった。・・・
私と言う扶養家族を抱え、収入を増やさなければならない為に帰りが遅いのです。
迷惑を掛ける事しか、お兄ちゃんとアブサンの負担になる事しかできない今の自分に
私自身が、とても嫌な気分になってしまいます。
・・・そして今日も日は落ち、次第に部屋の中が薄暗くなって行く・・・
今日も、お兄ちゃんとアブサンの帰りは遅いのでしょうか?
お兄ちゃんとアブサンには言えないけど、一人でいると不安で寂しいです。
・・・水の中で毎日、桜は孤独に膝を抱えて故春とアブサンの帰りを待つのであった。・・・
更に数週間が経過した…此処に来てからの日数=引籠り日数な桜
色々あって、本当に色々な要因があって
「一人で帰りを待ち続ける状況」に「焦りと憤りと孤独」があって
「何か自分にでも、できる事があれば…」と、考えていた彼女に朗報が舞い込む
その朗報を齎したのは・・・通称「パパサン」と呼ばれている
「パパ」と言う単語がピッタリとくる感じの、膨よかで優しそうなお兄さん
故春とアブサンが通う大学の先輩であり、大学院生な…
故春とアブサンが所属する自衛団の団長でもある、このマンションの管理人からだった
彼は、恋人らしき赤い鱗のマーフォークな清楚系の美人と腕を組み
隣の部屋のマーフォークな住人
このマンションに越して来た時、桜にマンション内を案内した
ピンク色の鱗を持つマーフォークの「須々木女雛」通称「メビナ」を連れ
故春とアブサンの留守中を狙い撃ちして、桜を訪ねてやってきたのである。
桜は最初、プールの側の室内インターフォンに出て
此処に来てからの初めての自分への御客様に驚き、訪問を歓迎し
『御邪魔します!』と、向かい入れる事を了承したと同時にパパサンに玄関の扉を開けられ
度肝を抜かれて慌てふためく
メビナが『これくらいで驚いてたら、心臓が持たないわよ』と、笑い
パパサンの連れの美人も上品に…ではあるが、クスクス笑う
パパサンは『僕は管理人だから、僕の鍵はマスターキーなんですよ』と、言い
『態々、水から出てきて鍵を開けて貰うのは大変だと思って開けさせて貰いました』と、言う
桜は納得して良いのか悪いのかすら分からないまま受け入れ
『普通ソコは、「駄目でしょソレ!」って突っ込み入れてあげる所なんだけどな』と言う
メビナの指摘に気付く事無く、桜はパパサンの話しを聞く事にする。
パパサンは・・・
自分が統括する学生組織のパンフレットを持参して来ていて、1部を桜に手渡し
『暇で、やる事が無くて困っていたら…君も自衛団に参加してみないかい?』と
活動内容を「善良なマーフォークの保護とか…」と、ざっくり説明して
桜に自衛団への参加を促す
桜は、少し戸惑いながら
『私…学生じゃないですよ?良いんですか?本気にしてしまいますよ?』と
真剣な表情でプールから乗り出し
『私でも、お兄ちゃんとアブサンの役に立てますか?』と、パパサンに詰め寄った。
パパサンはニッコリと微笑み
『歓迎するよ、故春の役に立てるようにもしてあげよう!』
と、言いながらタオルで桜の濡れた手を拭き
クリップボードの上に「入部届け」と書かれた1枚の紙置き、ペンと一緒に
『此処に名前を書いて』と、桜に渡す
パパサンの隣で、「副団長」だと言う赤い鱗のマーフォーク美人「ツミキ」は
『故春くんは、箱に入れて大切にしまっておきたいみたいでしたけどねぇ~』と
見た目とは裏腹な軽い口調で
桜の参加を全面的には、歓迎していない様子と取れる言葉を零している
桜は一瞬だけツミキを見て「歓迎されなくても、役に立てるようになりたい」からと
何も深く考える事無く入部届けに名前を書いた。
その光景を見ていたメビナは首を傾げ、入部届けに指を指しコンコンッと突いて
桜ちゃんは、ウチの学生じゃないけど「この場合」にその届けって必要なの?』と
疑問を口にする
『要らないけど、雰囲気的に書いて貰った方が故春を説得するのに便利かと思ってね』と
パパサンは、桜にとって想定外な事を口にした。
桜が「もしかして、お兄ちゃんは反対なのかな?」と、オロオロしていると
『ごめんねぇ~…このオバカサンは行き当たりばったりな性格なんだよ
きっと、入部届けに名前を書いちゃった事を後悔すると思うけど…書いたからには諦めて
これから、一緒に後悔していこうね』
ツミキが優しく微笑み桜を気遣い、プールの水に触れて自分の手を濡らし
『大変!乾いたままだと火傷しちゃうよ』と、乾いた桜の肌に触れて
桜の肌の渇きを癒していく
桜はツミキに「歓迎されていないのでしょうか?」と、勘違いしていた為に
少しだけ驚いて「この人、とっても良い人です。」と、思い直したのだが
その光景を見て、メビナが複雑そうな顔で桜とツミキの様子を見ている
それに気付きつつ桜は・・・
笑顔で『これから宜しくお願いします。』とだけ言った
因みに、コノ時のメビナの様子の変化の理由を
数日後に桜は知る事となるのだが、それはまた後日の御話なので
此処までの文章に隠れたソレに気付き、既に「コノ部分のネタ」に御気付きの方は
知らない振りをして置いて、読んで頂けると良いかもしれないです。




