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破壊の御子  作者: 無銘工房
興亡の章
365/540

第43話 ガッツェン攻防戦2-良策

「ねえ、シェムル。やっぱり私も街壁へ出た方がいいんじゃないかな?」

 蒼馬はご機嫌を(うかが)うように恐る恐るシェムルに声をかけた。

 そこはガッツェンの街の代官官邸の中にある貴賓(きひん)室である。

 この街に退却してからずっと居室兼寝室として利用している部屋なのだが、ロマニア国軍が攻めてくると蒼馬は決まってシェムルにこの部屋に押し込まれるようになっていたのだ。

 しかし、ロマニア国軍は戦死者の遺体を回収する休戦日以外は、ほぼ毎日朝から夕まで飽きもせずに、この街に攻め寄せてきていた。そのため蒼馬はこの一ヶ月というもの、ほとんどこの部屋に軟禁状態となっていたのである。

 蒼馬とて、万が一にも自分が流れ矢にでも当たって命を落としては一大事というみんなの考えも理解できた。

 しかし、根が小心者の蒼馬である。こうして何もせずに後ろに隠れていては、命をかけて戦っている者たちに申し訳ないと不安でしょうがなかったのだ。

 そんな蒼馬は、戦況を確認したいこともあり、度々部屋から脱走を試みては、その都度シェムルに捕まっていた。そうした度重なる脱獄未遂はついにシェムルの勘気に触れてしまい、今では彼女の厳重な監視下に置かれるまでになっていたのである。

 今も部屋の片隅ではシェムルが蒼馬の指一本の動きも見逃さないとばかりにジッと睨みつけていた。

「あの……シェムル? 聞いてるかな?」

 シェムルからの返事がないのに、蒼馬は上目遣いになって声をかけた。

「ダメだ」

 シェムルの冷めた声に、蒼馬は冷や汗をたらりと流す。

「でも、ほら。私は一応王様だよ? 王様が姿を出した方が、みんなの士気も上がると思うんだけどなぁ」

「黙れ。うるさい」

 まさに、とりつく島もない対応である。

「この前みたいに、みんなの前でぶっ倒れて見ろ。士気が上がるどころか、地の底まで落ちるぞ」

 それを言われてしまえば、蒼馬は何も言えなくなってしまう。

 だが、ちょっとした体調不良で一度倒れたぐらいで、それほど大げさに考えなくても良いんじゃないか。

 蒼馬はいじけて座っている椅子の肘掛けに指で「の」の字を書き始めた。

 いい歳した男が子供のようにすねている姿に、シェムルは盛大にため息をつく。

「そんなにやることがないなら、中庭にいるジャハーンギルたちをどうにかして来い。あちこちから苦情が上がってきているんだぞ」

 シェムルの言葉に、蒼馬は渋い顔になった。

 ここしばらく、ジャハーンギルたちディノサウリアンたちの様子がおかしいのだ。常にピリピリとした雰囲気を漂わせ、兵ばかりか街の住人まで一丸となって防衛に当たっているというのに、中庭に集まってゴロゴロとしているだけであった。

 自身の武勇に強い自負心を持つディノサウリアンは短期決戦の野戦を好み、逆に長期戦となる籠城戦を嫌う傾向がある。また、ディノサウリアンの巨体や怪力に見合うだけの弓矢の用意もなければ、投石機などの兵器を操作する器用さにも欠けているため、彼らがやれることは少ない。

 それでも投石や資材運搬などその怪力を活かせる場はいくらでもあった。しかし、蒼馬のところにいる多くのディノサウリアンは戦士種と呼ばれる人間で言えば騎士や侍に相当する地位の者である。彼らは総じて誇り高く、そうしたことを忌避していたのだ。

 しかし、それでもこれまではジャハーンギルが気まぐれに蒼馬を手伝っていたため、他のディノサウリアンたちも渋々ながら協力してくれていたのである。

 ところが、そのジャハーンギルの様子までもがおかしかった。

 このガッツェンの街に戻ってからというものの不機嫌さを隠そうともせず、ピリピリとした雰囲気を漂わせるようになっていた。そして、何をするわけではないが、これまで何かと蒼馬のところに顔を出していたのもピタリとやめ、日がな一日代官官邸の中庭でゴロゴロとしているだけなのだ。

