第6話:対峙
一人、食堂で昼食をとる。
今日は話し相手の英雄は休み。
たまには一人静かにボンヤリ過すのもいい。
でも今日は食欲がない。
先程の怒鳴られていた岡本の姿が頭に焼き付いて離れない。
いい気味とは思ってた…だが嬉しい訳ではない。
同情する理由もない。
いろんな事がこんがらがってる。
確かに。
昔のクラスの中心で仲間と騒いでいた岡本と、今の岡本は同一人物とは思えない程逆転している。
何かあったのだろうか…
私を苦しめてきたクラスメイト達は皆私よりも幸せになって、今だに私をどこかで見下している。
そんな気さえしていた…
なのに。
今日の岡本の姿を見て得体の知れない衝撃が走っている。
綾子は手を握り締めた。
その時。
「おっ?町田ぁ!」
石渡がノシノシ歩いて来る。
その背後に岡本もいた。
綾子は体を硬直させる。
「どっこらしょいっとと。」
マイ灰皿とタバコをテーブルに置き、石渡は綾子の横にドッカリ座る。
いつもなら冗談の通じる石渡に
「イス壊れますよ〜」
とか絡めるのに…
今日は…いや、今は言葉が喉の奥底で止まってしまう。
嫌な予感がする。
石渡は案の定岡本…今一番関わりたくない人間を自分の前に手招きする。
「岡本〜っ。まあ座れ」
(やめて!)
岡本は少し躊躇したが石渡の前に座る。
(言わないで!)
(お願い!やめて!!)
石渡は決して悪気はないのだが…綾子の祈り虚しく、一番突っ込まれたくない痛い言葉を口に出してしまうのだった…
「町田と岡本、同級生なんだってなぁ〜!」
相変わらず表情の暗い岡本。だが視線は綾子に向けられていた。
獲物との対峙。
綾子は体中の血が冷めて行くのを感じた。
そして…後に自分でも驚くようなセリフを吐いていた。
「ええ。そうですよ。小、中学校一緒の所でした。」
…と、妙に落ち着き、少し笑みを浮かべ、堂々と答えた。
その瞬間。岡本の視線の様子が少し変わったように感じた。
石渡は
「おおっ!そうかぁ!」
そして岡本に
「なーんだよ!オメ、照れんなよ〜!」
照れてる訳ないでしょ!
綾子が叫びたくなった。
むしろ…嫌がってる?
綾子は更に笑みを浮かべた。
岡本にとっては勝ち誇った嫌味な笑顔に見えるだろうから。
余裕ある態度をとっている反面、頭の中は大混乱している。
悟らせるものか!
性格悪いとか、ひねくれてるとか…どうとでも思えば良い!!
石渡は面白くなってきたのか、また何かを言おうとした…その時!
トゥルルルル…トゥルルルル…
食堂の電話が鳴った。
綾子は立上がり受話器を取る。
「もしもし…営業課町田です…あ、ハイ!わかりました!すぐ戻ります!」
石渡は綾子に
「おぅ、どうした?」
「私宛に外線で電話があったそうです。」
石渡はタバコの煙を豪快に吐き
「そうかいそうかい」
と何かを言い足りなさそうに言った。
言わなくて良いから!
綾子は心の中でそう叫んだ。
本当…良いタイミングだ…
岡本はちょっと複雑そうな表情をしながら綾子を見つめていた。
その後の仕事や帰り道、昼間に気力を全部使い切てしまったようで、どんな仕事をしたか…帰り道どうやって帰ったかも記憶が曖昧だった。
帰宅し、少し落ち着きを取り戻した後、英雄との電話も終え、一日が終わる。
ベッドに潜り込んだ時、ふと、開けっ放しにしてたクローゼットの中の段ボール箱に目が行った。
たしか…!
何かに操られるようにフラフラ段ボール箱を取り出しガムテープを剥がした。
中には…習慣でもあり、唯一正直に毎日を書き綴った昔の日記が何冊も入っていた。
綾子は小学校5年生の頃の日記を手に取った。
最初はどうでもいいような内容…まだいじめに会う前の内容だったが…
1学期の終わりの方のページの見出しにこう書かれていた。
“教室という名の地獄”と…