第25話 ミルツァの戦い4-逆襲
うんちく回
いよいよ破壊の御子との戦いが始まるのだ。
消せない不安とわずかばかりの恐怖。そして、それ以上に大きな期待と燃え上がる闘志に胸をたぎらせるピアータは、ともすれば自分の興奮に中てられて今にも駆け出そうとしている愛馬を押さえつけ、常歩のままゆっくりと戦場を前へと進んでいた。
まだ敵は遠い。馬の疲労を極力抑えるためにも、全力で駆けさせるのは敵の弓矢や投石の射程距離に入ってからだ。
しかし、その我慢も、あと少しである。もうあとわずかで敵の射程距離へと入れるのだ。
ついに来たる時を前に、ピアータは声を張り上げる。
「百狼隊の勇士たちよ!」
蒼騎隊を組み入れたことで、それまでの百華隊から異名であった百狼隊へとその正式名称を変えた自分の部隊に向けて、ピアータは自分の熱い胸の内を叩きつける。
「これまで私のわがままに付き合わせ、悪かった! わがままな姫の取り巻き。じゃじゃ馬姫の遊び相手。勇士たる諸君らに向けられた蔑称は数多く、また謂われなき蔑視に晒され、嘲笑を向けられたことであろう。されど――」
ピアータは手にした槍を高々と掲げた。
「今日この時、この場をもって、我らはそれらを打ち払う! 今こそ我らの力を示すときだ! そして、敵は西域全土に災いをなさんとする巨悪、破壊の御子! 相手にとって不足なし!」
これに怒号にも似た声で応える百狼隊の勇士たちに、ピアータは満足げな笑みを浮かべた。
それから鋭い刃のような表情を浮かべて真正面の敵へと顔を向ける。
いよいよ敵の射程距離だ。
ピアータは愛馬の脇腹に軽く蹴りを入れて叫ぶ。
「さあ、行くぞ! 勇士たちよ! これより我らは新たな騎士の時代の先駆者となる!」
◆◇◆◇◆
「破壊の御子がいた時代は、軍事史においても革新的時代でありました」
西域に古くから残るコルデラート教会の中で、そう述べるのは破壊の御子研究の第一人者マーチン・S・アッカーソン教授である。
「この世界で初の多種族国家であったエルドアは、その兵の多様さ故に兵種や戦い方に変革が求められました。これに破壊の御子ソーマ・キサキは、黒エルフ弓騎兵やハーピュアン偵察兵などこれまでにはない兵種を次々と生み出し、またそれらを使う新たな戦い方を考え出していったのです。
この当時、強靱な盾と長い槍を持った重装歩兵同士が正面からぶつかり合うのが戦いの主流でした。その中にあって、多様な兵種とそれを用いた新たな戦い方は、破壊の御子にとって強力な武器となったのは間違いないでしょう。
しかし、それと同時にエルドアに端を発した軍事的革新はそれと敵対する国にも波及し、さらなる革新を引き起こしたのです」
マーチン・S・アッカーソン教授は背後の教会の壁いっぱいに描かれた古い壁画を示す。
「教会の補修工事にともない壁に塗られた漆喰の下から見つかった、この壁画――『ミルツァの戦い』は、そうした古代西域の多くの出来事を現代の私たちへ無言で語りかけてくれています。
まず、破壊の御子の陣営を見れば、その兵の多様さに驚かされます。伝承にあるとおり、この戦いに参加したマーマンを除いた六つの種族の兵の姿が鮮やかな色彩で描かれています。
それに対してロマニア国側を見れば、大半の兵は同じ姿で描かれており、この当時としては一般的な重装歩兵を中心に据えた人間種のみの軍勢だったことが窺えます。――しかし」
マーチン・S・アッカーソン教授は壁画の一角を指し示した。
「このピアータ将軍と、彼女が率いたと言われる百狼隊と呼ばれる部隊だけは、ロマニア国軍の中にあって異彩を放っております。
それは、当時では珍しく騎兵を部隊として運用しているのみではありません。この壁画では、百狼隊は三列の騎兵で表現されておりますが、問題はこの二列目の騎士たちの槍の持ち方です。壁画の中に描かれた他のロマニア国軍の騎士たちは、槍をこう――」
マーチン・S・アッカーソン教授は右手を大きく上げた。