「やっぱり、あれが原因なのかな……?」

 そうなった原因に、蒼馬はひとつだけ心当たりがあった。

 それはモラードである。

 蒼馬はミルツァの戦いで皆の活躍により全滅を回避できたとその奮戦を讃え、ロマニア国軍を追い払った後で各将たちには重く報いると宣言していた。そして、その中でモラードもまた旗手でありながら敵騎兵を退けて蒼馬を助けた功績が認められ、褒美とともに新設される儀仗(ぎじょう)兵隊の隊長へと大抜擢が約束されたのだ。

 この儀仗兵隊とは、主に国事や他国からの貴賓を招く式典などで会場の警備や蒼馬の警護を務める部隊である。

 エルドア国も建国から三年が経ち、様々な国を挙げての行事や他国から貴賓を招くことも増えてきた。国内外の良からぬ動きを牽制するため、そうしたところでエルドア国の威を知らしめることが重要となってくる。これまでは女官長のエラディアがすべてを取り仕切っていたが、威を知らしめるには美しくたおやかな外見のエルフの女性では力不足は否めない。

 そこで以前より専門の儀仗兵隊を編成しようという話が出ていた。

 儀仗兵は名誉にある職ではあるものの、実際に戦へ投入されることはないお飾りに近い部隊である。そこならば戦いに向かない穏やかな気質のモラードにも十分務まるし、またその目を見張るような巨体は彼を従えている蒼馬の(はく)付けにもなるという考えからのものだった。

 ところが、これを発表してからというものディノサウリアンたちの間から不穏な空気が流れ始めたのである。

 それが蒼馬の気のせいではないとわかったのは、儀仗兵隊の体裁を整えるために、他に何人かディノサウリアンをモラードの下につけられないかジャハーンギルの末息子パールシャーに相談したときだった。

「それはご容赦ください。無理に配属しても、決してうまくはいきません」

 ディノサウリアンの中では珍しく他種族に寛容なパールシャーが、そう言い切ったのである。

「おそらく、モラードもそれを望むとは思えません」

 そう言われて蒼馬がモラードに直接尋ねたところ、彼はその小さな目を丸く見開いてから、パールシャーの意見に強く賛同を示したのである。そのとき、その尻尾が鉄棒でも差し込まれたように真っ直ぐにピンッと突き立っていたところから、よほど嫌だったに違いない。

 何か根深い問題がありそうだ。

 蒼馬は、そう思った。しかし、それだけに下手に(つつ)くわけにもいかない。何しろ今はロマニア国との戦争中である。そんなときに内側でもめ事を起こすのは得策ではない。

 シェムルにそう伝えると、彼女もまたうなずいた。

「おまえは、いつもよけいなことをしでかして問題を大きくするからな。そういうことなら下手にいじらない方が良いだろう」

 辛辣(しんらつ)な批評に、蒼馬は再びいじけて肘掛けに指で「の」の字を書き始める。さすがにシェムルも言い過ぎたと思ったのか、なだめるように言葉を継ぐ。

「どうしてもうまく噛み合わない相手というのもある。意外と、そういうことだけかも知れんぞ」

 シェムルの言葉に、蒼馬はふと目を宙に向ける。

「噛み合わないと言えば、この状況も何だか噛み合わないんだよね……」

 それに「どういうことだ?」と小首を傾げるシェムルへ蒼馬は自身の考えをまとめるようにゆっくりとした口調で話し始めた。

「ミルツァでの戦いだけど、あれは完全に私が敵の手の平の上で踊らされてしまっていたんだ」

 ロマニア国軍が南進する姿を見せるだけで、自分がどれほど慌て、動揺するかを完全に読まれていた。そして、誘い込まれたミルツァの地形は、まさに逃げ場のない死地そのものだ。しかも、それだけに飽き足らずに後方の城館へ回り込み、自分らを完全に殲滅しようとすらしていた。

