006「再会と戸惑い」
「再会と戸惑い」
・・・白とセメント色の世界に挽きたて淹れ立てのコーヒーの香りがする・・・
私は、とても愛しく懐かしい優しい夢の中にいるのでしょうか?
水の中で何故か、お兄ちゃんに似た匂いを感じています
・・・バターで焼いた、フレンチトーストの匂いが仄かに香り出す・・・
私が『お兄ちゃんの匂いがする』と言った日から
お兄ちゃんが御風呂上がりに愛用するようになった制汗スプレーと
持ち歩き使っていた汗拭きシートの匂いが混ざって、新しく生まれたお兄ちゃんの香り
そして、『桜に男臭さが移ったら可哀相だろ?』と
同じ商品を使う事をお兄ちゃんに強要された、アブサンに似た香りも感じます
・・・暫くすると、シナモンと林檎の甘い香りも部屋中に広がった。・・・
「あれ?これ…お兄ちゃんのフレンチトーストと同じ匂いだ!」
私は食べ物の匂いに釣られて目を開け、水の中から顔を出しました。
割れた硝子の壁の向こうに、背の高い2人の大人の男の人達の姿が見えます
「お兄ちゃん達じゃない…」と、私が落胆して
水の中に戻ろうとすると、2人の男性が私に微笑み掛けてきました。
・・・桜の耳に、何時もの『おはよう、顔洗って来な!朝御飯の時間だよ』って
故春の声と言葉が聞こえてきた様な気がした・・・
少し低い大人びた声、微笑む顔も大人びてはいたけど
桜の記憶の中に存在する2人より、年上ではあるけれども
そこには、他の誰でもない桜の大好きな「故春とアブサン」がいて・・・
故春はキャンプ用品を使い、小さな椅子に座り込んで林檎を焼き
アブサンがコーヒー片手に、桜と故春の様子を見守っていた。
桜が水の中から顔を出したままで、それを…そんな2人を凝視し
密かに、水の中に戻るに戻れず戸惑っていると
桜を見て微笑んだ故春も戸惑い出す
故春は取敢えず、フランベしたアップルソースをフレンチトーストに掛け
『えぇ~っと…此処が何処だか分かるかな?』と言って、その場で立ち上る
桜は黙って、首を横に振る
故春は不安そうに『自分の名前は言える?』と、言う
桜も不安そうに、小さな声で『小林桜です』とだけ言った。
故春は安心した様な表情になり
『良かった、今度は記憶があるんだね』と、嬉しそうに微笑んで
『また、全部忘れてしまったのかと思ったよ』と、言うと・・・
アブサンが会話に参加する
『まてまて、その記憶が無くしてた幼稚園の時の記憶の方だったらどうするよ』
故春は一瞬、体をビクつかせ
『でも君は、桜なんだよね?小林桜だよね?』と、何かを訴え掛ける様な顔をし
『俺等の自己紹介が必要かな?
俺は「小林故春」君の…君だけのお兄ちゃんだよ』と、泣き出しそうな顔をした。
桜の微かな記憶の中に、同じ様な事を聞かれ、言われて
同じ様に不安そうな表情で、手を差し伸べられた映像が残っていた
『お兄ちゃん?お兄ちゃんとアブサン?』
桜は2人を指で指して確認し
『何で…何で行き成り2人共、急に「おじさん」になっちゃってるんですか?!』と
思った事をそのまま口にする
桜からの余りにも酷い発言に、故春とアブサンは暫く沈黙し・・・
『え?えぇぇぇぇぇ?「おじさん」って…
うわぁ~俺、ちょっとショック…5年振りに再開して、そんな事言われてしまうとは』
真剣で辛そうな顔から、気の抜けた表情
左手を額に当て項垂れ、ショックを受けた様子を見せてから笑う故春
『これでも俺等、20歳になった所だぞ…もうちょっと言い方なかったのかよ』
アブサンも呆れ顔になって笑っていた。
『5年振り?20歳って…え?嘘!何で?じゃあ私は?
お兄ちゃん!アブサン!私どうしちゃってたの?何で?どうして5年も経ってるの?』
動揺する桜に驚く故春とアブサン
『え?もしかして桜…その間の記憶が無いのか?』
故春は、桜を包む割れた硝子の入れ物に近付いて手が切れるのも構わず
割れたガラスの縁に触れ…掌を傷付けた所でアブサンに腕を掴まれる
故春の血を見て悲鳴を上げる桜
アブサンに血の出た腕を持ち上げられ、羽交い絞めにされ引き剥がされる故春
故春自身も自分の手の怪我にやっと気付いて
『大丈夫だ!これくらい問題無い、俺より桜が怪我してないか見てやらなきゃ』
と、騒いで…アブサンに『桜に心配かけんな!』と後頭部を殴られる
『桜も縁に触れるなよ!後で、安全に救出してやるから大人しく待っとけ!』
アブサンは、故春の手の傷を確認して止血し携帯で救助要請を出した。
故春はアブサンによる応急処置を受け
『桜!頭痛や目眩はしてないか?』等、桜が頭を打っていないか心配する
アブサンは溜息を吐きながら
『事故から一週間以上経ってるんだ!打ってても分からんと思うぞ』と言う
桜は色々不安な事を抱え、呟く
『私…どうしちゃったんでしょうか?』
呟きに気付いた故春は『硝子には触らない様にするから』と
アブサンに言ってから、桜に近付く
『桜は何処まで覚えてる?』
故春に問われ、桜は自分にとって最近だと思っていた事を
思い出せる限り総て口にしてみた。
『それなら俺でも、ビックリするかも』
桜の話をちゃんと聞いた故春が、とっても複雑そうな顔をする
『そっかぁ~じゃぁ~多分、自分の姿の違いにも戸惑う事になりそうだな』
アブサンは、故春の鞄から鏡を出して桜に渡す
鏡を渡された桜は、鏡の中の自分の姿を見て
『だ…誰ですかコレ?』と、叫んで…やっと、自分の体の変化にも気が付く
『だよねぇ~…中身はまだ、小学6年生だもんな』
『で、どうするよ…これからが大変だぞ』
故春とアブサンは・・・
自分の胸を揉んで『おっぱい大きくなってるんですけど!』と騒ぐ桜の行末に
一抹の不安を覚えるのであった。
『取敢えず…桜に服着せて、自分の胸を揉むの止めさせようか』
アブサンが遠い目で、桜を眺める
『だな、今度の誕生日で17歳になる娘が
全裸で自分の胸を揉んで騒いでる姿ってのは、頂けないよな』
故春もアブサンの意見に同意する
2人は水の中で暴れ、水飛沫を飛ばしてくる桜抜きで話し合い
『お前の時点で十分エロイのに、女の子にそれは不味いだろ?』と、言う
濡れて張り付いた服に対するアブサンの意見から・・・
故春の白い服ではなく、アブサンが着用していた黒い服を
水の中に居る桜に着せる事にした。
そしてそれから・・・
『桜!折り入って御願があるんだけど…』と、故春に声を掛けられ
その御願の内容を耳にした桜が・・・
自分が全裸で有る事に気付き、今日何度目かの悲鳴を上げる事になった
なぁ~んて事は、ちょっと御馬鹿加減半端無いエピソードなので
此処だけの御話にしておいてやって下さい。