「――振り上げるように持っています。これは槍を投げるか、もしくは馬に乗ったまま敵兵を上から突き刺すように使っていたからです。
これは当時としては一般的な使い方でした。
その理由は簡単です。現代では乗馬に必須のアイテムともなっている鐙が、この当時にはいまだ普及していなかったからです。
鐙が普及していない時代、騎士が馬に乗るときには馬の胴体を足で締め上げるようにして乗っていました。
しかし、それでは下半身が固定されてしまうため武器を振るにも上半身の力しか使えず、また足の踏ん張りが利かないためにバランスを崩しかねません。
試しに両足を浮かした状態で椅子に座り、長い棒でも振ってみればわかるでしょう。振るった棒の遠心力に引っ張られ、下手をすれば椅子ごとひっくり返ってしまいます。
ましてや鎧を着た敵兵を打ちのめせるほどの重い武器を渾身の力で振るえば、結果は言うまでもありません。
ところが、この百狼隊の二列目の騎士たちは、明らかに他よりも長い槍を、こう槍を固定するように小脇に抱える持ち方をしています。
さらに注目すべきは、この騎士が持つ盾の形状です。
この騎士たちは上部が丸く下に向かうに従って細くなっていく凧型の盾を持っています。これは騎乗したまま盾を構えたときに、上半身のみならず馬に跨がる太腿まで盾で防御できるようにした工夫でしょう。当時の主流であった円形か方形の盾では太腿まで防御しようとすれば、どうしても跨がっている馬の身体が邪魔になってしまいますからね。
この馬上での使用を想定された盾と、小脇に抱えて固定するような槍の持ち方。
これらのことから、この騎兵の取ったであろう攻撃とは、すなわち――」
◆◇◆◇◆
「突っ込んでくるじゃと?」
蒼馬のところから急報だと言って飛んできたハーピュアンの言葉に、ドヴァーリンはおうむ返しに言った。
それにハーピュアンが肯定を示すと、ドヴァーリンは眉間にシワを寄せる。
「敵が突っ込んでくるなど、当たり前ではないか」
口には出さないがドヴァーリンは内心で、そう呟いた。
それからドヴァーリンは、改めて正面の敵を見やる。
すると、敵は前面に軽装の騎兵を押し立てて、ゆっくりとこちらへ向かってくるところだった。その後方から重装の騎兵が続いているところを見ると、おそらくは軽騎兵の投げ槍による攻撃でこちらの隊列を乱したところに馬から下りた重装歩兵が斬り込んでくる、よくある戦法だろう。
それに何を警告するようなことがある?
そう訝しがるドヴァーリンに、ゾアンの太鼓の伝達を解釈するためにドワーフ重装歩兵に同行していたゾアンの戦士が言う。
「地将殿。陛下から『敵が突撃してくる。注意しろ』と、しきりと太鼓で伝達が来ているぞ」
さらにドヴァーリンは困惑した。
なぜ、それほど蒼馬が切迫したように敵の突撃に注意を促すかはわからない。しかし、蒼馬がそう注意するのだから、何かあるのだろう。とにかくドヴァーリンは、敵の突撃に注意しろと配下の兵へと伝える。だが、やはり兵のドワーフたちも蒼馬の意図が理解できていないようだった。
そうこうしている間にも、正面の敵が迫ってくる。
「前列は、声を上げて盾と槍を打ち鳴らすんじゃ! 馬を威嚇しろ! 後列は投石の準備! わしの号令を待てっ!」
ドヴァーリンの指示に応じて、ドワーフたちが声を張り上げ、盾と槍を打ち鳴らし始めた。
このドワーフたちに向けて、ピアータが率いる百狼隊が馬蹄を轟かせながら迫ってくる。
このとき百狼隊の騎兵は、大きく三つに分けられていた。
まずひとつ目は、ピアータ自身が率いる金狼兵と呼ばれる軽騎兵である。人馬ともに防具は最小限しか着けていないのは、金狼兵が速度を重視した兵種であるからだ。
その主武装は、投げ槍用の短槍である。鞍から下げた筒の中には四、五本の短槍が入っており、これを馬の勢いを乗せて投じるのだ。また、接近戦用として剣も所持している。この剣は、この時代に一般的な直剣ではなく反りを持った軽量の薄い刃の曲刀だ。これは馬の足を止めて上から敵を突き刺すよりも、馬ですれ違い様に敵を斬りつけるのを目的としている剣であった。