 今思い返してみても、よくぞあれを切り抜けられたものだと自分でも驚くぐらいである。

「それだけに、パルティス王子らしくないんだよね」

 蒼馬が調べた限りでは、パルティス王子は瞬時に戦況を読み、即座に最善手を打てるという判断力と直感に優れた人物だ。そうした人物は野戦――特に刻一刻と戦況が変化する最前線でこそ力を発揮できる将である。

 しかし、ミルツァの戦いのように敵の思考を読むばかりか、死地へと誘い込み、さらに幾重にも手を講じて敵の殲滅を目論むような将とは思えなかった。

 そこまで言われればシェムルも蒼馬の言わんとしていることを察せられる。

「つまり、先の戦いはパルティスではない他の奴の仕業というわけか?」

「うん。たぶん、パルティスの近くに私をはめた奴がいると思う」

 蒼馬の言葉にシェムルは驚いた。

 シェムルからして見れば、敬愛すべき「臍下の君」であることを抜きにしても、蒼馬はその軍略だけでも称賛に値する人間だ。そんな蒼馬をはめるような人間がいるとはにわかには信じ難い。

「そんなすごい奴が敵にいるのか。本当にそんな奴がいるとすれば、これは思ったよりも危険な状況なのだな」

 難しい顔になるシェムルを前に、蒼馬は眉をひそめて頭をバリバリと掻きむしった。

「私がおかしいと思うのは、そこなんだよ」

 どういうことだと目で問いかけるシェムルに、蒼馬は説明する。

「それだけの人がいて、なぜロマニア国軍は街を無闇に攻めるだけなんだ? どうして他の手を打とうとしない?」

 この一ヶ月もの間、ロマニア国軍はただ数に物を言わせて力任せに街を攻めるだけであった。しかも、その攻めも凡庸な手ばかりである。それでは万全の防衛体制を整えていたこのガッツェンの街を落とすのは難しい。それぐらいはロマニア国軍もとっくに気づいているだろう。それなのにいまだに飽きもせず同じ攻めを繰り返すばかりである。そこにはミルツァの戦いで感じられた、あの背筋が凍り付くような知謀の冴えの欠片もなかった。

「いったい、どういうことだろう? 私が気づいていないだけなのか? それともロマニア国の中で、何か起きたのか?」

 いまだ姿が見えない強敵。

 そして、まったく読めない敵の意図。

 このままならない状況に、蒼馬は苛立ちを覚えていた。


                  ◆◇◆◇◆


 目の前で醜態を晒す味方。

 そして、見え透いた彼らの魂胆。

 このままならない状況に、ピアータは苛立ちを覚えていた。

 そこはロマニア国軍の本陣にある天幕の中である。

 そこでは総大将であるパルティス王子を始め、ロマニア国軍すべての将軍諸侯が集った軍議の真っ最中であった。

 しかし、すでに一ヶ月が経つというのに、いまだガッツェンの街の壁にすら取り付くことすらできない有様に、最近では軍議とは名ばかりの自分の失策を誤魔化して相手の失態を攻め立てる愚にもつかない言い争いの場となっていたのである。

 今もまた、兵の勇猛さが足りんや攻城兵器の運用が悪すぎると互いを罵り合う将軍諸侯の醜態に嘆息を押し殺していたピアータに、将軍のひとりが声をかける。

「恐れながら、ピアータ姫殿下。何か、あの街を攻め落とす良き手立てはございませんでしょうか?」

 おもねるような口振りが(かん)(さわ)ったピアータは、ことさら満面の笑みを浮かべて答える。

赫々(かっかく)たる戦歴を有される諸卿方がご苦心なされているとおり、あの街を攻め落とすのは至難の業。この非才なる身では、とうていそのような手立てなどあるはずもございません」

 ピアータの当てこするような物言いに、尋ねた将軍ばかりか周囲の将軍諸侯らまで顔を引きつらせた。

 それもそのはずである。

 ロマニア国軍がガッツェンの街を包囲した当初、ピアータは街を攻めるべきではないと強く主張していたのだ。

 単純に状況を鑑みれば、街を攻めるのも決して悪い手ではない。

 ミルツァで大惨敗を喫した破壊の御子は生き残った四千ばかりの兵――しかも、そのうちゾアンを街の外へと出しているので実際に街に残っているのは、わずか二千ぐらいしかいないはずだ。

