表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/21

第19話:告白《後編》

不安な気持ちを抱きながらも、俺は彼女を待っていた。



チャイムが鳴る。



外側の廊下から話し声と足音が聞こえ始めてくる。



いつもは…こんな時間まで居ないのに。



窓の外にも帰宅する生徒が見えた。



彼女がこんな俺に呆れて帰ってしまうのではないか…?


不安な気持ちになって、彼女が窓の外に現れない事を祈っていた。



祈りが届いたか、彼女は窓の外には現れなかった。


でも遅い…


何やってるんだろう…



チャイムが鳴って30分ぐらい経った頃。


保健室のドアが開いた。


そこに立っていたのは彼女だった。


「おっす!けーくん!お待たせ!」


彼女はやっぱり来てくれた。


そして、俺の手をグイグイ引っ張りながら、



「さっ!行くぞっ!」


と俺を促す。


「…どこにいくんだ?」

彼女は振り向き、

「3年1組の教室!」



何がしたいんだ!?

本当…解らなかった。


でも…

今打ち明けるべき話がある。


「あの、なんで教室なんかに」

「ダメッ!いつまでも逃げてちゃ!」



…!?


「…どっ、…どうして!?」

君がそんな事知ってるんだ!?



1階の一番端の教室の目の前につく。



嫌な記憶が蘇る。


ドアを開けたら…

あのクラスメイト達が居て…


頭が真っ白になってきた…



「けーくん!」



あっ…


ダメだ。とてもドアなんて開けられない。



保健室にかけこんだときの記憶が蘇る。



2組4組のドアの前で…中からは意地悪なクラスメイト達の笑い声が聞こえてきて…


手に力が入らなかった…

拒否反応みたいなのが出ていた…


騒ぐクラスメイト達の声…

開けたら何が起こるかなんて…


解ってるんだ…


知ってるんだ…



その後…どうやって保健室まで辿り着いたかわからない。


仮病を使ってずっと隠れていたのは覚えてる。


先生は察してくれてたのか何も言わなかった。


何人か…俺みたいな生徒はいたからな…






「ごめん…無理だよ…」


見守る彼女に俺は力なく呟いた。


「知ってたみたいだね…そうだよ…俺はずっと…逃げてる。クラスメイト達が怖くて逃げてるんだ。」


彼女にしては珍しく真面目な顔をしていた。

でも、俺が予想していた軽蔑の表情はひとつも無かった。


「違う!!」


彼女の声は少し怒っていた。


「けーくんは、自分から逃げてる!!」



衝撃だった。

俺が自分自信から逃げてる…?


「あたしは知ってたよ!けーくんと学校さぼる前から…4組の同じ部活の子から聞いたから!…でもね、あたし、人に流されるの嫌い。偏見も嫌い。あたしはあたし。」


「けーくんはまず保健室から脱出!克服しなきゃダメッ!!原因考えて自分と向き合わなきゃダメだよ!!でないと、いつまでも同じ事繰り返すよっ!!」



つまり…彼女は…後ろ向きな俺に真正面向かせる為に、ここに連れてきたって事…!?


彼女は笑顔で


「あたしは…けーくんと仲良くなりたかったからそーしたのっ!」



俺は今まで、知ってて彼女が俺に接してたなんてひとつも思わなかった。


なんか…

彼女を疑っていた事が恥ずかしく思えて来た…



「ごめんね…」


無意識に頬に涙が伝った。


自分でもびっくりだけど…彼女はもっとびっくりしていた。


いきなり目の前の男が泣き出したんだ。



「あっ…ちょっ…けーくん!?」



そして笑顔で

「泣き虫〜!」

と言いながら背中を擦ってくれた。




俺がひと通り落ち着いてくると、彼女は俺の手を引いて、


「席、教えてあげる。行こっ!」



そして3年1組のドアを開けたんだ。


久しぶりだった。


教室に入るのが。



中には誰もいなかった。


そりゃそうだ。

もう放課後だし、部活も始まってる。


帰る生徒はとっくに帰ってる。



そして窓側の一番前の席に来て、


「ここが、けーくんの席!ごめんね、あたし、クジ運からっきしだから。」


ほぼ特等席だな…。


すぐ指されるな…。


ちゃんと喋れるかな?



「何かあったら助けてあげるから…」


彼女は不安そうにしてる俺に、


「だから…一緒に頑張ろ!」



と言ってくれた。


そうして…卒業まで俺は教室に戻って学校に行く事が出来た。


高校もまた彼女と一緒の所を受けて一緒に通う事になった。




そして高3卒業間近に母さんが倒れたんだ…


母さんは女手一つで俺を育ててくれてた。


過労と…元々そんなに強くないのに毎晩大量に酒飲んで寝てたから、肝臓をやられてたらしい。



俺は、卒業してから工事現場とビル清掃のバイトして、生活してたんだ。


母さんが倒れた直後かな。


彼女と付き合ったのは…


えっ!?どっちからって…


アハハ…。言わなきゃダメ?



うん…彼女からだよ。



彼女から俺を支えてあげたいって俺に告白してくれた。


昔から一緒に居たし…お互い感付いてたからね。


…で、そっちは?

