026「一つの結果」
「一つの結果」
日が落ち、夜の帳が下りて来る
茨を切って残った枝の残骸を重ね作った土台に、重ねきれなかった枝を立て
大きなた焚き火を3つ用意し
細かい木切れは・・・
飯盒炊爨用に準備した焚き火と
バーベキュー用に用意した焚き火にも分けて使った。
そこに有る薪の殆どが生木である為に白い煙が立ち上る
アブサンは、追加の新しい薪を運び
故春が仲良くなっててくれた墨色の人達と、夕食の準備をし
時々・・・
『積木も消えてしまったし、自衛団に戻る理由が無くなった』と
気落ちしているパパサンに声を掛け
ヴァンパイアと呼ばれていた人達が作った酒を酌み交わす。
怪我れを知らぬ白い子供達がキャンプファイアーにテンションを上げ
故春が居ない事を残念そうにしながらも
子供等は、アブサンに纏わり付く
墨色に染まったモノ達の子供に罪は無く、姿も白い
「人」として「人の社会」の戻るなら、「殺人者」として戻る事になる
墨色に染まった者達とは違い、性根の明るさから違っている
パパサンは真っ白な子供等を見て、桜が灰色に染まって居た事を思い出し
『故春は死んだのかな?』と零す
アブサンはパパサンから視線を逸らし
少し不安気に『今も墨色まで、桜が染まってなければ…』と言葉を濁した。
故春の事を凄く気に入っていたおばさんが
『話を聞く限り死んでいなくても、もう…元には戻らないかもしれないよ』と
アブサン的に認めたくない言葉を紡いでくれる
アブサンは・・・
『それでも故春は、俺にとってDNA的に繋がってる身内だから』と
静かに笑っていた。
『そうなんだ、知らなかった…親戚とか言う種類の関係だったのか』
パパサンが何の気無しに言うと、アブサンは遠い目をして…
『さぁ~どうなんだろう?俺、捨て子だったんで親が分からないんですよ』と、言った
パパサンは気不味そうに『そっか…ごめん』と言いながら言葉を失う
『嫌だな、ごめんとか…家が裕福だった事知ってるでしょ?
俺が養子に貰われた先が裕福で幸せだったから、故春との繋がりを見付けれたんですよ
だから、気にしない方向でお願いしますよ』
アブサンはちょっと意地悪そうな言い回しでパパサンに笑い掛けた
アブサンは、ただ自分の事を話したくて
誰でも良いから困らせたくて、困惑させてみたくて
話を広げ、個人情報を晒してみただけだったりする。
『おや、アンタ御金持なのかい?』
墨色のおばさんは軽く笑いながら
『じゃ、今度は老い先短い私が貰って養子にしてあげる』と言う
おばさんの言い回しから冗談なのが分かり
『そうだな…俺の養父母も、もう居ないし…そうなろうかな』と
アブサンが笑い、おばさんも『息子が出来て嬉しいわ』と笑った
その場には、おばさんの機転で和やかな空気だけが残った。
茨の森の奥の湖の周囲に美味しそうな料理の香りが漂い出した
『桜が桜のままなら、そろそろ姿を現しても良い頃なんだけどな』
アブサンは自分で作った、故春直伝のスープを掻き混ぜながら
キャンプファイアーの炎で明るく照らされた湖面を眺める
パパサンは密かに
「ペットじゃあるまいし…臭いに釣られて姿を現すのかな?」と
少し不安に思っていたのだが、そのパパサン予想に反して
桜は姿を現してくれた。
桜はアブサンを見付けると『お兄ちゃんが…』と繰返し
泣きながら駆け寄って来る
アブサンは、それを静かに受け入れ桜の頭を撫でた
その後、桜に引き合わせて貰った故春は・・・
パパサンにとって、普段と変わらない故春で
アブサンと桜にとっては、本質を失った作り物の故春でしかなかった。
表面上の故春しか知らない墨色の人々、その子供の白い子供達は
その「傀儡」を称賛し『生きてるみたいだ』と褒め称える
主人の命令で、命令された事を演じる傀儡は
私生活で色々演技をしていた故春に適した成れの果てだと言えるだろう
アブサンは自分に対して
他人に向ける優しい微笑みを向けて来る故春に対して
『どうしてこんな事に…』
悲しみしか、感じる事ができなかった。
アブサンは脳裏に浮かぶ情報
「吸血鬼に血を吸われ殺された者は下僕になる」と言う設定が
何処かの物語の中に存在していた事を憶えている自分が嫌になる
「桜が灰色に染まったあの時、故春が人間である事を辞めたのだろう」
故春が自分から死を受け入れた瞬間を目にしているアブサンは
『そこは本当じゃなくて作り話にしててくれても良いだろうに…』
溜息を吐く事しかできなかった。
「水面と言う墨色に染まった女の意図を、俺が先に汲み取れていれば…
せめて積木さんが、どう言う事になるか…を話してくれていれば
故春は怒るだろうが…
俺が故春の代わりになって、故春が桜と一緒に居れただろうに」
後悔は先に立たず、先に死んでしまった積木を責める事も出来ず
「事の発端は何処に存在していたか?」を知らず、分からぬまま
アブサンの憤りの矛先は、行方不明の「水面」へと向くしかなかった。
心に黒いモノを飼う事になったアブサンは
ヴァンパイアと呼ばれる存在に近付いた桜と帰る事も出来ず
アブサンと桜、そして…傀儡になった故春と
帰る気がしなくてそこに居るパパサンは、親切なおばさんの家に
次の行き先が決まるまで、居候する事になった
居候する事が決定した時、パパサンがアブサンにおばさんの名前を聞く
「そう言えば…おばさんって、何て名前なんだ?」
名前を知らない事に気付いたアブサンが、おばさんに改めて名前を訊ねると
おばさんは・・・
『「おばさん」って、呼んでくれたらそれでいいんだよ』と、言った
きっと「訳有り」なのだろう・・・
アブサンとパパサンはそこで納得し
桜は、故春の事で忙しく、気にしていない様子だったので放置した。
取敢えずアブサンは、桜が嫌な事を思い出して悲しまない様に
故春がやっていた役割を故春がやっていた様にやり通す
桜は傀儡に寄り添い、傀儡を寄り添わせ
故春と同様に人形の様に表情を動かす事無く時を過ごす
パパサンが桜を心配し
アブサンは更に憤りを募らせた
『大切な者を糧にしてしまった子は
荒れるか、悲しみに沈んで立ち直るまで時間が掛かるモノだよ
暫く、そっとしておいてあげなさい
何時かは、傷を癒してちゃんと生きられる様に成るモノだから』と
おばさんは、2人を励ます様に言っていた。




