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第18話:告白《前編》

話せば長くなりそうだ…




そう。

あれは…中学1年の6月だった。



お父さんから金借りてるって…母さんの所に男が何人か来てたんだ。


その日、母さんに母方の実家に…おじいちゃん、おばあちゃんの家に行くようにって言われたんだ。


その時は…何がなんだか解らなかった。


後々知った事だが…

何年も前から、父さんには愛人が居て、借金までして何万も貢ぎ込んでいた…母さんは気付いていたが、俺を傷つけないように気付かないフリをし続けていた。


今思えば…既に家族は壊れていたんだと思う…。

俺は父さんと母さんに…ずっと平和な家族劇を見せ続けられてた。


俺は父さんに会えなくなった悲しさより…父さんが母さんを裏切って借金までしてたって事が…

辛かった。


あの日以来…父親には会ってない。


もう2度と会う事はないだろう。



そんな事があって…イキナリ転校させられて…


馴染めない学校に行けば…話す内容の話なんかないし、どうしていいか解らなくなって戸惑った。


今までに見た事も接した事もない人達ばっかりなんだ…。


顔を上げるのが億劫な俺はずっと俯いてたと思う。

無理して話すのが辛かったんだ…


そしたら…

周りは俺を置いて行った。


…クラスから見捨てられた。



嫌な学校が終われば…

誰もいない家に帰る。


母さんは俺の為に必死に働いてくれてた。


母さんを心配させたくない。


だけど…


そのうち…母さんと会う回数も減っていった…



そして…



中学2年の春ごろ。


隣りの席に1年の時同じクラスだった女子が、席に着いた瞬間…


ガガガッ…


…と机を離した。


「うわ。この席マジで?」

って…。



その後近くの女子に、


「超やだ〜!なんでコイツの隣りなの?キモいんだけど〜!」


と大声で喋っていた。



その瞬間、頭が真っ白になって…

胸の底に杭を打たれたような衝撃と痛みを感じた…。



「うわ〜かわいそ〜!」

「キモいよね〜!」



見知らぬ女子からもイキナリ

「キモい」

扱いされて…



目の前が真っ暗になった…



それからだった。


教室に入るのがすごく嫌になった…


女子どころか…男子からも馬鹿にされはじめて…


体操服隠されたりとか…金を取られたりとか…


ヒドい時には暴力も…



周りを見るのも怖くなって…


人前に出ると声が出なくなって…


2学期ぐらいには保健室まで行くのが精一杯になってしまった。



いわゆる保健室登校ってやつだ…。


保健の先生は俺をかばっていてくれてた。


先生と他の保健室登校の1年生の女子の泣きながらの悩み相談を、カーテンの外側で聞いてたら…


町田の事を思い出したんだ。




町田がクラス中に苦しめられている…


その中に俺もいて…



町田は物陰で泣いていて…



それを見ていた俺はどんな気分だったか。



…恐ろしい答えが浮かび上がった。




軽い気持ちで弄んでいた。




冷や汗が出てきた。

頭を抱えて…耳を塞いで…

打ちのめされた。




今、俺が抱いてる心境は…町田と同じなんだって…!!!



なぜ…

あんな事をしてしまった!!??



昔、俺が町田を苦しめた言葉が…俺をまた打ちのめした。



「キモい」

「死ね」

「学校くんな」

「教室で息を吐くな」

「人間じゃねぇ」


きっとそれだけじゃないだろう…




何度も何度も…

執拗に追いかけ回し…

言葉の暴力を浴びせて…


何度も何度も…

町田は物陰で泣いて…



俺は…怖い事に、町田がいじめられて…泣いていて…。それが当然と感じていて…。

判断力がおかしくなっていたんだ…



なんて事をしてしまったんだろう………。




後悔しても遅い。

今自分に罰が当たっている。



絶望したような気持ちで何日も過ごしていた。




俺は町田にずっと謝りたかった。


謝って済むもんか!

でも…解って欲しかった。


葛藤は…今でも続いているよ。



いじめって…いじめられてる側もいじめた側も、将来必ず苦痛を残す。


俺は…町田の立場になって良かったのかもしれない。


そうでなければ…今ごろ…今以上に嫌な人間になっていた。



教えられたんだ。



これは今だから言える事だけど…。




それが1個目。



もう1個は…さっきも話した、亡くなった妻の話。




実は、そんな時に保健室で出会ったんだ。




俺が1人保健室で、本を読んでた時。




ガラッとドアが開いて、一人の女子生徒が入ってきた。




「あの…先生いない?」


どうやら…具合が悪そうだった。



俺は相変わらず言葉が出なくて首を横にふって答えた。



「そっかぁ…じゃあ勝手に休んじゃおっかな…」


上履きの色で同い年とわかった。



俺、ちょっと気まずくて俯いてた。


彼女は俺が読んでた本…まぁ、保健室にあった図書室の本だったんだけど。


「あぁっ!ここにあったんだ!探してたんだ!この本!」


そうだったんだ。


「読み終わったら次いい?」


俺は相変わらずまた頷くだけだった。


「あっりがと♪」


実はもう既に読み終わってて3周目ぐらいだった。



「…もっ……もってって…いいよ。」



精一杯小さな声で答えた。


「んっ?」


彼女は首をかしげている。


「…もう…読んだから…」


頑張って答えた。

ちょっとムキになってた。



彼女はやっと理解してくれたか、


「いいの〜?やった!ありがと!!」



この子…俺を見て普通に喋ってる…?


