016「秘匿の夢」
「秘匿の夢」
・・・桜は少しづつ鮮明に色づき描き加えられて行く夢を見る様になっていた。・・・
夢の中の私は、母親と2人で遊園地に出掛けて父親に逢いました。
父親の傍には、見知らぬ妊婦の人がいました。
私は「メビナさんと、フレルトさんとその新しい恋人さんの事」を思い出しました。
・・・母親が怒って次の瞬間、赤い噴水を作り上げて周囲に夕焼け色を灯す・・・
父親の傍で妊婦の人が泣いています。
私は「あ、其処の配役はそうなるんだ」と、自分の想像力に驚かされます。
・・・母親が父親の首を切り落とし、母親から剥れ落ちた色彩が広がって周囲に火を付けていた・・・
夢の中の私は、色彩を無くした母親に振り解かれ
真っ赤な水溜りの中に突飛ばされて、座り込んで泣き出しました。
不思議な夢です。
当時、小さかったので私は殆ど憶えていませんが
お兄ちゃん曰く、遊園地にはお父さんとお母さんお兄ちゃんと私の4人で行った筈です。
そこで事故に巻き込まれ、私とお兄ちゃんだけが助かって
世界の行政機関の援助で、今を生きてきたのです。
・・・桜は故春に心配掛けたくなくて、その事を誰にも話す事は無かった。・・・
でも、もしもこの夢が現実ならば
私はお兄ちゃんの妹ではありません、そんな事になれば私は困ります。
今までの様に、お兄ちゃんと一緒に居る事が出来なくなるかもしれないからです。
でもでも私が、お兄ちゃんの本当の妹で無いのならば
私の秘匿の夢が、もしかしたら現実の物となって叶うかもしれないのです。
・・・桜は胸元で自分の手を重ね合わせ、微笑を浮かべてこっそり故春を見た。・・・
故春は、精神的に成長し始め自分に恋した眼差しを向ける桜の扱いに困り果てる
アブサンは、戸惑い困っている故春に
『昔、桜を連れ去った軍とやらの出した検査の結果で
桜と血の繋がりが無い事は、分かっていた筈だろ?』と言い
『「血の繋がりが無くても、桜は妹だ」って言って
桜を捜し求めた情熱は何処へ行った?
あの情熱は恋に近いモノだと、俺は思うぞ
桜を手放したくなかったら、受け入れてみても良いんじゃないか?』と言う
真実を何も知らないアブサンに対して、故春は更に困り
桜やアブサンに嫌われたくなくて、真実…抱え続けた罪悪感を話す事も出来ず
故春は曖昧に笑って誤魔化し続けた。
ある日、集中豪雨で汚染された水が大量に空から町に降り注ぐ
管理された水の上には、汚染水が入らない様に蓋がされ
汚染水の撤去が済むまでの暫くの間
安全の為、水から出て生活できないマーフォーク達が閉じ込められる
活動的になってきていた桜の行動が制限され
桜が引籠りをしていた時期の様に、故春とアブサンは活動する様になっていた。
『週1回の買い出しの日も御留守番だなんて…』
桜は独り言を言いながら、部屋で一人涙する
マーフォーク専用のエレベーターは
マーフォークの生活用水に、汚染水が大量に侵入のを防ぐ為に水が抜かれ
降り続く雨の為に、水槽を乗せた電動カートでも移動も
厳しく制限されていた。
故春は桜が遊びに来る可能性の無い状態の学校で
桜に盗み聞きされる危険が無い事から、安心して
人もまばらな食堂で、アブサンに少しだけ本音を零す
『桜の事が好き過ぎて、桜の望みを叶え様としてくれるなよ
俺は、妹と恋人同士にはなれない
桜の無くした「幼い頃の記憶」が戻るリスクはできるだけ避けたいんだ
それと、アブサン…桜が連れ去られる前に、俺が言った言葉を覚えているか?』
アブサンは頷き『忘れたりしてないよ』と言う。
故春はアブサンの目を見詰め言葉を紡ぐ
『「正直!今の妹が好きだから、記憶は戻らなくて良い!」
そんな俺の気持ちを理解してくれないか?』と・・・
アブサンは中学に入った頃の故春との再会よりずっと前
幼い自分が住んでいた場所、故春と初めて会い友達になった頃
引っ越しで別れる事になった、幼稚園時代の事を思い
『確かに俺も、お前の継母の交友の仕方に汚染された
「パパの連れ子で、一人だけ家族じゃない癖に」とか
「アタシに逆らったら、パパとママに言い付けちゃうから!」が口癖の
小林桜はちょっと遠慮したいな』と、渋い顔をしていた。
秘密を抱えた故春は、悲しげに微笑んで
アブサンも故春が何を隠しているかは分からないが
「桜の事に付いて何かを隠している」と言う事に気付きつつ
ソレを故春から話して貰えない関係性から、同じ様に悲しげに微笑む
そんな2人に対して『男同士で見詰め合って笑い合うなんてキモイぞ…』
食堂に昼食を食べに来たパパサンが、2人の肩を叩き突っ込みを入れ
『見物してる女の子達は大喜びしてるみたいだけどね』と
パパサンと一緒に昼食を取りに来た積木が2人に微妙なフォローをしてくれた。
昼休みの時間になり、同じ大学の学生達が食堂に集い始める
故春やアブサン、パパサンや積木と同じ専攻科目を取った女の子達や
自衛団に所属するメンバーが4人の陣取った席の近くに集まり
何時の間にか大所帯になる
1対1の関係を好む猫の様なタイプのアブサンは
大勢に囲まれ、口数を減らして故春との会話を話題にする事は無い
故春の居ない場所で、アブサンが故春の事を話す事も滅多に無いので
故春は安心して、アブサンに話せる限りの事は話していた。
学校に居る用事が終わり、バイトが終わった後
故春は、アブサンと二人になる帰り道の途中で
『何時か、14年程前の罪で俺が裁かれる事があったら
桜の事を頼めないか?俺ではなく…アブサンには桜を護って欲しい』と
一つの決意を口にするのだった
『それって、お前と桜が…
廃墟になった都市から、この要塞都市に保護された頃の話だよな?』
アブサンの質問に故春が無言で頷き
『罪って、都市が襲われてから保護されるまでの間の話しか?』に対しても
又、故春は頷いて
『死にたくなくて…必要に駆られた気がして、人間を見殺しにしたり
死体から必要になった物を奪ったり、勝手に自分のモノにしてみたり
管理する人が死んで無人になった店の商品を勝手に食べたり色々したから…
とか言ったら、同情してくれるか?』と
途中から少しふざけた様な口調で故春が話し、アブサンを少し困らせるが
アブサンは・・・
『故春が「同情して欲しい」って言うなら、同情してやるけど?』と
何時もの様に笑い、故春の肩を軽く叩いた。




