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影操師 ―絶対の血―  作者: 伯灼ろこ
 第三章 血の契約
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 3節 絶対命令

 吸血鬼の目撃談が多い中央通りを歩きながら、さくらがぼやく。

「もう。寝る時くらいは安心して眠らせてもらいたいものだわ!」

「じゃあ、組織の資金で宿の空室を全て貸し切りにしたら? これなら、吸血鬼が泊まりにきても『申し訳ございません。満室ですので、他をあたって下さい』ってならない?」

「あっ! 杏ってば、それ頭良いー!」

 そんな17歳の女の子の浅はかな考えを可ノ瀬に伝えてみたところ、返ってきたのは呆れの言葉だった。

「そんなことしてさぁ、吸血鬼を始末するチャンスをみすみす逃すわけぇ? それに、吸血鬼をよその宿へ行かせるってことは、より多くの被害者が出るってことだよ。キミたち、自分が正義の味方だってことを忘れないでね」

 可ノ瀬の言うことは尤もであり、杏とさくらは自分の立場をわきまえていない軽率な発想だったと反省する。

「あーあ。口無さんならきっと、わざと吸血鬼を招いて捕まえて拷問。吸血鬼の始祖や巣、能力の具合など色々聞き出すんだろうなぁ」

「拷問能力に長けてない私たちは、地道に殺していくしかないわね」

 そろそろ陽が沈む。さくらは中央通り、可ノ瀬はスキー場のペンション、そして杏は墓場の各々の持ち場にて待機する。人里を離れ、明かりが届かない墓地はそれだけで不気味だ。

“吸血鬼対吸血鬼か。これは見物だな”

「なによ、まるで他人ごとね」

 杏は頬を膨らませ、周囲を確認する。

「辺りは墓、墓、墓、墓……。吸血鬼が好むような生き血は無いわよ……」

“吸血鬼が生き血だけを求めてるとは限らない”

「ということは?」

“さぁ。それは――吸血鬼本人に聞いてみてはどうだ”

 殺気を感じる。それは刃のようにこちらへ放たれるが、ベリアルの殺気がそれを相殺する。杏は急いでヴォレミアを握り締め、殺気の出所を探す。

「こら! こんな真夜中に何をしている。吸血鬼が出るから、夜は出歩いてはいけないと言われているだろ!」

 眩しい光が杏の顔を照らす。あれはライトだ。2つのライトの光が逆光になり、それがどんな姿をしているのかわからない。

「早く帰りなさい。……ん? 手にしているのは何だ。刃物か? おい、銃刀法違反だぞ」

 どうやら警察のようだ。しかし。

「法律違反者には、罰を与えねばな」

 ライトの光がぐにゃりと歪む。いや、ライトではない。それは――<目玉>だった。

「!」

「ただし、血を分けてくれたら見逃してやらんこともない」

 警官は、何故か頭部が黒いビニール袋で覆われている。その隙間から垂れ下がった2つの目玉は、直径50センチほどに肥大化していた。

(……1人か)

 杏は墓場を再び見回し、警官と自分以外に誰もいないことを確認する。

「よく見えるぞぉ。美味しそうな娘だ。どんな血の味かなぁ」

 ぎょろぎょろと動く目玉を見下ろし、杏はフンと吐き捨てるように笑い、こう言う。

「私の血? 弟に言わせると、野菜ジュースらしいわよ」

 杏は地面を蹴り、警官のフリをした吸血鬼との距離を詰めると瞬時にヴォレミアを振り払う。

「?! なにっ……」

 ヴォレミアは吸血鬼の腹を斬りつける。だが杏が狙っていた目玉はヒョイと上へ逃れ、ヴォレミアから逃れていた。

「ちっ。すばしっこい目玉だこと」

「その機敏な動き、殺陣能力……お前、シャドウ・コンダクターか!!」

「ご名答。我が母なるシャドウ・システムの命により、お前たち吸血鬼を始末しにきたのよ」

 杏は左手で吸血鬼の首を掴み、伸びた爪をズブズブと肉に食い込ませる。

「うぐっ……あ゛あ゛ああっ」

(霖が拷問能力に長けてるなら――)

