013「思いの重心の違い」
「思いの重心の違い」
・・・パパサンがキーワードを入力し、自衛団のPC内の情報を検索していた。・・・
パパサンが私を蔑ろにして、お兄ちゃんとアブサンと何やら話していました。
私は雑音の多い中、聞き耳を立てようとして
『盗み聞きは、行儀悪いよ?』と積木さんに止められます。
・・・引き出したのは、桜と同じ時期に保護された「少女に見えたマーフォーク女性」の情報・・・
『俺等の事を憶えてくれてると良いけど』と、お兄ちゃんが言っていました。
私はパパサンが印刷した情報、電気の光に透けたコピー用紙の上の情報を見て
これから会いに行くらしき相手が女性だと知りました。
・・・桜は両掌に水をすくい上げて、皆を脅す様に言った。・・・
『私を「置いて行く」とか言ったら、此処で暴れちゃいますよ?』
気不味そうにパパサンとお兄ちゃんは笑いました。2人は私を置いて行くつもりだった様子です。
アブサンが私の頭をポンポンっと優しく叩いて
『電子機器のある場所に、水の入った水槽入りの桜を連れてきたのは失敗だったな』と、笑いました。
・・・その後、5人で向かったのは身寄りのないマーフォークが身を寄せ合う国営施設・・・
パパサンと積木さん、お兄ちゃんとアブサンに連れられた私は
私と「同じ時期に保護された」と言う、同じマーホークの女性を訪ねました。
・・・訪ねた先で下腹部に手を当て撫でていたその女性は、幸せそうに微笑んでいた。・・・
「桜と同じ時期に保護されたマーフォーク」だと言う女性に
故春とアブサンが先行して挨拶する
挨拶された女性は少し間を置き、喜んだ様子で故春とアブサンの手を取り
『その節はありがとうございました』と御礼を言っていた
桜は少し離れた場所から、不服そうにその様子を見守る
そして、その女性が・・・
故春とアブサンに伸ばした手を見て驚き、硬直するのだった。
大きめなロングワンピースの襟刳りや、長い袖口から覗く白い肌に
陶器の置物に入った罅を連想させる模様の様な、瘡蓋が張り付き残る怪我の跡
指は、生爪を剥がされでもしたのか?
先が白くて爪の根元が赤みを帯びた、爪を失った状態の傷跡が見える
桜はソレから目を逸らし
だがそこに、桜や積木と同じマーフォーク特有の鱗が無かった為
『あの人、本当にマーフォークなんですか?』とパパサンと積木に問い掛けた。
パパサンは何時の間にか姿を消し、桜の隣には積木しか存在しなかった
積木は『そっか…まだ、知らないんだ』と、クスクス笑い
『マーフォークは、ね…恋が成就して母親や父親になると、人に戻れるんだよ』と
桜に桜がまだ知らない、桜が属するマーフォークの事を教える
桜は下腹部を撫でる女性の行動を見て『あの人、妊婦さんなんですか?』と訊き
『そうだよ』積木は2度頷いて『相手はフレルトだ』と言い切り
言葉を無くした桜の返答を待たずに『で、話しを戻すけど良い?』と確認して
桜が頷くと話しを戻して話し出す
『マーフォークは、その愛が続く限りずぅ~っと…
もしくは、相手が浮気心に負けない間だけ完全な人間でいられるんだ』
積木は何時の間にか複雑そうな表情を見せていた。
そして一呼吸置き、積木が断言する
『彼女は、人でいられ続ける事は無いだろう…』
桜は不思議そうな表情をしつつ、無言で積木の話しを聴き入る
『彼女はマーフォークに戻り、水の中でしか生きられないマーフォークな子供を産むか
恋人の裏切りを知って、怒り狂って…魔物みたいになってしまうかもしれない』
積木は悲しげに
『その中でもこれから、最悪なケースを目にする事になるかもしれない』
続いて暗い表情で
『彼女の選んだ王子様は、人魚姫が愛した王子様並みに性質が悪いから
これから最悪なパターンを目にする事になるかもしれない…覚悟しておいてね』
口元だけ、皮肉気に笑いを浮かべた。
桜はどう言う反応をして良いか分からずオロオロして
積木と、故春とアブサンの近くに居る女性を交互に黙ったまま見る
そこへ家を出る為の必要最低限の荷物を抱えたフレルトが姿を現す
フレルトは・・・
故春とアブサン、積木と桜の姿を確認すると居心地悪そうに表情を曇らせ
自分に微笑み掛ける愛しき女性を確認し、ホッとした表情を見せて
自分の子を妊娠した恋人に駆け寄る
フレルトの子供を身籠った女性はフレルトを『江田先生』と呼び
腹の中の児のエコー写真をポケットから取り出し
胎児が順調である事をフレルトに告げた。
幸せそうな恋人達の近くに居た故春とアブサンが
『幸せな人の恋事を邪魔をするつもりは無いよ』と、溜息混じりにフレルトに伝え
『でも自己責任で、起こした問題の解決はして貰う
「アレで終りにできた」と思っているなら、ソレは間違いだ!自然消滅させれる問題じゃない
恋人が大切なら、恋人を巻き込まない方向で解決しろよ』
小声でフレルトの耳元で囁き、桜と積木の居る場所まで戻ってくる
マーフォークとしての能力で聴き耳を立てていた桜と積木は
少し不服そうに故春とアブサンを迎えた。
桜は、浮気され捨てられる運命となるメビナの事を思い涙を滲ませる
『何でフレルトを庇うんですか?』
故春は一瞬言葉に詰まり
『悪いのはフレルトだけで
メビナの事も何も知らないで孕まされた女性は、ある意味被害者だろ?』
桜の頭を小さい子供にする様な態度で撫でる
『でも、不公平です』と食い下がる桜にアブサンが
『護るべきなのは、胎児だと思わないか?』と言う
積木が眉間に皺を寄せる
『だが、彼女はこの事を先に知るべきだと思うよ
彼女の寿命が尽きるまで隠し続ける事が出来るなら良いけど、出来ないなら
今、知っておいた方が良いのでは?』
積木の刺のある言い方で、アブサンは少し困った様な表情を見せる
『恋人に他にも女が居たなんて事実、妊婦さんには辛過ぎるだろ?
ストレスで流産でもしたら大変じゃないか?』
故春はアブサンを援護する様に2人の会話に入って行く
『産んだ後で知る事になれば、産んだ事を後悔する時が来るかもしれないだろ?
そんな母親に育てられた子供の気持ちがどんなものか知っているか?』
積木が感情的に零した言葉から、ソレが分かる環境で積木が育った事が推測された。
1歩引いて…と言うか、水槽から出られない為に近付けなかった桜は
途中から、どちらの意見にも賛成できない様な気がして
幸せそうな恋人達の方の様子をチラ見する
特に妊婦さんの方を見て
『「知らぬが仏」って、こう言う時の事を言うのでしょうか?』
小さく誰に聞かれる事も無く呟いていた。




