第24話 ボーンズの悲劇1-徹底抗戦
大太鼓の音が戦場に轟いた。
それとともに、その大太鼓の音を圧倒するような鯨波が上がる。それを発するのは、武装した大勢の人間であった。
彼らは聖戦軍である。
その人数は少なく見積もっても十数万人。それだけの人間がいっせいに発する鬨の声が起こす空気の振動は、まさに鯨が起こす波のようであった。
断続的に叩かれていた大太鼓の拍子が次第に間隔が狭まり、ついには狂ったような乱打へと変わる。そして、それが最高潮に達したとき、一拍の間を置いて、一際大きく強く叩かれた。
「かかれーっ!」
その太鼓の音を合図に各所に配置された指揮官たちが次々と突撃の号令を上げれば、聖戦軍の兵たちは地鳴りのような轟音を上げて突撃を開始した。
彼らが突撃する先にあるのは、大きな都市である。
西域での呼び名は、ボーンズ。
高く厚い防壁を有する難攻不落として名高い城塞都市であり、先に聖戦軍によって陥落させられた港湾都市ルイズベンと西域を横断する公路とを結ぶ旧ロマニア国東部の要衝として知られる都市である。
押し寄せてくる聖戦軍をボーンズの街に立て籠もるエルドア国側が迎え撃つ。
「撃てーっ!」
防壁の上から発せられた号令とともに、無数の矢が雲霞のごとく湧き上がり、突撃してくる聖戦軍へと降りそそいだ。
その矢を受けて聖戦軍の兵士がバタバタと倒れる。しかし、それだけでは聖戦軍の勢いは止まらない。止まれないのだ。倒れた味方の死体を踏み潰し、次から次へと湧いて出るように聖戦軍の兵士が押し寄せてくる。
そして、ついにその先陣が防壁までたどり着く。
彼らは持ち運んだ梯子を防壁へ立てかけ、または鉤縄を投げて防壁を乗り越えようとする。
当然、ボーンズ側も、それを黙って見ているわけではない。
登らせてはなるものかと、ボーンズの兵士たちは防壁の上を駆け回り、かけられた梯子を蹴倒し、鉤縄を切り捨てた。それに対して聖戦軍もまた、矢や投石を放って邪魔をする。
聖戦軍が攻城塔を持ち出せば、ボーンズ側は防壁に持ち上げていた投石機からの投石をもって、それを打ち壊す。屋根付きの破城槌が門を打ち破ろうとすれば、ら油壺を投げ落として、それを焼き落とした。
そんな一進一退の攻防が終わることなく繰り広げられた。
開戦時には、これより中天へと上ろうとしていた太陽が、いよいよ西の空で赤みを帯び始めようとした頃である。戦場に大きな角笛の音が響き渡った。
角笛の音が繰り返し吹き鳴らされるたびに、聖戦軍が発していた怒号が静まっていく。それとともに聖戦軍は後方の兵から退き始め、ついには最前線にいた兵たちまでもが撤退する。
そして、ボーンズの街から歓声が上がった。
◆◇◆◇◆
「これだけの兵がいながら、今日も防壁ひとつ乗り越えられんとは、いったいどういうことだっ?!」
夜の帳を押しのけるように、無数のかがり火が赤々と焚かれる聖戦軍の野営地で、一際大きな天幕の中から怒号が発せられた。
それを発したのは聖戦軍に参加する諸王のひとりである。顔を真っ赤にして怒鳴るその王に、同じく王のひとりが苦虫を噛み潰した顔で言う。
「どうも何も、貴公も承知であろう。あの防壁の厚さと高さは、如何ともしがたい」
また、その王の意見に別の王が補足を加える。
「それだけではない。問題は、中に立て籠もる連中の意気の高さだ。すでに五ヶ月近く包囲し、攻め立てていると言うのに、一向に意気が落ちん。奴らめ、まさに決死の覚悟を決めておる!」
そうなった原因は彼らも承知していた。
先に落とした港湾都市ルイズベン――大陸中央読みではリュッベンでの自分らが起こした惨劇のせいである。飢餓の末に人肉食まで至ったリュッベンの惨劇を聞けば、ボーンズの中の人々もとうてい聖戦軍へ降服する気にはならないだろう。
それこそ決死の覚悟で戦わざるを得なくなる。