 攻城戦は防衛側が有利といえど、たったそれでは二万近い大軍である自分たちロマニア国軍ならば問題はない。

 そして、何よりも敵国の王である破壊の御子があそこにいるのだ。多少の損害を押してでも、ガッツェンの街は攻略するだけの価値がある。

 だが、そのガッツェンの街は、復興の際に大軍が相手でも長期にわたって守り続けられるように防備を強化された都市だった。分厚く強固な街壁を有し、糧食や武具などの物資が潤沢に蓄えられ、投石機や連弩などの兵器も数多く備えられている。その総指揮を執ったのは防衛戦を得意とするドワーフだというのだから、守りの堅さは万全と言っても良いだろう。

 また、そこに立て籠もるエルドア国兵は少ないが、それよりもはるかに多くの街の住民たちがいる。ガッツェンの街の住民ならば、先の征西において散々蛮行を働いたロマニア国への恨みは骨髄(こつずい)に至るだろう。

 そこへ民衆を煽動するのを得意とする破壊の御子が、あの魂を(おか)す毒が(したた)る舌で熱弁を振るえば、住民らを残らず勇猛果敢な兵士に変えるのもたやすいはずだ。

 それを攻め落とすとなれば、どれほどの損害が出るか想像もしたくない。

 そして、そのピアータの予想どおり、多大な犠牲を出してなおいまだに街壁ひとつ崩せぬ有様である。

「だから、私はガッツェンにこだわらずに兵を進めるべきだ、と言ったのだ」

 ピアータは胸のうちで、そうこぼした。

 あれほどの大敗を経験したばかりでは、いくら破壊の御子の弁舌をもってしても敵を前にすればエルドア国の兵たちも腰が引けてしまうだろう。ましてやわずかでも劣勢ともなれば、またもや大敗するのではと思い、それだけで兵が総崩れとなる恐れすらある。

 そんな不安を抱えては、いかに破壊の御子とて街から打って出られるわけがない。

 それならば八千程度の兵を残せば、それだけで破壊の御子を街に閉じ込めておくだけの牽制になる。そうして破壊の御子の動きを封じておいてから、残った一万余の軍勢をもってエルドア国の北部や西部、そして中央の王都を次々と攻め落としていけば良いのだ。

 そもそも籠城戦は、味方の援軍を前提とした戦いである。それは破壊の御子とて変わりない。ならば、その援軍そのものを各個撃破してしまえば、如何に破壊の御子とて打つ手はなくなるだろう。

 そうすれば強固な守りのガッツェンの街も、ただ火に掛けられた鉄鍋と変わりない。時間はかかろうとも、後は煮えるのを待つだけである。そして、その頃合いを見計らい、美味しくいただけば良いだけのことだ。

 そう主張したピアータだったのだが、それにパルティス派の将軍諸侯らがこぞって異を唱えたのである。

 ピアータには、異を唱える彼らの魂胆が見え透いていた。

 彼らの目的は、街の中にいる破壊の御子の首である。

 今回の征西に先立ち、破壊の御子を討てばゴルディア王子が王位継承権を放棄し、パルティス王子が次代のロマニア国王となることが密書で確約されていた。そのため、パルティス派の将軍諸侯としては、ここで破壊の御子の首級を挙げて、パルティス王子の即位を完全なものとしておきたいのだ。

 そこで彼らは持てるだけの軍略の知識を費やし、街を攻める利点を説き、ピアータの主張を否定したのだった。

 良く言えば人の意見に耳を傾けられる、悪く言えば他人の言に左右されやすいパルティスでは、長年連れ添ってきた側近である彼らがこぞって主張してくれば、それを退けられない。そうして、この愚にもつかない街攻めを続け、時間を浪費してしまっているのである。

 パルティス一派を焚きつけるためにゴルディアがつけた条件が、ここにきて裏目に出てしまった形であった。

 しかし、ここまで来れば、今さら街攻めをやめて他へ進撃するのも、もう遅いだろうな。

 ピアータは、再び嘆息を洩らした。

 街を包囲して一ヶ月が経過したというのに、いまだエルドア国の援軍がやって来ていない。それはとりもなおさず、援軍よりも他の地域の守りを固めさせることを優先させているからだろう。

