それから
「りっちゃーんっ、久しぶり!」
口無霖が管理を任されている『吸血鬼の村』に、雰囲気にそぐわない呑気な声が響き渡る。
玄関の扉を開け、迎え入れたその人物は常に得体の知れない表情を浮かべた怪しげな男性だ。名を可ノ瀬朧と言い、シャドウ・システムにおける霖の先輩である。
「……何かご用ですか」
対する霖の反応は、可ノ瀬との温度差を誰もが感じられるほどに静かなものだった。
「あーちゃん、いる?」
「山茶花さんと共に出掛けています。僕でよろしければ、用件を伝えておきますが」
「あっ、そうー。なら、丁度良いや」
「?」
可ノ瀬はにんまりとした表情を崩さないまま、霖にゆっくり問い掛ける。
「最近、なっちゃんの姿が見えないんだよねぇ。あれから吸血鬼退治に来てるぅ?」
霖は「ああ」と肩をすくめ、洋館の裏にある小屋を指差す。その小屋は、可ノ瀬が吸血鬼村の管理を任されていた時には、なかったものである。どうやら霖が個人的に建てさせたものらしい。
「夏来さんは定期的に吸血鬼退治にいらっしゃるので、さすがの僕も煩わしく思ってきましてね。杏さんとの2人だけの生活を邪魔されたくないので、あそこに閉じ込めることにしました」
「中、覗いても大丈夫かなぁ?」
霖は灰色の瞳を可ノ瀬に向け、無表情のままこう答える。
「構いません。元より、公開実験を行うつもりでしたので。その時にはもちろん、可ノ瀬、貴男もご招待致しますよ。特等席を用意します」
「本当ぉ? アリガトー。じゃあ、楽しみは公開実験にまで取っておくことにするよぉ」
可ノ瀬は陽気に笑いながらも、小屋から漏れ出る嫌な気配に眉を潜めていた。
「りっちゃん」
「はい?」
帰ろうとした可ノ瀬は、すぐに立ち止まって霖に振り返る。
「結婚式、呼んでねぇ」
それまで無表情であった霖は、この言葉に初めて感情のある表情を見せる。それは驚きや喜びとは違う、不安げなもの。しかしすぐに無表情に戻り、こう言った。
「……考えておきますよ」
「ひどーい!」
可ノ瀬が帰った後、誰もいない静かな洋館にて霖は溜め息を吐く。
(結婚式……か。僕らは、果たしてあの姉弟のように幸せになれるのだろうか)
そんな資格はあるのだろうか。
少し物鬱気に見上げた空。窓ガラス越しに見えるのは、青空にポツンと浮かぶ、黒い影。
“あ、お姉様のご帰還だわぁ”
霖の足元からその声は聞こえる。霖はフッと微笑むと、庭に出て頭を下げる。
「ただいま、霖」
黒い影の正体はドラキュラだ。その背から飛び降りた女性を霖はしっかりと抱きとめた。
「おかえりなさいませ、我が麗しき姉よ」
この後、午後14時から『影操師 短編集。』の、
『影操師 ー絶対の血ー』が完結したけれど、祝いどころの騒ぎじゃないんです。
を更新します。よろしくお願いいたします。
そして! 明日(1月8日)午前10時からは、『影操師 ー人形師ー』が連載開始します。
『影操師 ー誕生と目覚めと、大切なキミ。ー』の主人公だった赤い髪の双子が出てきますが、主人公は別の子です。
よろしくお願いいたします(*^ω^*)