その金狼兵の先陣を駆けるピアータは、横陣を敷くドワーフ重装歩兵を目前にして叫ぶ。
「投擲準備! 狙うは敵横陣の中央! ――やれっ!!」
号令とともに、ピアータもまた右腕をしならせて槍を投擲する。
金狼兵の投げ槍に、ドワーフたちは盾を高くかざして防御姿勢を取った。そこへ金狼兵の投げ槍が音を立てて降りそそぐ。
大半の槍は盾に弾かれて地に落ちる。しかし、馬の勢いが乗った投げ槍の威力は強力だ。いくつかの投げ槍はドワーフ謹製の強靱な盾をも貫通し、その下のドワーフたちを殺傷した。
「転進っ!!」
戦果を見届けることなくピアータは自身も手綱を引いて馬首の向きを変えた。
左右に分かれて転進する敵騎馬を前に、ドヴァーリンは叫ぶ。
「投石部隊、やれぇい!」
ドヴァーリンの号令とともに、満を持して待機していた後方の投石部隊がいっせいに投石を開始した。転進したことで無防備な側面を晒しながら駆ける金狼兵へ石が次々と投じられる。だが、この西域の平均的な騎馬を想定して投げられた石の多くは、金狼兵の駆け抜けた後に虚しく落ちるだけだった。それでもドワーフに幸運が味方したのか、金狼兵に不運が取り憑いたのか、最後列の一騎が石の直撃を受けて落馬した。
これにドヴァーリンが舌打ちを洩らす。
ギリギリまで引き寄せてからの投石だったというのに、戦果はわずか一騎のみ。それというのも敵の騎馬の脚が予想以上に速いせいだ。
だが、今はそれを悔やんでいる場合ではない。
「負傷兵を下げよ! すぐに敵の重装歩兵がやってくるぞ!」
自分の指示でドタバタと短い足を動かして横陣を立て直そうとする兵たちを横目に、ドヴァーリンは正面の敵を見やる。
先程の軽騎兵の後に続いてきたのは、あの蒼馬が驚愕した重騎兵だ。
板金と思われる頑健な鎧に、馬上ばかりか地上ですら扱いかねる長大な槍と頑丈な凧型の盾を持った騎士。馬にまで鉄製の馬面に、鉄片を鎖でつなげた防具まで着けさせている。
ドヴァーリンは知らないことだが、それはピアータの副官であるデメトリアが率いる銀狼兵と呼ばれる騎兵であった。
これは、マズい。
ドヴァーリンは直感した。それが何かはわからないが、歴戦の勇士である彼は自分の直感を信じて行動に移す。
「投石部隊! すぐさま攻撃に移れ! 早く横陣を敷き直すんじゃ!」
ドヴァーリンの指示とともに、慌てて後列の投石部隊がバラバラと投石を投げ始めた。
しかし、それを銀狼兵は前面へかざした盾で防御する。
投げられた投石のいくつかは銀狼兵と馬に直撃するが、銀狼兵の板金の防具はそれをはじき返し、馬も馬面に石が当たってもかえって興奮するだけであった。
投石をものともしない銀狼兵の姿に、前列のドワーフたちから動揺の声が上がる。
「なんじゃい。あいつら!」
「おいおい。どういうことじゃ……?」
敵の重騎兵の勢いが衰えないのだ。
普通、重騎兵は馬から下りる無防備なところを狙われるのを避けるため、敵より手前で馬から下りるものだ。ところが、今相対している重騎兵たちは一向に馬の脚を緩めようとしない。
そればかりか、編み上げた銀髪を兜の下から垂らす騎兵を頂点とした三角形の隊列のまま、さらに勢いを増してこちらに向けて駆けてくるのだ。
「もしや、あやつら……?!」
「このままあいつら馬ごと突っ込んでくる気じゃ?」
「そんなたわけたことが……!」
その可能性に気づいたとき、ドワーフたちの間に戦慄が駆け抜けた。
◆◇◆◇◆
洋の東西を問わず、騎兵は地球の歴史において長らく戦場の花形の兵種であった。また、古代から中世の戦いを描いた創作物では、馬に乗った武将が歩兵を蹴散らす展開は、ひとつの大きな見せ場に違いない。
日本の戦国時代を描いた映画やドラマや漫画やアニメなどの創作物においても、騎馬武者たちが敵陣へ騎馬突撃をする展開は胸を熱くするものがある。
しかし、このような騎兵による突撃が実際にあったのだろうか?
