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破壊の御子  作者: 無銘工房
興亡の章
348/539

第26話 ミルツァの戦い5-斬撃

 デメトリアに続き、ドワーフ重装歩兵の横陣へ重装槍突撃騎兵――銀狼兵たちが突っ込んできた。

 銀狼兵たちはドワーフたちを次々とその槍で串刺しにし、馬の巨体で撥ね飛ばし、その馬蹄で踏み潰す。

 短身(たんしん)矮躯(わいく)の種族であるドワーフからして見れば、これまで見たこともない大きな馬に跨がり、重厚な鎧を身につけた銀狼兵の姿は、さながら巨人のようなものである。そのような巨人が何十人もいっせいに襲いかかってきたのだ。さしもの豪胆なドワーフたちも恐れをなし、悲鳴を上げて銀狼兵の槍の穂先から逃げ惑うしかできなかった。

 混乱するドワーフたちの間を銀狼兵たちは、まるで無人の野を行くが如く駆け抜けていく。

 この銀狼兵の一撃によって、エルドア国ドワーフ重装歩兵隊は完全に統率を失ってしまった。

 そして、混乱するドワーフたちの中へさらに突っ込んできたのは、元ダライオス大将軍の親衛隊であった蒼騎隊――今や百狼隊の第三の騎兵である蒼狼兵である。

 この蒼狼兵はセルデアス大陸西域の従来の重騎兵たちだ。混乱するドワーフたちを前に、蒼狼兵は馬を止めると素早く下馬した。重い鎧を身につけているというのに、その動きは機敏である。当然、それは(あぶみ)があればこそのものだった。

 そうして地上に降りた蒼狼兵たちは、随行してきた従兵に馬の手綱を預けて代わりに武器や盾を受け取る。

「ピアータ姫殿下の下での初働きぞ! 存分に我らの力をご覧いただけ!」

 愛用の片手斧と丸い鉄盾を握った隊長アンガスの声に、蒼狼兵たちは「おおっ!」と唱和を返した。

「敵を殲滅せよっ!」

 アンガスの号令とともに、蒼狼兵たちは怒号を上げてドワーフたちに襲いかかった。

 蒼狼兵は、もともとは自らの武勇を万軍に相当すると豪語したダライオス大将軍自身が選び抜き、鍛え上げた猛者たちである。その武力の程は言うまでもない。そんな猛者たちが組織だって抵抗もできずに逃げ惑うドワーフに襲いかかるのだ。もはやそれは戦闘ではない。それは、虐殺に他ならなかった。

