021「色々、行方不明」
「色々、行方不明」
故春は御日様の様な満面の笑みを浮かべ
『なぁ~アブサン…俺、思うんだけど…
積木さんに「GPS機能使って、地図見ながら先に帰れ」って言われたけど
此処はちょっと追掛けて、積木さんの足引っ張りに行こうか?』と
邪魔になる荷物を早々に足元に置き
このまま、荷物を捨て置くつもりでいる様にしか見えなかった
『故春…ソレはパパサンの要望を叶える為か?
それとも…いや、それ…絶対に趣味だよな?自分も森の奥に行ってみたいから
そうしたいから追掛けるんだよな?』
故春と付き合いの長いアブサンは、故春の本音を汲み取り
自分も必要最低限の荷物だけを取り分け、不要な荷物を足元に捨てた。
何を捨てたのか?と、言うと・・・
軍の人から押し付けられ、義務として装備させられた物を捨てたのだ
2人は即刻、重く着ていて暑苦しい鎧を脱ぎ捨て
使い道の分からない楯とやらも捨て、重くて使い勝手の悪い剣も捨てた
簡易テントやキャンプ用品は勿論、ソレを背負う為の鞄も捨てたのだ
持ち歩くのは・・・
水と携帯食料、虫除けスプレーと虫刺されの薬、消毒薬と布
蛭除け等に使う煙草とライター、武器にも調理道具にもなるナイフだけで十分だ
2人は、水と食料をそれぞれ布の袋に詰め直し
その他を服やズボンのポケットに詰め込む、ナイフは腰のベルトに固定した。
2人は携帯電話の電源を切り、胸ポケットに戻す
『自分で言うのも何なんだが…俺等って、チャレンジャーだよな』
昨日自分で行った事を思い出し、アブサンは自嘲気味に笑う
故春は『感謝してるよ…大馬鹿者な俺に付き合ってくれてサンキュウな』と
アブサンの肩を叩き、積木が走り去った方向へ目を向けた
積木が残した道標は、簡単に見付ける事が出来た
故春が先陣を切り、道から森の中へと分け入る
傷付けられる事に慣れていない地面や草木には、積木の足跡や
積木が自分自身、迷わない様に付けた傷が、通った場所に色濃く残っていた。
『これならイケル』
追跡を回避する者を追う訓練を受けていた2人は
余裕で足場の悪い場所を器用に走り抜け、積木を追掛ける
追掛けて、自分達がマーフォーク達に比べると凡人である事を知った
日が暮れてきた・・・
積木に追い付く事、叶わず
故春とアブサンは、積木が付けた道標近くに野営できそうな場所を見付け
火を消す為の砂を準備し、枯れ枝を拾って焚き火をする事にする。
『今が土曜の夜、明日、明後日…日、月…火曜の子供等の登校送りの時間
アレに間に合わせて送ってやるのは義務だから…
火曜の明るくなり始める時間を帰路に当てて、不測の事態も考慮して
明日の昼まで、だな』
アブサンが積木を追跡できる日程を算出する
故春は携帯の電源を入れ『圏外だな』と、切り
『積木さんとの合流は難しいかもしれないな』と言う話をしながら食事を取り
2人は、焚き火を背に交代で仮眠を取る筈だった。
黒い霧が2人の頭上から覆い被さり一瞬で燃え尽き、一緒に焚き火の炎を消した
「魔物は燃えるから大丈夫だろう」と思って油断して
1つしか焚き火をしなかった事が仇となった結果だった
とっさの判断で、目を閉じて息を止めた為に
2人はダメージを受けなかったものの・・・完全に闇に視界を奪われ
そして、複数の足音と気配から
故春とアブサンは、自分達が何者かに囲まれてしまった事を痛感する
しかも、魔物を使って焚き火の火を消すなんて芸当が出来る生き物は限られている
2人は観念し「降参の証」として、その場で軽く両手を上げた。
相手は「月明かり」ででも、こちらの様子が見えるのであろう
可愛らしい鈴を鳴らす様な声で2人の様子を小声で囁き合っている
故春とアブサンは、それぞれ策を練る・・・
今、此処で「携帯の電源」を入れて光を得たとしても
ちょっとそれは、標的にされる可能性が高過ぎて・・・今、現実的に使えない
だからと言って・・・
炎の消えた焚き火に残る「残り火」に、乾き枯れた木の葉を足しても
視界を補う光源になるには、少し時間が掛かるであろう
そもそも、さっきの一瞬の炎上で
残り火を保有する炭も、集めた木の葉も総て吹き飛んでしまっているだろう
今の所、万事休すなのだが・・・
『アブサン!お前、今どの辺に居る?』
故春は声で自分の位置を知らせ、その返事でアブサンの居場所を確認した。
故春とアブサンの居る場所の直線上に「残り火を保有する炭」が落ちている
故春は取り囲む者達に向けて
『友人の無事を確認したい!抵抗したりしないから…
友人の居る場所まで移動させて貰っても良いだろうか?』と言ってみた
断られるかとも思ったのだが、ちょっと意外な事に
『それくらいなら構わないよ、好きにすると良い』と
若そうな女の子の声が返って来た。
暗過ぎてほぼ、見えていないのだが
それでもワザと故春は危なげにアブサンの元へ向かう、向かう途中
転びそうな振りをして「残り火を保有する炭」の元にスプレー缶を落としてきた
故春はアブサンに抱きつき
『こっちは上々なんだけど、そっちは無事?』と囁いた。
故春の行動に対し、ヴァンパイアにも腐女子と言う生き物がいるらしく
『キャッ』と喜び含みの悲鳴が聞こえてきた
『うっそ!本物?もう、やだぁ~…美味しいわぁ~今夜は眠れないかも』
腐った意見もちらほらと・・・
殺されない為に、逃げ出す算段を立てていた故春は少し考え
『彼女等に行方不明になってる妹の事を訊いたら、返事帰って来るかな?』と
アブサンに抱きついたまま、呟いた。
故春とアブサンに興味を持った、2人を囲む女の子達は
『他にも迷子が居るの?』と、持参した懐中電灯を点灯させ
『安全な所に連れてってあげる』と、2人を少し離れた場所に案内する
その申し出から一呼吸置いて、スプレー缶が爆発したが・・・
犯人である故春は、素知らぬ顔ですっとぼけ
『びっくりしたぁ~…今度はなんだい?さっきの爆発の続きかい?』と
魔物に引火した出来事と同じ現象なのか?と女の子達に質問していた
女の子達は故春の見事な演技と人懐っこい笑顔に騙され
『今度のは私達じゃないよぉ~』と笑って答えていた。
「故春よ…お前、立派な詐欺師に成れるぞ」や
「疑えよ、子娘達!そんなんじゃ男に騙され放題だぞ…」なんて
アブサンが心の中で思っていた・・・何て事は秘密です
ヴァンパイアな筈の墨色の肌をした女の子達は・・・
故春の口車に騙され、故春とアブサンの荷物が軽装過ぎた為に
軽はずみに森へ迷い込んだ「遭難者」として2人を受け入れてくれた。
そして勿論、2人は悪びれもせず
ヴァンパイア達が作り上げた集落に御世話になる
そこで最初、女の子達以外の住人に警戒されたが
故春の口車でそこは切り抜け、違和感無く溶け込み事無きを得てしまった
何てのは、故春の人徳が為せる業とアブサンの堂々とした風格の所為かもしれない。