そして、それが現状なのだ。
続いて何かを発言しようとしていた王のひとりの機先を制するように、どこからか悲鳴や怒号が聞こえてきた。
それに何かを察したように苦虫を噛み潰した顔になる諸侯諸王の予想を裏付けるように、天幕の中に兵が飛び込んでくる。
「恐れながら申し上げます! 敵の夜襲です!」
「見張りは寝ぼけていたのかっ?! それとも目をどこかへ落としたかっ?!」
王のひとりが椅子を蹴立てて立ち上がると、目の前の卓を殴りつける。
「今度は、どちらだっ?! 前か、後ろかっ?!」
「現場は混乱しておりますが、おそらく街からのものだと思われます!」
王の癇癪を恐れて平伏する兵に向け、その王は天幕の外を指さす。
「早く迎え撃てっ! ひとりも逃すなっ!」
その声に打たれたように身体を震わせた兵士が天幕から飛び出していくと、その王は大きなため息とともに乱暴に椅子へ腰を落とした。
聖戦軍がボーンズの街の攻略に手こずっている要因のひとつが、繰り返し行われるエルドア国軍の夜襲である。
ゾアンの戦士たちを中心として編成されたエルドア国の部隊が、夜ごとにどこからともなく音もなく現れては夜襲を仕掛けてくるのだ。
しかも、それは後方に限ったことではない。
夜襲は、前方のボーンズの街からもである。
ボーンズの街を囲む防壁にはいくつもの防御塔があり、その根元には頑丈な作りの通用門が備えられていた。ボーンズの街に立て籠もるエルドア国軍は、その通用門から忍び出し、夜陰に乗じて聖戦軍の野営地を襲撃してくるのだ。
当然、聖戦軍も兵数の多さを活用して通用門すべてに見張りを置くなど対策は取っていた。だが、エルドア国軍が利用しているのは、人ひとりがやっと通れる小さな通用門である。それを街の防壁から放たれる矢が届かない距離にある野営地から遠目で見張るには限界があった。夜襲を仕掛けてくる敵も少数ということもあり、なかなか事前の発見には至っていないのが実情である。
「しかし、何と豪胆な奴らだ」
数十万の敵に囲まれている状況でありながら、防壁によってただ立て籠もるだけではなく、わずかな兵だけをもって夜陰に乗じて襲撃をかけてくる。
その行動に聖戦軍の将軍のひとりが思わず賞賛を口にしてしまう。だが、すぐにそれが失言だと気づき、その将軍は慌てて咳払いをしてごまかした。もちろん、その程度でごまかされるものではない。だが、聞いていた諸侯諸王らも同じような想いだったため、あえて失言を追及する者はいなかった。
代わりに困難な現状から妥協案が出される。
「このままではこちらの被害が増えるばかりだ。いっそのこと、この街は兵を置いて封鎖するにとどめ、本隊は進軍させた方が良いのではないか?」
「論外だ」
即座に否定の声が上がった。
「後方に敵を残して先に進めと? 今は街に籠もっている連中が討って出てくれば、我らは敵地深くで補給線と退路を失い、再びあの飢餓に苛まれるぞ!」
その場に居合わせた諸侯諸王らは、ルイズベンの街での惨劇を思い出し、ぶるっと身体を震わせた。
ルイズベンの惨劇は、もはや聖戦軍にとっても心的外傷である。補給線と退路を確保できなければ、とうていこれより先へ侵攻することなどできなかった。
さらにボーンズの街は旧ロマニア国東部の要衝として西域を横断する公路のみならず、いくつもの街道の合流点ともなっている。そのボーンズの街を陥落させ、そこを物資の集積所とすれば、大軍の利を活かして広範囲からエルドア国の中央へ攻め上がることができるのだ。
それだけに聖戦軍としては、何としてでもボーンズの街を攻め落とさねばならなかった。
そのため、必死の抵抗を続けるボーンズの街は、今や聖戦軍の侵攻を塞ぐ栓のような役割を果たしていたのである。
ままならない現状に、議論が閉塞しつつある雰囲気を変えるべく、王のひとりが声を上げる。