 そして、拠点防衛の必要がなく、また俊足で知られるゾアンたちすら来ないのは、各個撃破を恐れて、全軍がそろってから援軍に来させる腹づもりに違いない。

 いや、それどころか自分たちロマニア国軍に対して何かの策を講じている可能性すらあった。

 もはや一刻も早く街を攻め落として破壊の御子の首級を挙げるしかないというのに、建設的な意見がひとつとして出ない軍議に、ピアータはほとほと呆れ返っていた。

 これにはさすがのパルティスも状況を見るに見かねて苦言を呈す。

「諸卿ら。戦いは前を向いて行い、後ろは気に掛けるものである。私は諸卿らの前に見えているものを聞きたい」

 それは、今必要なのは今後の対策であり、これまでの失策への糾弾ではないという意味である。

 これには将来の主君ともなるパルティスの前で醜態を晒していた将軍諸侯らも慌てて襟を正した。

「恐れながら、パルティス殿下。街の守りは予想以上に固く、これをまともに攻めるのはもはや愚策と思われます」

「左様。されど、我らが街の外での決戦を求めても、臆病な敵はこれを無視したまま亀のように街に閉じこもっております。これではどうにもなりません」

 他にも遠くから坑道を掘って城壁を崩すなり、直接街の中へ兵を送り込もうとしたりしていたが、そのことごとくがドワーフたちの手によって阻まれていると将軍たちは苛立たしげに言った。

「降伏や内応を誘う文を投げ入れても兵ばかりか住民までもが取り合おうとはしない。そればかりか一ヶ月も包囲されているというのに、その戦意がまったく衰えておらん!」

「我らが壁にすら取りつけずにいる今、むしろその戦意は高まっているとすら言えましょう」

 敵の大軍に一ヶ月も包囲されれば、熟練の兵と言えども疲れが見えても不思議ではない。ところが、ガッツェンの街は兵ばかりか住民にいたるまで今なおその意気たるや軒昂(けんこう)そのものであった。

「それもこれも、あの忌々しいハーピュアンどものせいだ!」

 将軍が苦り切った顔で言うとおり、ガッツェンの街の住民らの意気を支える一端を担っていたのが、ハーピュアンたちだった。

「せっかく破壊の御子をガッツェンの街に追い込んだというのに、ハーピュアンどもがああして平然と外部と連絡を取り合っている。これでは街を包囲している意味がない!」

 包囲した街や城の住人に向けて「援軍はこない」や「すでに他の街や城は制圧し、残すはここだけだ」などとハッタリを使って戦意を落とすのは常套手段である。

 ところが、そうしたハッタリを使っても「援軍は着々と準備していると連絡がある」や「他の街は敵兵すら来てないと言っている」と平然と返されてしまい、まったく効果が上げられていなかった。

 それもこれも空を飛べるハーピュアンたちが王都や他の街を自由に行き来し連絡を密に取っているためである。

「失礼ながら、ピアータ姫殿下。姫殿下の鳥をお使いになり、奴らの鳥を排除できませぬか?」

 将軍のひとりの提案に、ピアータは素っ気なく「無理です」と答えた。

「私の麾下(きか)に、ハーピュアンはたったふたりしかおりません。しかし、破壊の御子は伝令に際しては常に三人から四人でハーピュアンを行動させております。私のハーピュアンは、自慢の配下とはいえ、それは武勇の徒だからではございません。ハーピュアン同士をつぶし合えば、負けるのは間違いなく、数で劣るこちら。無理してふたりを失えば、破壊の御子は今よりもさらにハーピュアンを自由に使って好き勝手いたしますぞ」

 言外に「それでも良いのか?」と意図を乗せて睨みつけると、その将軍は気まずげに目をそらした。

 その情けない姿に、ララとルルを鳥呼ばわりされた憤懣をわずかに癒やしたピアータはさらに続けて言う。

「それに、今はふたりともマサルカ関門砦からここまでの補給路の監視に従事させております。もし、ふたりをそこから引き上げさせれば、あの赤毛を野放しにするようなものとなってしまいます」

