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決め手の一言

作者: ねぼすけなうさぎ

食前・食後の方は、あまり読むのをおすすめしません。


結婚するならどんな人がいいか。

王子様のような人や御曹司と結婚したらどうしよう!?などと笑い、異世界にトリップしてイケメンと結婚という可能性も!! と夢見たのは、セーラー服を着ていた時分。

学生時代を経て社会人になった私が結婚したのは、王子様でも御曹司でも英雄ヒーローでもない、一人の男性だった。





     決め手の一言





結婚三年目。

旦那さんのために昼食を作り置きし、久しぶりに会う、気の置けない独身時代からの女友達との女子会に向かった。

場所は、ヘルシー志向かつ時間制限なしのビッフェバイキング。

もちろんちょっとしたスイーツもある、お値段も手頃という場所。

流石に休日のお昼ということで混んでいたが、集合時間を早めにしたせいかそれほど待たずに入れた。


「で、真奈美はどうして旦那さんと結婚したの?」


質問は、絶賛婚活中の友人からだった。

他の既婚者の友人たちは、子供が出来たから、結婚資金が溜まったから、と語り終えていた。

私の場合はどうだったか。

結婚を決めた時よりも、結婚式の準備や、新たに二人で生活していくための準備の忙しさがより脳内に色濃く残っている。


「そう・・・ねぇ。」


私の旦那さんは、高収入とは到底言えない。

低すぎるほどではないが、二人で働けばそれなりに余裕のある生活が出来るかなぁ という程度。

容姿だって、カッコイイわけではない。平凡・・・だと言いたい。

身長は私よりは高いが、男性の中でも高い部類には入らない。

普段の格好も、いい風に言えば服にこだわらない。

はっきり言えば、ダサい。

私も特に気にする方ではなかったが、付き合いだしてからお互いの部屋を行き来するようになり、何故こんな配色の服を買ったんだ!? とばかりな服を発見したときは声を失った。

絶句 とはこういうことを言うのか と、脳裏に浮かんだ。

どうやら、デートの時にはこれとこれ! と見かねた友人がコーディネート表を作ってくれていたらしい。その旦那さんの友人には今でも深く感謝している。


「えっ、あの、そこまで・・・ダサいの?」

「今は、どう合わせても無難にしかならないのしか買ってないし、すごい配色の服たちは全て内密に処理したから。」


旦那さんには悪いけど、世間の目というものがある。世界は狭いのだ。


「真奈美も大変だったのね。」

「いや、私もそこまでこだわる方じゃないから別に良かったんだけど、旦那さんの職場の人の目を考えると・・・嫁としての努力?」

「良妻がここにいる。」

「良妻の真奈美にこのオリーブをわけてあげよう。」

「それはあんたが苦手なだけでしょ?」

「バレたか。隠れてて入ってたのに気づかなかったんだって!」

「はいはい。」


笑い合い、自分のお皿に移ってきたオリーブを食べる。


「うん。美味しい。外食も久しぶりだわ。1年・・・ぶり?」

「「「え?」」」


きょとん とこちらを見る友人たちにこ首をかしげる。

そういえば言ってなかっただろうか、私の旦那さんの性格。


私の旦那さんは、ぼうっとしている。

ずっとぼうっとしてる訳ではないが、休みの日はのんびりと家で過ごしたい人らしい。

もちろん、出かけたいといえば一緒に付き合ってくれるし、一緒に楽しめるが、基本的には家でのんびりすることを好む。

特に家でのんびりとお酒を飲むことが大好きだった。

そんなに強いわけではないので、すぐに酔ってしまうのだが、飲酒運転が厳しく取り締まられる現在では、車での移動が多い外出先での飲酒は出来ず、結局は出かけても家でご飯を食べるのがいつもの流れとなった。


「真奈美の作るご飯が好き なんて言われると、悪気はしなくて、つい・・・。」

「毎食毎食、疲れたりはしない?」

「あぁ、手抜きもよければ、スーパーの惣菜でも気にしないみたいだから、そこは手の抜き用は色々あるんだけど・・・」

「たまには、外食もしたいわよね~。」

「そうそう。」

「作るのも嫌いではないからいいんだけどね。レパートリーが多いわけでもないのに、文句も言わず食べてくれるし。」


そう話して、友人たちもうちの旦那は~ と話が広がる。

頷き、笑い、そして最初の言葉が友人の口からまた出た。


「で、真奈美はどうして結婚したの?」


一緒に暮らしていて、妥協できる範囲の男性だったから?

もうお互いにいい年だったから?


あぁ、そうだ と思い出し、今思えばあれがプロポーズの言葉だったのだろうかと思い至る。


「旦那さんね、『どんな時でも、僕がゴキブリを殺してあげる。』って、言ってくれたの。」

「・・・それって、えーと、黒い悪魔?」

「台所の?」

「頭文字はGであってるわよ・・・ね?」

「そう。まぁ、ヤツ以外でも虫全般に対しての意味なんだけど。」

「そういえば、真奈美の住んでる所って結構虫が出るんだっけ。」

「小さいけど公園が近くにあるから、結構ねぇ。近所に犬飼ってる人もいて、その人が言うには犬のエサ目的に野良Gが飛来してくるって暗い口調で言ってから、野良もいると・・・」

「あー・・・。」

「デザートまで済んだあとでよかったわ。」

「ご、ごめん。」

「いや、真奈美が悪いわけじゃないから。」


どうしても苦手なもの。それが虫だった。

だからその一言を旦那さんに言われたとき、思ったのだ。


「結婚しよう って。」

「ちょろいのかなんなのかわからない・・・。」

「真奈美、本当に虫が苦手だよね。」

「ドキュメンタリードラマとかは大丈夫なんだけどね。実物はどうしても・・・」

「私も苦手だけどそれほどではないかなぁ?」

「私なんか、スリッパで一発よ。」

「もうあんたんちのスリッパ、絶対にはかないし、近づかない。」

「こ、言葉の綾だって!いつもはちゃんとハエたたきだから!!」


楽しい会話に笑い、紅茶を一口飲む。

本当は、結婚しようと明確に思ったわけではない。

けれど、この人とならこれから一緒に生きていけるかも と心に浮かんだのは本当。

実際に今でもその言葉通り、旦那さんは寝ていても酔っ払っていても、私が頼めば退治してくれる。


「それが、決め手の一言・・・かなぁ?」


そうなんだぁ と婚活中の友人はつぶやき、口を閉じた。




久しぶりに会った友人たちとの女子会から帰宅すると、おかえり という返事がないことに気づき、旦那さんの姿を探した。

ソファーに横になり、うたた寝をする姿は子供のようで、くすりと笑って近づいた。


「こんなところで寝てると風邪ひいちゃうわよ~。」

「んっ・・・・・・あぁ、真奈美・・・・・・おかえり。」

「ただいま。変な寝かたすると、身体痛くなっちゃうよ?」

「うん。起きる。」


まだ寝起きで頭が働かないのか、ソファーに座り直してぼんやりと目を瞬かせる。

隣に座り、そっと頬にキスをした。


「どうしたの?」

「いいえ?なんでも。」


ふぅん? と言いながらもくすくす笑う私を不思議そうに見つめる旦那さん。

何だかんだ言ったって、やっぱり私はこの人が好きなのだ。

王子様でも御曹司でも英雄ヒーローでもない、私だけのたった一人の騎士ナイト



これからもよろしくね。私の騎士ナイトさん。








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[一言] 心がほっこりして、素敵なお話でした!
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