8 わたしの名前
試行錯誤しながらの執筆ですので、今までの文章も不定期に改良することがあると思いますがご了承ください。
まぁ、改良と言っても文章を足すことが主だと思うので、あらすじに大した変更はありません。
宜しくお願いします。
相変わらずここが何処かはわかりませんが
あれから、3週間ほどたちました。
あのあと、おっさんに癇癪をぶつけて、また少し長い間寝ていたようです。
でも、反省したのか必要以上にほっぺぷにぷにはしなくなりました。良いことです。
それにしても、怒るって疲れるんだなぁ…。
そういえば
「お、目が覚めたか!腹へってないか?」
―――あれから3週間、なんと!この世界の言葉が大分わかるようになりました!
子供の脳の柔らかさなめてました。
しかし、嬉しい誤算です!
目が覚めて見知らぬ場所で言葉が通じないなんて不安しかないですからね....。
「うー」
あ、喋りことばに関してはまだまだですので、ことばを交わすことは叶いません、はい。
「ん?腹は減ってないのか?ハヴァルの奴は仕草で分かるとか言ってたが全然わかんねえぞ、俺には。」
しっかし、このおっさんはどうやらガントさんと言うらしいのですが、びっくりするくらい子供の面倒見るのが下手でした。どう下手かってまず、感情を読み取るのが下手。お腹減って泣いてるのに、怖い夢でも見たのかって。子供にかける言葉としては間違いではないけど。時間帯とか考えるとさ、さ?
「あー、あんま泣かねぇからなぁ、こいつ。余計にどうしてほしいのか分かんないんだよなぁ。子供ってどれくらいで話せるようになるんだ?話せるようになれば随分楽になりそうなもんだが...。」
あと、ものっすごい不器用でした。ガントさん。いや、一生懸命なのは十分伝わるんですけど、ね?喉乾いてるのに鼻に水入って窒息死とかシャレになんないです。死の危険は去ったかと思いましたが考えが甘かったかもしれない...。
「早く話して欲しいならまずは沢山話しかけないことには始まりませんよ?貴方は馬鹿ですか。」
あ!そして今お部屋に入ってきたこのもうお一方。
このおにーさん、ハヴァルさんと言うらしいです。そして予想通りお医者さんでした。
ガントさんとは職業関係なく普通に友人っぽいです。罵倒と言う名の親しげな会話をよくしてますしね。ガントさんに子育て教育を行っているのですがあまりの下手さ加減に言葉の最後に必ず罵倒する言葉が付くようになってきて毒舌キャラになりかかっています。若干心配です。因みにわたしがこの世界に来て初めて覚えた言葉は罵倒でした。やったね!!.................うん、だってさ、一番耳にする言葉だったんだもの。わたしは悪くない......
「しっかし、どうするかな....。」
久しぶりに顔つんつんされたので顔を向けるとガントさんが顔をしかめてうんうん唸っていた。ちょっとその顔こわいです...。
「いつまでも迷ってないでさっさと決めてください。そんなに悩んだって大して変わらないでよ、めんどくさい。」
「いや、でも一生もんなんだからそんな安易に決めらんねぇよ。」
この繰り返しの会話も、もう何度目か。
すでにお分かりかも知れないが、2人は私の命名についてかれこれ4日間くらい迷い続けてるのです。
...いや...その気持ちはうれしいけど、ぶっちゃけそこまで迷わなくても......。
まあ同じ会話を繰り返してくれたおかげで、リスニングに役立ったからいいけどね!でも、いい加減そろそろ決めようよ、恨んだりしないからさ多分。
そんな気持ちを込めてじっとガントさんを見つめていると思いが伝わったのか命名に本格的に腰を入れ始めた。
「やっぱ、女の子らしい名前がいいのか...?女の子らしい?......うーん、エミリーとか?」
「女の子らしい名前にしてお女の子らしく育つとは限りませんよ?特にあなたが育てるんですから。」
...その通りなんだけどちょっと目が熱くなりそうです、ハヴァルさん。
「そんなこと言うなよ、女の子らしく育てる自信ねぇんだから名前くらい――――」
「どうせ自信がないなら初めから諦めて中性的な名前にでもしたらいいんじゃないですか?」
あ、それなら大歓迎です。好き勝手な方向に成長できそうだし。それにしてもハヴァルさん投げやりだなぁ。
「むう........。」
ガントさんそんなに女の子らしく育ってほしいのですか。
無理とは言いませんけど、わたし多分女の子らしくするより効率や面白さを求めてしまう人間の部類かと思われますよ...?
