第2話:リアルな夢
目線を前に向けると教室のドアがあった。
この先は敵しかいない。
何が起きるかなんて容易に想像が付く。
けれど私の手はドアを開けてしまうのだった…
意地悪な周りの視線が私に集まる。
当然のように
「おはよう」
の挨拶なんか、ない。
机には読み取れないぐらい書きなぐられた文字がたくさんあった。
「学校くるな!」
「気持ち悪い!」
「ブスは死ね!」
「すぐ自殺して下さい!」
「迷惑」
冷汗をかいて綾子は飛び起きた。
飛び起きた拍子に涙が流れた。
心臓が物凄い音を立てて鳴っている。
横にある目覚まし時計を見ると時刻は午前4時過ぎだった。
良かった。
今は24歳の私だ…
周りを見渡しても意地悪な人はいない。
一人、自分の部屋にいた。
また眠ると悪夢を見そうな気がして目を閉じる事が出来ない。
急に泣いたからか、頭が痛い。
あの時の恐怖は、今だに私を苦しめている。
結婚して、旦那の前でこんな姿を見せたくない…
結局眠れずに、綾子は近所を散歩する事にした。
夏の終わりの早朝。
日中はまだまだ蒸暑いが朝はすごく爽やかな空気。清々しい。
団地を少し離れ、コンビニで缶コーヒーを買って公園のベンチに座る。
ジョキングをしている夫婦、散歩中の犬とおじいさん、これから出勤のサラリーマン…そんな人達から見れば自分は浮いて見えるだろうか…
でもまだここで考えごとをしていたい。
岡本敬二。
昨日突然再会した同級生。
そして、綾子を未だに苦しめている原因の一人。
きっと…明日から…また…
昨日のやたらリアルな夢が…いや、過去に実際にあった事がフラッシュバックする。
眉間にシワを寄せていると、とある考えに辿り着く。
よくよく考えると、不利なのは岡本の方かもしれない。
綾子に関しての変な噂を広めたとしても、入社したばかりの彼の言う事。まだ岡本は人間関係も上下関係も読めているとは思えない。
果たして、入ったばかりの、周りの信用もまだ無い新人が言う私の悪口を聞いて誰が真に受けるのだろうか?
「…そうか…まだ私は何とか出来るかもしれない…」
少なくとも、今の会社で何年も勤めて来てるし、岡本よりも信用はあるはず。
それに…社内恋愛の末、結婚の決まっている彼氏もいる。周りも認めてくれているぐらいだ。
けれど…彼に過去を話したら…どんな風に感じるんだろ…?
綾子は再び俯いた。
けれど、表情は険しかった。
絶対…壊させはしない!!
綾子は正面を睨むようにキッと見つめた。
だったらもう思い通りにさせない!
戦ってやる…!!
私。今物凄く苛々してる。でもそれに驚いてもいる。
絶対負けない…!!
見てろ!!
明日から…会社が怖いけど…これは試練なんだ。あいつらに勝つんだ…!不幸になったら負けだ…
どうしたら勝てる?
仕事出来るようになって…彼とも上手く行って…
「アイツよりも幸せになる!!」
こうして綾子は、これから先、岡本に立ち向かう覚悟を決めた。
少し気が晴れた感じもした。
いつの間にか頭痛も引いていた。