「敵は蛮族ながら強く狡猾であることは認めよう。――だが、我らが軍は数十万。我らの優勢は揺るがぬ。このまま攻め立て続ければ、街を落とせよう」
その意見に異論は上がらなかった。
いくらボーンズの街のエルドア国軍が精強であろうと限界はある。大軍であるため兵を交互に休めさせて体力と気力を取り戻させながら間断なく攻め続けることができる聖戦軍に対し、エルドア国側は常に総力戦状態である。このまま攻め立て続ければ、遠からずエルドア国軍も意気は尽き、体力も使い果たし、立つことすらできなくなるだろう。
そうだとうなずき合う諸侯諸王らの間から、ぼそっと声が上がる。
「だが、それはいつだ?」
それに天幕の中に暗澹たる雰囲気が満ちた。
確かに時間をかければ、ボーンズの街は落とせる。
だが、聖戦軍の諸侯諸王らには時間がなかったのだ。
港湾都市ルイズベンまでやってきたアウストラビス大神官からはいつになったら破壊の御子の首を人間の神に捧げられるのかという矢の催促。信仰心が足りていないのではないかと問われれば、背教者にされてはたまらないと必死の攻城戦を挑まねばならなかった。
また、ルイズベンの港に、皇祖ロムス号が率いる帝国海軍の船団がついに到着したという報せもある。
個人の武勇が尊ばれる時代においては集団戦にしかならない海戦は見下されており、海軍の将兵は帝国軍の中でも地位が低い者たちばかりであった。そんな海軍が、皇帝自身は乗艦せずとも、その御旗を掲げる皇祖ロムス号とともに敵国の後背を突くという大命を拝したのである。これには海軍も陸より先んじてエルドア国の王都へ攻め上がってみせると気炎を上げているという。
もし、それが本当に実現でもしようものならば、現在ボーンズの街を攻略中である聖戦軍の面目は丸つぶれである。これまでひとりでは戦えない臆病者の集団と揶揄していた海軍に後れを取るなど許されることではなかった。
しかし、それらはまだマシである。
聖職者であるアウストラビス大神官ならば戦術や戦略といった言葉を使えば、ある程度は丸め込めた。また、海軍も全員が船から下りて陸に上がるわけにはいかない。いくら大艦隊と言えども、そう簡単にエルドア国の王都へ攻め上がれるだけの兵力がいるとは思えなかった。
では、何が問題かというと、それは先日彼らの下にやってきた先触れの兵である。
「このままでは、バグルダッカ大公閣下がやってきてしまうぞ」
ルイズベンの街を落として以降は、ボーンズの街攻略もそっちのけで好き勝手に聖戦軍本隊から離れて行動していたバグルダッカ大公クロゥから、突如本隊と合流する旨が告げられたのだ。
しかも、それまでにボーンズの街を落としていなければ、ルイズベンの街と同様に自身が指揮を執るという脅し付きである。
これに聖戦軍の諸侯諸王らは恐慌状態に陥った。
せっかく四ヶ月以上の月日を費やし、多くの兵を失いながらも街を攻略せんと戦ってきたのだ。それをこの期に及んで、すべてをクロゥに奪われてしまうわけにはいかなかった。
そればかりではない。あの味方を味方とも思わぬ暴虐無尽のクロゥである。下手をすれば防壁攻略のために、民衆聖戦軍の平民たちばかりか自分らまで無謀な特攻をさせられた挙げ句、防壁を乗り越えるための足場にされかねなかった。
そんな想像に諸侯諸王らが怖気を振るう中で、ひとりの若者が声を上げる。
「発言をよろしいでしょうか?」
それは帝国の選帝大公家のひとつワイザン大公家のアルフェリウス・ワイザンである。
これに諸侯諸王らは苦虫を噛み潰したような顔になった。
諸侯諸王らは、このワイザン大公家の当主オードの代理として参戦した若者を持て余していたのである。
まず年老いた当主の代理として兵を率いて参戦したことは良い。当然である。だが、率いてきた兵はわずか八人。当人とその従卒を含めても、たった十人ばかりでしかない。