それは日本の戦国時代の戦いを語る上で、時折持ち上がる議論である。
そのとき騎馬突撃を否定する人々は、当時の馬の大きさを根拠としてよく上げてくる。
現代日本人が馬と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、サラブレッドであろう。しかし、サラブレッドは長い年月をかけて品種改良された馬である。それに対して戦国時代の日本の馬は、現代で言うポニー程度の大きさでしかなく、そのような小柄な馬ではとうてい鎧武者を乗せて走ることなどできなかった、と否定派は主張するのだ。
また、その主張の正しさを示す根拠として、当時の日本に訪れていたイエズス会の宣教師ルイス・フロイスの著書にある「我々の間(西欧)では馬(の上)で戦い、日本人は戦うときに馬から下りる」という記述とともに、「我々の馬は極めて美しい。日本の馬はそれに比べてはるかに劣る」という記述が上げられる。
さらに、とあるテレビ番組では戦国時代の平均的なサイズの馬に鎧具足を身につけた人を乗せて実際に走らせたところ、馬は人が早足で駆ける程度の速度しか出せなかったという。
実際にその映像を見れば、我々が思い浮かべる勇壮な騎馬武者の姿はなく、小さな馬がトコトコと早足で駆ける滑稽めいた姿なのだ。
これらを根拠とし、否定派は創作物のような騎馬武者による騎乗突撃はなかったとしている。
だが、テレビ番組は衝撃的なひとつの事実を針小棒大にかき立てるものである。
確かに戦の様子を描いた絵巻や屏風などを見れば、鎧騎馬武者が敵の前で騎馬から下りる絵もある。それが示すように鎧武者が敵を前に馬を下り、歩兵として戦ったのは間違いない。
しかし、それと同時に敵陣へ馬で乗り込んでいる武者の姿もまた描かれているのだ。
他にも長篠の戦いに先立ち徳川家康が「武田軍が騎馬で突撃してくるので馬防柵を作るように」と指示した書状を送っていたり、信長公記に太鼓を叩きながら突撃してくる馬術の名手が書かれていたりと、実際に騎馬突撃が行われていたのを示唆する記録も多く残されている。
また、ポニーサイズと言われている当時の馬も、現代の観光地となった牧場でよく見られる体高百二十センチメートル未満の小型のものではない。体高百四十七センチメートル以下のポニーに分類されるものの、日本在来種の馬である木曽馬は体高百三十五センチメートルあり、我々が思うポニーよりもやや大型の品種である。
そして、源平合戦の時代に名を残す武将が騎乗した馬の記録を見れば、軒並み百四十センチメートルを越えているのだ。
これはユーラシア大陸を騎馬で席巻したモンゴルの蒙古馬と比べても遜色はない大きさである。
さらには先に挙げた木曽馬などは足回りも太く、がっしりとした馬で、重い荷物を背負ったまま山を登るなどサラブレッドにはとうていまねできないこともできたという。
このことからも単に当時の馬の大きさだけをもって、騎馬突撃がなかったとは言い切れないのである。
それでは、実際に騎馬突撃はあったのか? それとも鎧武者は馬から下りて戦ったのか?