 杏は声を高くし、甘い色を出す。

「痛い? 痛いわよね。痛くならないようにしてほしい?」

 ビニール袋に覆われた頭部が何度も頷く。

「じゃあ、貴男がどうしてこんな餌の無さそうな墓場に出没したか教えて頂戴?」

「ち……血、吸うだけが……吸血鬼のやり方じゃない……。仲間、を増やす」

「仲間は、血を吸えば増えるんじゃないの?」

「……それ……以外に、俺、の、ように」

 その先が早く聞きたい。杏は急かすように左手に力を込めた。すると、ポキリと折れた警官の頭部がコロコロと地面を転がる。杏は「……しまった」と歯軋りをする。

 杏は胴体を蹴飛ばすと、転がる頭部をブーツの先で止める。頭部を覆うビニール袋をゆっくりと捲ってみると、ナカには干からびてミイラのようになった頭があった。

「なにこれ……」

“拷問は失敗だな。霖なら、もっと上手くやるだろう”

「うるさいわね。チャンスはまだいっぱいあるわ!」

 しかしその日は、墓地に警官以外の吸血鬼は現れなかった。警官の遺体を燃やし、戦利品も何も無い状態でトボトボと宿へ戻った杏に対し、中央通りから戻ってきたさくらは少々興奮状態だ。

「何かあった?」

「聞いてよ! ヒトが吸血鬼に血を吸われる様子を見ちゃったー!」

「どうして助けなかったのよ……」

「色々考え事しててさ。私が気付いた時にはもう手遅れだったのよ。でも、そのお陰で吸血鬼の巣が分かっちゃったかもー!」

 人差し指をピッと立てるさくらに対し、同じく戻ってきた可ノ瀬がにんまりと笑う。

「へぇー、それはすごい発見だぁ。いきなり大穴じゃん。巣の場所を懇切丁寧に教えてよぉ」

「それがねー、ちょっと、殴り込みにくい場所なのよ」

 さくらは床を指差し、

「この下」

 と言った。

 背筋が凍りつくような寒さを感じ、杏は慌ててベッドの上に乗る。

「あはは、杏ってば怖がり! この下って言ってもね、霜蘭島全体の地下ってことなの」

「さくら……。懇切丁寧に……お願い」

「うん。血を吸われたヒトはね、倒れたまま1分くらい動きを停止するの。その後、芋虫みたいな動きで地中に潜っていったのよね。吸血鬼も被害者の後を追って地中に。その場所へ近付いてみたんだけど、そこにはヒトが1人通れるくらいの幅のマンホールがあってさ。やつらは地中に潜ったんじゃなくて、マンホールの中に入ったのよ」

「マンホールってことは、地下水路ね」

「そ。つまり吸血鬼は地下水路を巣にしてるわけ。でも地下水路は島全体に広がってるわ」

 地下水路が巣とは、確かに殴り込みにくい。派手な戦い方をすれば、水路が破壊されて島全体が水浸しになる上に水の供給が不可能になる。復旧にもかなりの年数を要することになるので、巣を叩くにはかなり慎重に行わなくてはならない。

「ボクらは、巣が空になるまで気長に戦い続けるしかないってことなのかなぁ。他に手段はないものかねぇ」

 このままでは、吸血鬼を狩るよりも被害者が増える速度の方が早くなる。3人は頭を抱えた。

「あー、ムリ。頭がパンクして湯気が出ちゃうよぉ」

 可ノ瀬は問題を放り投げて「おやすみー」と言って一足先に部屋へ戻った。

「確かに、頭を休めた方が良いアイデアが浮かぶかも。じゃ、杏。私も寝るね」

 流れ解散のようにバラバラになった3人。杏は巣の問題に加え、墓地での謎も解き明かせないまま、朝を迎える。

 吸血鬼の活動時間となる夜までの時間を無駄にしない為、杏は島の図書館へと出向く。さくらが一緒に付いてきたのは言うまでもない。

「吸血鬼のことでも調べるつもり? でもアレ、吸血鬼型ってだけで、本当は影人だからね」

「分かってる。でも吸血鬼型ってことは、吸血鬼と同じ習性をしてるってことでしょ? 第三者の書物も少しは役立つかなって」

「そういうものかなぁ?」

 吸血鬼に関する書物は極秘扱いとなっており、図書館の地下にある書庫へと行く必要があった。吸血鬼に関する本を読みたいと言うと、司書は明らかに顔をしかめる。そこはさくらの執拗なまでの粘り強さの出番であり、書庫を案内してくれるまでカウンターの前から動かなかった。

「さくら、貴女のその執念深さには感服するわ」

「あはは、本当は組織の薬を使った方がスムーズなんだろうけど、私は出来るだけ自分の力で第三者を操作してやろうと思ってさ」

 さくらはニッと笑い、その元気良さに杏もつられて笑顔になった。

(友達……かぁ)

