4 規格外の魔獣
おっさん主人公との初対面です。
作中に出てくる魔獣≪ネジィ≫は魔鼠です。結構ちっちゃめ。
.........おかしい。
家の方に近づいていくにつれ魔獣の気配が強くなっていく。
この森に魔獣はいないことはないが、こんなに魔力の多い奴は知らない。森には暫く住んでるが精々小型の≪ネジィ≫のような魔獣にしか出会ったことがない。あれでも普段と違う気配に戸惑ったもんだが....。これはなんだ?あれの比じゃねえぞ。正直今すぐ引き返したい気分だが、しかしなぁ.....。これ以上時間を喰いたくないという気持ちの方が強いのが正直なところだ。
......まあ、あれだ、うん。別に戦わなくても、逃げ切るくらいならできる..だろう。
暫く考えながら歩いていくと視界に銀のような灰色のような何かがうつる。
...あれが魔獣か?.........やばいな...思ってたよりでかい。精々、俺の膝までくらいの大きさだろうと高を括っていたがなんだ、あれ。俺の肩に届く位はあるじゃねえか!!
今更になって今日が不運な日だったということを思いだし、額に汗が流れる。
あー刺激しなければ多分行ける、よな。ってかあれ何でこんなところにいんだよ。子連れか?....ここで子育てでもするようになると少々厄介だな。子供が大きくなる前に追っ払うのが得策か?だったら近い内に何人か呼んで協力してもらう他ねえなぁ。
つらつらと考えながらも魔獣から目をはなさず音をたてないようにゆっくりと迂回する。多分もうこっちに気付いちゃいるんだろうが....来るなよー来るなよ.......っ!?!!
突然魔獣が立ち上がる。
思わず動きを止める。緊張しながら魔獣の行動に注意を向けていると、ふと魔獣の足元に肌色が在ることに気付いた。
「――っ人か!!」
気付いてからは早かった。
迷うことなく剣を抜くと、すらりとした細身の刃を魔獣に向けた。からだの節々が軋むがそんなことに構ってる余裕はない。...ゆっくりと歩きながら近寄っていくと魔獣と視線が交錯する。
立ち止まって射るような視線を正面から受けると、ピリピリとした緊張が肌を刺す。射るような視線から目を逸らすことができない...腹の底から悪寒がはしるが反対に額からは大量の汗が伝った。音が一切聞こえない...この森にあいつと俺しかいないような錯覚に陥る。
.......これ以上続いたら耐えられんぞ!!そう思いながらも長丁場になることを覚悟する.....が、突然魔獣が子供引き連れて踵を返していった。魔獣の姿が見えなくなった途端威圧感が消え一気に力が抜ける。
..................っっはぁーー、つっかれたー。
なんだ、あの威圧感は....?おかしいだろ....っとそんなことより
「おい、大丈夫か!?生きてるか!??」
先ほど見えた人を確かめるために走って近づいていく。折角命張って助けたんだから生きててくれよ...!そう願いながら近づく...が....。
.........は?何でこんなとこに
「赤ん坊がいんだよ.......」
ガントの呆然とした呟きは森に消えた。
■ □ ■
........ぎもぢわるい。
意識だげがぼんやりと浮上するが、指ひとつ動かせない状況は変わらないらしい。
何でこんなに揺れてるんだわたし。
顔に風がふきつける。あれ、顔だけ?からだはさっきよりあったかい。お腹の辺りがごわごわする.......心臓の音がきこえる。あ、これわたしの心臓じゃない....え、じゃあだ.....れ...
■ □ ■
まずい、まずいまずい!!
こんなとこに赤ん坊がいる理由なんざ知らないが少なくとも赤ん坊の状態が悪い!!!