答えは「どちらもあった」だ。
どちらか一方ではない。騎馬武者たちはその状況に応じて、時には下馬して重装歩兵として戦い、また時には騎乗したまま敵陣へ斬り込んでいたのである。
ただし、創作物でよく見られるような騎馬だけで構成された騎馬隊が存在しなかったのは間違いない。
しかし、それは当時の日本に馬が数少なかったり、山地が多い日本では騎馬隊を組織しても馬の機動力を活かしにくかったりしたせいだ。決して馬の大きさだけが要因ではない。
そのため、単騎から数騎の騎馬武者による騎馬突撃は十分にあったと考えられるのだ。
ところが、歴史研究家でも軍事専門家でもない蒼馬は、小柄な馬では騎馬突撃はできないというテレビや雑誌の偏った知識を信じ込んでしまっていた。
そして、このセルデアス大陸に落とされた後も、それは変わることはなかった。
戦国時代の日本の馬と変わらぬ小柄な馬と、重騎兵が重装歩兵を運搬するものでしかなく、騎馬突撃が行われていないセルデアス大陸の実情。
これに蒼馬は、馬が小さいので騎馬突撃は無理だと考えてしまったのだ。
さらに、蒼馬に重騎兵を編成しなければならない差し迫った事情がなかったのも大きい。
ホルメア国征服以前は蒼馬の重装歩兵を担っていたのはドワーフたちである。この短身矮躯の種族は、その体型から馬への騎乗は困難であった。また、馬のような速さで疾走するゾアンがいたこともあり、蒼馬は重騎兵を必要としていなかったのである。
そのため、蒼馬は重騎兵の編成を早々に断念してしまった。
やはり小型の馬では無理なのだ、と。
自分の現代日本の知識は正しかったのだ、と。
蒼馬は自分の中の知識によって無理だと判断し、その場に立ち止まってしまった。そればかりか、あり得ないものと対策すらも怠ってしまっていたのだ。
それは蒼馬の自分の知識への過信であった。
現代知識への盲信であった。
確かに現代日本とセルデアス大陸の知識を比較すれば、多くの点において現代日本の知識がはるかに勝っている。なぜならば積み重ねてきた歴史が違うのだ。その情報量が違うのだ。圧倒するのも当然なのだ。
だが、ここは異世界である。
過去の地球ではない。
似たような歴史の過程をたどろうとも、まったく同じではなかった。地球にあってセルデアス大陸にないものもあれば、逆に地球になくてセルデアス大陸にはあるものも存在するのだ。
例えば騎竜である。
人間を乗せて二本の脚で疾走する騎竜は、馬の少ない西域では長らく将軍や伝令兵の騎乗用として使われてきた。しかし、前脚と後脚の間で比較的に安定している背に乗られる馬とは異なり、騎竜は大地を蹴る二本の脚の直上に騎乗しなければならない。当然、そのような位置では騎手は騎竜が大地を蹴ったときの衝撃を直接に受けてしまい、転落する危険が大きかった。駆ける騎竜は、乗り続けるだけでも難しい騎乗用動物だったのだ。
だが、この乗りにくい騎竜の存在によって、発達したものがあった。
それは、鞍である。
古代の地球では、鞍はたった一枚の革布でしかなかった。ところが、古代セルデアス大陸ではすでに馬の背に敷布をかけ、その上に革か木でできた堅い鞍を乗せて使われていたのである。
しかも、それは単に馬の身体に合わせた形の鞍ではない。
騎士の体型に合わせて臀部を落ち着かせるくぼみが作られ、より騎乗の安定性を高める造りのものであった。
また、鞍の後部――後橋は高く盛り上がり、まるで椅子の背もたれのように騎手の臀部から背中を支え、後方への転落を防止する構造となっていた。さらに、鞍の前面――前橋は垂直に立つ板が打ち付けられ、前方への転落を防止するのみならず、騎士の下腹部や鼠径部を防御する防具の役割も兼ね備えていた。
地球ではおよそ十一世紀から十二世紀に誕生したこの鞍の構造が、セルデアス大陸では騎竜という存在によって、すでにこのときには開発されていたのである。