「.................................。」
「(イラッ)」
あ、ハヴァルさん顔がヤバいです怖いですやめて!優柔不断なガントさんを許してあげて!!
「(ビクッ)...うん、ラルフィーなんて、どうだ...?」
「別にそれで、いいんじゃないですか?」
お、案外あっさり決まった。
ハヴァルさんなんか、決まれば何でもいいって思ってることを隠しもしないね!いっそ清々しい!!さすがクールビューティー!
「ラルフィー...か。うん、まあ、ラルフィー。なかなかいい名前じゃないか?」
案外気に入ってるのねガントさん。
「呼ぶときはラルフとでも呼ぶのですか?...まあ、中性的か?ちなみに一応聞きますがなぜその名に?」
「あ?ああ、なんか『古語』?『魔法呪文』の一説に朝焼けの中心、みたいなのがあってな。それを捩った。髪の色なんかそれっぽいだろ?」
ん?なんか、知らない単語があるなぁ。聞き取れない。話せるようになったら聞いてみよう。でもガントさんにしては結構シャレた名前ですなぁ。あ、なんか失礼かな。
「ふーん。それにしてもあなたって『魔法』使えましたっけ?」
「いや、ほとんど使えねぇんだけど、『魔法全集』を借りたことがあってな。なんかそれが印象に残ってたんだわ。」
「そういう言葉があったなら、一々迷わないでさっさと決めてほしかったですね。」
「まあそう言うなよ、この子供見た時からこの言葉は頭にあったんだが、この『魔法』結構凄まじくてな...それで、つけてもいいもんだか迷ってな。」
「はぁ?どういった魔法なんです?」
「意味としては、終らぬ夜をも打ち砕く朝焼けの中心へと導く一筋の朱って意味なんだが....」
「?魔法効果はどうなんですか?」
「この村一帯を吹っ飛ばす位の爆発を起こす火魔法だ。....まあ、上位魔法どころか特級魔法だから使えるやつなんてこの国にも数えるほどしか居ないだろうがな。」
「....貴方、この子供、責任をもって最後まで育ててくださいね。」
「...........ああ。」
シャレた名前って言うか普通に物騒な名前だった....。
でも、名前をもらえてなんとなく、胸の奥がくすぐったいような気持ちになった。この世界で、生きていくことを認めてもらえたような、そんな気持ち。不器用だし、優柔不断だし、ちょっぴり運もないらしいガントさんだけど、優しくて一生懸命赤ん坊の世話のしかたを覚えたり、真剣になって名前を考える姿を見て、いつの間にかわたしは自然とガントさんが好きになっていた。
いきなり死にかけて、全部を諦めた時もあったけど、グレイに救われて、ガントさん達に出逢えたわたしは凄く幸せだなって、今なら自然にそう思える。
きっと今のわたしは、どうしようもなく緩んだ情けない顔をしてるんだろう。
「ッ!こいつの笑った顔初めてだな!!お前は今日から、ラルフィーだ。....俺の娘で家族だ。いっぱい甘やかして、厳しく育ててやる!......だから、俺を見ても怯えないでくれよ...?」
「何で最後に余計な一言をつけるんですか。後、言ってること矛盾してますよ...。はぁ、ま、貴方が本気でこの子供を責任をもって育てると言うのなら全面的に協力して差し上げますよ。ここまで巻き込まれましたしねぇ...。」
「ハヴァル....!おまえ、金には煩いけど、やっぱり良い奴だな!!有難う、助かる!」
「.......。ああ、そういえばそろそろツィトスがここに来るらしいですよ。彼に見つかれば数日は酒の肴として弄られるでしょうねぇ、貴方。」
「―――――――ッ、忘れてた!」
ガントさんの話の途中で眠くなったわたしは、ベッドの中ですっかり微睡んでしまいその後の会話が耳に届くことはなかった。
即断即決のハヴァルさんはガントさんとは会話の相性が良くない模様です(笑