②
「面白くないわね」
窓の外を眺めておもむろにそうつぶやいた主人に、シェリエはこめかみをピクリとさせる。
あのあと躾という作業は主人の思うところではなかったらしく、「うちに来ているのなら何故私に一言も伝えなかったの!」とシェリエの教育をしていた者を怒鳴り散らして、ぽかんと口を開けたまま固まっている彼女の部下たちを尻目に、主人はシェリエを自宅へと連れ帰ったのだ。
そして今、豪邸というにふさわしい貴族の邸宅でシェリエはメイドという形で雇用されている。服装は穴あきのボロ布から主人がもう着なくなった裾の長いドレスへと変わり、生傷の絶えなかった肌もだんだんと元に戻りつつあった。
「何が?」
おもしろくないのですか?という言葉もつけずにシェリエは主人に問う。
「貴方の事よ」
それに対して、主人はシェリエの使用人にあるまじき言葉使いも気にする事なく、シェリエをじっと見つめた。
「今までここに来た子達は打ち合わせでもしていたかのように、“お金をください” “家族を救ってください”ってうるさかったわ。うっとうしかったけれど、それはそれで面白かったからよかったのよ。ただ、貴方にはそれがない。何の面白みもないのよ」
つまらない人間ね、と。
だが、そんな事を言われようともシェリエは彼女にすがるつもりはなかった。シェリエには飢えに苦しむ家族だっているし、お金だってないよりはあるに越した事ない。だがそんな事を口にして、大切な家族に手を出されては自分がここに来た意味がなくなってしまうからだ。
縋る想いで救いを求める行為を面白いなどと言う人間だ。真摯な態度でそれを叶えてくれるとは思い難い。自分にとって大切なものが何か、それを明らかにしてしまったら傷口に塩を塗り込むように入念に心を痛め付けてくるだろう。きっと、それは底なし沼のようにもがけばもがくほど足を取られてより深いところへと落とされていくのだ。