そして、ドルデア王がピアータのために南方からわざわざ取り寄せた巨馬。現代日本のサラブレッドに匹敵する大きさでありながら、荷馬のような太くたくましい四肢を持ち、粗食にも強いという軍馬として最適な品種。
これらは、いずれも古代の地球には存在し得なかったものだ。
そこへ蒼馬がこの世界にもたらし、ピアータがダリウス将軍の遺産より教わった鐙という異世界の知識が加わったとき、このセルデアス大陸にこれまでなかった新たな兵種が誕生した。蒼馬が自分の知識をもとに不可能と判断したものが実現したのである。
地鳴りのような馬蹄の音を轟かせ、一糸の乱れもなく騎馬を並べて突撃してくる銀狼兵の姿は、さながら人馬でできた土石流か津波であった。
それを目の当たりにしたドワーフたちは、さしもの豪胆さも消し飛ばされ、恐怖を覚えた身体は我知らずに後ろへ下がる。
そうしてできた横陣のほころびを見つけたデメトリアはそこへ馬首を向けながら叫ぶ。
「吶喊っ!!」
突撃する自分に恐れをなして、こちらへ背中を向けて逃げようとしたドワーフにデメトリアは狙いを定めて槍の穂先を向けた。
次の瞬間、長槍からずんっと重く強烈な衝撃が伝わる。
突然、つっかい棒を喰らわされたような衝撃に、デメトリアは身体が後ろに持って行かれそうになる。
しかし、その身体を鞍が、そして鐙が支えた。
そして、槍に込められた馬の突進力が、逃げ場を失ってドワーフを貫いたまま槍を上へと跳ね上げさせる。ドワーフの小柄な身体が鮮血をまき散らしながらデメトリアの槍に突き上げられ、宙に浮く。断末魔の叫びをほとばしらせる同胞の姿を周囲のドワーフたちが驚愕した顔のまま見上げた。
デメトリアが率いる銀狼兵――すなわち、この重装槍突撃騎兵こそがピアータという形をとった、この世界の蒼馬への逆襲であったのだ。
開戦早々、エルドア国左翼のドワーフ重装歩兵隊は崩壊した。
重装槍突撃騎兵によってドワーフ重装歩兵を粉砕したピアータは、さらに突き進む。
ピアータの狙うは、ただひとつ。
破壊の御子、蒼馬の首であった。
そして、ついに彼女の刃が蒼馬に届く。
次話「斬撃」
ピアータ「破壊の御子っ! その首、もらったっ!!」
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今回の内容
テレビ「戦国時代の馬はポニーサイズ! 騎馬突撃なんてできないよ!」
蒼馬in現代日本「ほへぇ~。騎馬突撃はフィクションなんだ( ゜Д゜)」
蒼馬in異世界「馬が小さい! 重騎兵は重装歩兵の運搬! 騎馬突撃はフィクション!(゜∀゜)」
ピアータ「お馬さん大好き! 大きなお馬さんいっぱい育てたよ!」
馬&鐙&鞍「「「我ら合体し、重装槍突撃騎兵を召喚!」」」
デメトリア「吶喊! どっかん!」
ドヴァーリン「きゃぁ~!!」
蒼馬「……あれ?(; ゜Д゜)」
というような内容でした。
あと、なろうでは異世界転移した人がもらったスキルや能力で調子に乗ったところで大逆転する、ざまぁ系が人気があると聞いてやってみたわけです。
主人公ざまぁwwwwm9(^Д^)プギャー
なんか違う……?
【言い訳】
作中にある戦国時代の騎馬突撃論争ですが、作品の展開で断定した形となっていますが、あくまで私の個人的見解にすぎません。見当違いのことを書いているかもしれませんが、ご容赦ください。
私自身は、馬上で使う武器や逆に馬から武者を落とす武器が実在した以上は、騎馬に乗ったままでの戦いがあったと思っています。
馬の頭数や地勢的制限から、いわゆる騎馬隊は当然なかったのでしょうが、当時は国が馬を支給するのではなく侍がそれぞれ自分の馬を持ちこんでいたので統一された騎馬の運用もないわけで、けっこう個人で自由に騎馬突撃したり下馬して歩兵となって戦ったりしていたんじゃないかと妄想しています。
異論反論もあるでしょうが、騎馬突撃はロマンです!