不思議だった。


なんで俺なんかに…

まともに話しかけてくれるんだ?


当たり前の事がとても嬉しかった反面…怖かった。



彼女は続けて、


「同い年?」


(上履き見ればわかるだろ?)


「あ…う…うん」


「学校めんどくさいよね〜」


(多分…めんどくさいの理由が違う…)


「…う、うん。」


「どこのクラス?」


(…知ってどうする?)


「…4組」

(俺、保健室登校してるんだぞ!この子解ってるのか?)


「あたし2組〜」


「…そっ…そうなんだ…」


面接みたいな会話だった。



しかし、彼女は飽きもせず、


「ふぅ〜まいったよぅ〜風邪ひいちゃったみたいでさぁ〜」


(…まいってるようには見えないけど…むしろ、俺がちょっとまいってる。)


「もう帰りたいなぁ〜」

(…帰れば?)


「一緒にさぼる?」


「えっ!?」


俺は意外過ぎる言葉に驚いて顔をあげた。


「さっ…さぼる?」


彼女は相変わらずテンションがおかしかった。


「そっ♪どっかで買い食いしない?」


(買い食いかよ!?)


俺の心臓は久しぶりに動いたような音を発てて鳴る。


「なんだこのっ!真面目人間っ!」


と彼女は笑顔で変な事を言い出す。

というか…俺相手にフレンドリーによく接してくれるよなぁ…



変な子…。


しかし、俺の口は勝手に動く。


よくまぁ…言えたよな。そんな事。


「……いいよ。…だっ…脱走しよっか。」



友達が欲しかった。

彼女がその後俺の話をどこからか聞いて、キモいとか何でも思えばいい。

今は…友達が欲しい…


独りは嫌だ…!



その後、彼女と俺は学校を抜けだし、近くのちょっと隠れた喫茶店でアイスコーヒーだけで2時間ぐらい喋ってた。


話してた内容は…彼女の名前は『伊藤友香』という事。2年2組の学級委員長という事と、さっきまで引いていた風邪がどっかにぶっ飛んだという事。

それと読んでた本の事と…俺の事。


とはいえ、その時話したのは、俺が岡本敬二という名前で2年4組って所まで。


あとは…半分彼女の話をずっと頷きながら聞いていた。

あんまり覚えてないって事は結構どうでもいいような内容だったと思う。

でも彼女は飽きもせずにずーっと喋りっ放しだった。



2時間があっという間にすぎてしまった。

俺も嫌ではなかった。



久しぶりに人と話している。



新鮮な気持ちだった。



それから…



数日後。


彼女…伊藤友香はまた俺のいる保健室に来た。


「おおっす♪けーくん元気ぃ?」


また仮病か?

そう思ってたけど…嬉しかった。


何回も来てくれるようになった時には俺は休み時間を楽しみにしていた。


そして…


運命の悪戯だろうか…




3年生になった時。



伊藤友香はクラス名簿を持って来て、


「またここに居るぅ!けーくん、見て!」



伊藤友香が見せてきたものには…


一枚の紙に…一緒の欄に…俺の名前と伊藤友香の名前がある…


要するに同じクラスになっていたのだ。


「あたしのクラスになった限り…ここには居させないぞっ!」


「えっ!?…でも…俺…」


「行こうよ!教室!」


「……無理だよ」


俺はうなだれながら引っ張る彼女の手をふり払った。



彼女はとても悲しそうな顔をしてた。




少しして彼女は、


「じゃあ…放課後。ここに居て。待ってて。絶対だよ…。」


と言い彼女は保健室を出て行った。


同時に外の廊下がざわつく。


みんな…始業式に行くのだろう。



取り残された俺は先程の彼女の悲しそうな顔を思い出していた。



先生に言われたから教室に連れて行こうとした…

そうとはとても思えない。


悲しそうな顔だった…


というより、寂しそうな顔と言う方が近い。



一緒のクラスになったんだから…教室においでよ。


言い替えるとそんなセリフにも聞こえてきてしまう。



あぁ…俺…。


馬鹿だな。やっぱり…



何度か帰ろうとしたが、俺は放課後まで待つ事にした。



同じクラスになれば嫌でも解ってしまうだろう。

俺の事。


彼女に先に言っておけばクラスで一緒に話したりする事をあきらめてくれるだろうか。


そしたら…俺はまたここに居ればいい。


…でも…



もし…万が一。


俺を理解してくれるのなら…!!



賭に出よう。


俺はそう決意した。


俺だって…まだ彼女に仲良くして欲しい。


なくしたくないから…!!


そうして俺は彼女に賭けようと放課後を待っていた。


時間が恐ろしいほど遅く感じた。



かけがえのない友達が出来るか…



…それとも



かけがえのない友達を失うか…




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