014「魔物になる」
「魔物になる」
・・・桜は留守番をしなかった事を後悔し、其処に居る意味を見失って水の中に戻る・・・
そして私は青空の下、水の中で夕焼け色の噴水を見て思いました。
この辺りに来たのは初めてなのですが、あんな所に噴水が有ったでしょうか?
・・・桜が首を傾げている間に噴水の数は増え、周囲を深紅に染めた。・・・
水の中ながら私は、そんな光景に見覚えがありました
私は水から顔を出して様子を窺います。
周囲を見渡すと、お兄ちゃんとアブサンの背中が目に入りました。
・・・周囲は火に包まれ、至る所に有った噴水は赤い水溜りを残して姿を消している・・・
私は赤い水溜りに赤い虫が群がって御掃除しているのを見ました。
そして、其処の最期に残るのが「干乾びた死骸」である事を知りました。
・・・桜は「ヴァンパイア」と呼ばれる魔物の存在の事を思い出した。・・・
でもでも、其処に居たのは日に焼けた様な肌の色のメビナさんでした。
白かったメビナさんは黒くなって、冷たい目でフレルトさんを見て微笑んでいました。
・・・メビナはフレルトの隣の女性の横までやってきて彼女の手を取り不敵に笑う・・・
『貴女が、私の恋人を寝取ったのね…同じマーフォークなのに酷いわ』
メビナの言葉に女性が凍りついた様な表情になり、フレルトを冷たい眼差しで見る
『どう言う事ですか?私だけじゃなかったんですか?
先生…私に言いましたよね?御付き合いする時、私が「最初で最後の恋人」だって
私が「最初で最後の」じゃなかったんですか?』
フレルトは、自分の子を孕んだ女性に責められ苦笑いを浮かべる
ソレは、本物のリアルの修羅場だった。
『此処は、巻き込まれたら洒落にならんから逃げるか!』
故春の判断に積木とアブサンが同意し
アブサンが手早く桜の乗る電動カートを安全な場所へと移動する
『え?あれ?アブサン…
何かさっきまで胎児を護る方向って言ってませんでしたか?』
桜の意見にアブサンではなく積木が『守るにも引き際が肝心なんだよ』と言った
『自分すら護れない奴が、他人様を護るとか無理だからね
護られた方に責任や負い目を感じさせる護り方は
何を護りたいか知らないけど実質、誰も護れて無いのと同じ事なんだよ』
積木が桜に「護る事」に必要な大切な事を伝えようとするが…
桜はあまり分かっていない御様子だった。
逃げる移動の最中、離れた行く方向からフレルトのいい訳が聞こえてくる
『未成年との恋愛で罰を受け不利益を受け、総てを失ったから』と・・・
その未成年の娘の方だって、無関係な人間による罰が与えられていると言うのに
不利益だって同じくらい受け、同じくらい総てを失ったと言うのに
『辛く寂しくて、誰かに支えて欲しかったから』と、彼は言う・・・
相手が「同じくらい辛く寂しく、誰かに支えて欲しかった」とは
考えられないのだろうか?
