015「妄想と日常の仮面を被った非日常」
「妄想と日常の仮面を被った非日常」
・・・先程の事が発端な色々な音や声が聞えてきていた帰路の途中からずっと・・・
私はそっちの事も気にしつつ
私のお兄ちゃんへの気持ちも、3つの選択肢を選ばなければイケナイモノでしょうか?
と、少し考えて「お兄ちゃんが私を裏切る事は無い」と、最終的に思い直しました。
・・・そんな中、桜にアブサンの行動が目に入る・・・
アブサンって、普段はやって貰う側で何にもしないのに
お兄ちゃんが悩んでる時とかに、何故か甲斐甲斐しいんですよね
お兄ちゃんが私以外を選ぶとしたらもしかして、相手はアブサンでしょうか?
・・・桜は趣味の入り混じる妄想の末、頬を染める・・・
物語的に有りですけど、駄目です!モラル的にちょびっとだけ、駄目ですよね?
あ、でも、私とお兄ちゃんは兄と妹
結ばれる事が無いのですから、他の女に盗られるくらいなら
ソレは真面目な話「アリ」かもしれません寧ろ、私的に大歓迎です!
私に隠れてこっそりと恥らいながらも愛を育むだなんて、もう
・・・桜は「ヨカラヌ事」を考え、水槽の中で身悶えていた。・・・
行き過ぎた妄想に想いを寄せて、数日が経過する
「いっその事、お兄ちゃんとアブサンが付き合ってて
思い悩んだ末に、アブサンが私と結婚して3人で幸せな家族を…なぁ~んて」
桜の妄想は、腐女子な方向に加速して行く
「真面目そうで優しいお兄ちゃんが、影でドSに卑猥な攻め手だったりとか?」
勿論、イケナイ方向にも桜の妄想は直走る
そんな時に『桜?お前…最近、どうしたんだ?大丈夫か?』
アブサンが唐突に、桜の顔を覗き込んだ
桜は、アブサン受けのイケナイ妄想中だった為『うひゃぁあ!』と悲鳴を上げ
桜は「ごめんなさい×5!!イケナイ妄想してごめんなさい!」と
言葉にならない声で妄想材料の故春とアブサンに謝罪する
そんな事知らないアブサンは『本当に大丈夫か?顔、赤いぞ』と本気で心配していた。
桜は頬を染めた理由を正直に話す事が、絶対に出来ないので
両手で熱くなってしまった頬を隠し、俯いて
『お腹が鳴ってちょっと、恥ずかしく思っただけです!』と誤魔化す
『そっか、なら良い…俺も小腹が空いてきた所だ』と
アブサンが笑って誤魔化されてくれた様子だった。
アブサンが故春と何かを話し、暫くすると・・・
コーヒーの香り漂う室内に、新たな香りが加わった
バターとベーコンの焼けた匂いが、桜の腹の虫を鳴かせてくれる
今度こそ桜は、本当に腹が鳴って頬を染める事になる
アブサンから桜の話しを耳にした故春が、桜の為に昼食を作ってくれているのだろう
桜はプールの端から故春の居るキッチンに目を向け
『御昼御飯を催促してしまったみたいで、コレはコレで恥ずかしいかも』と呟く
アブサンはその小さな声を聞き付け
『気にするな!11時でも昼時と呼べない事もないぞ?
一般的な店のランチメニューの解禁時間は普通11時だろ?』と桜をフォローした。
『いやいや、朝御飯食べたの9時頃じゃなかったか?
腹が減るのが少しばかり早過ぎるだろ?』
故春が一人分にカットしたホウレンソウとベーコンのキッシュと軽く焼いたフランスパン
桜用に準備した野菜ジュースを御盆の上に乗せてやってくる
『俺の分は?』と言うアブサンに
『1回に運べねぇ~よ、次に持って来てやるから待ってろ』と故春が笑う
桜は御盆を受け取り『ありがとう』と言って先に食べ始めた。
故春が運んでくる少しの間にアブサンが桜の分のフランスパンに手を伸ばす
1回に2個も食べれないし、後からまた貰える事が分かっていたので
桜はそのまま食べ続ける
故春がカットし、取り分けぬまま大皿に乗ったままのキッシュと
焼いたパンを持ってやって来る
『コーヒーは?』と故春がアブサンに訊くと
アブサンは無言で、マグカップを故春に渡していた
桜は無言でその光景に魅入る
故春は、そのまま受け取ってコーヒーを入れてきたけれども・・・
「時々、どうやって意思の疎通を行っているのでしょうか?謎です」
『まるで、夫婦みたいです』桜は何時の間にか独り言を言っていた。
『夫婦って…』
桜の言葉に故春が微妙な顔をする
アブサンは聞かなかった振りをしているかの様に新聞に目を落とす
隣りの部屋の住人が目の前で死んだと言うのに
何も変わらない日常…休日の朝が、そのままやってきて続いている
桜は先週の事は、寝ている時に見た夢なのではないかと思い始めていた。
今日は、休日恒例の買い出しの日
昼過ぎに桜は、水槽を乗せた電動カートに乗せられ買い出しに連れて行って貰う
水槽の縁の左右に、S字フックで買った物が下げられて行く
住んでいる建物の住人の殆どが、同じ学校の学生な為
顔見知りの住人達が同じ様に同じ様な場所で買い物をする
何時ものメンバーと何時もの様に顔を合わせ、挨拶を交わす
但し其処には、メビナとフレルトの姿は無かった。
顔見知りの店員が、今回も「待ち合わせている」と、思っていたのか?
故春とアブサンに「2人が来ていない事」を告げる
『普段は、先に来て場所取りしてるのにどうしたんでしょうね?
どちらかが病気とかなんでしょうか?』と、笑う
メビナとフレルトの事は「軍」という組織の人から口止めされていた為
故春とアブサンは曖昧に笑い、カートに乗った桜を連れて開いている席に着いて
紅茶とコーヒー、オレンジジュースを注文する
店員は、何時もの様にオーダーを受け下がって行った。
桜は不意に周囲を見渡す
「そう言えば、私がお兄ちゃんと再会してから…
恋人同士が破局したと言う話を耳にした事が無い様な気がします。」
そして、ちょっと怖い想像をして身震いする
「長続きしているカップルの話も聞いた事が有りません
他の誰かと付き合っていたと言う人にも、会った事が無い様な…」
桜は頭を振り、一瞬浮かんだ答えを否定する
「きっと、気の所為ですよね…
あんな事があったから、緘口令を守らされているから
そんな風に考えてしまうんですよね?」
不安に思った事を心の奥底に仕舞い込んだ。
故春とアブサンは、何時も通りの日常を演じ
何時もと変わらぬ顔をして、桜に優しく笑い掛けてくれている
アブサンが
『砂糖すら入れないストレートティじゃ胃に悪くないか?』と、故春に話し掛け
桜のオレンジジュースに飾られていたスマイルカットのオレンジを奪い
『ビタミン取れ、ビタミン!』と、故春の紅茶の上に浮かべる
『入れるなら、輪切りのレモンのが良かったかも』
故春は残念そうな顔をする
桜にはその光景が何故か白々しく見え
居心地が悪くて、ストローでオレンジジュースを飲み干して
小さな水槽の水の中に頭の先まで沈んで、人知れず溜息を吐いた。