これではとうてい戦力にはならなかった。
それを渋い顔で指摘した王に対してアルフェリウスは、「我が家は選帝大公家といえど、貧乏ですから」と、そう抜け抜けと言い放ったのである。
確かにワイザン大公家は、カーディナル帝国建国以来の宰相職を歴任して帝国の政財に強権を有するヴィーヘルム大公家のように帝国の要職を担ったり、騎馬民族を祖とする武の象徴たるバグルダッカ大公家のように大軍を擁したりすることもなく、むしろそうしたものから身を退いており、その領地も他の選帝大公家とは比べものにならないぐらい小さなものであった。
しかし、それでも帝国の三大選帝大公家の一角だ。
それが率いてきた兵が当人を含めてもわずか十人とはあり得ない話である。
本来ならば、ふざけるなと叱責した上で激戦区の最前線へと蹴り出してやるところだが、そうもいかなかった。
「権威はあれども権力はなし」
これが、ワイザン大公家の帝国での世評だ。
帝国の要職にも就かず、また財力や武力も有さないワイザン大公家を端的に表した言葉である。
しかし、さらにこの言葉は、次のように続く。
「されど、その権威は皇帝に比する」
権力からは距離を置くワイザン大公家は、その上で自ら公正中立を謳い、その選帝大公家の権威をもって皇帝に意見具申し、また帝国内の紛争の調停を担っていたのである。
皇帝のご意見番。帝国の調停者。
それがワイザン大公家の呼び名であったのだ。
いくら馬鹿げた若者であろうとも、皇帝ですら粗略に扱えないワイザン大公家当主、その代行とあれば、有力な諸侯諸王らでも無下には扱えない。しかし、かといって単独では戦力にはならず、また他の軍団に組み込もうにも受け入れ先となる諸侯諸王らがワイザン大公家の名に尻込みしてしまう始末である。
そんな理由からアルフェリウスは聖戦軍の諸侯諸王らからは持て余されていたのだった。
それを当人も気づいているのか、これまで軍議では一切の主張をせず、意見を求められても「異論はありません」とまるで言葉を覚えたオウムのようなことしか言わなかったのである。
それをこの段になって発言の許可を求めてきたアルフェリウスに、諸侯諸王らは一様に互いの顔を見合わせた。
ややあってからその場を代表して王のひとりが発言を認める旨を伝えると、アルフェリウスは一言感謝の言葉を述べてから続けて言う。
「私に街を落とす策がひとつございます」
その場の空気が、ざわりと揺れた。
不審と疑念の視線を集まる中で、よほど自身の考えに自信があるのか臆する様子もないアルフェリウスに、王のひとりが質問する。
「それは如何なる策でしょうか?」
言外に「どうせ下らぬ戯言だろうな」という嘲りをにじませる質問に、アルフェリウスはにっこりと笑って見せた。
「それを口にするのはご容赦を。『策は秘なるもって善しとする』という言葉がございます」
百年程前の帝国の名将インクディアスの格言を用いて策の内容を明かさないアルフェリウスに、かえって諸侯諸王らは「小賢しい言い訳を」と不快感を深めた。
「アルフェリウス殿のご意見はごもっとも。されど、それでは我らも協力しようがないではありませんか」
その意見に他の諸侯諸王らも賛意の声を上げた。
しかし、アルフェリウスはそんな諸侯諸王らへと堂々と告げる。
「ご安心ください。この策には、我が兵のみで当たりましょう」
それに諸侯諸王らは一様に鼻白んだ。
アルフェリウスが率いる兵は、当人を含めてわずか十人ばかり。
たったそれだけの兵で何ができるというのだ。
「ほうほう。貴公は、こうして我々がそろって手を焼いているあの街をわずか十人ばかりで落とすと言われるか?」
もはや不審を通り越して、苛立ちすらにじませる諸侯諸王らに向けてアルフェリウスは、にこやかに告げる。
「はい。――そうは申しても実際に私がやるのは、あの厚く高い防壁に穴を空けるだけ。その後は、皆様方のお力に頼らざるを得ません」