桜は水槽ごと運ばれながら
フレルトと本命な筈だった恋人と、そんな2人を見詰めるメビナを見ていた。
『ねぇ?故春とアブサン!何でこんな奴の為に彼女を引き合わせたの?』
メビナが、逃げ行く一行を見ながらそちらに声を掛ける
故春とアブサンが立ち止まり、アブサンが積木を一時引き留め桜を託そうとする
気付いた故春が、アブサンの耳元で『俺を信じろ』と囁き
『あの事を決めたのは俺だろ?桜を頼む』と
そのままアブサンに桜を預け、不安そうな桜を宥めて
積木と一緒に安全地帯へと逃がした。
『ねえ?どうして、私の彼と彼の元彼女を引き合わせたの?』
メビナは眉間に皺を寄せ、再び怒りの形相で問い掛け故春を見ている
故春は『自分の妹くらいの娘を恋患いで死なせたくなかったから』と言い
『マーフォークの特性から、まだ深い関係になっていないのが分かってたから
フレルトが関係の終わりを彼女に告げてくれさえすれば、救える状態になると思った
まさかフレルトが、新しい恋人がいるのにも関わらず
処女に手を出すとも思わなかったしね』と言う
メビナが、故春の言葉を鼻で笑い『浅はかな考えね』と呟いて沈黙した。
状況が分かっていない桜が
『どうして、お兄ちゃんはフレルトさんを信じたのでしょうか?』とアブサンに聞く
答えに…説明に困るアブサンを見て
積木が見兼ねて携帯端末で昔の新聞記事を調べ、桜に見せて簡単に説明する
『淫行講師はまだ、淫行講師では無くて淫行に手を染めていない状態だったから
故春はフレルトを分別のある男だと思ったんじゃないかな』と・・・
桜は説明されても、ちょっと納得できていない様子だったが
『そのネタ知ってたんだ』と、アブサンが言い
『当時はネットの検索ランキングトップクラスのネタだったからね』と積木が笑った。
虫が動き回り、カサカサになっていく死骸が転がる殺伐とした状況の中
何んとも言えない緩い空気がちょっと間に流れ
『それにしても、騒動になった当時の彼には有っても…
今の…最近の彼には、手を出さない選択が無かったんだろうね…残念だね』
と、今に至るであろう過程が少し提示される
『理由はどうあれ
君達が余計な事をしなければ私は幸せでいられたのよ』
と、メビナは目尻に涙を溜めて訴えていた。
一方のフレルトの元彼女で元鞘状態の彼女も、心中穏やかでなかったらしい
『私は、この身を衰弱させても…身代わりを作らずに、貴方だけを愛していました。
代用品で誤魔化せられる程度の愛なんていらないです。
私が愛していたのは、私だけを愛してくれた貴方でした
誰かを身代わりにして愛して、私が戻ったからと捨てる
そんな、いい加減な貴方ではありません』と、言い放つ
フレルトは最愛の人から、想定外な事を言われたらしく戸惑い
メビナの近くに居た故春は
『君はあのまま、死んだ方がマシだった?』と下腹部手を当てる女性に問い掛ける
フレルトの子を宿した女性は、子の宿る腹を撫で
『こんな人の為に死ななくて良かったです。』と微笑を浮かべ
『生きるチャンスを頂けた事に感謝します…貴方にね』と故春に言った後
フレルトの首を素手で切り落としてしまった。
桜が水の中で見た赤い噴水が出現し、メビナが悲鳴を上げる
血色に染まった女が妖艶に笑い・・・
群れを作る「大型のネコ科の動物」の群れの「主」が変わった時の様に、腹の子を処分する
赤い物が赤い色の液体と共に滴り落ちる
積木が桜の視界を塞ぎ、アブサンがメビナを引き留めようとする故春の元に走り
故春だけを連れて戻る
母親になる事を辞めた女がフレルトの遺体を踏付け
彼女から剥れ落ちる色彩から生まれた羽虫に食べるように命じる
色白だった彼女は、メビナよりも黒い肌の色を身に纏っていた。
『完全に魔物になってしまったね…』と、積木が呟く
何故か、射程距離の長いウォーターガンを4つ程手にしたパパサンが
何処からともなく戻ってきて
『メビナだけじゃなく、あっちの子も駄目になっちゃったかぁ~…』と
大きく溜息を吐き、頭を掻く
何がどうなってこうなって、これからどうなるのかすら分からない桜が
手近にあった積木の服の裾を引く
積木は桜の頭を軽く優しく2度叩き
『マーフォークの恋には3つの選択肢があるんだよ』と言う。
『1つ目は・・・
恋を貫き、好きになった相手の為に総てを捧げて
浮気されたり捨てられた時には、自分の命を絶つ事
2つ目は・・・
1つ目同様恋を貫き、浮気されたり捨てられた時には
本能のままに相手を殺して、魔物になる事
最後に3つ目は・・・
最初から、本命とだけは絶対に付き合わない事…の三択だよ』と・・・
『因みに…魔物になって人を殺して自分の分身に食べさせたら
最終ヴァンパイアになって、人間以外の食事を受け付けなくなるから
俺達が退治する事になるんだ』とパパサンが笑った。
『選ぶなら、1か3にしてね』積木はそう言うと
パパサンからウォーターガンを受け取り、歩き出した
そして、パパサンに
『故春には迷いが有りそうだから、桜ちゃんと一緒に送り帰してね』と
アブサンに託され3人は帰る事になった。