 背中を槍で貫かれ、頭を斧で割られ、首を剣で刎ねられたドワーフたちの死体が次々と山のように積み上げられていく。

 手傷を負わされながらも何とか蒼狼兵のひとりを撃退したドヴァーリンは、その周囲の惨状に愕然としてしまった。

 すでに部隊はズタズタに引き裂かれ、叩き潰され、踏みにじられている。もはや、ここから部隊を立て直すのは不可能だ。ここで無理に踏み止まれば、確実に全滅してしまう。

 これ以上の被害を防ぐためにも、ドヴァーリンは撤退を決断する。

「退け! 総員、退けぇー!!」

 その声とともに、ドワーフたちはわあっと声を上げると、いっせいに逃げ出した。

 しかし、それは撤退ではない。何の統率も取れずにただ逃げ回るだけの逃走でしかなかった。

 だが、それすらもたやすくは許されない。

 デメトリアが率いる銀狼兵が縦横無尽に駆け回ってドワーフたちの逃走を妨害すれば、その足を止めたところへアンガスら蒼狼兵が襲いかかる。

 その光景は、さながら鰯の群れを食い散らすサメかシャチの集団のようであった。

 そこへ馬を反転させてきたピアータと金狼兵が来る。

 ピアータは素早く戦場を見回した。もはやドワーフたちが完全に混乱し、抵抗すらできなくなっているのを見届けると、ピアータは百狼隊全体へ号令を掛ける。

「追撃無用! 百狼隊よ、我に続け!」

 ピアータは残敵を掃討するのは友軍に任せると、右腕を上げて自身らが進むべき方向を指し示す。

「目指すは、あの黒旗! 狙うは、破壊の御子の首ひとつ! ――行くぞっ!!」


                  ◆◇◆◇◆


「左翼の地将殿が率いるドワーフ重装歩兵隊が崩壊! 敵騎兵、こちらに来ます!」

 (そば)に控えていたピピの悲鳴にも似た報告がほとんど耳に入らぬ程、蒼馬は驚愕のあまり我を失っていた。

「何で、何で、あんな騎馬隊がいるんだっ?!」

 かつて自分が作ろうとしながらも、断念した兵種。無理だと諦めていたもの。あり得ないと否定していた存在。

 それが現実のものとなって、さらにはその矛先が自分へと向けられている。

 その事実をすぐには受け止められず、茫然としてしまった蒼馬の代わりにシェムルが声を張り上げる。

「敵がこちらに来るぞ! 防ぎ止めろ!」

 シェムルの指示を受けて、ようやく周囲の兵たちが慌ててピアータを迎え撃つために動き始めた。

 だが、このとき開戦前の蒼馬の采配が裏目に出てしまう。

 本来ならば、ここにはジャハーンギルが率いるディノサウリアンの部隊がいたのだ。個々の戦力は著しく高いのだが、その数が少ない上に他の種族の兵との協調性に乏しく、部隊としての運用が難しいディノサウリアンは、戦いが膠着したときの決定打となる予備戦力として、さらには蒼馬を守る最後の防壁として本陣の近くに配置されていたのである。

 ところが、ロマニア国軍との圧倒的な兵数の差を前にした蒼馬は、このときディノサウリアンたちを前線へと向かわせてしまっていた。

 その結果、ドワーフ重装歩兵隊を粉砕してガラ空きとなった側面から突撃してくるピアータ率いる百狼隊を食い止められる壁となる部隊がいなかったのである。

 それでも本陣に置かれていたゾアンの戦士と人間の兵士が、突進してくるピアータたちを食い止めようとを横陣を敷く。

 しかし、その横陣は見るからに薄かった。ちょいと突けば破れてしまう貧弱な横陣である。

 獲物の無防備な腹を鼻先にとらえた狼のような獰猛な笑みを浮かべたピアータは槍を手にしながら叫ぶ。

「蹴散らせぇー!」

 ピアータの号令とともに金狼兵がいっせいに槍を投じた。

 その攻撃を軽装のゾアンや人間の兵士が受け止められるはずもなく、次々と槍に刺し貫かれて倒れていく。

 そこに単騎で飛び込んだのは、ピアータだ。

 地面に突き立つ槍をかわし、鮮血を流す死体を馬で跳び越え、必死に食い止めようとするゾアンを蹴り飛ばし、巧みな手綱さばきでもって愛馬とともに駆け抜けていく。

 横陣を突破したピアータは、目をカッと見開いた。

 まず目に留めたのは、風に(ひるがえ)る漆黒の大旗である。その下に目を移せば、それを支えて立つ大きなディノサウリアン。さらに、その周囲へと目を配れば、探し求めていたものが見つかった。

 山刀を抜き放ち、こちらを敵意のこもった目で睨む女性とおぼしきゾアン。

 そして、そのゾアンの女が背にするのは、この地では珍しい黒髪の青年だ。

 見つけた!

 ピアータの胸にカッと闘志が燃え上がった。

 その闘志に突き動かされ、視界を狭める兜を脱ぎ捨てる。すると、兜の中に押し込められていた黄金の髪が風の中に大きく広がった。

 ピアータは叫ぶ。

「破壊の御子ぉーっ!!」

 その咆吼とともにピアータは槍を投じた。馬の突進力が乗った槍は風を引き裂き、シェムルと彼女が守る蒼馬へとまっしぐらに飛ぶ。

「避けろ、ソーマ!」

 シェムルは叫びながら蒼馬の胸を突き飛ばし、その反動で自身も横へ転がった。その直後、自分らが立っていた場所にピアータの槍が突き立ち、その柄を衝撃に振るわせる。一瞬遅ければ、その槍は自身のみならず後ろの蒼馬までも貫いていたであろう。そう思わせる槍の威力に、シェムルは背筋を凍らせた。

 そんなシェムルに蒼馬が声を掛ける。

「シェムル! 大丈夫っ?!」

 突き飛ばされて尻餅をついただけですんだ蒼馬が慌てて立ち上がり、シェムルの安否を気遣ったのだ。

 ところが、それにシェムルは悲鳴にも似た声を上げる。

「立つな、ソーマッ!!」

 シェムルの声に、驚きを顔に浮かべる蒼馬。

 その蒼馬の上に影が落ちた。

 とっさにそちらへ振り仰いだ蒼馬は見る。

 大きな馬に跨がり、こちらに向けて手にした曲刀を振りかぶる黄金の髪の女騎士の姿を。

「その首、もらったっ!!」

 その声とともに、ピアータの曲刀が振り下ろされる。

 蒼馬は恐怖と驚愕の表情を浮かべながら、自らに向けて振り下ろされる刃を凝視したまま硬直してしまう。

 そして、激しい金属音とともに、蒼馬の血飛沫が宙を舞った。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 何か急に敵の方がご都合主義に入った感が凄い
[一言] なんとしても味方陣営に引き入れたいお姫様
[一言]  前話の感想と作者の返信より、サラブレッド並みの体躯とサラブレッドにはない山道の踏破性があることが分かりました。ありがとうございました。  また他の感想から、騎馬隊についての知識を深める事が…
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