7 対話
見知らぬ、おにーさん?がいなくなったと思ったら、見知ったおっさん引き連れてきました。
ドアから引きずられてくるおっさんは、衣服がぐちゃぐちゃで、目の下に隈が出来ていて非常に眠たそうです。
おっさんの方が身長も体格も良いのに引きずられるという図はなかなかシュールですね...。
因みに引きずっている方のおにーさんは、シワひとつない白衣に傷ひとつない細身の眼鏡をかけて、健康そのものって感じです。なんだろう、この差は。
そういえば、今更気付きましたが、おにーさんは非常にイケメンさんです。イケメンというよりクールビューティーですね。薄紫色の柔らかそうな髪の下から、鋭利な刃物のような鋭い灰色の瞳が眼鏡の奥に見えます。....でも美形にまじまじと真剣に見られると怖いですねぇ。
しかし、生命の危機が去るとこんなことを考える余裕も出来るのですね!ああ、何だか感動です。
ん?ドア前で立ち止まって、2人で何かしゃべってます。
おっさんがわたわたしてる。....なごむわぁ。
あ、こっちに近づいてきた。
え、ものすごいビクビクしてる。わたしそんなの怖いか?...今更だけどわたしって人間だよね?人間だよねぇ!?なんでそんな未確認生物相手にするみたいに、おびえてるのおっさん...
後ろのおにーさんも、バカにしたような呆れた目をしておっさんを見てる。
これは、わたしがおかしいんじゃなくて、おっさんがおかしいんだろうなぁ。
ん?手のばしてきた。おおふ、そんなぷるぷる震えんでも...
せっかくだから、指でも握ってあげますか。ここでそっぽ向いたりすると、おっさん構ってくれなくなりそうだし。というかここで愛想ふりまかないと見捨てられそうで非常に恐ろしいです。
よーし、怖くないよぉ、こあくない。
....あれ?立場逆じゃ?.....
あ、おっさんの顔がゆるんだ。
目がだらしなく下がって口が開く様子になんだかこっちまで安心する。
なんだろうこの達成した満足感というか、こう、ミッションコンプリート的な気分です。
今気が付いたけど、おにーさんの顔さらにひどい。
一言でいうと顔が死んでます。主におっさんの方を見ながら。
あ、おっさんの頭、はたいて去って行きました。どこ行くんだろう?じーっとみてたら、おっさんに顔つつかれてます。正直うっとうしい。おっさんのほうに向きなおると、によによしながら更につつかれます。
ああ、このおっさん加減がわかんないやつだわ、わたしがちょっといい反応したら調子のってるな。ストレスがたまってきた。あー感情のコントロールきかない。いい加減に我慢できなくなり私はイライラをおっさんにぶつけるように号泣した。
■ □ ■
子供は怖い。俺は真面目にそう思ってる。
何考えてるかわからないし、弱い繊細な生き物だから俺が触ったらそれだけで死にそうだ。
そもそも子供と関わる機会なんてほとんどなかったしな。
なぜか俺の顔を見ると大半の子供が泣くから自分から近づこうとも思わなくなったし。....なぜか。
あー、ハヴァルにはこれから、こいつ育てんだろうから慣れろって言われたが。
そもそも、俺はこいつを拾いはしたが育てるなんて一言も言ってねえぞ?里親探すかもしれないし孤児院に預けるとかするかもしれないだろうが。
ああ?お人よしのお前がそんなことできるわけがない?
...........、なんだろう。負けた気分だ。一言も言い返せる気がしない。
「いい加減そんなところでウロウロしてないで、さっさと子供の機嫌を取りに行きささい。」
「...でも。」
「おっさんがうだうだしてても可愛くねんだよっさっさと行けゴルァ。」
おいおい、人格かわっってんぞ。
「あのですねぇ、今親だと認識されないでいつされるんですか!?今親だと認識されればそれだけ今後の子育てや看病も楽になるんですよ!あんた責任取るんじゃなかったんですか?もうここから責任負わなくてどうするんですか。」
「そ、うだな。」
確かにハヴァルの言うことは尤もだ。
まだ怖がられたわけでもないし、怖がられてもそれだけで逃げるのは無責任すぎるよな。
「まあ、乳幼児なんか動くものを目で追うとかそういう本能的な動物ですからそこまで慎重になり過ぎることもないですよ、多分。」
「言ったな!お前の今の言葉俺は忘れないぞ!もし泣いたらお前のせいだからな!?俺は悪くない。」
「.....ガキか。なんだか貴方が親になるその子供が非常に不憫に思えてきましたよ。」
...最後にハヴァルがなんて言ったのかはいまいち聞こえなかったが、そんなことより俺は子供のご機嫌取りの方が重要だ。
子供の様子をうかがう。狩りだってこんなに慎重になったことないわ、俺。あれだ、仕留めんのは赤ん坊の心だ。なんかちょっとカッコいい。....いや、マジでごめん現実逃避しました。
あれ、思ったよりも怯えられてない?それどころか物凄い見られてる。泣くなよ、泣くなよ?慎重に一歩一歩近づく。子供と視線が交錯する。あー気が遠くなってきた。あの魔獣相手にした方が100倍楽な気がしてきたわ。
慎重に手をのばす。
あ
指、掴んだ。
ヤバい嬉しい超嬉しい。え、俺見て泣かない子供なんて存在したの?この世に?
何この生き物超可愛い。なんか涙出るわ、あれだわ、絶対この子供幸せにするわ。かわいいくぁわぃ
「いだっっ!!何で殴るんだよハヴァル!??」
あ.....調子のって泣かした。