あ、高橋主任からだったよね。…ごめん。聞いてたから。


ハハッ…。ま、そう怒らないであげてよ…



話戻すね。


俺なんかと正反対で、友達も多くて、ハキハキしてて、ちゃんと自分を持ってる彼女が、俺なんかといたら不幸になるって言ったのに…

彼女は、そんな事ない!の1点張りだった。


楽しかったよ…

そりゃもう。

彼女と居れば辛い事も忘れられたから…。


母さんの看病にも来てくれてたし…向こうの家族もお見舞い来てくれてたから母さんも喜んでくれてたよ。


母さんは結局その年の夏に容態が急変して亡くなったんだ。


葬儀の件も彼女の家族に随分助けられた。


あの馬鹿親父は結局来なかった。


絶対、ああなるもんか!って強く思った。



そうして…事情を知ったビル清掃会社の社長さんが俺をバイトから正社員で採ってくれて、隣りの町のアパートに引っ越して、彼女はちょくちょくご飯作ったりしにきてくれた。

そして19歳の時。

彼女の妊娠が発覚した。


そう。友喜だよ。



彼女は生みたいってずっと言ってた。

俺だって生んで欲しい。けど、向こうの家族がそれを許すか…?



怒られる覚悟と、謝りたい気持ちで頭がグチャグチャになってた。


向こうの両親にしたら、大事な娘をこんな、しょうもない男にやりたくないだろう。


しかし、反対されるどころか、援助するから籍いれろって…!


「変わってる娘ですが、これからもよろしくね」

とまで言ってくれたよ…


俺は彼女…友香と籍を入れて…俺が二十歳の時。友喜が生まれた。



決して裕福ではなかったけど…幸せだった。



でも…




幸せは長続きはしなかったんだ…。



友喜が2歳になった時。

友香が少し…なんていうか………。


おかしくなってたんだ。


最初は体調が悪いのかと思ってた。



食欲がなさそうだったし…顔色が悪かった。


友喜がまだお腹に居る時も不安定な時期があったけど…それは妊娠の為…要するに、つわりがキツかったからだったし…


最初は2人目かと思ったんだ。


友香は何回か病院に行ってたし。



そうやって呑気に構えてたんだ。


数か月後。


突然だった…



彼女は交通事故で亡くなった。




道路を横断しようとして…それで車に跳ねられた。


全身を強く打って…。


その時、俺は家に居たんだ。

友喜のお守りをしてた。


頭がおかしくなりそうだった…

事故の知らせの電話から…残り全ての人生に絶望したよ。


事故原因は運転手の居眠り運転だった。


友香の両親は…もう…なんて言えばいいかわからない位…悲しんでいた。

なのに…

俺を一生懸命励ましてくれてた。


言葉が出なかった…


クタクタになって家に帰ってきた時…


俺は………


見つけてしまったんだ……






彼女を死なせたのは…俺だった…って事を…


思い知らされてしまったんだ…




薄暗い部屋の…テーブルに…置かれていた本の間に…



俺宛の手紙があった。



『けーくんへ。

いつか言おうとしてたんだけど、私の性格上…なかなか言えなくて。

けーくんの扶養に入ってる限り、いつかはバレるので、口で言いづらいから手紙で話します。

私。前々から…近所の人達に無視されてて…こんな経験初めてなの。

道で擦れ違った時に悪口を聞こえるように言われたりもしてたの。私が…悪いのなら謝ろうとしても…話も聞いて貰えなくて。郵便物を勝手に開けられたり、昼間、下の階から床をつつかれたりして、多分足音がうるさかったのかなって思って謝りに行っても…相手にもして貰えなくて…。

誰が…どうしてそんな事をするのかもわからないの。

どうしようもないのに…いつも私達の為に頑張って働いてるけーくんに負担をかけたくなくて…。

私、精神科に通ってたの。

どうやらね病気らしいの。心の風邪。

時々ね。ぼんやりしちゃうの。最近私、物忘れヒドいでしょ?大事な事も有り得ないぐらいに簡単に忘れちゃうの。とんでもなく無気力になっちゃうの。それが…病気から来てるみたい。迷惑かけてごめんね。

私…今更けーくんの…あの時の気持ちを理解出来たと思う。

お節介ばっかり言っちゃってたね…ごめんね。

けーくんが昔いじめをしてて…後悔してたって前に言ってたよね?

今、私がその時のけーくんの気持ちになってる。私…ダメだな…

それでも怒りもせずに、けーくんは私と一緒に居てくれた。

本当…ありがとう。

この手紙を読んでくれたら…私、変な子だから自分じゃ言い出せないから…けーくんから話を切り出してくれないかな?お願いしていい?

あと、読んだら捨ててね。なんだか…恥ずかしいからさ。

    友香より。』




俺は激しい後悔に教われた。



頭の中にいろいろな考えがグルグル回る。



俺が…彼女の病気に気付いていれば…こんな事にはならなかった…

事故は…もしかすると…病気でぼんやりしてた友香が車道に出たからかもしれない…



俺と同じような…

周りから何の根拠もなしに白い目で見られて…味方がいなくて…


昔、自分も同じ経験してたじゃないかっ!!!


ふと隣りに置かれていた写真立てが目に入った。




幸せな家族3人で撮った写真。


写真立てを手に取る。


友香が笑ってる…

でも…

友香はもう笑わない…

俺の…せい…!!



持っていた写真立てを思わず落としてしまった。

ピシッ…


写真立てのガラスにヒビが入る。



―お前のせいで幸せな家族は壊れてしまった―


そう言われたような気がした。



「うぁっ…うわあぁーーっ!!!!」



俺は絶叫した。

絶望した…

俺自身に…


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