022「近くて遠い場所」
「近くて遠い場所」
朝日は木漏れ日として差し込み、小鳥が囀る
風が吹き、梢が弛み小枝を振るわせて森のざわめきを作りだす
日の出と共に眠るヴァンパイア達が家に戻り
日の光も大丈夫なヴァンパイア達は日焼け止めを塗って活動を開始している
故春とアブサンは夜を生きるヴァンパイア達から
昼にも大丈夫なヴァンパイア達に紹介され、暫くの滞在をその両方から許された。
『俺達って、此処に居ても良いのかな?』
アブサンが御世話になっている家で出された朝食を食べながら呟いた
故春は作ってくれたヴァンパイアなおばさんに
『ありがとうございます!凄く美味しいです!
それに僕、子供の頃に両親を亡くしているから作って貰うとか久し振りで…
懐かしくって、何か気恥かしくなるくらい嬉しいです』何て事を言いながら
『アブサン…親切にして貰ったら「ありがとう」って言って受け取っとくモノだよ
アブサンだって、お母さん的な人に御飯作って貰うの子供の頃以来だろ?』と
アブサンを窘めつつ・・・
『すみません!コイツ、こう言う風にして貰うのに慣れてないんですよ
コイツも僕と一緒で、子供の頃から親と一緒に住んでた事無いから』と
相手の弱点を突いて、完全に自分の味方に取り込んでいた。
『そうなの…大変だったわねぇ~』
おばさんは、故春の言葉に目尻に涙を滲ませつつ
『おばさんの事、お母さんだと思って甘えてくれてもいいんだよ
居たいだけずっと此処に居ても良いんだよ』と言っていた
アブサンは・・・
「騙されてるよ!おばさん騙されてるよ!故春はそう言う生き物じゃないぞ」と
少し悲しげな表情でおばさんを見て、更なる誤解を生産していた。
そんなこんなで安全な居場所をゲットした二人は
「外見17~18歳くらいで、真っ白いストレートな長い髪をした女の子」
という特徴を持った「故春の妹の桜」を捜しているのだと
おばさんの情報網で捜して貰い
「湖の近くにあるヴァンパイアの集落に、そんな特徴の娘がいた」と言う
そんな情報を手に入れる事が出来た。
で、その娘がその集落に来たのは10日程前と言う情報を聞き付け
おばさんにその娘さんが御世話になっていると言う家に
おばさんの家にあったTV電話で、連絡を取って貰ったのだが・・・
繋がらず、そのご近所さんに電話した所・・・
その娘さんが居る「水面さん」と言う御宅は、3日程前から留守だと言う
故春とアブサンは、火曜日の登校時間までに戻らないとイケナイと言う
自衛団の仕事は、一時忘れる事にして
取敢えず、湖の近くにあるヴァンパイアの集落に行ってみる事にした。
そしておばさんとの別れ際・・・
頬にキスをすると言う別れの挨拶をおばさんにされた時
『あらやだ!君達、2人共…誰かの加護を既に受けているのね』と言われた
驚く2人におばさんは
『電話と私の加護だけじゃ心配だったけど…大丈夫そうだね
きっと、次に行く集落でも…君達はヴァンパイアに好かれるよ』と
加護について詳しくは教えて貰えなかった。
そして、携帯で写真に撮った地図を見ながら進み
辿り着いた湖の近くの集落近く、手の中でバイブレーションが鳴り響いた
パパサンからの電話だった・・・
故春はスピーカーホン設定で電話に出て、アブサンは携帯で位置情報を確認した
故春はパパサンの用件を聴く前に、積木と昨日から逸れてしまっている事を告げた
パパサンは一瞬黙り込み『了解した』とだけ言って
『今、何処に居る?』と訊いて来た
『何処だろう?』と、故春が呟くと
アブサンが自分の携帯で確認した現在の位置情報を見せてくれる
故春は脱力感を感じながら溜息を吐いた
正直、笑ってしまうくらい直線距離では近所に居た・・・
『パパサン…俺等、近所の断崖絶壁の裏側に居るみたいです。』
因みに、自分達が居る場所とパパサンが居るであろう場所からは
直線距離だけで見たら500mくらいしか離れていなかった。
『えっとそれって…その場所にどれくらいで行けた?
実は桜ちゃん絡みの緊急事態で、2人が帰って来ないと不味い事になったんだが
今日中にでも帰って来れないだろうか?
どうも桜ちゃん…恋煩いってヤツで命にかかわる事になってるらしいんだわ』
パパサンの発言に2人は動揺する
『コノ絶壁にトンネルが掘られていたら…徒歩7分くらいで行けるんだがな…』
アブサンが無表情で無い物強請りをし
故春はフリークライミングで登り降りするのと
来た道を戻るのとで、どちらが早いか真剣に悩んでいた。
その絶壁近くは、気流が荒くヘリもセスナも飛ばせない危険地域となっていた
アブサンは取敢えず『命懸けで登り降りは止めとけ』と故春を止め
現実を見て、来た道を足早に戻る事を選択させた
そして地味に・・・
故春を気遣うアブサンと、桜を心配して今直ぐにでも傍に行きたい故春の
体力と持久力、走る距離と憤りの戦いが始まった。
金曜日から土曜日、土曜日から日曜日、日曜日の昼前までと、歩いた距離を
故春とアブサンは足早に走る様にして歩いて
その日の内に要塞都市の自衛団の事務所まで戻ってきた
が・・・もう既に、2人はボロボロだった
パパサンには、2人に電話で伝えられていなかった事があった。
だから、そこから「桜が待っている」と言う場所に
故春とアブサンの2人を行かせる事は、自殺行為をさせに行く様にしか思えなくて
パパサンは自ら選択して、積木を捜しに行きたいのを堪え
自分が『車で連れて行くから』と言って、パパサンは2人を説得し
車の準備をする待ち時間の間に、2人に食事を取らせ
それにこっそり一服盛って、移動中は取敢えず眠らせて連れて行く事にした。
約束通り「水面」と名乗るヴァンパイアの居る場所まで
「水面」と言うヴァンパイアが望む通りに・・・
故春とアブサンと約束したパパサンが、故春とアブサンを連れて行く
生き物の様に茨が蠢く薔薇の森の中
故春とアブサンを乗せた車は、茨を踏んでパンクしてしまわない様に
指定された場所へと向かってゆっくり進む
本当に慎重にゆっくり進んだので、辿り着いた頃には
水面が指定してきていた時間、ギリギリになっていた
そして、慎重に進んだと言うのに
故春とアブサンを乗せてやって来た車はボロボロになっていた。
故春とアブサンを連れてきたパパサンは2人を起こさず車から降り
水面に『約束は守ったぞ』と言った
不服そうなヴァンパイアは、パパサンに2人を連れて来いと命令し
起こされ車から出てきた故春とアブサンを見て、その状態を把握して
少しだけ機嫌を直した。