 赤毛と言う言葉に、ロマニア国軍の将軍諸侯らはいっせいに顔をしかめた。

 ミルツァの戦いで真正面から陣を突破された上での退却という屈辱を味わわされたのみならず、今や後方の補給路ばかりか時には軍の後方にまでゾアンを率いて襲撃を仕掛けてくる赤毛――ズーグの存在は、もはやロマニア国軍の誰もが知る脅威となっていたのだ。

 ピアータの言葉を受け、セルティウスが発言の許しを求めて手を上げる。パルティスが鷹揚にうなずいて許可すると、セルティウスは「恐れながら」と口を開いた。

「全軍の補給を任された者としてパルティス殿下に強く申し上げる。ハーピュアンを偵察に使い、騎兵のごとき速さで輜重(しちょう)隊を襲撃してくるのみならず、時にはこの征西軍の後背にすら襲撃をしかけてくる、あの赤毛を食い止められているのは、ひとえにピアータ姫殿下のお力にございます。ここでピアータ姫殿下のハーピュアンを失えば、補給路の維持のために輜重隊の警護により多くの戦力を費やさねばならなくなりますぞ」

 対立していたゴルディア派の筆頭ともいうべきセルティウスから自軍の問題を指摘されたのに、パルティス派の将軍は苛立ちとともに吐き捨てる。

「意気地のない発言だな! たかが獣一匹に何を恐れるか!」

「ならば、貴卿があの赤毛を討ち取られたらいかがか?!」

 即座に斬り返されたセルティウスの言葉を前に、将軍はうっと言葉を詰まらせる。

 すでに、我こそが赤毛を討ち取ってくれるとふたりの将軍諸侯が兵を連れて出陣していたのだが、ひとりは命からがら逃げ帰り、もうひとりは連れて行った部隊の兵を含めていまだひとりとして戻って来てはいなかった。

 さらにピアータが追い打ちをかける。

「貴卿は、赤毛を獣と呼んだが、まさにそのとおりだ。しかも、その獣は人間の知恵を備えている。これを恐れずにいられようものか?」

 ちょうどそこへ空に鳴り響くゾアンの太鼓が天幕の布越しに聞こえてきた。

 すると、将軍諸侯らはいっせいに顔を苦虫を噛みつぶしたような顔になる。

「魔物のように狡猾な奴らめ! いったいどんな悪巧みを連絡しあっているのか!」

「連日、ああして何やら綿密な連絡を取り合っている。兵たちの間でも不安が広がっておりますぞ」

「あの赤毛を何とかせねば、街の攻略に専念すらできん」

 将軍諸侯らが恨み言を口々に言う中で、ひとりの将軍が挙手して発言の許しを求めた。パルティスが発言を許可すると、その将軍は自信たっぷりな口調で言う。

「私に、ひとつ良策がございます」

 パルティスのみならず誰もが注目する中で、その将軍はもったいつけるように間を置いてから、さらに続けてこう言った。

「ピアータ姫殿下の策で証明された破壊の御子の弱点を突くのです」

~ネタ~

「ズンドコズンドコ(なあ、ガラム。おまえの息子を俺の娘の婿に寄越さないか?)」

「ドコドコズンドコ(断ると何度も言っているだろ)」

「ドコズンドコドコズン(叔父上、いい加減にしてください。喧嘩なら買いますよ?)」

「ボコボコドコズン(うちの未来の族長を奪おうという馬鹿をこらしめるなら姉御についていきます。〈牙の氏族〉の戦士一同)」

「ドコドコドンドコ(こんな馬鹿でもうちの族長だ。やるなら受けて立つぞ。〈爪の氏族〉戦士一同)」


ロマニア国将軍「魔物のように狡猾な奴らめ! いったいどんな悪巧みを連絡しあっているのか!」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] セティウス、セルティウス、パティウス… いつの間にか名前がカオスに…
[良い点] 太鼓連絡はギャル語を見たスパイのような気持ちなのか
[一言] モラードの登用については、相談してでも上手くやらないよいけないでしょう。ディノサウリアンのような種族内で明確な能力差がある世界で、我々の世界と同じような「平等」は通用しないでしょうし、かと言…
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