023「自由な人達」
「自由な人達」
茨の森は、蠢きギシギシミシミシ音を立てている
故春は、自分が仕立て上げた「桜」に似た顔立ちの水面に微笑み掛け
森の中の集落で得た情報から
『あなたの保護した娘さん、「ハナ」って娘…
「サクラ」って自己紹介したりしませんでしたか?』と問い掛ける
水面は、何も言わずに微笑で答えた
故春は大きく深呼吸して、肺に留めた空気を吐き
一呼吸置いて、意を決した様に『もしかして、貴女が母親ですか?』と言った
故春の言葉に、その場に居たアブサンとパパサンが不思議そうな顔をする
パパサンが故春の言った言葉の意味を故春に聞いたが
故春は意味深に笑うだけで水面同様、その事に関して何も言わなかった。
故春はパパサンに向けていた視線を戻し
『桜は貴女の正体を知っていますか?』と訊ねる
『さぁ~どうでしょう?
でも…私はあの子に何にも言って無いわよ』
水面は肌と一緒の墨色に染まった髪を弄り、毛先の枝毛を確認し
彼女は良く切れる何かで枝毛を切り落として
『夫や恋人の不貞を許せない人種である私の抱えた真実を
人魚姫みたいな「深く愛するが故に、潔く身を引く事が出来る者」って存在に
知られるのは、少し…頂けないのよ、朱に交われば赤くなってしまうでしょ?
染めてしまったらモッタイナイわ』と、茨の森の奥を眺めた。
『へぇ~そうなんだ…』
故春は水面の視線の先を追い
『で、貴女は…その愛情深くて潔い心意気の娘さんに何をしました?』
水面に一歩近づく
水面は、故春の放つ不気味な雰囲気を感じ取り少し下がり
『何をしたら…どうなるのかしら?君に何が出来るのかな?』と質問して
故春の目を見詰める
故春は事前に両手を闇色の手袋で包んでおり
その手袋をした手で小さなプラボトルを開け、ナイフに液体を垂らし
空になったプラボトルを水面の足元に投げてから
『僕の育てた「僕の妹」に会わせてくれないなら、命を取り合う覚悟で
貴女に八つ当たりをします。』
笑わない目で、口元だけ微笑を浮かべていた。
液体に触れた少し曇りをもった金属が、不必要に激しく洗浄されて
美しく気味が悪く感じる程に煌めく
『うわぁ~…過激だなぁ~…劇薬付着させた刃物で私を殺すつもり?』
水面はボトルの表示を見てから、遠い目で故春を見る
故春はにこやかに・・・
『貴女曰く、「人魚姫みたいな」な娘を…
直ぐに僕の前に連れて来てくれるなら、無駄に勝負挑んだりしませんよ?』
と、その身から放つ雰囲気とは不釣り合いに笑顔を作っている
因みに・・・
故春と水面は始終、微笑みっぱなしだった
『人質を取った相手を脅迫するとは…兵だな』とパパサンが、率直な感想を零し
アブサンの方は・・・
『そうっすね、あ…そうそう、今の故春は多分…
肉体的にも精神的にもランナーズハイみたいな状態だから
こっちが、ガチの「とばっちり」を受けない様に
マジで、逃げ隠れしといた方が良いかもですよ』と
パパサンの腕を引き、念の為に乗って来た車の影にへと移動した。
故春の連れの行動を横目で見た水面が
『こんな予定じゃなかったんだけどなぁ~』と、大きく大袈裟に溜息を吐く
『王子様が苦労の末、御姫様を迎えに行って
キスで御姫様を目覚めさせて、ハッピーエンドっての求めてただけなのに』と
準備したシナリオを身振り手振りを加えて説明し
『ちょっと、このお兄ちゃん!殺伐とし過ぎてない?』って
水面は故春に指を指()さし、車の影に移動した2人に話し掛けた。
故春と付き合いの長いアブサンは
『そいつは失敗だったんじゃないかな…』と言って、車の陰から顔を出し
『故春は見た目、ロマンス系に出て来る王子様だけど
本質は、猫っ被りの上っ面王子で…殺しも辞さない撲殺王だからな』と言う
水面は少し考え『あぁ~…だよねぇ~…』と、何かを思い出した様子で
『初対面の時、妹らしき女の子が殺される様子も
両親らしき大人の男女が殺される様子も全部、冷え切った目で
口元に薄笑いを浮かべて見てたわね』と、言った。
パパサンが沈黙した
アブサンは『あぁ~それで』と納得する
納得しつつ・・・
「道理で、桜ちゃんが別人にしか思えなかった筈だ」と故春を見る
故春は静かに『アブサン…僕に幻滅した?』と、悲しげに笑った。
『いや、別に…
俺は幼稚園の頃から、故春が残酷な性格だって知ってたし
今の会話から推測される答えの御蔭で、再会してからの疑問も解消されて
スッキリして、前よりも…お前を身捨てれなくなったかも?』と
アブサンも笑い返す
・・・変な沈黙が訪れた。
『何コレ?何なんだよこの会話は!』沈黙を破るパパサンの雄叫び
『まぁ~落ち着いて』と、アブサンはパパサンの肩をポンポンと叩く
『落ち付けるか!故春!お前は妹を殺したのか?』パパサンの雄叫びは続く
『いやいや、俺は殺してないし…殺したの「この人」で
俺は、普通に見殺しにしただけだし』故春は穏やかな表情で水面を指差す
水面は『確かにそうだけど…良いのかソレ?人として認めてしまって』と
複雑そうな顔で、故春を見ていた。
再び沈黙が訪れた・・・
『所で水面さん…故春が大事にしてた方の「妹の桜ちゃん」
茨の森を抜けて行って、キスで起こしたら連れて帰って良いんだよな?』
アブサンは、この会話の中の何処かで何かを自己解決して
水面が頷くのを確認してから
『ほぉ~ら、故春…桜ちゃんを御迎えに行くぞ』と
故春の手を取り、水面が桜の事を話した時に見詰めていた方向の
森の奥へと、故春を引っ張って連れて行く
故春は『まぁ~いっか、仕方が無いなぁ…アブサンがそう言うなら』と
アブサンの手を掃う事無く、そのまま近所のコンビニに行く様なノリで
アブサンと手を繋いだまま、歩いて行った。
その場に取り残された水面とパパサンは一度、顔を見合わせ
『良いのかよ!それで!』と声を揃えて突っ込みを入れ
大きく溜息を吐いた
『あの二人は自由だ…自由過ぎる』
水面とパパサンはどちらともなく、同じ言葉を口にして
何んとも言い難い疲れを感じ
その場にへたり込み、座り込み…その場に仰向け(あおむけ)で寝転がった。
少し離れた場所から、故春とアブサンの話声が聞えて来る
『うっわ!進み辛!火でも点けちまうか?やっちゃう?キャンプファイアー』
『駄目だ故春!火事になったら洒落にならないぞ!
つかそもそも、中に居る筈の桜が蒸し焼きになるんじゃね?
それだと、本末転倒だろうがよ!マジで!』
『冗談だよ、本気にするなって…
そもそも、生木だろ?この茨…そうそう簡単に燃えないって…
でもさ…動くからには、火を点けようとしたら逃げんじゃね?
試しにバーナーで炙ってみても良くね?』
パパサンは・・・
車に乗せていた火炎放射器を故春が持ち出したのを見て
『ソレ使ったら不味かろうて!燃えない物も燃えちまうって!』と
全力で阻止する為に立ち上った。