目ぇ閉じたまま動かねえうえに恐ろしいほど冷たい。おいおい、どうすりゃいいんだ!??......幸い此処から家まではそう遠くない、が......この赤ん坊の状態は明らかに異常だ。俺が医者の真似事をしたところで多分助からないだろう。.....此処から一番近くにいる医者は.....あいつか。村に行けばいるよな...?此処からまっすぐ向かうべきか?..............いや。取り敢えず家に帰ってこの赤ん坊の体温を上げるくらいは先にした方がいいだろう。
そうと決まればさっさと家に行くぞ!!
赤ん坊は布にくるまれていたようだが、もうそのほとんどが剥がれかけていた。しかも長時間放置されたのか微かな尿の臭いと吐瀉物がこびりついている。布は濡れていて使い物にならないと判断した俺は首に巻いていたスカーフをはずして赤ん坊を丁寧に包む。そのまま赤ん坊を抱えて全力で家に向かった。
□
ッバン!!
焦っていたためか、思った以上に扉が強く開いた。
真っ先に暖炉に火を付け椅子を持ってくると、その上にスカーフごと赤ん坊を乗せる。
.....湯でも沸かして浸けた方がましかもな....
ガントは突っ立って考えてから水を汲みに外に出た。
井戸近くまで行くと木々の間から夕日が覗いていた。
.......「大変な1日だったなー・・・」
赤ん坊のことを忘れた訳ではないが思わずそう呟く。呟きながら水を汲み終えると再び気合いを入れ直しガントは家に向かった。
汲んできた水を火にかけると赤ん坊の様子を見に暖炉に向かう。
凍るような冷たさだった赤ん坊はさっきよりはマシになっていた。火にかけた水が温まるまではまだ少しかかるだろう。いい加減疲れていた俺は手近にあった木箱に座り赤ん坊をまじまじと見る。正直慌てていて赤ん坊を観察するどころじゃなかったからな...
赤ん坊はまだ1歳にも満たないように見える。髪は赤茶色か?....赤というよりは朱色に茶色混ぜたような感じか。どちらにしてもこの辺じゃ見ない色だな。この辺のやつは大抵黒っぽい髪の色してるからな。しかもこんなに鮮やかじゃなくて少しくすんだような色だ。貴族はもっと派手な色してるやつもいるが...まさか貴族の子か?いや、それはないな。貴族の子供の使い道ってのは山ほどあるはずだ。男なら後継ぎ、そいつの補佐。女なら政略結婚に利用されるだろう。よくは見なかったがこいつが包まれてた布は高級なもんじゃあなかったしなぁ。いやでも、農村じゃあ子供は立派な労働力だ。....そうなると.....分からん。ここまでは予想できるがこれ以上は考えても無駄だろう。俺は本来考えるのは専門外なんだよ。.......ぁああ!!!!いつの間にか火にかけてた水が沸騰しちまってるっ!!!
...........はぁ、水もう一回汲んできて足すしかねえか。
□
水を足し適温にした湯を桶にはり、そこにスカーフを外して赤ん坊を浸けた。頭の方を支えないと不味いことに今さら気がつく。赤ん坊の頭って以外と重いんだなぁ……俺、まだ未婚なんだけどな…くっ、結婚前に赤ん坊の扱いを知るってのは非常に微妙な気分だ。まぁ結婚に関しちゃあまり積極的ではないけどな。..........あ..こいつ女の子だったのか。....いや、物凄い今更なんだがね。だって今の今までわざわざ確認するようなこともなかったしな。
しばらく浸けると赤ん坊の頬に赤みがさしてきた。....ここまでやったら、俺にできることはもう無いだろう。....はぁ、憂鬱だがあのぼったくり医者の所まで行くか。.......すっごい憂鬱だ。
赤ん坊を湯からあげて布で水をふき、清潔そうな厚手の布を引っ張り出してきてから暖まった体が冷めないように巻いた。よしっ、これで俺の上着の中に入れて走れば冷めることもないだろう。
赤ん坊の頭が落ちないように抱き上げて上着を手に取ると俺は村に向かって足を早めた。
現在、視点の切り替えが激しいですが後半は主人公視点多めにしたいです。
まぁ、問題は私の文章力なんですが(お察し