今もっとも手を焼いている防壁攻略だけをし、後は諸侯諸王らに任せるというのだ。これでは諸侯諸王らのおいしいどころ取りである。自ら割を食うというアルフェリウスを前に、諸侯諸王らは再び訝しげに互いに顔を見合わせた。
そんな諸侯諸王らにアルフェリウスは重ねて言う。
「皆様方はこれまでどおり街を攻め続けていただければ良いのです。策に当たるのは、私たちだけ。もともと戦力にもならない私たちが抜けても、皆様方に損はありません。それで私の策がうまくいけば儲けものではございませんか?」
確かに、もっともな意見である。
諸侯諸王らの間に、賛同する空気が漂い始めた。
「本当に、我らは力を貸さずともよろしいのか?」
念押しとばかりに尋ねる王に、アルフェリウスはしっかりとうなずいて見せる。
「はい。――ただ私の奇行をお見逃しいただければ、それで十分です」
諸侯諸王らの不審と疑念と、そしてわずかばかりの期待をもってアルフェリウスの行動は承認されたのである。
◆◇◆◇◆
「おい、若様。いったい何を考えているんだ?」
軍議を終えて自身の天幕に戻ったアルフェリウスに、従卒のピートが詰問した。
「ただでさえ、わずかな兵しか連れてこなかったことで睨まれているんだ。これ以上、余計なことをして目でもをつけられでもしたらどうするつもりだ?」
解放奴隷上がりの従卒であり、幼馴染みでもあるピートの苦言に、アルフェリウスは苦い顔になる。
「俺だって、こんなくだらない戦いに参加したくはないさ」
「それなら、今までどおり適当にやっていれば良かっただろう」
わけがわらかないという顔になるピートに、アルフェリウスはぽつりと洩らす。
「……バグルダッカ大公がやってくる」
それがどうしたと視線で続きを促すピートに、アルフェリウスは毒でも吐き捨てるように言う。
「あいつが来れば、またリュッベンの惨劇の繰り返しだ! あのような人が獣に落ちるような事態は二度と起こしてはならない! バグルダッカ大公が来る前に街を落とさなくてはならない。いや、少なくとも戦いの主導権を握っておかなければ、バグルダッカ大公を押さえられない!」
アルフェリウスの叫びに、わずかに目を見開いて驚いていたピートだったが、すぐに痛ましそうな表情で肩をすくめて首を左右に小さく振るう。
「無駄なことだぞ。これは聖戦なんだ。人食いは止められたとしても、諸侯諸王らの軍の略奪や虐殺まではおまえでも止めようがない。街の住人らにとっては最悪が、それより多少はマシになる程度のものでしかないんだ。それに、な。どんなことをしようと住人らにとっておまえは憎い侵略者のひとりに変わりないんだ。決して感謝されることはないんだぞ? これはワイザン大公家の立場を悪くしてまでやらなくちゃならんことなのか?」
「……覚悟の上だ」
固い決意とともにうなずいてみせるアルフェリウスに、ピートは盛大に嘆息を洩らした。
「この若様は、馬鹿だ、馬鹿だとは思っていたが、ここまで馬鹿とは思わなかった」
「俺の従卒はやめたくなったか?」
アルフェリウスの問いをピートは鼻で笑う。
「馬鹿様の従卒なぞ最初から御免被りたかったよ。だが、大恩あるオード様の頼みとあっては仕方なく引き受けたまでだ。そして、引き受けたからには最後まで付き合うさ」
そう言ってからピートは表情を真剣なものに改める。
「――で、いったい何をやるつもりだ?」
「まずは準備してほしいものがある。たぶん、見栄を張りそうな王ならば持っているだろう。頼んで貸してもらうことになる」
ピートは訝しげに眉間にしわを寄せる。
「なんだ? やっぱり兵でも貸してもらうのか?」
「いや。借りるのは兵じゃない」
アルフェリウスは悪戯小僧めいた笑みを浮かべてみせる。
「借りるのは、ド派手な衣装さ」