 書庫は、普段から出入りが無いらしく、かなり埃っぽい。空気も澱み、マスクがないと呼吸すら困難となるほどだ。杏は咳き込みながらも目的の本を根気よく探す。

「ね、杏。調べものが終わったらショッピングに行きましょうよ」

「さくら。私たちが霜蘭島へ来た目的を忘れたの?」

「もちろん忘れてないわよ。でも吸血鬼の活動時間は夜だけだし、明るい間は遊んだって良いじゃない。それくらいの娯楽がないと、正義のヒーローはやってらんないわぁ」

「貴女ね……」

「あ、遊ぶって言うのは語弊があったわね。ちょっとした買い物!」

「また今度ね。今夜は私、墓場でやらなくちゃいけないことがあるから」

「ぶー。いいよー。どうせ霜蘭島には長期滞在になるだろうしぃ」

 さくらは頬を膨らませ、どうでもよさそうな本を開いては飛び出してきた埃に咳き込んでいた。そんなさくらを見て杏は微笑み、調べものを続行する。

“杏。昨晩の吸血鬼について、何か閃きでもあったのか”

 書庫に、ベリアルの低い声が響く。

「うん……ちょっと。やつ、血を吸う以外で仲間を増やすとか言ってたでしょ? その方法を調べてるのよ」

“ふむ”

「ベリアルが言っていた通り、吸血鬼たちは生き血以外も求めている……」

 古い本をパラパラと捲り、杏と目にとまったのは墓場の挿し絵だ。墓場には吸血鬼が立っており、手から滴る己の血を墓の中に染み込ませている。次のページでは、吸血鬼の血を浴びた死者が地中より蘇っている様子が描いてある。

「なるほど……!」

 杏は本をパタンと閉じ、声をあげた。

「なになに? 大発見でもした?」

「そう、大発見なのよ、さくら……!」

 その日の夜、杏は墓場にてある仕掛けを施した。

「この導火線に火をつけたら、墓場全体が燃える仕組みになってるの」

“昨晩の警官は、吸血鬼により蘇生されたゾンビというわけだな”

「吸血鬼は仲間を増やしたいらしい。その方法は、血を吸った人間を仲間にするだけでなく、死人までをも……」

“死人の仲間だけでも増やさない為に、この墓地に眠る全ての死体を全て焼き払わなくてはならない、とな。しかし、なら何故、今すぐ導火線に火を点けない? 吸血鬼の出現を待つ必要など無いだろう”

「ちょっとね……吸血鬼に聞いてみたいのよ」

“何をだ?”

「お前たちの血に、どこまでの力があるのか……って」

“それは”

 杏は岩に腰掛け、月を見上げる。今宵は満月だ。

「だって、死人を蘇生することが出来るんでしょ? まぁ、あくまで細胞を蘇えらせただけで、魂は宿ってない木偶人形だろうけど、それでも凄まじい力だわ。私の血に宿る絶対的命令拘束力と、対決してみたいなぁって」

“杏、お前は吸血鬼なんぞと比較すべき下等な存在ではないぞ”

 ただぼんやりと月を見上げる杏。言うことを聞きそうにない主人に、ベリアルは溜め息を吐いた。

“ん? なんだ、この気配……”

 ベリアルが何者かの気配を察知する。杏は導火線を手に握って立ち上がり、暗闇に目を凝らす。

「吸血鬼?!」

“いや。もっと別の――なんだろう、影人の気配よりも、何かが恐ろしい……”

 煮え切らない反応のベリアル。杏はキョロキョロと辺りを見渡し、気配ではなく肉眼でその何者かを察知しようとする。

「どこにいるの? 出てきなさい。出てこないなら、こっちから行くわよ!」

 杏は左手に導火線を、右手に吸血剣ヴォレミアを握った。

“杏! 後ろだ!!”

「――また随分と活発な女性になったものだ」

 ベリアルの声は数秒、遅かった。

「それとも、それが本来のお前なのか?」

「――――?!」

 きゅぽ、とコルクが抜かれるような音と共に、自分の口の中に流し込まれる液体。それは喉を通り、食道、胃、身体全体へと速やかに行き渡る。

 杏は目を見開き、今、自分が誰に何をされたかを悟る。だが、もう全てが遅い。

「杏……」

 耳元で囁かれる名前。そして――。

「お前に絶対命令を下す」


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