025「岐路」
「岐路」
『さてと…帰るか…』
故春はアブサンの手を借り桜を背負い、来た道を戻ろうと歩き出す
『えぇ~!ちょっと待って!何ソレ此処まで来て指示に従わないつもり?』
水面が慌てて故春の前に立ちはだかる
『俺は「俺の桜」を回収しに来ただけだからな!
つか、そもそも…茶番劇に参加するつもりは無い!な?アブサンも、そうだろ?』
頷くアブサンを見て、故春は満足した様子で
水面を迂回するように歩き、再び来た道へと進み出す
『でもでも、そうだ!御連れさん達の方は良いの?ほっとくの?』
水面に言われて故春とアブサンは、積木とパパサンを見て
『ヴァンパイアの問題は、人間の法律で裁けないから当事者問題だろ?
俺等が首突っ込んでも邪魔になるだけじゃね?』
『だよなぁ~…部外者が話を最初から聞いて、古傷抉って
関係無いのに勝手に解釈して判断して、それを押し付けるとか…ちょっとな
あの2人が望まない限り、偽善的に首を突っ込むなんて失礼だろ?』と
自分達の意見を纏めて訊かせる
水面は「一理ある」と2人の意見に少し納得し…
『あっちの事はそうだけど、私の娘の事は勝手に連れ帰らないで!』と
再び故春の前に立ちはだかった。
故春は溜息を吐く
『干支一回り分も放置した子供の母親面するのか?
紆余曲折と不正はあれど、法律的に「コレ」は俺の「妹」だ!
10年未満ならともかく、十数年経って権利を主張してんじゃねぇ~よ』
『自分の不正は時効だと言いたいんだな』
アブサンは素直な故春の言葉に緩く笑い、水面の背後に回る
アブサンが水面の背後に回った事を確認し
『後はよろしく』と言って、故春は逆方向に走り出した。
驚く水面、アブサンは隙だらけになった水面に
ステンレスワイヤー入りの大きな大きな麻袋を被せ、キュキュッと縛り
その場に放置して故春に手招きをする
その一部始終を見ていた積木とパパサンは一時、放心状態に成り
キャーキャー言いながら転げまわる麻袋を見て
『何!そのヴァンパイアの捕獲方法』と、積木
パパサンは笑って『さてと、帰って飯にでもするか…帰るぞ積木』と
何時もの様に歩きだした。
積木は戸惑い、パパサンの腕を掴み
『自分はヴァンパイアになってしまったのだが』と、困った様子だったのだが
『そんなの俺の知った事じゃない、お前は俺の同居人の積木だろ?
積木として俺と一緒に帰れば良い、後は自衛団の技術力で何んとかしてやる』と
パパサンは積木に対して言い切る
積木は『あはは』と軽く笑い、パパサンの肩に額を置いて
『お前が幼馴染で良かったよ』と、安心しきった表情で微笑んでいた。
故春は逃げた場所から戻り
『車にスペアタイヤって有ったよね?』と、パパサンに訪ねる
『もしかして、俺にタイヤ交換して運転して要塞都市に戻れと言うか?』
嫌そうな顔するパパサン『タイヤ交換手伝うよ』と、積木
パパサンは諦めて溜息を吐く
パパサンと積木は普段と変わる事無く、事を勧め
パンクしたタイヤの交換を手際良く終わらせた。
何時もの調子に戻ったパパサンと積木を見て
故春とアブサンは笑い合い
『帰ったら焼肉にしませんか?』と、パパサンと積木に提案し
買い出しについての事を話しあいながら
桜を担いだ故春と、そのサポートに回るアブサン…パパサンと積木の4人は
水面を麻袋に詰めて放置したまま、切り刻んで作った茨の隙間を通り
車で茨の森を出て行く
森を出た頃には・・・空が明るくなり始めていた。
揺れる車の中・・・
運転するパパサンの横の助手席で、積木が悲しげに微笑んだ
パパサンの本当の名前を呼び
『ごめん、そして…今までと同じ様に扱ってくれてありがとう』と
朝日を浴びながら積木は、砂の城の様に崩れて
着用していた服や何かを残し、消えてしまった。
急ブレーキをかけ止まる車
パパサンの消え入りそうなかすれた声が、ブレーキ音で掻き消される
後ろの座席に乗っていた故春とアブサンは
同じ様に消えて行こうとする桜に対し、動揺しながら
日光を遮って桜を護ろうと尽力を尽くしていた。
・・・その時、急ブレーキで大きく揺れる車・・・
私は、そこでやっと目を覚ます事ができました。
・・・桜が手を伸ばし、故春の首に腕を回す・・・
お兄ちゃんは一瞬だけ驚き、そのまま私を受け入れてくれました。
・・・故春の隣で、桜を日光から守ろうとしていたアブサンが怪訝な顔をする・・・
私は身を起こし、お兄ちゃんの膝の上に座ります
お兄ちゃんは虚ろな目で微笑を浮かべ、私の思うままに私を支えてくれます。
・・・『お前は誰だ?故春に何をした』・・・
アブサンが私に向かって、不思議な事を言います。私は私です。
そして私は何時もと違う表情を見せて、変な事を言うアブサンは嫌いです。
私はお兄ちゃんに車の中から、連れ出して貰う事にしました。
・・・故春だったモノは車の扉を外し、桜を茨の森へと連れ帰る・・・
茨の森の中には誰もおらず、ぺちゃんこの麻袋が放置されるのみでした。
『困りました。水面さんが居ません』
私は溜息を吐いて、お兄ちゃんと水の中の世界に帰りました。
アブサンは故春と桜を追い、パパサンを車に残して一人
徒歩で茨の森に戻って来た
辿り着いた頃には日が昇り、明るい日差しが湖面を明るく照らしていた
そして、アブサンの予測は正しかったらしく
茨の森の中心部に有る深そうな泉の前に、故春が上に着ていた服が
無造作に放置されている
『そういや、人魚の伝説を紐解くと…
惑わして川底に沈めたり、難破させて海底に引き摺り込んだりする話が出てきたっけ』
アブサンは故春の服を拾い上げ、何時も故春がしていた様に折り畳み
手近な岩の上に置いて携帯を手にした。
その頃「桜」は・・・
表情が乏しくなり、喋る事の無い故春を見詰め
『何だか、お兄ちゃんじゃなくてアブサンと一緒に居るみたいです』と
故春が自分の思い通りになっている筈なのに、何か違う気がして
一人で愚痴っていた
故春は桜の隣で、静かに微笑を浮かべて黙ったまま
感情を灯さない目で、桜の事を見ていた。
アブサンは湖面を見詰め溜息を吐き
桜は、水の中から水面を見上げ溜息を吐いた
そんな2人を水面は静かに、それぞれ見守っていた。




